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杉山「大野なんて死ねばいいのに」
Part1

杉山「大野なんて死ねばいいのに」
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1 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 12:35:13.06 ID:gfGSaD+l0
何処までも対等だと信じていた友達に劣等感を抱き始めたのはいつからだっただろう。
「東京から転校してきた大野けんいちです。」
まだこのこの学校の制服を持っていないという大野の身を包んでいた紺色の制服が、この田舎の中学校には不相応すぎて、変に浮いていたのを覚えている。
大野「杉山!」
杉山「大野!お前なんで…!」
HRが終わってすぐさま、俺の席に駆け寄ってきた大野を見て、椅子がはじけるほど思いっきり席を立ってしまった。
身長も伸びてるし、声変わりもしている。
でも大野は何年越しに見てもやっぱり大野のままで。
変わらない親友の姿を突然目の当たりにして俺は胸が詰まるほど嬉しかった。
大野「俺、この秋からまたこっちの学校通えるようになってさ」
杉山「なんで先に言わねえんだよ!言ってくれれば駅まで迎えに行ったのに!

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/03(金) 12:40:13.31 ID:GdHGw1+H0
そう大野は何でもないように笑って見せたが、転校生、確実に大野はそれだけじゃなかった。
男の俺からみても大野は男前だ。
髪の毛は真っ黒でサラついてるし、背は高く(同じくらいだけど)スタイルもいい。
転校生というのは、女子の目を嫌味なほど引く大野という男を構成する要素の一因にしかすぎなかった。
大野「お前サッカー部入ったんだろ?俺も入るよ。」
杉山「ほんとか!?でも大野、東京でサッカー部入ってなかったんだろ?」
大野「お前いないのにサッカーなんてする気になるかよ」
杉山「キモイこというなよ〜。じゃあ東京でお前、何してたんだ?」
大野「んー…。実はさ、俺向こうに行ってから宇宙に興味持ち始めて。それに関して色々…な。」
大野はほんの、ほんの少しだけ照れを孕んだ声で、それでいてまっすぐこっちを見てそう言った。
杉山「へえ、船はもういいの?」
大野「海もロマンあるし好きなことには変わりないけど。宇宙って海より気が遠くなるほど広いんだぜ?なんかさ、いいだろ。」
杉山「うーん、でも宇宙って遠すぎて逆に意識できないんだよなぁ。」
大野「お前にもいつか教えてやるよ。…宇宙のロマン。」
そういって大野は窓の外を向いた。
サッカーボールが転がってる校庭なんかよりもずっとずっと上の空を見上げていた。
そん時あの頃はいつも同じもの追っかけてたのになぁと、ぼんやり考えた気がする。
大野は途中からサッカー部に入ってきたにも拘わらず、俺以外の誰よりもサッカーが上手かった。
期待を裏切らない大野の姿に俺は高翌揚感を覚えた。
途中から惰性になっていた部での活動が大野のおかげで日々の楽しみに変わった。
俺はそれがたまらなく嬉しかったし、負けないように練習を積み重ねていった。

4 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 12:42:58.80 ID:GdHGw1+H0
大野との再会も束の間、夏休みの明けにはすぐに中間テストが待ち受けている。
俺は運動が得意だし好きなのであったが、勉強もわりかし得意であった。
理系科目は他の奴が唸っているところもわりかしすんなりと理解できてたし。
結構点数とれたと思った科目が後日返ってきた個人成績表で学年1位の点数であることを知ることもあった。
大野も頭がいいことは知っていたが、もちろん最初から負けるつもりで勉強するような俺でもなかったし、他の誰でもない、大野には負けたくないという思いで
テスト前の部活動停止期間はこれまでにないほど、一心不乱に勉強した。
結果からいうと、俺は大野に惨敗であった。
俺がその時し得ることが出来た最大級の努力と、最高のコンディションで勝ち取った高得点の数々は、軒並み大野に抜かされていったのだ。
これでだめならと掲げた数学の97点は、大野の満点に一瞬で塗りつぶされた。
満点。これはかなり堪えた。
98でも99でもない、100。唯一の三桁。
一つも間違いがない。
つまり俺には大野の上限が、みえない。
ここまで来ると、何となく諦めという空気が俺の中に漂い始めた。
きっと俺が次のテストに向けて毎日勉強して得意の数学で満点をとったところで、大野も満点を取れば永遠に敵わないのだ。
それにあいつは俺の半分以下の努力でそれを成し遂げてみせるに違いない。
俺だって勉強だけやってるわけにはいかない。
他のどんなところでも俺はあいつに張り合っていたかったから。
そんな中だが、一教科だけ大野に俺が勝った科目がある。
国語だ。
最後の最後に返された教科で点数も特別に高かったわけじゃなかったからどうせと思っていたのだが、
大野が頬を赤らめながら見せてきた点数は俺のものよりも6点だけ低かった。
たかが6点。
でもこの6点でどれほど俺の心が舞い上がったのか、あいつは生涯知ることはなかったのだろう。
「今回の数学のテスト、まじで難しかったよなあ。平均点40点台前半だし…。」
「あの最後の問題とか解かせる気ねーだろ。ってうわ!杉山97!?半端ねー…」
点数を覗き見てきたクラスメイトにそんな声をかけられたところで俺は一ミリも嬉しくなかった。
そんなものより、隣の席の女子に数点差で負けた国語の点数のほうが数倍誇らしかった。
後日、俺は教科ではなく総合点による学年二位の座を手にしていたことを知るのだが、
そのずっと上に一位の大野がいることを知っていたのでその二位には何の価値も喜びも感じなかった。

