Part14
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 15:20:33.19 ID:
G7ejXtln0
女「幸せな夜です」
男「そうだな」
女「いろんなはなしをしましょう」
男「小難しい話でもいいの?」
女「下ネタでもいいですよ」
男「下ネタでもいいの?」
女「ちゃんと嫌がった後たたきますけどね」
男「叩いた方もいつも痛そうだけどな」
女「へへっ。硬いんですもん」
男「小難しい話だけどさ」
男「先生からも定義の話は考えても不毛だって聞いたけどさ」
男「幸せとは何か、って最近よく考えてるよ」
男「全然わからなくてさ」
男「女はなんだと思う?」
女「あなたと一緒にいられることですよ」
女「あれ、こういうのは定義とはいわないんでしたっけ。あははっ……」
女「ちょ、ちょっと男さん」
男「…………」
女「今度は先生じゃなくて、男さん自身の手ですね」
女「やっぱり、安心します」
267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 15:31:41.09 ID:
G7ejXtln0
12月31日 02:32
女「遅れましたよね。すみません」
男「丑三つ時終わったよ。幽霊なのに。遅刻」
女「まぁ今日は大晦日ですしのんびりしましょうよ」
男「まぁいつものんびりしてるけどな」
女「世間が騒ぎ出すのは22時間後のカウントダウンのときですね」
男「俺が世界で1番落ち込んでる時間だな」
女「楽しくやってくださいよ。都内のカウントダウンイベントに行って、警察官に飛び込むくらいじゃないと」
男「そうだな。俺も生まれ変わるか」
女「そうですよ。生まれ変わるという行為は生きてる間にこそ繰り返すべきなんですもの」
男「お昼になったら紫色のモヒカンだな」
女「ええー、見たかったです」
男「今は美容院開いて無いからな。残念」
女「くそぅ」
268 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 15:37:16.36 ID:
G7ejXtln0
女「あっという間でしたね」
男「あっという間だったな」
女「カラオケも、ボーリングも、ファミレスもいくことができましたね。そして本物の卓球も。やっぱり強かったんですね」
男「人にぶつからないかドキドキしてたけどな」
女「いっそのこと人をめちゃめちゃにすり抜けて混乱させて、男さんを困らせようか迷いました」
男「まじかい」
女「男さんに迷惑をかけたかったけど、男さんがいたので思いとどまりました」
男「乙女心は複雑だな」
女「どの時間も楽しかったけれど。こうして、出会ったお墓にいる時間が1番落ち着きます」
269 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 15:40:57.25 ID:
G7ejXtln0
女「花の墓にいきましょう」
男「あの草原のとこか」
女「今夜は曇り気味ですね」
男「そうだな。でもそんなに暗くない」
女「男さん。これからは、ちゃんと昼の時間を大切にしてくださいね」
男「普通に大切にしてるよ」
女「この時間に私に付き合っていたのは大変だったでしょう」
男「今まで夜も昼もなかった人生だったから。昼に意味が生まれたのも女のおかげだよ」
女「そういってくれると嬉しいです。着きました」
270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 15:45:07.13 ID:
G7ejXtln0
女「先生の選んだお花、まだ綺麗なままですね」
女「私の好きな色、どれだかわかります?」
男「赤」
女「正解です」
女「私の好きな人知ってます?」
男「…………」
女「顔が赤いですね。正解です」
男「俺の好きな人知ってる?」
女「私」
男「正解」
女「んふふ」
女「ねぇ、男さん」
女「忘れろなんて言われても、できないことはわかってますけど」
女「昼に好きな人を見つけて、その人としあわせになってくださいね」
271 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 15:49:02.49 ID:
G7ejXtln0
女「私がいなくなってからも、丑三つ時の私のお墓にすがりついて、わんわん泣いたりしないでくださいね」
男「泣くけど、ちゃんと昼に訪れるよ」
女「まぁ、それなら、私も安心です。私のせいで昼間はちゃんと生きている男さんの人生を台無しにしてたら申し訳ないですもん」
男「夜は死んでるみたいな言い方だな」
女「男さんは夜も生きてます。今だって」
男「女だって、俺といる時は生者なんだろ。ちゃんと触れられる」
女「さぁ、どうでしょう」
男「どうしたんだ、花を地面に並べて」
女「よいしょっと。おやすみなさい」ゴロン
男「寝るのか」
女「寝られませんよ。幽霊ですもの」
