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杉山「大野なんて死ねばいいのに」
Part3


28 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/05(日) 17:56:03.64 ID:g6GaQPCv0
信じられない
なんで?
滑り止めの高校なんてめちゃめちゃ遠いし
進路なんてそもそも他人に依存させるものでもない
薄々思ってたけど
こいつちょっと…
杉山「おかしいよ」
大野「…。」
杉山「お前頭、おかしいよ」
その時初めて、俺は大野の傷ついたような表情を見た気がする、
卒業式は淡々と行われた。
大野は大量の女子群に体中からボタンを引きちぎられていた。
上着や卒業証書まで取られて、しまいにはベルトやワイシャツのボタンまで奪われていた。
搾られるだけ搾り取られた大野の死にそうな顔が、ちょっと気の毒だと思ったのを覚えている。
桜の降る校庭。
もう二度と通うことのない校舎。
大野が転校してきた日のことを思い出す。
俺たちは、あの頃よりももっと背が伸びた。
大野の制服も、(ボロボロだけど)他校の制服で浮いていたあの頃に比べてずっと馴染んでいた。

29 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/05(日) 17:56:32.19 ID:g6GaQPCv0
帰ろうぜ、と掠れた声で呟いた大野についていこうとしたら、後ろから不意に名前を呼ばれた。
振り返ると数人の女子がいる。
「あの…ボタン、残ってますか?」
そう言った女子は卒業式で涙を流した後なのか、目の周りが若干腫れていて瞳が潤んでおり、頬は赤く染まっていた。
杉山「大野のならもう…」
「そうじゃなくて…杉山君の」
杉山「…俺?」
こくこくと名前も知らない女子たちが頷く。
杉山「あ…少し…」
友達と押し付けあったたった一つ残った残骸はまだ俺の学ランの前を心細く繋ぎ止めている。
第二ボタンは、未練がましく過る女のことを思うとなぜか千切る気になれていなかった。

30 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/05(日) 23:07:46.94 ID:g6GaQPCv0
「あの…第二ボタン、あげる子いますか?」
中央にいた女子にそう恐る恐る見上げられる。
一瞬喉に呼吸が詰まる。
手放したくないと、そう思ってしまった。
でもこんな物を残しておく必要性なんて本当は一ミリも無かった。
思い出にいつまでも縋っているわけにもいかない。
恋が死んだって、人生は続いていく。
杉山「いないよ」
ひと思いに第二ボタンを千切った。
ずっと逃げていた思い出を[ピーーー]ようだった。
たった一つのつながりを失った学ランは、その瞬間、つながることをやめた。
ボタンを受け取った女子はありがとうと俺に向かってお辞儀をする。
そして何かを言いたげに暫く俺の顔を見つめていたがうっすら涙を浮かべた顔で少しほほ笑むと友達を連れて俺の前から立ち去った。
名前も知らない女子。
もう二度と会うこともないのだろう。

31 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/05(日) 23:11:38.02 ID:g6GaQPCv0
大野「…モテるんだな」
杉山「お前にだけは言われたくねーよ」
大野「俺にもくれよ」
杉山「え」
人にはもうなんにもあげられないような恰好をした男が何をいうのだと思った。
ボロボロのくせにやけに桜が似合っていてムカついた。
杉山「もうボタンねーよ」
大野「んーそうだな」
じゃあ時間くれよ、と大野が言う。
俺は黙って頷いた。
もうこの道を通って家に帰ることも、滅多にないんだろうな、そう大野がつぶやいた。
学校なんて嫌いでしかなかったが、そう思うとほんの少し寂しい。
杉山「この公園で馬鹿みたいに日が暮れるまで喋ることも、な」
帰り道の途中にあるブランコとベンチだけの寂れた公園。
大野「じゃあ今日で最後にしようぜ」
大野が俺の返事も聞かずにベンチに荷物を放ってブランコに腰掛けた。

32 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/05(日) 23:12:38.69 ID:g6GaQPCv0
杉山「…ほんと大野ってバカだよな」
俺も大野の後を追う。
大野「は?なんだよ。別にいいだろ」
大野はやけに楽しそうだった。
杉山「そうじゃなくて」
隣に腰掛けた。
杉山「お前さ、こっちの学校来てから怒られたことなんかなかったのに、一回職員室でめちゃくちゃ怒鳴られてただろ。」