5 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 12:45:32.22 ID:GdHGw1+H0
「杉山君はテストどうだった?」
ひょいと隣の席の女子が覗き込んできた。
「ああ…。」
「えッ!?学年二位!?杉山君めちゃくちゃ頭よかったんだね…すごーい」
「…なんもすごくねーよ二位なんて」
「なにいってんの!一位でも二位でもどっちも十分凄いわよ」
「え?」
「えって…だから二位でも別にいいじゃない。杉山君凄いわね。」
飽きれたような目線を向けて褒めてくる女子の言葉を、俺はその時あそのまま飲み込めなかった。
大野「杉山、部活行こうぜ」
テスト期間も完全に終わり、停止させられていた部活動での活動も再開した。
テストでは大分悔しい思いをさせられたが、だからといって大野が最高のライバルであり親友であることには変わりはないわけだし。
サッカーではまだ俺のほうがすこしリードしている。
俺はそう思っていた。
「中間も終わったしお前ら気持ち切り替えてがんがん行けよ。今後の練習試合で動きが良かった奴は一年でも公式戦に出すからな。」
「「「はい」」」
大野がこっちを見てガキ大将みたいな顔で笑いかけてくる。
俺もそれに言葉なく、だが確かに頷き返した。
二学期の中間テスト後から隣の席の女子と話す機会が増えた。
会話内容は正直どうでもいいようなことばっかで、でもそんなどうでもいいようなタイミングで話かけてくる女子というのも少なくて。
「部活大変そうだね。」
杉山「お前らバレー部も結構大変そうだな。」
「まあ多少はね?今外走らされてるんだ。杉山君は水分補給?」
杉山「ん、まあそんなとこ。てかお前歩いてていいのか?顧問にどやされるぞ」
大野「杉山〜!早く戻ってこいよ」

6 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 12:47:39.32 ID:GdHGw1+H0
「ふふっ。杉山君も大野君にどやされるわよ?」
杉山「そうだな、じゃあ頑張れよ」
「お互いね!」
軽く手を振られたので俺も振り返した。
くるりと向こうを向いて走り去った女子の背中をほんの数秒だけ見送って俺も大野のところに駆け出していく。
大野「何立ち話なんかしてんだよ」
杉山「悪かったって。ほんの数秒だろ?」
俺がそういった後、腕を組んで足でボールを踏みつけたまま転がしていた大野が何か言いたげな顔をして、数秒遅れで口を開いた。
大野「…もしかして、彼女か?」
杉山「ばっ…んなわけねぇだろ!てかお前もそんなこと言うようになったんだな」
大野「ふーん。でも疑っても別に不自然ではないだろ?俺だってそんぐらい思うよ」
杉山「そ…そういう大野はどうなんだよ。好きなやついねーの?」
大野「んなもん居るわけねぇだろ」
杉山「だよなー」
大野が怪訝な目がふっと緩ませ、まぁいいや、いこうぜと駆け出していくあとに俺も続いていった。
大野に家くれば?と言われたのは、ある日曜日である。
日曜日は基本的に部活が午前中までなため、午後は大野と過ごすことが多かった。
いつもは俺の家で漫画読んだり公園で日が暮れるまで喋ったり、とまぁべつに大野の家に行ってたとしても何ら不思議では無かったのだけど、そういえば大野が静岡の戻ってきてからこの時まで一回も大野の家に行っていなかった。
引っ越しの準備が終わったんだろうと勝手に推測していた。
杉山「お邪魔しまーす」
大野の家はあるアパートの一室だった。
玄関に入った瞬間、何となく前に大野が住んでた家のような広さはないと思ったけどいきなりそこに言及する気にはなれなかった。
大野「今日母さんがさ、飯食ってけばっていってたから食ってけよ。」
杉山「あ、いいの?じゃあもらうわ。大野の母さん飯上手いんだよなー」
大野「部屋そこだから。」
杉山「おう」
昔の大野の部屋といえば、サッカーボールが転がっていて、漫画が置いてあって、あとは無造作にたたまれた布団が転がっているくらいだった。
でももう、サッカーボールは転がって居なかった。
代わりに書籍や雑誌、それから難しそうな紙の束が部屋のあちこちに積み重ねてあるのを見つける。
大野「ごめんな散らかってて、引っ越してきたての時はもう少し綺麗だったんだけどな」
杉山「本当か?この段ボール引っ越しの時から出しっぱなしだったんじゃねーの?」
大野「それはそう」
杉山「あ、そ…」

