2chまとめサイトモバイル
杉山「大野なんて死ねばいいのに」
Part4


47 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 19:39:26.88 ID:yVF65aIb0
部屋に入るとそれまで大野は机に向かっていたようで回転椅子が出しっぱなしになっているのをみつけ、そのまま部屋を見渡すと、そこら中に積み上げられている雑誌が初めて来たときの数倍の数に膨れ上がっていることに気が付く。
ふと、部屋の隅にボールが転がって居ることに気が付いた。
それはまるで小学生の時に使っていた物のようだった。
いや、もしかしたらあれは本当にそうだったかもしれない。
急にどうしたんだ?と言われて、やけに穏やかな表情で微笑まれる。
反吐が出そうだと思った。
杉山「…教えてくれよ」
聞かなきゃよかったんだ
杉山「お前が」
杉山「ずっと、ずっと何考えてるのか」
半分叫んだような声が喉から掠れ気味に出た。
大野の顔が冷めていく。
冷水でも浴びたように。
大野は俺を追い越してそのまま部屋の中へ進むとなにも言わずにベッドに腰掛けた。
ぶっきらぼうにお前も座れよ、と言われる。

48 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 19:44:15.97 ID:yVF65aIb0
部屋に入った瞬間から頭に上っていた血が若干引いた。
その場に座り込むと今度は横に来い、と言われる。
どうするべきか、一瞬迷った。
縁を切るつもりでやってきたのに傍に座っていいものなのか。
でも縁を切るよりも、俺はちゃんと大野と話がしたかった。
かたいフローリングからケツを持ち上げ、ドスンと大野の隣のベッドに腰掛ける。
大野は膝の上で組んでいた指を組み替えて、それから俺のほうを見た。
大野「俺の考えてること?」
杉山「そうだよ。」
大野「そういわれてもなア」
確かに、漠然としたことを聞いている自覚はあった。
それで大野が俺に黙っていたような聞き出したいことを、聞き出せるとも思えなかった。
杉山「俺、さっき会ったよ、元カノに」
あの時どこから切り込めば正解だったのか、今考えても良く分からない。
この日で関わることをやめるには、俺達は一緒に居すぎたのかもしれない。
大野が一瞬動揺を抑えきれないように目を泳がせたのに気が付いた。
ほんの些細な仕草だった。
それに気が付いてしまう自分を憎たらしく思う。
杉山「…後ろめたいことでもあるわけ?」
大野「…全部聞いたんだろ」
杉山「ああ」
大野がぐしゃりと前髪をつぶした。
大野「…お前がちゃんとやることやってたら、俺は邪魔するつもりはなかったよ」
杉山「…やり方が汚すぎるだろ」
大野「それにあの女、ろくでもない女だった」
杉山「余計なお世話なんだよ!」
大野「俺はお前のためを思って…」
杉山「なら!」
あくまでも大野が俺のためだと言い張るのなら。
杉山「なら…俺と別れろって、あいつを脅せばいいだけだっただろ。なんであんなことまで…」
大野がバツが悪そうに口を結ぶ。
そしてその顔が、歪んだ。
笑っている、そうわかるまでに時間を要したのは、涙を我慢してるのか、漏れる声を抑えているのかわからなかったから。
いや、本当はどっちもだったかもしれない。
途端に大野が弾けたように声をあげて笑い出す。
突然のことに俺は声も出せずにいると、ひとしきり笑った大野がこっちを見た。
大野「…そこまでわかっててさ、まだわかんないの?」
大野「俺、お前の事大っ嫌いなんだよ」

