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女「人様のお墓に立ちションですか」
Part2


29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/16(金) 20:34:25.32 ID:Ode0qC0A0
男「パニック状態でいると、突然目の前が光る」
男「プロジェクターから映し出されているのはプレゼンテーション資料」
男「そこで俺が足早に女性に近づき参考資料を配る。そして挨拶もそこそこにプレゼンテーションをはじめるんだ」
男「『このインタラクティブなソーシャルで、アトラクティブなパーパスにコミットするワンハンドレッドのハウトゥー』。これがタイトル」
男「このプレゼンの凄いところは、喋る言葉の8割がカタカナ」
男「『1』と大きく数字が描かれたスライドの次にカタカナが書き込まれたスライド。しばらく喋ると「2」と描かれたスライドに変わり、また新たにさっきとは違うカタカナだらけのスライドが現れる」
男「女の子は恐怖を感じながらも勇敢にどういうことなんだと尋ねる」
男「生き生きとした表情でプレゼンしていた俺は、突然鬼の形相になり『質問は質疑応答の時間にお願いします!!』と怒鳴りつける」
男「女の子は"とりあえずよくわかんないけど、100回続くんだな”と悟り脱力する」
女「あなたの話を聞いてる律儀に聞いてる私が脱力しそうです」

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/16(金) 20:42:09.84 ID:Ode0qC0A0
男「以上で私のプレゼンテーションは終了になります。質問がある方はいらっしゃいますか?」
女「…………」
男「…………」
女「…………」
男「…………」
女「……えっ、私が言う感じなの?え、じゃあなんて言おう…」
女「このままお家に返してもらえますか?」
男「はい、ポッシブルなディマンドといえるでしょう」
男「そして君は鎖を外してもらい、そのまま走って人が大勢いそうな場所に走っていく」
男「一夜限りの不思議な体験でしたね」
女「あの、あなたは何が満たされたの?」
男「ここまでおかしなことをできるのに、けれど所詮この程度のことしか自分はしないんだなという確認ができたこと」
女「お墓に立ちションした人がよく言えますね」

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/16(金) 20:49:44.48 ID:Ode0qC0A0
男「ところで、こんばんわ」
女「あ、はい。こんばんわ。えっ。なんですかいきなり」
男「あいさつをし忘れていた。天気の話題も」
女「そこまで王道のコミュニケーションに律儀な人なら2回目に会った人にいきなり自分の性癖を絡めたプレゼンテーションの話なんかしないでください」
男「流れというものがあるだろう。ほら、次に天気の話題」
女「今日も真っ暗ですね。とても寒いですね」
男「もっと明るい話題はないのか」
女「あなたが言ったんでしょう」
男「今日は月が明るいですね」
女「ええ」
男「きれいですねとは言ってないよ?」
女「別に言ってほしくないです」

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/16(金) 21:00:05.12 ID:Ode0qC0A0
女「今夜も立ちションしにきたんですか?」
男「今夜も立ちション見に来たのか?」
女「見に来てません。私を痴女にしようとするのいい加減やめてください」
男「人にばかり性癖を語らせて、自分だけ話さないのはずるい痴女だと思います」
女「あなた最初独り言語ってたでしょう」
女「私は痴女じゃないからそもそも話して面白いような性癖もありません」
男「話しても退屈なような極普通の性欲しかわかないってことか」
女「そっちの方が生々しいんでやめてもらえます?」

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/16(金) 21:09:13.42 ID:Ode0qC0A0
男「なんかあるだろう、今流行りのやつ。壁ドンとか、親子丼とか、姉妹丼とか」
女「正答率3分の1です」
女「壁ドンなんてされても怖いだけですよ」
男「じゃあなんでこんなに流行語になってるんだ」
女「好きな人から特別なことをされると嬉しいという気持ちの表れではないでしょうか」
女「世の中にいる女性の大半は、色んな女子から人気の男の子に片想いをしているのでしょう」
女「彼氏ではなくクラスメートという程度のその距離感を保ちつつ、彼氏でもしないような激しい行為をされることが妄想しやすく刺激的でいいんじゃないでしょうか」
男「その理論だと片想いしている男の子から誘拐されて監禁プレゼンされたら昇天するほど喜ぶことになるぞ。やはり俺は正しかったのだ」
女「世の女性の気持ちを簡単に理論づけようとした私が間違っていました」

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/16(金) 21:15:49.41 ID:Ode0qC0A0
男「墓ドンとかどうかな。墓に押し付けて壁ドン」
女「壁でよくないですかそれ」
男「もう一回遊べるドン。一度壁ドンしたあとに、もう一度壁ドンをする」
女「恐喝しているみたいです」
男「天ドン。ボケながら壁ドンをすることを素早く何度も繰り返す」
女「天丼ってお笑い用語ありましたね。というかそれ恐喝レベルあがってます」
男「テポドン。めちゃめちゃ威力の高い壁ドンをする」
女「もはや政治に関わるのでそのくらいでやめてください」

35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/16(金) 22:24:32.46 ID:Ode0qC0A0
続きはまた明日。おやすみなさい。