7 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 12:50:24.87 ID:GdHGw1+H0
気まずげに頭をかいている大野を横目に、部屋の隅に積み重ねってあった雑誌を一冊手に取ってベッドに腰掛けた。
杉山「いいなぁベッド、俺毎日大野の家に泊まりにきちゃおうかな。」
大野「ぜってー来んなよ」
手に持った雑誌の表紙に並んだ文字に目を泳がせると、良く分からないけれどなんだか物理という二文字は追える。
杉山「うわなんだこれ、めちゃくちゃ難しそう」
思わずそうつぶやくと大野も隣に腰掛けてきた。
大野「笑っちゃうよな、俺理科、満点逃したんだぜ。」
そう自嘲気味に笑った大野に嫌味か?と問いかけたくなったが、大野は俺のあの時の心境なんて知る由もなく。
俺は黙ってその横顔を眺めた。
大野は東京を知っている。
東京がどうとかじゃなくて、外の世界を知っているんだ。
学校内なんか、俺なんか競争相手にすら思っていなさそうな瞳だった。
俺は手に持った到底理解不能な雑誌開き、そして、大野に対する劣等感や焦燥感がまた酷く湧き上がってきたのに気がついて慌てて本を閉じた。
杉山「…なぁ大野、教えてくれるんだろ?俺に宇宙のロマン。」
大野「聞いてくれる気になったか?」
杉山「聞きたくないなんて最初から誰も言ってないだろ。」
俺は、できるだけ大野が見ているものを一緒にみていたいと思ってたし、大野だって俺に同じ夢を見てほしいと思っているに違いなかった。
これは驕りでも何でもない、ただの確信。
大野「…離れてても」
そこで不自然に大野が言葉を途絶えさせた。
何かを思い出していようだった。
杉山「え?」
大野「離れていても空は繋がってるっていうだろ」
杉山「…。」
大野「俺さ、そんな言葉それまで気にも留めたことなかったんだけど、引っ越してからやっと意味が分かって」
杉山「…大野」
大野「東京の地面ってさ、すげえ込み合ってるんだよ。足ばっか。しかも超忙しそうなの。駅だって道だってどこもかしこも人人。見上げる空も狭く見えた。」
大野「でもさ、ビルをかき分けた向こうって、本当に広くて障害もなくて。」
大野「俺思ったんだ、空ってすごいよなとか、あの雲どこから来たんだろうとか。」
大野「考えたら止まらなくなった。親にねだっていろんな本買ってもらったしこの俺が図書館にばっか行くようになったんだぜ?向こうの友達と遊ぶこともそっちのけでそればっかだったよ。」
大野「次第にさ、思い始めたんだ。空の外側って、宇宙って、何なんだろうって。」
そう言って曇らせていた顔を変えて大野が前を向いた時、そうか、と思った記憶がある。
俺や静岡を恋しく思っていた大野は、きっと繋がっているであろう空を見上げて俺たちに思いを馳せていたんだ。
でもそれがいつからか俺たちよりももっと向こうの向こうへの情熱にすり替わっていったんだ。
大野「これもよく言うだろ、宇宙に比べたら俺なんてなんてちっぽけなんだろうって。本当にそうなんだよ。ちっぽけなんてこ言葉でもまだまだ大きいくらいだ。」
なにか、俺には大野の中に宇宙よりも深い闇が見えた。
杉山「…大野」
大野「ん?」
杉山「思い悩んでることがあったらすぐ言えよ」
大野「…サンキュ」
その夜、俺は大野の家で晩飯をご馳走になった。
大野の父さんは、帰ってこなかった。

