Part2
13 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 20:20:46.80 ID:GdHGw1+H0
杉山「男のこんな手なんかよりさ、柔らかいんだぜ。」
大野「…あっそう」
杉山「声もめちゃくちゃ高ぇし、髪も長くてさらさらしてるし、甘い匂いするし。」
大野「…。」
杉山「お前モテるんだから彼女でも作ればいいのに。せっかく
のイケメンがもったいないぜ?」
大野「興味ねぇ」
杉山「馬鹿言うなよ、お前女子と話すの苦手でビビってるだけだろ?何なら俺が紹介してや…」
大野「興味ねぇっていってんだろ!!」
至近距離で大野が突然叫んで、びっくりした。
けっと俺の手を払いのけて大野が立ち上がる。
大野「…お前、避妊は?」
杉山「…。」
大野「避妊したよな」
杉山「…してない」
大野「マジで最低だなお前!!!」
また大野がでかい声を出した。
14 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 20:26:19.01 ID:GdHGw1+H0
こんなに大声を出しまくってる大野も久しぶりに思えた。
大野「外にだしたよな」
杉山「…。」
大野「あっごめん…泣けてきた」
全然泣きそうにもない大野に俺が宇宙を感じた、というと今度は頭を思いっきり殴ってきた。
杉山「痛ッてぇな」
俺の胸倉をつかんで圧し掛かってきた大野に睨みつけられる。
喧嘩なら昔は幾らでもしてたが、この年になって大野に手をあげられるとは思ってなかったから若干ビビって、俺はごめんなさい、と早口で呟いた。
大野「いいか、お前あいつがもし妊娠してたらまず俺に言うんだぞ。」
杉山「…は?何でだよ」
大野「そんなことになったらお先真っ暗だ。俺が完璧に何とかしてやる。」
そう、冗談みたいなことを大野はまるで冗談じゃないかのようにいってのけた。
結局その女子は妊娠してなかったわけだけど、今でももしあの時妊娠してたらどうするつもりだったのか気になることがある。
夏休みが終わると秋も暮れ、やがて冬が訪れた。
年末年始は足早に過ぎ去り、冬休み中に進路に向けての三者面談が行われる。
「杉山君は非常に成績優秀ですね。これならここら辺で一番の進学校も目指せば余裕で手が届くと思います。」
向かい合わせに座っている先生は、柔らかい表情だった。
暗い気持ちで向かった三者面談だったが驚いた。
先生は俺の意に反し俺を褒めることしかしなかったのである。
「部活動辞めた件も、僕は杉山君が理由もなく人を殴る子じゃないって分かってるから信じてるよ。殴られた方は普段から素行も悪いし…」
あの件に関しては、俺が100%悪いのだが、俺を信じて褒めてくれる先生に余計な事を言う気にはなれなかった。
「杉山君は優秀です。」
俺、一番じゃないですけど。
「文武両道で本当に素晴らしいですね。」
万年二位なんですけど。
「ぜひご家庭でも話し合ってどのあたりの高校を志望するのか考えてください。」
努力してもこれなんですけど。
「杉山君ならどこにでも行けますよ。」
…俺、大野に勝てなくても
結構認められてたのしれない、と思った。
その日の夕方、俺は彼女と若干遅めの初詣に行った。
もう大野と離れられますようにとは願わなかった。
16 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 21:18:44.33 ID:GdHGw1+H0
新学期。
新しい学年で皮肉なことに大野と俺はクラスが離れた。
願わなかったとは言え、若干ほっとしている自分がいることも確かだった。
俺の彼女は、またしても大野と同じクラスだった。
大野「杉山、お前高校決めた?」
帰り道、当たり前のように下駄箱で俺を待ち伏せてた大野にそう尋ねられる。
杉山「うん、お前は?」
大野「俺も決めた。」
そう言って大野が続けていった高校名は、まさしく俺の志望校であるこのあたりで一番の進学校であった。
杉山「やっぱりお前もか?」
大野「絶対杉山ならここ志望するって思ってた。絶対一緒に受かろうな。」
前のほうを向きながら首に巻いてたマフラーを握りしめるあの時の大野の姿を今でもヤケに覚えている。
杉山「おう!」
受験なら、たとえ大野に勝てなくても受かる事が出来るんだ。
そう言って、受験勉強を本格的に始めたのだが、俺は
夏休み目前になって急にエンジンが切れてしまった。