36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/16(金) 23:16:13.17 ID:1NhokKzR0


37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/17(土) 09:39:49.64 ID:q9e9ORo90
男「よくも真夜中からくだらない雑談に付き合ってくれるものだ」
女「本当ですよ。むしろ昼間なら全くはなしを聞いてないと思います」
男「こんな遅くまで起きてて昼間寝不足にならない?」
女「寝不足だったらこんな遅くまで起きていませんよ」
女「眠いんだったら帰ったらどうですか」
男「あんたはまだ帰らないのか」
女「あなたとは違って、私は用があってここに来たんです」
男「用を足しにきたのか?俺と同じじゃないか」
女「用事があってきたんです。ていうか、あなた用を足しにきてるんですか」

38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/17(土) 09:51:31.08 ID:q9e9ORo90
男「そうだな。昨日はたまたま近くにあったあのお墓で用を足したからな」
男「今日からは世界への恨みを誰にも咎められずに果たすために、毎日一番端にあるお墓から順番に立ちションしていこうと思う」
女「退屈な道徳観でわるいのですが、お墓参りする人の気持を考えたことあります?」
男「俺だって祖父や祖母の墓参りをしたことはあるさ。あまり話したことはなかったけどな」
女「自分のお母さんが亡くなったとして、お母さんの墓標に立ちションしている人がいたらどう思います?」
男「仮定の話はやめよう。"もしも貧困国の子供に生まれて、日本の大学生が募金もせずに漫画を買ってたらどう思うか"と聞かれたって、募金する気にはなれないだろう?」
男「俺の立ちションは誰にもとめられないのだよ。ふははは!!」
女「警察に通報すれば簡単にとめられますけどね。尿という証拠も残ります」
男「でも通報しないんだろ?」
女「はい。通報もしないし咎めません。あなたの特殊な百度参りが達成できるといいですね」

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/17(土) 09:54:17.52 ID:q9e9ORo90
男「じゃあ今からしてくる」
女「いってらっしゃい」
男「あんたは見にこないのか」
女「なんで私が見たがってると思ったのか疑問しかわきません」
男「なぁ、むしろ一緒に立ちションしないか?」
女「いってらっしゃい」
男「なんだよ連れねえなあ。連れションだけに」

40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/17(土) 09:59:58.37 ID:q9e9ORo90
男「それにしても、なかなかに広い墓地だな」
男「この町で育って今までも何度も見かけたはずなのに、全く意識を向けたことがなかったな」
男「本当、暗いし寒い。民家も少し離れてるし。小学生のときの自分じゃ絶対来れなかっただろうな」
男「いつの間に夜中が怖くなってしまったんだろうな。夜中の不気味さよりも嫌いなものに昼間が囲われてしまったんだろうな」
男「世界が悪いんだ」
男「よし、これかな。名前から察するに、お爺ちゃんの墓だろう」

41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/17(土) 10:05:53.03 ID:q9e9ORo90
男「誰も見てないよな」
男「チャックをおろして…」ジィー…
男「女はもうどこにいるかすらよくわからんな」
男「わるいな、爺さん。あんたには恨みがないが」
男「ここで、放尿されてもらうよ」
ジャー……

42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/17(土) 10:12:30.39 ID:q9e9ORo90
女「用は済みましたか?」
男「ああ。最高の気分だった」
女「本当に人の気持を考えないんですね」
男「朝墓参りする人が何事もしらずに済むように、こうして夜中に小便かけてるじゃないか」
女「都合の良い言い訳をまたすぐつくって」
女「放尿される故人は何を考えてると思います?される方の気持ちこそ考えたらどうですか」
男「知るかよ。死後も自分を心配してくれる人がいていいですね、としか思わない」

43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/17(土) 10:18:12.90 ID:q9e9ORo90
女「ああそうですか」
男「そうだよ。ところで、あんたは用は済んだのか?」
女「あなたに話す義理はないです」
男「いつからこの墓に来てるんだ?」
女「嫌な人が現れる前からは」
男「さっきより一段と機嫌が悪いな」
女「私もう帰りますね」
男「そんなにカリカリするなよ。もしかして今日……、スーパームーンの日?」

44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/17(土) 10:20:02.45 ID:q9e9ORo90
男「殴りもせず帰りやがった」
男「…………」
男「生理だったらそういえよ」
男「…………」
男「あいつ、いつも何しに来てるんだ」

45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 07:13:56.62 ID:NWXazm87O
男「こんばんは」
女「また来たんですか」
男「百度参りが終わるまでは」
女「そうですか。どうぞご自由に」
男「あんたこそ毎晩何しにきてるんだ」
女「お墓への用事なんて普通1つでしょう。まぁあなたみたいな人を除いては」
男「お墓参り?」
女「正解です。では、今日はこの辺で」

46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 07:21:36.70 ID:NWXazm87O
男「こんばんは」
女「また来たんですか。本当に100個のお墓に放尿する気ですか?」
男「しちゃ悪いかよ」
女「悪いでしょう」
男「俺は悪いことをしにきてるんだよ」
女「その、響くの恥ずかしくないんですか?あなたの音」
男「俺の何の音だ?心臓?」
女「もう少し下ですよ…」
男「足音?」
女「もう少し上」
男「へそ?」
女「もう少し下」
男「ふともも?」
女「わかってるくせに…」