8 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 13:17:03.12 ID:GdHGw1+H0
2学期末に向けてのテスト期間、気がつくと俺は国語の勉強ばっかりするようになっていたと思う。
もちろん他教科もがっつりやったけどどうしても大野の顔が横切るとモチベーションが低下してしまうのだ。
結果、二学期末テスト、俺はまたしても大野に惨敗をした。
しかし、溜息とともに抜け落ちる力でそれをどこか受け入れている自分がいることに気が付いた。
何処までも負けず嫌いだった頃の自分が怒っているような気がしたが、仕方ないことなのだと、酷く諦めとともに達観していた。
俺は今回も国語でだけ大野よりも高い点数を取ることが出来た。
国語なんてつまらないものだと思っていたのに、俺はこの時から国語がなんだか好きになってしまった。
大野は、このテストでまたしても数学の満点、さらに理科でも満点を記録した。
授業中にふとこぼした理科教師の大野への驚嘆が、前回の時には周囲が気が付かなかった大野の天才性を認知させることになる。
その結果授業後、大野の席の周りに数人の人だかりができ、そいつらは大野に成績表を見せてほしいとしつこくねだった。
はじめは渋っていた大野が根負けし、その華々しい成績が収められた一枚の紙を机の上に取り出すと軽い歓声が上がる。
「凄すぎるよ大野君!」
「うちのテストでこれならどこの高校でも入れるんじゃない?」
「そういえば…杉山君はたしか二位だっけ?」
「二人とも一緒に勉強とかしてるの?」
俺と大野はいつだって一緒だった。
二人で一つみたいな、そんな言葉がまるで似合っていた。
でもこの時無意識に思った。
なんで大野と俺をいちいち比較するんだよ
声にならないようにぐっと奥歯を噛みしめてそのまま自席で寝たふりをしていた。
本当は誰よりも大野と自分を比べていたのは、自分だということをわかっていながら、
俺はクラスメイトへのイラつきを抑えられなかった。
大野が部の選抜チームのメンバーに一年ながら抜擢されたのは、ある寒い日のことだった。。
大野は名前を呼ばれたとき、一瞬で険しい表情を見せたあと、そのまま力強く返事した。
なんで、という思いが強かった。
俺は大野に負けないサッカー選手になりたかった。
勉強で諦めるという道を見出した分、俺には大野に勝つ手段がこれしかなかったというのに。
その時後ろから「杉山は選ばれなかったんだな」というつぶやきが聞こえた。
気が付いたときには酷く腹が立っていて胸倉つかんで引き上げたそいつの頬をぶん殴っていた。
そいつは事実を呟いていただけであって、俺はただの無茶苦茶な八つ当たりをそいつにしてただけに過ぎないことに気が付いたのは、血の気の引いた大野の顔をみた時だった。

9 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 13:17:58.51 ID:GdHGw1+H0
結局俺は無期限に部活動に参加することを禁じられ、そのまま部を去った。
大野は俺が部活に行かなくなった後を追って驚くぐらい何の躊躇もなく部活を辞めてきた。
大野はあくまでも俺と一緒にいるつもりだった。
俺は大野に何も言わなかった。
ただ申し訳なさはすごく感じていたように思う。
こうなると俺の大野への劣等感はますます大きく膨れ上がってきた。
二人で廊下を歩いているのに大野だけ騒がれることも日常茶飯事だし、皆口を開けば大野大野。
俺はといえばそんな大野と何もかも比較され続ける役を担い続けてきた。
いっそもっと背が低ければ、運動もめちゃくちゃに音痴なら、勉強も中途半端にできなければ。
大野に対する対抗意識さえなければ。
俺は素直に大野に尊敬の念を抱けていたのかもしれない。
そんなことを常に考えるようになっていた。
季節は廻り二年になった。
大野とはまた同じクラスだった。
正直、別のクラスにしてくれと初詣で願ったくらいには少し距離を取りたかったのだが。
でも、大野は杉山杉山と決まって横に並んでくる。
誰がどんなに大野を慕おうとも、たとえ俺が大野を呼ばなかったとしても。
杉山と後を追ってくる大野だけが、俺がわずかばかりの自尊心を保っていることができる唯一の理由だった。
大野にズタズタにされていた心を、大野で繋ぎとめていたのはなんだか馬鹿らしいと思う。
1年の二学期、隣の席だった女子もまた、同じクラスになった。
クラス割表が貼られたときにすぐにそいつの名前を見つけて内心ほっとしたような気分になったのをよく覚えている。
そいつは大野の隣の席になった。
大野は俺とその女子が仲いいことを知っていた。
だからだろう、他の女子に話かけられたときに比べ、大野の対応が柔らかかった。
嫌な予感がした。
だって大野に特別扱いされて淡い期待を抱かずにはいられない女がこの世に存在するとは、思えなかったから。
こいつだけは絶対に取られたくないと、そう強く思い始めたのは五月の…ちょうど大野がクラスリレーのアンカーに満場一致で選ばれたときらへん。
今思えば、あれが純粋な恋だったのか、単に大野にとられたくなかっただけなのかはわからないけど。
杉山「一緒に帰ろうぜ」
「いいよ」
生まれて初めてだった。
女に自ら好かれようと努力したのは。