あえて理由をあげるとすれば、大野と張り合うことをやめたからだろう。
まだ大野に勝とうと思っていた最初のテストでは、少しでも休んでいる間に差をつけられるのが嫌で嫌で仕方なくて、一心不乱に机に向き合っていた。
今はと言えば、テストで大野に負けても人並以上にできていればそれでいいと思うようになっていた。
周りがどんなに大野大野と騒いでも、彼女が俺を杉山君と呼んでくれればそれでよかった。
今日はいいや。
明日やろう。
疲れてるし…
気が付けば、毎日そんなことを言っていた。
当然俺の点数は思うように伸びない。
対して大野は順調に勉強を進めているようだった。
17 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 21:36:31.68 ID:GdHGw1+H0
終業式の前日、先日に受けた外部模試の結果が返却された。
大野と俺の偏差値は、10つ以上も違っていたのだった。
また俺の中に焦りがつのり始める。
帰り道の途中、大野に点数を見せろと言われて、まさか拒否することもできず。
大野は丁寧にその成績表を見た後、黙ってそれを俺に返した。
大野「杉山、夏休みあれば成績なんて幾らでも伸びる。むしろお前最近全然やってないみたいだったのにこの点数とれれば凄…」
杉山「虚しくなるだけだから、やめてくれよ。」
ひたすらに自分がかっこ悪いと思った。
この発言含めて何もかもがかっこ悪い。
惨めな気分で仕方なくなた。
大野が少しだけ気まずそうにそうフォローをいれてきても、ちっとも救われない。
杉山「…俺帰る。帰って勉強でもするよ。」
大野「…ああ。頑張れよ」
帰り道なんて同じなのに絶対困らせたに違いない。
でも大野は俺の背中を黙って見送っていた。
俺はそのまま部活動を夏前で引退した彼女の家の前の公園に向かった。
18 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 22:13:27.48 ID:GdHGw1+H0
「…杉山君、どうしたの?」
公園の柵に座り込んでいた俺を、公園に面している部屋の窓から見つけて彼女がすぐに近づいてくる。
驚いたような表情を浮かべている彼女は帰ってすぐに着替えたのか、制服ではなくすでに部屋着だった。
杉山「…ちょっとな。それよりさ、お前の家今日家族の人いるの?」
「え?いや…夜まで帰ってこないわよ。」
杉山「…あがってもいいか?」
彼女はしばし黙った後、ゆっくりと頷いた。
19 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 23:42:20.31 ID:GdHGw1+H0
大野「いいか?だからそうなると今引いたこの線がこの三角形の…」
杉山「…。」
大野「聞いてんの?」
杉山「っああ、ワリ…聞いてた聞いてた」
大野「ほんとかよ。じゃあ今言った所までといて見せろよ。」
杉山「…。」
大野「聞いてねぇじゃん!」
8月も中盤に差し掛かった頃、暫く声を聞いていなかった大野から電話がかかってきた。
一人家の中でずっと根詰めてて辛いから、気晴らしに俺んちで勉強しないかとのこと。
本当はこの日以前にも大野から何回か電話はかかってきていたみたいだった。
気が付かなかったのだ。
俺が勉強もせずに彼女に会いに外をふらふらしていたから。
そんな自分の行いから、頑張って勉強している大野に引け目を感じてしまい、母さんに大野君から電話あったわよ、と言われてもかけなおす気になれなかった。
でも一度知ってしまうと、なかなか逃れられない快楽というものがあって
勉強なんかよりよっぽど楽で楽しくて幸せで。
現実逃避でしかないことは分かっていた。
それでも…
大野「…お前、勉強してんの?」
杉山「し、てる」
大野「してないだろ。フラフラ外でてんのもどうせ図書館とかじゃないだろうし」
杉山「うっせーこれからちゃんとやるよ」
大野「…何してんだ?」
杉山「…。」
大野「…彼女か。」
そのまま黙り込む俺に大野はみっともねぇな、とかこれだから俺は嫌なんだよとかぶつくさ文句を言い始める。
大野の言っていることは 至極当然のことのように思えた。
それでも無性に腹が立って仕方なかった。
杉山「…見下してんだろ俺を」
大野「は?俺はお前と一緒に高校行きたくて…」
20 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/04(土) 00:47:44.81 ID:nCh+XXic0