女「男さん。こうやってお花に囲まれて目をつむっていると、やっぱり死んでるみたいに見えません?」
男「…………」
男「もったいないな。せっかく今夜は月が綺麗なのに、目をつむってたら見れないぞ」
女「あれ、今夜は曇りでは……」
女「あの、男さん?」
女「か、顔が近いですよ?」
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 15:55:56.52 ID:
G7ejXtln0
女「あの、えーと……」
男「してもいい?」
女「私は……」
女「……はい」
男「…………」
女「…………」
女「透けてしまいましたね」
男「手は触れられるのに」
女「厳しい制限ですね。生殖行為に含まれる、ということなんでしょうか」
男「じゃあおっぱいも触れないのかな」
女「気になります?」
男「……まずはキスができるようになってから」
女「段階に律儀ですね」
男「まぁ頭は撫でるけどな」ワシャワシャ
女「うふっ、くすぐったい」
273 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 16:04:36.07 ID:
G7ejXtln0
男「もう4時10分か」
女「昨日よりも遅くいられてますね」
男「また急に消えちゃうのかな」
女「そうなってもいいように話すべきことは話し尽くしました」
男「まだ話していたいよ」
女「私もですよ」
男「…………」
女「…………」
男「前に話した菊の花の話の続きなんだけどさ」
男「菊の名前は『窮(キワ)まる』が語源だって言われててさ」
男「一年の最後に咲く花、という意味があるらしい」
女「ちょうど今日ですね」
男「そう。今日は菊の花の日」
女「いいですね。世の中は大晦日。私たちは、菊の花の日」
274 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 16:14:55.20 ID:
G7ejXtln0
女「それじゃあ私もこの間の話の続きを1つ」
女「私には感覚として、この世への未練が断ち切れたらこの世から成仏できるというのはわかっていました」
女「仮に未練があったとしても、今日が期限の日ということも」
女「先生への謝罪を済ませられた私が、どうして今日まで生き延びているのか」
女「何故だと思います?」
男「…………」
男「好きな人ができたから」
女「この世に未練たらたらの、乙女心を読み取ってくれてありがとうございます」
女「何もかも成し遂げて、悔いの1つも残さずに死ぬことができたら満足なんでしょうけど」
女「この世を見限って何の執着もなくなくなるよりは、未練の1つでもあったまま消えたほうがよほど恵まれているんだなって今は思います」
女「この世に希望が残ってよかった」
女「幸せになってくださいね。ちゃんと、新しく好きな人を見つけてくださいね」
男「……できないってば」
女「叩いてでも応援してあげますからね!」
男「ちょ、たんまっ!」
男「…………」
男「女?」
男「なぁ、女?」
男「おい。女。返事しろよ」
男「こんなの、あんまりだよ。生きてる俺のほうが、この世に未練たらたらになっちゃうよ……」ポロポロ…
男「……女ぁあああああ!!!!!!」
275 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 16:20:35.80 ID:
G7ejXtln0
男「泣き疲れたよ。もう朝日がのぼってるし」
男「今日も世界は無い事もなく一日が始まるんだろうな」
男「チェーン、またかかってないし」
男「……ただいま」
母「おかえりなさい」
男「うわっ、起きてたの」
男「あれ、いつもおはようって……」
母「また出かけてたんでしょ」
男「お母さん、もしかして」
母「起きてたわよ。毎日。あんたが帰ってくるまで」
男「うそ……いつもちょっとしたことで怒るくせに……」
母「勉強大変だろうけどさ。自殺だけはしないでね」
母「母さん生まれてきたことを後悔することになるから。あんまり自分を追い込まないでね」
男「死ないよ。絶対しない。そんなんじゃないって」
母「今朝ごはんつくるからね」
男「うーん、いいや。ちょっと寝てくる」
母「そう。おやすみなさい」
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 16:24:59.23 ID:
G7ejXtln0
男「考えることがいっぱいなのに、凄く眠いし、やっぱり生きてるのってやんなっちゃうな」
男「本当にもう女は現れないのかな」
男「今晩とか、そうでなくてもまた来年の冬とか」
男「もう一度、会いたいよ」
男「…………」
男「携帯電話の動画、見てみようかな」
男「再生……」
男「…………」
男「おい、うそだろ」
男「女の姿が映ってない」
男「俺が一人でふざけてるみたいになってる」
男「そんな……」
