Part9
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 02:32:35.07 ID:
js092Jse0
男「朝は何時までいられるんだ」
女「朝日が登っているのは見たことがありません。男さんと別れてからいつも30分ぐらいだと思います」
男「4時台か5時台かな。今日測ってみよう」
女「やはり消滅しているんですかね。朝方無理やり起こして話せたとして、話の途中に消滅したくはないです」
男「今まで消える所見ておけばよかったな」
女「現れるところも消えるところも今まで見られたことありませんでしたね」
男「寝袋で待ち伏せてた時は基本ゲームやってたからな」
女「三日間待っててくださったんですよね。正直初日は気づきませんでした。2日目は、気づいたんですが涙を飲んで無視しました」
男「するなよ!」
女「だって泣いてたんですもん」
男「…………」
男「泣いてるときこそだよ……」
女「猛省してます。ですが私も、ちゃんと行動で示そうと思ったんです。自分一人でできることは、自分でやっておきたいって」
男「今日は罰として、消えるまでの待ち時間色んなグラビアのポーズしながら撮影させてもらうからな」
女「撮影はもういいです!」
男「じゃあグラビアポーズだけか」
女「本当にやり始めたら止めるくせに」
男「ちっ、ちっ、まだ俺の事わかってないな」
女「じゃあ教えて下さいよ。残りの1週間で」
男「おじさんが何でも教えてあげよう」
女「はい」
男「……残りの1週間?」
女「どうかしました」
男「残りの1週間ってなんのこと?」
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 02:46:22.78 ID:
js092Jse0
女「そうですね、言われてみれば……」
男「一週間後には何がある?」
女「うーん、まぁ年末ですよね」
男「走れば疲れるし、物を触れる幽霊を、自分意以外に見たことはある?」
女「ないですよ」
男「もしもさ。女以外にも、この世に未練を残して、たまたま地縛霊になれた人がいたとしてさ」
男「その人達で現代が溢れかえらないのは、消滅していくからじゃないのかな」
女「期間限定ってことですか?」
男「そういうことだ」
女「……1つだけ確信していたことはあるんです」
女「もしも、あの人に謝罪することができたなら、私は成仏するということです」
女「謝りたいけど会いたくない気持ちで一杯で、このお墓に毎晩しがみついて」
女「ある日突然不審者が現れて、くだらないやりとりに巻き込まれて、久しぶりに心の底から笑ったりもして」
女「でもそれは私が"生きてて"いい理由にはならない。私はなすべきことをなすためにこの世にしがみついているんだって」
女「その期限がもしかしたら、12月31日なのかもしれません」
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 03:02:23.52 ID:
js092Jse0
女「生きることは時間との戦いです。夏休みの宿題に期限があるのも、人間に寿命があるからなんですよきっと」
男「だとしたら、なおさら早くしないと」
女「そうですね。このままでは死んでも死にきれません。まぁ、今がまさにその状態なのでしょうが、今度こそ本当に」
女「けれど、それだけでは無い気がするんです」
女「信心深くは無い私ですが、神様のような大きな存在が、私に何かを気づかせようとしているのかもしれないって」
女「私、男さんを初めて殴ったあの時から、自分が幽霊だってことを隠そうとしたんです」
女「自分が死者だとわかった日からは、出来る限りひと目につかないようにすることを意識していました」
女「しかし、生者だけには触れられない存在としてこの世に縋りついてる自分に嫌気がさして、ちょっと自暴自棄になっていたんです」
女「だから、あなたにもつい話しかけてしまいました。『人様のお墓に立ちションですか』って」
女「あなたに触れられることがわかった時に、こう思いました。"この人と話しているときだけは、私は生者でいられる"」
女「やっぱり、生きていたかったんですね、私」
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 03:12:20.71 ID:
js092Jse0
男「女……」
女「あなたに話しかけたこと、あなたが唯一触れられる生者であること。何か、意味があると思うんです」
女「残り数日間ではありますが、よろしくおねがいしますね」
男「……うん」
男「こちらこそ、よろしく」
女「すみません。なんだかしんみりしちゃいましたね。作戦会議の続きをしましょうか」
男「そうだな」
男「やっぱり、おっぱいムーン大作戦しかないのか」
女「……はい?」
男「俺が狼人間の真似をする。なんだなんだと近所中の人がでてくる」
男「今夜の満月はとびきりだぜ!!と俺は目を血走らせながら叫ぶ」
男「女の胸部を凝視してる俺に先生が気づいて一言」
男「それ、満月じゃなくて、おっぱいよ!」
男「ああ、なんだ、おっぱいか。そうして俺は人間に戻りすごすごとおうちに帰る。近所の人も、なんだおっぱいと勘違いしたのか、ガハハ、と笑って帰る」
男「先生だけがあんたに気づいて話しかける」
男「完璧じゃないか?」