杉山「あーそうだよな心配かけてごめんな、ちゃんと勉強するからさ」
大野「思ってねぇだろ、杉山」
杉山「…何」
大野「お前の彼女だって受験あるんだろ、別れたほうがお互いのためじゃねぇの」
大野の言葉は、別に思い感じで発されたものではなかったけど、だからといって他人事だと軽く発されたものではないようだった。
だからこそ、
杉山「ごめん。俺それだけは考えらんねぇ」
そんな俺に大野はため息をついて精々冬にでも焦ることだな、と参考書に目を落とした。
夏休みが終わる頃だった、突然彼女が冷たくなりだしたのは。
21 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/04(土) 01:11:48.20 ID:nCh+XXic0
話しかけてもどこかいつも上の空でいるようになった。
どこか俺じゃなくて遠くを見つめるようになった。
時々泣き出しそうな瞳でいるところを見つけるようになった。
そんで、ついに好きな人が出来たから別れたいと、涙を頬に一筋落とした。
好きな人、あいつの好きな人は俺だったのに。
好きな人が出来た、あいつはそういった。
はっきり言葉にされなくてもなくても暗にもう好きじゃないと伝えられていることは明白だった。
俺は他クラスの事情なんて分からなくて、同じクラスの大野にそれっぽいやつの存在を聞いてみたのだが、大野は分からないと首を振るだけだった。
それからまた俺は大野への劣等感を抱えつつ、元、彼女のことを忘れるためにまた勉強に打ち込むことになる。
大野はたぶん、受かるだろう。
確信に近かった。
じゃあ俺が落ちたら?
…考えただけで鳥肌が立ってきた.
22 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/04(土) 01:43:38.84 ID:nCh+XXic0
残暑が掻き消えて、秋が深まった。
夏休みにもっとやっておけばよかったという後悔がつのっていく。
だがそんな後悔をしている暇すらない。
俺は大野に大分差を取られていて、それを埋めることが全くできていなかった。
今のままだと少し苦しいぞ、と教師に言われる。
その傍らで大野のほうは、大分余裕そうだなという言葉を聞く。
模試の結果を握りしめた。
慌てて開いて判定を指でなぞる。
C。
可能性としては十分だと、人は言うかもしれない。
でも。
大野に与えられているアルファベッドは、A。
当たり前だ。あんなにあいつはまじめにやっていたのだから。
単語帳を広げながら帰路につく。
俺はまた、重圧や劣等感に憑りつかれるようになっていた。
大野「杉山、滑り止めの私立みにいかね?」
寒いと両手をこすりながらそう大野が俺に言ったある冬の日。
杉山「お前に滑り止めなんて必要あるの?」
大野「そりゃ落ちないつもりで勉強してるけど何があるかわかんねぇし。」
杉山「…どこでもいい、第一志望以外のこと考えたくねぇ」
また楽な方に流れようとし始めるかもしれない自分が怖かったのだ。
大野「わかった。じゃあすべ滑り止めここな。内申おまえも足りてるだろ?」
杉山「えっ、大野までそんな簡単に…」
大野「べつになんだっていいよ。」
だって落ちるつもりないし、と自信ありげに微笑んだのは大野は、やっぱり今の俺には嫌味なほど眩しかった。
大野と俺の元カノが一緒に居たという情報が流れてきたのは入試直前の日だった。
持っていた単語帳を思わず地面に落としてしまったくらいに動揺した。
大野に直接尋ねると「ああいたよ」と軽く返された。
告白されてた、断ったけどな。
と白い息を吐く。
あまりにも当たり前のように、そして俺の元カノもたくさん寄ってくる女の一人でしかないと、そう俺には聞こえた。
言葉を探して、見つからなくて。
俺は自宅で一人延々と泣き続けた。
24 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/04(土) 19:30:14.55 ID:nCh+XXic0
大野という男はとにかく死角がない男だ。
才能にあふれていたし、顔もスタイルも良い。
運動神経も抜群で正義感が強く、それでいて謙虚だし親しみやすい面も持ち合わせていた。
「さとし、頑張ってきてね。」
杉山「…おう」
俺がすごいだなんて口先だけではいくらでもいえるけど