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 16:31:56.59 ID:
G7ejXtln0
先生「あら、こんにちは」
男「こんにちは」
先生「見て。この子だけ、お花凄く豪華じゃない」
男「菊でこれだけ派手に見える墓標は他にないですね」
先生「幸せな数日間は過ごせた?」
男「幸せでした。これ以上ないくらいに」
先生「そう、よかったわね」
男「でも、だからこそ」
男「今、凄く死にたいんです……」ポロポロ…
男「女の存在が夢になっちゃったみたいで。動画からも消えてて。もう声も聞けないんだって……」
先生「そうなの…つらいわね…」
男「先生。こんなときに、思い浮かぶのって、聞き飽きたような言葉なんです」
男「こんな言葉、ずっと昔から不謹慎だろって思ってたんですけど」
男「俺、女の分まで生きます」
男「あの子が生きたかった分まで、生きます」
男「くっだらないですよ。本当。涙が、涙がとまらないですよ……」
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 16:45:28.79 ID:
G7ejXtln0
今夜も君のお墓参りに来た。
浪人して、一生懸命勉強して、大学生になった。
人生で1番しあわせだと言われている四年間でさえ大変なことはいっぱいだったけれど。
自分のことを応援してくれる人たちと少なからず出会えた。
やがて、少年漫画を読んでいた頃の自分では想像もしなかったような、まっとうで、しかし少し退屈な仕事をするようになった。
社会の一員として、当たり前のストレスを抱えている自分を見て、笑ってしまいそうになることがある。
丑三つ時のお墓を訪れていた頃の自分は、もう死んでしまったのかな、と。
自分を好きだと言ってくれる女性も、時々ではあるが現れた。高校時代はろくに女性と会話したことすらなかったというのに。
付き合って、楽しいな、幸せだなと感じた。
なのに、どういうわけか、心を開いてくれない、と相手の女性から悲しい目で言われてしまいいつも別れてしまうのだった。
原因については、あまりにもわかり過ぎていた。
美しい人は、やっぱりちゃんと、老いて死ななくちゃだめなのだ。
美しいまま標本のように死なれたら、脳裏にその姿が鮮明に焼き付いて、その日から時間がとまってしまう。
そのせいで、1年中、僕は、冬を生きてしまっている。
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 16:52:13.18 ID:
G7ejXtln0
男「……うぅうう」
男「真面目に、生きてきたんだよ。女がびっくりするくらいに、まっとうな昼を生きてきたんだよ」
男「なのに、心が救われないのはどうしてなんだよ」
男「君と別れた日から、夜は眠る時間になった」
男「昼間をちゃんと生きてきた。人に話しかけ、話しかけられたら受け容れて、人の痛みを想像して、見返りを求めずに背中を押すような人間になった」
男「なのに、なのに……」
男「たとえ世界が滅んでもいいから、君といたいって今でも思ってしまうんだ」
男「君のことが今でも好きなんだ……」
男「見てくれよぉ……うぁあああんん……」
「まったく、こんな真冬の、こんな真夜中の、こんな場所でなにやってるんですか」
「あっ、もしかして」
「人様のお墓に立ちションですか?」
〜fin〜
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 16:57:18.01 ID:
G7ejXtln0
ご支援ありがとうございました。
コメントがとてもモチベーションになりました。
これで話はおしまいです。
誤字が多かったのが申し訳ないです。
また時間ができたら違うお話を書くつもりです。
読んでくださって本当にありがとうございました。
今日ははやめにおやすみなさい。
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 17:57:07.54 ID:UAwPSZw1O
久々にいいSSを読んだ
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 17:58:02.86 ID:0kAA6IaW0
よかった
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 18:25:42.14 ID:6HxtM0aj0
久しぶりの良作
286 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 18:56:05.53 ID:mYbaqndno
新年早々なかなかの良作だった
また書いてくれよな
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 21:22:43.71 ID:QVWHAqKF0
とても泣いた、良い話だったよ。またお願いします。