33 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 03:05:08.87 ID:yVF65aIb0
大野「…。」
無言で大野が地面を蹴った。
砂埃が舞う。
ブランコが揺れ始めた。
杉山「点数、すっげーよかったのに入学書類受け取りにいかなかったから高校側から学校に連絡来たんだろ?噂になってたぜ、なんでわざわざ変な遠い私立なんかに通おうとするんだって職員室で担任に怒鳴られてたって」
大野「俺の勝手だろ、そんなん」
少しだけ揺れているブランコでばつが悪そうに大野が言った。
杉山「親にはなんて?」
大野「…そう、とだけ」
杉山「それだけ?」
大野「諦められてんだろ」
どういう意味だよ、そう問いたかったが俺も何も言わずにブランコを小さく揺らし始めた。
大野「そういうお前だって」
杉山「え?」
大野「数学、白紙でだしたんだろ」

34 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 03:07:02.23 ID:yVF65aIb0
ひゅ、と喉の奥から呼吸が漏れ出す音がした。
大野「学校に高校側から返却される答案、杉山のが白紙だったって、お前も職員室呼び出されたんだろ」
知ってたのか、大野は知っていたのか。
ギコギコ大野はブランコを揺らし続ける。
俺は気が付くと無意識のうちに両足で地面をとらえて揺らし始めたばかりのブランコを止めていた。
曇り空が広く続いている。
今にも雨が降り出しそうだとぼんやり思った。
知ってて、大野は今まで俺に何も言ってこなかったのか?
杉山「俺、お前の考えてることがわかんねぇよ…」
大野「…普通に考えてそれは俺のセリフだろ」
分からなかった、何を考えてるかなんて。
なんで大野はこんなにも平然としていられるのだろうか。
なんで何も聞いてこなかったのだろうか。
なんで何も聞いてこないのだろうか。
何考えてんだよ、と言った割に大野のつぶやきは独り言に近かった。
昔は、お互いの考えてることなんて手に取るようにわかったのに。
杉山「…変わったんだろうな、俺もお前も」
ぽつんと頬に雨粒が当たった。
大野「…変わってねーよ、なんも」
俺には大野が、認めたくないだけの子供に見えた。

35 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 03:09:35.14 ID:yVF65aIb0
乗り継ぎ二回、電車に揺られて2時間。
車両は混雑しておらず、座席に座ることが出来ることだけが救いだった。
入学式へ向かう車内。
俺はこれからの三年間を思い、どうせこうなるならあそこに入っていればよかったとげんなりしていた。
大野「毎朝こんなに早起きしなきゃいけないのキツイな」
杉山「合格したのに入学辞退したのが悪いんだろ」
大野「お前が白紙で出さなきゃよかったんだよ」
杉山「なんで俺に合わせてお前が…」
大野「あ、乗り換えだぜ」
俺の言葉をぶった切るようにやってきた乗り換え駅。
わざと大げさにため息をついて見せた俺も降り過ごすのは嫌だったので勝手に進みだしてしまう大野についていった。
遅延して乗り換え失敗したら最悪だな、とか考えてるうちに電車がやってくる。
これから毎日大野と往復4時間か…
そう考えるとげんなりしてきた。
大野「これから毎日一緒に往復四時間か」
げ。
同じこと考えてた。
杉山「で、でもさあお前に彼女でもできたら一緒に帰らない日もあるんじゃねぇの?」
大野「…かもな」
杉山「かもな!?」
思わずでかい声で聞き返した。
大野「は?なに驚いてんだよ。まだわかんねーのにかも以上のこと言えるかよ」
違う、俺はかもに驚いていたわけじゃなかった。
杉山「…お前、彼女作るかもしれないの?」
大野「文句あっかよ」
杉山「別に…」
その時から二年前だったか、俺は大野に彼女なんて興味ないと殴られていたのでどうせこの時もいらないとでも返ってくると思っていたのだ。
だからその反応が予想外だっただけで。
別に、杉山杉山言ってた大野がそうじゃなくなる日が来るかもしれないことに、何か思ったなどでは絶対ないのだ。