49 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 21:12:15.12 ID:yVF65aIb0
杉山「…。」
大野「気に食わなかったんだ、いつも一緒に居たのに俺が東京にいっても平然としててさ。」
大野「お前に付きまとってたのも、女とったのも、全部そう。」
大野「高校離れたら、また東京と清水時代に逆戻りだろ?だから勉強してほしかったし。女と遊んでフラフラして、それ俺に自慢してきたことも根に持ってたし。」
大野「あーあ、でもそれも今日で終わりだな」
杉山「良かった」
大野「は?」
隠してる、そうあの女がいった割にはべらべらしゃべり続ける大野。
杉山「まさか俺、好きだなんて言われるんじゃないかと」
俺がそう笑って見せると、大野は酷く困惑したように言葉を詰まらせた。
口から言葉が、勝手に溢れ出してくる。
杉山「ずっと俺も思ってたよ、気持ち悪いって」
杉山「いくら仲良いって言っても俺にも友達は居るしさ、ちょっとべたべたしすぎ。」
杉山「最初は東京からこっち戻って来たばっかでまたこっちに馴染むのキツイだけかな?って思って一緒に居てやってたけど。」
杉山「だんだんお前に対しての誤解がつのってった。」
杉山「だからお前があいつのこと抱いたって知った時、めちゃくちゃ腹立ったけどなんか安心したよ。」
大野の掌を掴んだ。
杉山「だって俺、お前は男にしか興奮できないと思ってたしww」
こわばってた大野の腕から、ふっと力が抜けるのがわかった。

50 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 21:26:06.68 ID:yVF65aIb0
杉山「ずっと変な目で見られてる気がしてて本当に気味悪かったよ」
杉山「でもよくよく考えればありえない話だよな、お前が俺をそんな目で見るなんて」
杉山「だって小学生の頃からの友達だぜ?親友面しといてさ、こうやって触ったり肩組んでたり抱き着いてきたり、そういう時も裏では俺のこと、変な目で見てたことになるんだろ」
杉山「本当、気持ち悪い。しねばいいと思う。」
一瞬時が止まったような感覚に陥るほど、大野の表情は動かなかった。
言葉を止めた後、時計の秒針の音だけがその部屋で揺れ動いているような気さえする。
杉山「…なんてな!ま、実際そうじゃなかったわけだし…」
杉山「も、いいだろ、おわりで。」
もう二度と俺に関わらないでくれと、そう気持ちを込めた言葉だった。
握っていた手を投げだして立ち上がり見下ろした大野は、なにも言わずにゆっくりと頷く。
いや、それは俯きに近かった。
部屋を出ていったときに足元にぶつかったサッカーボールが、そんなわけないのに俺を引き留めているように思えて。
杉山「じゃあな」
最後の別れの言葉が大野に届いていたかなんて知る由は、もう俺にはない。

51 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 23:10:57.78 ID:yVF65aIb0
大野『杉山!サッカーしようぜ』
え?大野?
大野『なにぼさっとしてんだよ』
ここどこ?
大野『は?どこって…学校だろ』
え?小学校?
大野『なんか今日のお前おかしくね?ま、いいや。早くこいよ!』
こいよって…お前そっちは…

52 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 23:23:20.25 ID:yVF65aIb0
長い夢をみた。
Tシャツが肌にへばりつくような暑さにうなされて目が覚める。
永遠に小学三年生が終わらない、そんなありえない夢。
窓の外では、その日も昨日と何も変わらずに一日は始まっていた。
蝉の声が途切れることなく聞こえてくる。
部屋の白い壁紙も、天井の消してある電気も、時間の流れも、俺も、何も変わっていない。
窓から青々と広がる空に大きく分厚い入道雲が浮かんでいるのが見えて、俺は通り雨でも降るかもしれないと、そう思ったのだった。
家の中で電話の鳴る音がした。
暫くするとパタパタとスリッパで廊下を小走りする音がして、電話の呼び鈴がとまった。
ゴトリ、
なんの音だろうと考えた。
そしてあぁ、受話器を落とした音かもしれないと、そう頭の隅っこで考えた。
「…とし、さとし!」
バタバタ大きな音を立てて母さんが部屋に飛び込んでくる。
皮肉なことにあいつとのどんな思い出よりも、一番鮮やかに思い出すのは、この時の記憶だった。
「大野君が…亡くなったって…」
大きい音を出してやってきたくせに、その事実を俺に告げたその声は、やけに小さく震えていた。

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/07(火) 00:27:51.18 ID:2jnlYpANo
やっぱりこうなったか…

