Part10
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 17:07:08.18 ID:
js092Jse0
男「ついに玄関まで来たな」
女「物凄く逃げ出したいです」
男「チャイムは俺が押すから、女はこれを持って、ドアスコープの前に立って」
女「本当に大丈夫なんですか?」
男「駄目ならまた明日伺えばいい。あと5日間位あるだろ。うらめしや〜って言いながら毎晩立てば出てきてくれるさ」
女「恨まれてるの私ですけどね。塩なげつけられたら物理的に痛いので効き目ありそうです」
男「だからこそこの親父から借りてきた現代的なアイテムだよ。顔も光るし、幽霊っぽくないし」
女「青白くひかって不気味じゃないですかね?」
男「ものは試しだ。じゃあ、押すぞ!!」
女「ちょ、ちょっと待って!!」
男「カウントダウン!5・4・3・2・1!!」
男「おりゃ!!」
ピンポーン
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 17:30:18.86 ID:
js092Jse0
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
女「も、もうその辺にしておいたほうが…」
男「しっ、物音が聞こえた」
男「…………」
男「多分インターホンでくるぞ」
女「は、はい」
先生『…………どちら様ですか?』
女「!!」
女「ちゅ、中学生の時に先生の受け持つクラスの生徒だったものです。都合上どうしてもこの時間にいきなりお邪魔することしかできず申し訳ございません」
女「大事な話があるんです。決していたづらではありません。」
女「先生の握力が女子中学生の平均を下回っていることも、給食のあげぱんじゃんけんに参加して他の教員から怒られたことも知っています」
女「秋の星座に詳しいことも、生徒が吹いたリコーダーの音階をあてた現場にも居合わせたこともあります」
女「要求があれば、そちらの指示に従います。ただ、今から二時間未満しかここにはいられません」
女「ど、どうにかお話できないでしょうか?」
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 17:31:36.95 ID:zwySKnSEo
支援
すごくどうでもいいけどたった今さんまがテレビで自分のことをミスター不謹慎いっててワロタ
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 17:44:09.07 ID:
js092Jse0
女「あの……」
先生『インターホン越しには話せない内容なの?』
女「直接でなければ意味が無いんです」
先生『こんな時間に女の子一人で来たの?』
女「男子高校生が一人います」
先生『何やってるのよ。こんな時間に』
先生『あのね、あと4時間後には出勤なの』
女「でしたら30日金曜日の深夜か31日土曜日の深夜は空いておりますか?」
先生『29日に仕事が終わって、実家に帰省するから駄目よ』
先生『あのさ、自分がどれだけ非常識なこと言ってるかわかってる?』
女「先生……」
女「先生、なんだか、変わってしまいました……」
先生『…………』
先生『あなた達が変えたんでしょ』
女「そのことを謝りに来たんです」
先生『…………』
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 17:50:59.82 ID:
js092Jse0
女「…………」
女「先生?」
男「返事がないね。ノイズはまだ聞こえるのに」
女「あの、先生、聞こえてますか?」
先生「聞こえてるわよ」ガチャ
女「うわっ!」
先生「なによそれ。やっぱりふざけてるんじゃない。今流行の動画投稿とかだったら本気で許さないわよ」
男「いや、ただのノートパソコンです。開いてるのはパワーポイントの画面と自己紹介文です」
先生「穴越しに見たわよ。そのふざけた自己紹介文」
先生「なんて不謹慎なの。ねぇ、あなた、一体……」
先生「うそ…そんな、まさか……」
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 18:04:20.25 ID:
js092Jse0
女「結論から言います」
女「私、幽霊です」
先生「っ!?」
女「ノートパソコンは持てますし、この男も触れます」
男「いてっ!」
女「だけどそれ以外の人間には触れることができません」
女「私が私であることを証明するには先生が私に触れようとするしかありません」
女「チェーンを外して出てきてくれませんか?」
先生「……指示には従うんじゃなかったかしら」
女「はい、従います」
先生「指だけドアに差し込んでくれる?私が好きなタイミングで触るから」
女「わかりました」
女「…………」ゴクリ…
先生「引っ込めないでね」トン
女「わっ」
先生「あら。これは…」
先生「本当にこんなことが。ありえない。ありえないわ」
先生「…………」
先生「あなた、本当に」
女「はい。女です」
先生「私が理科の授業を初めにする時に言ったこと覚えてる?あなただけが吹き出して恥ずかしそうにしていたこと」
女「理科の授業では、おばけを否定するところからはじめたいと思います」
先生「……どうやら私が間違っていたみたいね」
女「先生はいつだって正しかったんです。私が間違った存在なだけで」
203 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 18:08:56.49 ID:
js092Jse0
すいません。しばらく外出してきます。
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/02(月) 19:13:39.10 ID:6dkYI/h3o
まってる
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/03(火) 14:00:35.45 ID:
6/ci53PP0