大野「おはよう!ちゃんと受験票持った?」
大野と俺が並んでいる以上、大野よりも俺を選ぶ人がいないことなんて、少し考えればわかりきったことだったのに。
杉山「…もちろん」
笑うことにすらしんどさを感じた。
まさか、寝不足なんかじゃないだろうなと大野に顔を覗き込まれる。
目が赤いと言われて、気のせいだろと顔を伏せた。
大野「…あ、雪だ。」
大野がポツリと呟く。
空気は冷え切っていて指先がかじかみそうだった。
ポケットの中で作った握りこぶしに、去年の初詣で買った合格祈願を握りしめる。
我ながら女々しいと思った。
傷なんてまだ一ミリだって埋まっていなかった。
25 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/04(土) 23:31:22.22 ID:nCh+XXic0
なかった。
切符で改札を通ってホームに出ると、真っ白い空から雪が落ちてくるのがみえる。
ちょうど電車が出ていったところだった。
大野「あーあ行っちゃった。まあ時間に余裕あるし。」
独り言のようにそう呟いた大野に俺は返事をしなかった。
落ちる気は、しなかった。
大野が落ちる気も、しなかった。
一緒に受かろうなと大野は言ったけども、一緒に受かったら
また今のままが続くのだろうか。
高校大学とズルズル一緒に居続けて
もしかしたら一生、
電車が向こうから迫ってくる。
いっそこのままホームに落ちてしまえば全部終わるのかもしれない。
そうだ、このまま…
大野「杉山」
杉山「っえ」
ふいに手を掴まれた。
目の前で電車が停車する。
大野「お前震えてるぞ」
掌を大野にぎゅっと包まれた後、大野の手が遠くなる。
カイロを握らされていた。
ホームに落ちなくったって
大野「…そんな緊張すんなよ」
俺が
大野「お前なら絶対受かるから」
コイツが受かるであろう第一志望に落ちてしまえば
数学の試験。
俺は白紙の解答用紙と向かい合っていた。
数か月の血のにじむような努力が一瞬で溶けて漏れ出した。
俺が落ちたことを知った親の顔が浮かんだ。
友達の顔が浮かんだ。
大野の顔が浮かんだ。
でも妄想の中の俺は、そんな周囲の反応とは裏目に悲しんだ振りをしながらも笑いを堪えていた。
テスト後、大野はスッキリとした顔立ちだった。
やり切ったに違いない。
俺も、うっすら笑いを浮かべていた。
26 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/04(土) 23:44:22.57 ID:nCh+XXic0
テスト後、大野はスッキリとした顔立ちだった。
やり切ったに違いない。
俺も、うっすら笑いを浮かべていた。
落ちた、そう静かに呟いた俺に大野は背を向ける。
大野「じゃ、学校戻んぞ。」
そしてそのままスタスタと歩き始めた。
さきほどまでは穴が開くほど凝視していた受験票を、いとも簡単にポケットの中で握りしめて大野は合格者の校内へ続く列から離れていく。
杉山「…は?」
大野「なにぼさっと突っ立ってんだよ、戻るぞ」
杉山「…お前、なにいってんの?」
大野「お前こそなに言ってんだよ。」
杉山「馬鹿じゃねぇ!?お前、俺に合わせて合格までなかったことにすんの!?あんなに勉強してたのに!!」
大野「受かったどの高校に行こうとも俺の自由だろ」
杉山「私立なんて親にどんだけ迷惑かけると思ってんだよ!!あほなこと言ってないでさっさと列ならべ!」
大野「ならばねぇ」
27 :
◆wIGwbeMIJg :2018/08/05(日) 15:02:55.63 ID:g6GaQPCv0
>>26 抜けてた
試験から四日後、ずらりと並んだ受験番号のであるはずなない番号を目で探す。
落ちた、そう静かに呟いた俺に大野は背を向ける。
大野「じゃ、学校戻んぞ。」
そしてそのままスタスタと歩き始めた。
さきほどまでは穴が開くほど凝視していた受験票を、いとも簡単にポケットの中で握りしめて大野は合格者の校内へ続く列から離れていく。
杉山「…は?」
大野「なにぼさっと突っ立ってんだよ、戻るぞ」
杉山「…お前、なにいってんの?」
大野「お前こそなに言ってんだよ。」
杉山「馬鹿じゃねぇ!?お前、俺に合わせて合格までなかったことにすんの!?あんなに勉強してたのに!!」
大野「受かったどの高校に行こうとも俺の自由だろ」
杉山「私立なんて親にどんだけ迷惑かけると思ってんだよ!!あほなこと言ってないでさっさと列ならべ!」