10 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 13:23:11.86 ID:GdHGw1+H0
大野をほっぽいて一緒に帰った。
大野との約束をドタキャンしてデートした。
そして中二の夏
杉山「…いいか。」
その女子を家に招いた。
姉も親も出計らっていて家には二人きりだった。
肩に触れた手が震えている事に気が付かれる事だけが怖かった。
大野「杉山!」
はっと大野に起こされて目を開けるとそこは自分の部屋だった。
さく日の情事を思い起こすような夢を見ていて、まさか変な寝言でも言ってないだろうかと不安になったが、大野の普段通りの表情を見ているとその心配はないようだと感じた。
杉山「あっ…俺寝てたか?」
大野「寝てたよ。てかもう遅いし俺そろそろ帰るよ。」
杉山「あのさ、大野」
大野「あ?」
立ち上がった大野を俺は思わず引き留めていた。
杉山「今日泊ってかね?色々話したいことあるし。」
大野「別にいいけどよ…明日学校だぞ?」
杉山「大野ん家に荷物取りに行こう。一緒についていくから。」
大野「あー…いや、いい。俺走って行ってくらア」
杉山「おう」
大野は立ち上がったそのままで家を出ていった。
大野はいい奴だ。昔から。
こんな俺のわがままにもいつも付き合ってくれる。
劣等感に押しつぶされそうになっても一緒にいるのは、コイツがいい奴だったから。
大野は40分ほどでまた戻ってきた。
大分息を切らせていた。
ただいまとか言いながら俺の部屋の床に寝そべった。
そのままの態勢で視線だけこっちに向けた大野に「で?」と言われて俺は何処から何処まで話そうかとその時初めて考え始めた。
あの時は、漠然と話したいと思っていただけだったのだ。
杉山「お前のさ、席の女子いるだろ?」
大野「うん。」
杉山「…俺、あの子と付き合ってる。」
大野「…そうか。」
いつから?と大野は俺に静かに尋ねた。
杉山「はっきりと口に出したことはないけど」
大野「え?それ付き合ってるっていうの?」
杉山「…。」
大野「なんかあったんだな。」
大野は体を起こした。
薄ら笑ってるその顔には、好奇心や興味が滲んでいる。
杉山「その…したんだよ。最後まで。」
大野「え?最後?なんて?」
杉山「ああ!だから!ヤったんだよ!」
大野「…マジ?」
杉山「…マジ。」

12 : ◆wIGwbeMIJg :2018/08/03(金) 19:48:52.86 ID:GdHGw1+H0
大野は天井のほうを向いてマジかよ…と呟いた後、早くね?中二だぞと俺の肩をがたがた揺すった。
大野の鬼気迫ったような表情に、なんだか笑えてくる。
この部屋で、あの女子に覆いかぶさった時に脳内を過ったのは、好きだと思った女との目の前の光景よりも大野のことだった。
大野がまだ知らないことを一足先に俺が知る、なんてそんな馬鹿げた優越感。
大野がまだ触れたことのない場所。
感触。
感覚。
音。
温度。
そんなことをいちいち確認しては思うたびに体の熱は加速して、傷ついた心が埋まっていくような気がしたのだ。
なあ、と肩に捕まった大野の手を取ると大野が眉を顰める。
杉山「お前、女に触ったことないだろ」
大野「…。」