36 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 03:10:05.83 ID:yVF65aIb0
高校でも大野は人気があった。
今まで通り、いやそれ以上だったかも。
いうまでもない。
でも彼女を作るかもと宣言していた割には結局特定の女子と仲良くするようなことを大野はしなかった。
そうせ女子なんてみんな大野が好きになるに決まってるんだ。
そう思っていて、俺も親しい間柄の女子を作ることを避けていた。
この頃大野は俺によくこんな話をした。
宇宙に行こう、俺は物理学者になる。お前は宇宙飛行士になれ。

37 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 03:10:49.79 ID:yVF65aIb0
馬鹿だと思った。
俺が宇宙飛行士になんてなれるわけがないと。
それでも大野はうるさかった。
お前ならなれる、俺は宇宙を知りたい。
曖昧に返事をしたふりをして、俺は本心ではまともに取り合っていなかったが大野はそんな俺を見抜いていて毎日のように俺を宇宙へと誘った。
そんなに熱い宇宙への夢を小学生の時から追いかけてる大野を、俺は羨ましいと思っていた。
人生の転機がいくつかあるとすれば、ここがその一つだろう。
もし時が巻き戻せるなら。
そんな俺らしくないことを今では毎日考える。
もし時が巻き戻せるなら、俺は大野の誘いを断らないで大野の家に行くだろう。
そうして、くだらない話を夜までするだろう。
高校一年の夏休み、俺は元カノに駅前で遭遇した。
なんだか大野に会いたくなくて、糞暑い中で外をプラプラしてた日のことだった。

38 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 03:17:21.79 ID:yVF65aIb0
「アイスコーヒーで、ミルクとガムシロップをひとつずつ」
ぼーっとしていた俺に杉山君は?とそいつは促した。
杉山「えっと…じゃあオレンジジュース」
何も考えてなくて、元カノに出くわした時から動揺しっぱなしだった俺は思わず嫌いではないけどいつもなら絶対頼まないようなものを頼んでしまった。
「…同じ高校なんでしょ」
大野君。
やけに覚えのある声でそう言われて苦しい記憶がフラッシュバックして視界が一瞬ちかちか光った。
杉山「あ、あぁ」
「合格した県内でもトップクラスの大人気進学校蹴って…杉山君と同じ片道二時間かかる微妙な私立通い?」
杉山「…噂って広まるもんだよな」
「杉山君も杉山君で意味不明よね。十分合格圏内だったのに解答白紙で出すなんて。ほんと、なにしてんのよ…」
杉山「…。」
「まぁ、あらかた大野君と離れたかったって理由でしょうけど。」
失礼します、とオレンジジュースが目の前に運ばれてくる。
カランと音を立てた氷。
完全に読まれている。
何かを言わないと、そう思って口を開いたが、否定の言葉も言い訳も全く出てこなかった。
目の前の女は俺の様子をみて勝手にしゃべり続けた。
「凄いわよね、まさかあいつでも合格した第一志望…自分のために蹴るとは思わなかったでしょ。」
でもね、
「あんたには多少隠してたみたいだけど、この件だけのあいつが行き過ぎてたわけじゃない。あいつは…もとからそういう男よ」
聞かせてあげましょうか?とそいつはほほ笑む。
明るく髪の毛を染めている、大野をあいつ呼ばわりしたそいつは、まるで俺の記憶とは別人のようだった。

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/06(月) 11:48:27.00 ID:xChvbrijo
これはマジでホモ疑惑ありだな

40 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 18:03:49.70 ID:yVF65aIb0
レスありがとう、見てる人がいると励みになる

41 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 18:04:24.98 ID:yVF65aIb0
あいつが…大野君が最初に話かけてきたのはあんたと同じクラスだった時の…そうだ、あんたと話すようになって割とすぐ。
でもそのときはね、別に何もなかったのよ。
たまーにあんたの話するだけ。
頬杖をつきながらそっと目の前の女がうつむく。
大野が好きだと泣いていたあのころの面影は、もうない。
今思えばあれは私の杉山君への気持ち、探ってるようだった。
でも付き合い始めてからはそういうのなくなったかな、その時は単純に杉山君に遠慮してるんだろうなって思ってた。
それが…3年の夏休み、そいつは急に私の前に現れた。
え、と思わず声が漏れる。
話は続いていく。
はじめは偶々だった、いや…そういう風をあいつは装っていたのね。
道端で話かけられても教室でも話す仲だったし、別に不思議じゃなかった。
でもそれがだんだん頻繁になってきて、ある日ついに待ってる、って言われたの。
それからは早くて…流されるように突然手を握られて、そのまま抱き寄せられた。
あんな男にさ、求められて断れる女はいないわ。
断言できる。
まあ求められてたなんて、今思えばとんだ勘違いだったんだけど。