先生「そこにいるあなたも私の教え子かしら?彼女とはどういう関係?」
女「えーと、それは…」
男「いいえ。高校で先輩後輩の関係です。彼女も僕も卓球部の幽霊部員です」
女「あれ、男さん…」
先生「そうよね。私、教え子の顔くらい全員覚えているもの。いじわるな質問してごめんなさいね」
先生「どうしましょうかしら。近くに深夜もやってるファミレスがあるからそこで話す?」
男「そこで話せる内容か?」
女「そうですね…話す場を与えてくれるだけでありがたいことですので」
先生「わかったわ。じゃあ……あら」
男「雨が降ってきましたね」
先生「困ったわね。私、今手元に傘2本しかないの」
先生「お二人、相合傘でもしていく?」
男「かまいません!!」女「濡れていきます!!」
男「はぁー!?」女「えぇー!?」
男「過度な照れ隠しは相手を傷つけるぞ!」
女「だって照れますよ!!」
男「えっ」
先生「ちょっと声静かにしなさい!わかったわよ。私の部屋に入りなさい。あまり大声で喋っちゃ駄目よ」
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/03(火) 14:09:57.29 ID:
6/ci53PP0
先生「どうぞ、いらっしゃい。今明かりつけるから」パチッ
男「わあ。お綺麗ですね」
女「ちょっと、何いきなりデレデレしてるんですか」
男「えっ、部屋すごい片付いてない?」
女「あ、た、たしかにそうですね…」
先生「二人とも付き合ってるの?」
男「最近失恋したばかりです」
先生「まぁ、そうなの」
女「私に告白したわけじゃないですよ!」
先生「残念ね」
女「べ、別に!」
先生「彼に言ったのよ?」
男「はい。ショックでした」
先生「ですって」
女「もう、調子狂うなぁ…」
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/03(火) 14:19:54.94 ID:
6/ci53PP0
先生「二時間しか時間取れないのよね?」
男「この子は朝方になったら消滅します。前回は4時18分でした」
先生「すごいわね。あなたが消える所、動画で撮っておいてもいいかしら?」
女「先生がそれまでに部屋から追い出さなければ」
男「おい、女」
先生「それはあなた次第じゃないかしら」
先生「でも私があなたを押し出そうとしても直接は触れられないのよね」
先生「地面には立っているし、ものには触れられるのよね。フライパンで叩いても駄目かしら?」
女「試しにやってみたらどうですか」
先生「久々に理科の実験でもしましょうか。科学とはほど遠い内容だけど。ちょっと取りにいってくるわね」
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/03(火) 14:28:25.58 ID:
6/ci53PP0
男「ちょっと!!いくらなんでも!女もいいのかよ!」
女「いいですよ。どうせ触れられないですし」
男「そういう問題じゃ」
先生「おまたせ。じゃあ、手を差し出して」
女「頭でもいいですよ」
先生「確信が持てないから実験するんでしょ」
女「その割にはフライパンっていうのはヘビーですね」
先生「じゃあ、叩くわよ」
女「はい」
先生「よいしょ!」
スカッ…
先生「擦り抜けたわ!」
女「生者との触れ合いにカウントされたのでしょう」
先生「輪ゴムを飛ばすのはどうかしら。手から離れるし」
女「それはどうなるんでしょう。飛ばしてみて下さい」
先生「……よし。行くわよ。えい!」
パチン!
女「いたっ!」
先生「あはは。ごめんごめん。これは当たるのね」
女「おでこにあてなくても…」
先生「撫でてあげようか?」
女「できないでしょうからいいです」
先生「あなたがフライパンで叩いたらぶつかるのよね」
男「そうですね」
先生「私がこの子の手とフライパンを重ねてる時に、あなたが掴んだらどうなるの?」
女「…………」ゾワッ
男「…………」ゾワッ
先生「やめときましょうか」
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/03(火) 14:39:27.24 ID:
6/ci53PP0
先生「面白いもの見せてもらったわ。お茶持ってくるから待ってて頂戴」
男「あの、お構いなく」
女「私も大丈夫ですので」
先生「確かにカフェインも入っているしね。喉が乾いたら言ってね」
女「飲み物も死んでからずっと飲んでいないんです」
先生「それも驚きね。のど乾かないの?」
女「うーん、普段呼吸してること意識しないじゃないですか。そんな感じです」
先生「呼吸はしてるのよね?」
女「…………」
女「あれ、これ、してるって言うのかな……」
先生「えっ、なになに、どんな感じなの?」
女「多分してると思うんですけど……」
先生「気になる気になる。どんな感じなの?」
女「例えるなら、足を動かす時に電気信号なんか意識してないと思うんですけど、今の場合……」
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/03(火) 14:52:06.17 ID:
6/ci53PP0
先生「へぇー!そうなの!」
先生「水飲むとどうなるの?」
女「試したことないですね」
先生「さぁさ、お茶持ってくるからちょっと待ってて!」タッタッタ…
女「さっきいらないって言ったのに」
男「おい、女いいのかよ。マッドサイエンティストに人体実験の材料にされちまってるぞ」
女「昔からこういうところがあるんです。私は、先生のそういう無邪気な好奇心が好きでしたから」
男「死者で実験なんて禁忌だぞ。下手したら俺以上に不謹慎なことやってるぞ」
女「ふふっ、そうかもしれませんね。心配してくれてありがとうございます。でも、私は今日中にちゃんと謝れればいいですから。それと、お花を供えてくれた理由も聞ければ」
男「まったく、綺麗で賢いのかもしれないけど、女を使って実験なんて……」
先生「おまたせ!お茶碗置くわね。ちょっと飲んでみてちょうだい」
女「はい。わかりました」
女「いただきます」ソォ…
ビチャビチャビチャ!!