54 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/07(火) 00:53:05.71 ID:KfRt/2pU0
本当は、分かっていた。
大野の俺を見つめるときのやけに優しい目を。
俺を嫌いだなんてそんな嘘をついた大野が思っていることを。
分かっていて、わざと一番最低な言葉を一つずつ選んで大野を傷つけようとした。
大野の俺に対する執着心は確かに客観的に見れば気持ち悪い。
でも、大野の気持ちそのものを気持ち悪いと思ったことは、本当は一度もなかった。
俺は、大野を傷つけてどうしたかったんだろう。
大野を傷つけることで自身の大野に対する怒りを鎮めたかったのだろうか。
葬式は大野の家族の意向により、家族内だけの密葬で行われたが、俺や元入江小3-4のメンバーも参列させてもらえた。
喪服なんて一番似合わないような連中が、泣きながら真っ黒い装いに身を包んでいるのは、異様な光景にも思える。
山田が「アハハー同窓会だじょー」と騒いであの関口に殴られていた。
学年が上がってクラスが離れた奴、中学では同じクラスだった奴、隣の中学へ行った奴。
皆久しぶりに集まってなんだか忘れていた事を思い出した。

55 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/07(火) 02:18:03.47 ID:KfRt/2pU0
大野の遺体は、嘘みたいに綺麗だった。
死因は、手首からの流血による出血多量死だという。
大野の母さんの帰宅が遅かったこと、浴槽のなかだったこと、切り口が動脈に沿った縦方向だったこと。
いろんな要因はあったが、どうやら大野が手首を切ったのは、あのすぐ後らしかった。
大野をころしたのは、刃物でも大野でもない。
間違いなく…
霊柩車に乗せるため、みんなで持ち上げた大野の棺が思っていたよりもずっと軽くて、思わず泣きそうになる。
俺に泣く資格なんかないというのに。
大野の人生に意味はあったのだろうか。
あんなに宇宙宇宙と言っていたくせに、俺に拒絶されて簡単にその命を投げ出した大野。
そういえば高校だってそうだ、あんなに努力していたはずなのに、あいつはそれを簡単に投げ出した。
そこまで俺を想っていて、なぜ大野は、俺に好きだと言わなかったのだろう。
あんなにへたくそな嘘をついてまで隠したい気持ちだったのだろうか。

56 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/07(火) 02:20:39.43 ID:KfRt/2pU0
教えてくれよ
そう呟いても目をつぶったままの大野は俺に返事をしなかった。
火葬場につくと大野の母さんがやってきて、俺に一枚の封筒を差し出した。
見覚えのある封筒だった。
大野が、東京にいる間に文通に使っていたものと同じデザイン。
杉山「あの、おばさん。大野の部屋にある本もらってもいいですか」
「宇宙とか…物理の本よね?」
杉山「…俺」
「…いいわよ。きっとそのほうがケンちゃんも喜ぶわ。」
おばさんは、そういって俺に優しく微笑んでくれたが、俺は内心ドキドキで仕方がなかった。
もし大野が両親宛の遺書に俺のこと書いてたら。
大野の両親は俺を生涯許してはくれないだろう。
きっとおばさんは大野と清水に二人だけで戻ってきて心細かったに違いない。
これからはこのひとは、ひとりかもしれない。
「さいごのお見送りをお願いします」
棺のふたが開けられる。
正真正銘、これが最後だと思うと不思議な気がした。
いつだってあんなに一緒にいたのに。
東京に行くのとはわけが違う。
16の俺には、突然突き付けられた永遠という言葉は重すぎた。