42 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 18:11:07.84 ID:yVF65aIb0
驚いた。
怒りを通り越して、ただただ唖然とした。
家にひきこもって勉強していたと思っていた大野が頻繁に待ち伏せ、なんて面倒なことをしてたこと。
それを頻繁に彼女に会ってた俺に全くばれないように行ってたこと。
この女は求められてたことが勘違いだといった。
じゃあ大野はなぜ?
私が大野君を好きになるのにそう時間はかからなかった。
それであんたと別れた。
それでいいと思ったの。
もともと勉強してたあんたなのに私に会うために夏休みなんて大事な時期にしょっちゅうふらふらしてたし、お互いのためだなって。
そう私は罪悪感に蓋をしてた。
それでね、ある日あいつに告白したの。
そしたらあいつ、返事も言わずに私を押し倒した。
誰もいない放課後の教室。

45 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 19:25:37.31 ID:yVF65aIb0
俺は、言葉が出なかった。
愕然とする。
興味ないんじゃなかったのかよ、頭の中で反響する。
『杉山は…どんな風にお前を脱がした?』
そう言いながらあいつは私を脱がしていった。
答えずにいたら、なぁって何度も尋ね直して。
その顔が切羽詰まっててあまりにも泣きそうだったから、そんなに杉山君に嫉妬してるのかなって、その時はふわふわした頭で考えてたわ。
ずっと何かを探してるみたいだった。
だんだん取り調べでもされてる気分になったもの…
私が少し反応するたびにここを杉山が、とか杉山は、とか。
結局一回も私の名前は呼ばなかった。
終わったあと、私を後ろから抱きしめたまま、あいつは泣いてた。
そして私のどうしようもない…誰にもバレたくない秘密を耳の中にささやいた。
何も言われなかったけど、このこと誰かに言ったらばらすぞ。そう脅されてるに等しかったわね。
直前から思えばあり得ないほど声が冷え切っていたのを覚えてる。
私はそのことを誰にも言わずに今日まで生きてきた。
でももう、時効でしょ?
あんた以外にこのことを言うつもりもない。
はっきり言ってあんなの異常よ。気持悪い…

46 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/06(月) 19:28:53.56 ID:yVF65aIb0
なんにも実感として湧き上がらなかった。
想像すら思い浮かばない。
ただ、大野なんてばいいと思った。
これを大野に振られた女の妄言だと、切り捨てることもできたはず。
いや、そうできたならそうすべきだったのだ。
そして未来永劫に聞かなかったことにして忘れてしまえばよかった。
でもそれを俺は嘘だとは思えなかった。
最後に女は俺に「ごめんね、」とひとことだけ謝った。
もうとっくに怒ってなんかなかったけど、許せるわけなんてない。
フラフラと金も置いていかずに喫茶店をでた俺は、そのままの足で大野の家に向かった。
道中、いろんなことを思い出した。
あいつが転校してきた日のこと、サッカーのレギュラーにあいつが選ばれた日のこと、夢を初めて語られた時のこと、部活をやめたこと、これまでのずっとあいつにどうしてもテストで勝てなかったこと。
大好きだったはずなのに、いつからか劣等感に押しつぶされて
大野が俺を追い越すたびに自己否定の渦に駆られて
それを思春期の些細な悩みだと、そう思うことは俺にはできなかった。
逃げることもできなかった。
いや、中途半端に逃げようとして、でも俺は大野に求められればその気持ちを無下にすることができなかった。
そして小学生の時のこと。
何も考えずに一緒いた。
いつでも対等だった。
お互いに同じくらい相手を思っていて、いつまでも一緒にいたいと願っていた。
喧嘩したり、上級生相手に共闘したり。
大野との純粋な思い出のすべてが、今の俺たちにはもうないものだと気が付いて
もう、全部辞めよう
そうぼんやり空を見上げた。
何処までも繋がっているらしい正午の空は、嫌味なくらいに快晴だった。
とあるアパートの一室の玄関でインターホンを鳴らすと、大野がすぐに出てきて。
誘いを断ったくせに突然来た俺は大野に何かしら言われると思ったが、別に何かを聞かれることもなく案外あっさり中に通された。