47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 07:36:48.55 ID:NWXazm87O
女「それじゃあ私は用があるので」
男「つれねぇなぁ。用があるって同じ墓地だろ」
女「独り言をまた楽しんでいればいいじゃないですか」
男「はいはい。独り言と尿による真夜中のオーケストラを楽しんでおくよ」
女「吹奏楽部の人が聞いたら怒りますよ」
男「幸いここには卓球部しかいないからな」
女「卓球部の人も放尿の音は聞きたくありません」

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 07:40:41.66 ID:NWXazm87O
男「なぁ、あんた」
女「こんばんは。また来たんですか」
女「その継続性を人生の早いうちから役に立つことに使っていれば、こうやってお墓に放尿する人生を送らずに済んだのではないでしょうか」
男「大人はみんな勉強しろってうるさいだろ。でもその大人達がある日突然中学生や高校生に戻っても勉強以外の後悔を取り戻そうとすると思う。そういうことだ」
女「なんかかっこいいことおっしゃってますけど、最後は全部あなたの放尿の正当化につながってしまうんですよね」

49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 07:49:27.95 ID:NWXazm87O
男「今日はもう用事は済んだのか?」
女「いえ、これからです。あなたは?」
男「俺もまだ用を足すという用を達してない」
女「んんーわかりにくい」
男「あんたと会話する前に放尿してはいけない気がしてな。あんたに放尿の許可を取らないといけない気がしてしまう」
女「許可してないですし!なんですかその毎晩の儀式みたいな」
男「俺は今自分の中にある罪悪感と戦っているんだ」
女「それこそ負けるが勝ちですよ。それが本心なんです」
男「本心に逆らって放尿してるのか俺は」
女「人間は複雑ですね」

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 07:54:59.97 ID:NWXazm87O
男「あんたも何か隠してないか?」
女「隠すも何もさらけ出そうともしてません。あなたと違って」
男「冬風に自分の分身を晒すのはなかなかいいぞ」
女「心のはなしですからね。ところであなたは私の何を疑っているんでしょう」
男「ふっふっふ。あんた、墓まいりしていないだろう」
女「じゃあ何をしていると?」
男「丑の刻まいりだよ」
女「ほう」

51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 08:51:13.09 ID:rQMZrSXpo
ほほう

52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 10:54:05.46 ID:k3+PezbMO
男「こんな真冬の、こんな丑三つ時の、こんな墓地」
男「あんたには失礼な表現になるが、よっぽど頭のおかしいやつしかそんな時分に訪れない」
女「言葉が跳ね返ってますよ」
男「丑の刻参りは人に儀式をしている姿を決して見られてはいけない」
男「だからあんたはわざわざこの時間を選んでやってきたんだ」

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 10:57:55.82 ID:k3+PezbMO
女「…………」
女「死んでしまえばいいっと思ってた人がいたんです」
男「やっぱり…!」
女「その者の身体を確かに消滅させることはできました」
女「けれど、魂だけはどうも消滅しきらないようです」
女「毎晩、毎晩、ここに通いつめても、しぶとくこの世に縋り付いているんです」

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 11:05:20.76 ID:k3+PezbMO
男「な、何を言ってるんだ」
女「丑の刻参りは、その姿を誰かに見られたら呪いが自分自身に跳ね返ると言われています」
コツ…コツ…
男「ちょ、まって、ストップ!!」
女「そして、丑の刻参りを目撃した人はすぐさま逃げなければならないと言われています。何故だかわかりますか?」
男「ちょっと止まれ!!尿!!尿かけるぞおらぁああああ!!!」
女「目撃者を殺せば跳ね返りがなくなるからです」

55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 11:15:58.67 ID:k3+PezbMO
男「俺は見てない!!本当だ!!信じてくれ!!」
女「知られてしまえば同じことです」
女「もう底無しの精神状態だって以前言ってましたよね」
女「本当に底無しかどうか、試してみましょうか」
グググ……
男「ぐお……」
女「ふふふふっ」

58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/19(月) 21:54:50.10 ID:q2fBBWjMO
「さむしろに 衣かたしき 今宵もや われを待つらむ 宇治の橋姫」
昔から橋は"この世とあの世を繋ぐ場所"だと考えられていた。
嫉妬に狂い丑の刻参りを果たした宇治の橋姫の逸話により、宇治橋に縁切りの風習が生まれたのは皮肉なことであろう。
死を象徴する墓地において、生の価値をあの子に教えてもらったことも、また皮肉なことなのだろう。
この世とあの世を繋ぐ橋。
自分とあの子を繋ぐ墓。
もしも。
あの子の呪いの対象を、見抜く知恵と勇気があったなら。
次回「罰当たりですよ!こんなところで!んっ……でも、見かけによらずに……ああっ…」
どんなに寒くても、暗くても、怖くても、今日も君のいる墓地に向かうよ。