女「すいません!床にこぼしてしまったみたいで…」
男「すり抜けた!!」先生「すり抜けたわね」
先生「今の見てどう思った?」
男「そりゃ、まあ」
男「エロい!」
先生「そうよね!」
女「えっ…」
男「炭酸のレモンジュースとかないですか!?」
先生「ああー、きらしてるわ!コンビニちょっと遠いのよねぇ」
男「買ってきましょうか!?」
先生「あー、だったら、トマトジュースがあるんだけど」
男「それはそれは!!それは!!それはそれは!!」
女「絶対やりませんからね!」
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/03(火) 15:04:41.12 ID:
6/ci53PP0
先生「はぁー、わらった」
女「笑い事じゃないですよ」
男「はぁー、興奮した」
女「…………」
先生「失礼失礼」
女「もう」
先生「ねぇ、女ちゃん」
女「はい」
先生「久しぶり」
女「お久しぶりです」
先生「元気はしてなかったかな」
女「元気ではなかったですね。でも、最近は元気かもしれないです」
先生「死んでからの方が生気があるなんてね」
女「先生は、あの、どうでしたか」
先生「そうねぇ」
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/03(火) 15:11:38.28 ID:
6/ci53PP0
先生「今はなんともないかな。同世代の女性が抱えている一般的なストレスを抱えているだけ」
先生「あなたが私に過度な要求をし続けて、私がそれを断り続けて、そのことであなたが私に関わる悪評を流してたあの頃よりはずっとマシ」
女「…………」
男「…………」
先生「話したいことがあるんでしょう。遮らないで聞いてあげるから、全部話しなさい」
213 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/03(火) 17:00:27.69 ID:
6/ci53PP0
女「先生」
女「先生は、私の憧れでした。先生のありとあらゆるところ、長所も短所も、全てが輝いて見えました」
女「顔立ちが整っているところ。いつも明るくて笑顔なところ。難解な事柄でも、ユーモアを交えながら生徒が笑ってる間に理解させる能力」
女「自分の欠点を受容しているところ。時々おっちょこちょいなところとか、極度に運動が苦手なところを、認めつつも一生懸命やるところ」
女「その能力も性格も誇示するようなこともなく、どんな生徒からも親しまれていました。活発な男の子からも、仕切りたがりの女の子からも、無口な男の子からも、ひねくれている女の子からでさえ」
女「遥か格上の先生に対して、周囲の人はこう思っていたと思います。『なぜだかわからないけれど、この人を応援したい』」
女「みんながみんな、先生という存在を認めていたんです。人を認めるという難しい行為を、周囲に行わせる魅力が先生にはありました」
女「ただ、私は少しベクトルが違っていたと思います」
女「周囲の人が先生に対して抱く気持ちが"認める"あるいは"私の長所を見て欲しい"という気持ちであったとするならば」
女「私が先生に対して抱く気持ちは"認められたい"あるいは"私の短所も受け容れて欲しい"という気持ちであったと思います」
女「私から家庭という居場所がなくなった時に、先生は救いの存在でした」
女「放課後の時間を割いて、先生が二人きりで話してくれたこと」
女「先生からも先生の悩みを聞いた時は、親友のような気持ちがしました。私のしつこいお願いに折れて休日に二人でお出かけをしてくれた時は、姉のように思いました」
女「私の家庭の事情を知ってからかって来た人から守ってくれたときは、少女漫画に現れるような、王子様のようなかっこよさすら感じました」
女「私はこの人から絶対的な愛が欲しいと思いました。いや、むしろその時既に、先生も私を愛してくれているはずだと思っていました」
女「この人は私の要求を何でも受け入れてくれるはずだ。たとえ世界を敵に回しても、私の味方でいてくれるはずだ」
女「そう思ってお願いしたんです。『私のお母さんになってくれませんか』と。先生を亡くなった母親に重ねながら」