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 03:20:33.75 ID:
js092Jse0
男「いったぁああ!!!」
女「痛い!!!!!」
男「なんで殴るんだ!」
女「死者に殴られるあなたがわるいんです!!こっちが真剣に話してる時に何考えてたんですか!!」
男「一生懸命に作戦考えてやってただろ!」
女「そんな作戦通用しますか!」
男「うーーん……コートの上からだとちょっとわかりづらいなぁ」
男「あー、でもやっぱり満月と勘違いするにはちょっと……」
女「次はグーで叩きますよ」
男「さっきもグーだったからね?」
女「でもあれですね、私が露出魔の被害に遭ってるふりして大声で助けを求めればあの人はでてきてくれるかもしれません」
男「その露出魔役誰やるの?」
女「感謝します」
男「できません!」
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 03:32:03.80 ID:
js092Jse0
男「だったらあんたが双子の姉妹だって設定にするのはどうだ?」
女「深夜2時に遭う理由はどうしますか?」
男「勤務時間がどうのこうのって言えばわかってくれるんじゃないか」
女「自分に嫌がらせした生徒の姉のために丑三つ時に会ってくれますか?」
男「お花だって供えてくれてるんだろう?」
女「そうですけど」
男「そういえば、相手の家までどれくらい時間かかるんだ?」
女「昨日は明け方直前に見つけたのですが、そうですね、ここからだと走り込みで2時間くらいかと」
男「えっ!?そんな遠いの!?」
女「急行の電車でいえばここから3駅分の場所です。やはり夜中は交通機関がないので」
男「先生の家に直接出現できないの?」
女「お墓以外に現れたことありませんね」
男「セーブポイント一つだけか」
女「ゲームじゃないんですから」
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 03:37:07.81 ID:
js092Jse0
男「だったらタクシーを当日呼んで」
女「お金がないですよ」
男「出世払いで。あっ、今のはこの世から出るって意味じゃなくて」
女「またそのネタですか」
男「でもこれこそ心霊タクシーになっちまうな」
女「お金のやり取りはもうしたくありません」
男「自転車に乗るのは?」
女「私の家にはもう自転車がなくて…」
男「二人乗りすればいいよ」
女「2時間分も大変じゃないですか?」
男「俺軽いから大丈夫だよ」
女「私が漕ぐんですか!」
男「だって……」
……
…………
………………
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 03:51:46.98 ID:
js092Jse0
男「一通りグレイバープランの内容が決まったな」
女「初めて聞きましたその作戦名」
男「Grabe(墓)と勇者(Braver)を掛けてるんだよ」
女「もっとかわいい名前が良かったです」
男「作戦名チワワ、じゃ締まらんだろう」
女「ふふっ、いいじゃないですか、チワワ」
男「その場合の作戦内容はこうだな。さっきも話に出たが、俺が露出魔役をやり、俺が女の前でコートを広げて『こんにちわわ!!』って」
女「ぶふっ!!!」
男「…………」
女「…………」
男「…………」
女「笑ってないです」
男「吹き出したよな」
女「吹き出してないです」
男「こんにちわわ!!」
女「ぐふっ…!げふげふっ!!」
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 04:01:04.03 ID:
js092Jse0
男「まぁくだらない話題は置いといて本題に戻るとして」
女「はぁはぁ…そうですね」
男「作戦名チワワについてなんだけど」
女「ぶふぉっ!」
男「…………」
女「吹いてない!」
男「下ネタで爆笑しているのを誤魔化している女とかけまして、年末になっても大掃除を終えてない人とときます」
女「なんですかいきなり」
男「その心は?」
女「うーん……」
女「ええ……答えは?」
男「どちらもふいてない」
女「…………」
女「ちょっと悔しい!」
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 04:13:40.87 ID:
js092Jse0
男「窓ふきは丁寧にしましょう」
女「掃除機しか使わない人もいると思います!」
男「掃除機しか使わない人とかけまして」
女「!?」
男「さらに年末の競馬で走る馬と掛けまして」
男「さらに競馬場にいるおじさんとかけまして」
男「私とときます。その心は?」
女「ええええ!?」
男「5・4・3」
女「ちょっ!タンマです!!」
男「2・1」
女「すとっぷ!なんだろなんだろ」
男「いずれもカケルのが好き、でした」
女「…………」
女「ああ……」
男「私は2つの意味でかけるのが好きです」
女「えっ?」
男「いや、なんでもないです」
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 04:27:48.48 ID:
js092Jse0
女「じゃ、じゃあ私からも!」
男「どうぞ」
女「ええと、ええと……そうだ!」