57 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/07(火) 02:26:33.93 ID:KfRt/2pU0
棺に群がったみんなが口々にお別れの言葉を口にする。
俺が近づくと、なぜかそいつらは一斉に棺から捌けた。
「…大野」
衛生上良くないことは知っていたが、死にはしないだろうと思い大野の死に顔に口づける。
これは決して愛のキスなんかじゃない。
俺は大野を愛してると思ったことなんて、たったの一度もないのだから。
ただ、これは、一遍しかない生涯を俺にささげた哀れな男におくる、弔いの言葉のかわりだ。
杉山「…俺まだお前の事嫌いだよ」
頬に伝った一筋の涙に、俺はその時気が付かないふりをした。
後日、大野のお母さんに呼び出された俺は驚く。
家は寂しげにガランとしていて、かわりに大野のお父さんがいたのだ。
大野がこっちに戻ってきてからは、一回も見たことがなかった大野の父さん。
杉山「おばさん、おじさんと…」
「あら、ふふ。勘違いさせちゃってたわね。もともと離婚なんてしてないわよ?」
大野の母さんは、大野を生んだだけあって綺麗だ。
え、ならなんで清水に。
そう言おうとして、止めた。
聞かなくてもわかった。
きっとたぶん、最初から…
「こっちに来たのはね、完全にケンちゃんのわがまま。普段わがまま言わないような子な
のに、清水に行けないならもう何もしないなんて言ってきかないものだからお父さんと相談してこうしたの。」
「だから私、東京に戻るのよ、今は引っ越しの準備中。」
大野の父さんは、そこにある段ボール全部けんいちの本だから車で一緒に送っていくよと俺に笑った。
「だからね、今日から暫く杉山君にも会えないわけだし…最後にケンちゃんとのお話、聞かせてほしいな。」
ケンちゃんは、どうだった?
最愛であろう息子を失って泣き叫ぶでもなく静かに笑うこの人が、夜にひっそりと泣いているだろうことを思うと胸が痛い。
杉山「あいつは…皆から好かれてましたよ」
「杉山君は?」
杉山「へ?」
「杉山君は、ケンちゃんのこと好きでいてくれたの?」
杉山「…はい」
俺は、その時嘘をついたつもりでいる
「ありがとうね」
新しい住所は教えてもらったものの、俺はいまだに大野の墓の場所すら知らないし、おじさんやおばさんにも会っていない。
そして、大野の遺書もまた、開くことが出来ていなかった。

58 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/07(火) 02:27:03.23 ID:KfRt/2pU0
そして現在。
俺は大学院を卒業後、宇宙飛行士の卵として研究所に勤めている。
今日は大野の命日だ。
研究所に就職することが出来れば開けようとずっとしまっておいた封筒を手に取る。
緊張して封を開ける手が震えていることに気が付いた。
軽く深呼吸をしてパリッと糊を剥がす。
指を封筒の中に滑り込ませて一枚の便せんをとりだした。
恐る恐る開く。
几帳面な字が、ならんでいた
ずっと好きだった。
俺のかわりに夢なんか叶えないでくれ。
お前なんか俺の後を追って死「ねばいいのに
あいつは俺にこんな我儘堂々と押し付けてくるようなやつじゃなかったけど、
文面を見た瞬間あ、大野だと思う。
俺はその手紙を迷わずゴミ箱に放りこんだ。
誰の恋が死のうが、人生は続いていく。
ポケットから取り出した煙草に火をつけた。
それから深く深く煙を吸い込んでふーっと息を吐きだした。
大人になんてなりたくないものだと、そうニコチンでくらくらしながら俺は思った。
俺はまた今夜もあいつの夢を見るのだろうか。
杉山「頼むからさっさとしんでくれ…」
いや、これはお願いなどではない。
杉山「大野なんてしねばいいのに」
ただの祈りだ。

59 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/07(火) 02:30:49.42 ID:KfRt/2pU0
終わりです。
大野杉山コンビの杉山の没落を想像してただけなのに書いてるうちに大野がただのサイコパスホモになってた…
ここまで見てくれてた暇な人がいたらありがとう
モチベがでたらまた何か書こうと思うのでその時はよろしくお願いします。

60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/07(火) 09:23:46.97 ID:W7AckBsco
乙!凄く読みやすくて面白かった
相当中学で噂になってたっぽいしきっとみんな大野の気持ち気付いてたんだろうな…
後追いして欲しいとまで書いてるのに杉山のこと殺したりしなかったし真面目な恋愛だったら
邪魔するつもりなかったんだろうなと思うとサイコパスどころか凄い良いやつだった