女「年末年始に実家に帰っている人と掛けまして、親のスネをかじってる男さんとときます。その心は?」
男「ええ、なんだ」
女「カウントダウン!!5・4!!」
男「墓ニーと関係あるのかな」
女「3・2!!」
男「ちょ、もしかして、あっ!!」
女「1!」
男「わかったわかった!」
男「あれだろあれ!」
男「どちらもキセイしています!!」
男「ふははは!!これが掛け王の実力よ!!」
男「はーっはっはっは!!」
男「ふっはっはっは……」
男「…………女?」
男「…………」
男「4時18分。思ったよりも早いな。ちゃんとメモしておかなくちゃ」
男「本来丑三つ時が2:00からの30分であることを考えると、長いって捉えてもいいのかな。まぁ、幽霊って言うより、ただの幽霊部員だからな」
男「…………」
男「女。あんたが消える前に、必ず先生の元へ連れて行くから。あんたに掴めないものがあったら、俺が代わりに掴むから」
男「残酷かもしれないけど、生きててよかったって、幽霊のあんたに最後にそう思ってほしいんだ」
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 14:39:38.48 ID:
js092Jse0
男「早く乗って!」
女「はぁ…!はぁ…!」
男「お待たせしました!出発して下さい!」
運転手「こんな時間に予約までしてなんかあんの?始発の電車に乗っていけばいいじゃない」
男「うちの家族、ちょっとした宗教に入信していまして。年末が近くなると家族毎に深夜の3時に集会所にあつまってですね。父と母は泊まり込みで手伝いをしていて」
男「あの、全然危ないやつじゃありませんよ!無理やり勧誘したりもしませんので!大学の友達とかにもよく勘違いされちゃうんですけどね。あはは」
運転手「ああ、そう」
男「そうなんです。あはは」
女「…………」
運転手「…………」
男「そうだよなぁ、我が妹よ」
女「……そうだね、お兄ちゃん」
男「ごめん、ちょっと聞き取りづらかった」
女「そうだね、お兄ちゃん」
男「ごめん、もういっか……いてっ。やっぱり何でもない」
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 14:44:28.41 ID:
js092Jse0
男「ありがとうございました!」
男「無事たどり着いたな。信じてたかはわかんないけど。車中無言で気まずかったなぁ」
女「あの」
男「どうした」
女「私、姉の設定だったと思うんですけど」
男「さすが、そこは上手くアドリブをきかせてくれたな」
女「シスコン」
男「違うって!妹が欲しかっただけで妹はいないからシスコンではない!!決してお兄ちゃんと呼ばれたかったわけでは」
女「はいはい。行きましょお兄ちゃん」
男「うおお!!いくぞおお!!!」
女「先行き不安です…」
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 16:59:12.77 ID:
js092Jse0
男「ここから歩いて五分くらいだな」
女「男さん、具合が悪そうですが大丈夫ですか?」
男「ちょっと寝不足かもしんない。でも3時間後には寝れるだろうから大丈夫」
女「昼間に下見してきてくれたんですよね」
男「うん。他にも先生の連絡先を探したり、SNSのアカウントを特定しようとしたけど、どれも駄目だった」
女「徹夜してるじゃないですか」
男「お礼に寝袋で一緒に寝てくれてもいいんだぜ」
女「もう。でも、本当にありがとうございます。お化け騒ぎになってもいいから、ちゃんと目の前で謝ります」
男「うん」
女「あの……男さん。未だに不安なんです。例えば、もしも男さんの家族を殺した人がいるとして。その人が心の底から自分の罪を悔いて、数十年後に謝りにきたらどう思いますか?」
男「許せないって思う。反省しなくても許せないけど、反省するのも許せない。とにかく、苦しみながら死んでほしいって思う」
女「ストレートな物言いですね。苦しみながら死んでほしい、ですか」
女「でも、確かにそう思いますよね。この点で言えば、私は激しい痛覚とともに死んだ記憶があるのでクリアしていますかね」
男「罪だって二種類あるだろ。"程度の差こそあれ 重罪"というものもあれば"ものによる 重罪か軽罪"」というもの。今回はさ、人一人の人生を狂わせたことには違いなくて、"程度の差こそあれ"の部類に入ると思うんだ」
男「取り返しのつくことであれば謝罪はするべきだって誰もが言える。だけど、取り返しのつかないことは、謝っていいことなのかすらわからない」
女「はい……やっぱり私……」
男「でも、味方になるよ」
男「女が悪いんだとしてさ。世間の倫理観や、自分の倫理観から見ても、女がこれからやろうとしていることが間違っているんだとしてもさ」
男「女自身でさえためらっていることの、背中を押してあげたい」
男「女が間違ってていても、最後まで女の味方でいたい」
男「ほら、ゲームの主人公もよく言うじゃん。たとえ世界を敵にまわしても君を守る!!って。その世界の中にはヒロインのようにやさしい女の子が何億人もいるはずなのにも関わらずだぜ?」
男「それで世界が滅んでもいいだなんてさ。まったく、不謹慎な話だ」
女「男さん……」
男「今日までだって不謹慎なことをやってきたんだ。だから今日も、一緒に不謹慎なことをやろう」
男「ちゃんと、謝りに行こう」