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狩人「スライムの巣に落ちた時の話」
Part9


196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:15:00.39 ID:VhB1aNzu0
「もう、何よ、森以外で暮らすのが怖い?」
「大丈夫よ、だって……」
「私が一緒にいてあげるんだから」
「そうと決まれば、準備をしないとね」
「私の誕生日なんて、すぐに来ちゃうんだから」
「ほら、笑ってないで、アンタも考えるのよ」
「2人の事なんだからさ」
「ね」
≪これは驚きました、世代交代したのですか≫
≪道理で私の魔力感知に引っかからないはずです≫
≪しかも、増殖しただけでなく、ヒトの形を模している≫
≪素晴らしい結果です!ああ、解体したい!調べたい!≫
ああ、もう。
うるさいなあ。
いま、とても。
よいゆめを。
みているのに。

197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:15:52.58 ID:VhB1aNzu0
         「私以外とはあんまり喋らないし」
「アンタって狩人の癖にボーっとしてて」
      「ねえ、聞こえてるの?返事くらいしたら?」
                 「アンタ、どうして寝込んでるの?」
  「はい、水を持ってきてあげたわよ」
          「私が一緒に」
  「うぷぷぷぷ」
                  「笑わないし」
       「ちょっと水鳥を」
                    「18歳の」
     「だからね」
                 「お母さん」
           「自由に」
      「お母さん」
ああ、この夢が。
ずっと、続けば。
      「お母さん」

198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:17:01.47 ID:VhB1aNzu0
「お母さん、聞こえますか」
「大丈夫です、大丈夫ですよ、お母さん」
あれ。
このこえは。
クロの。
≪強制制御術式も解除されていますか≫
≪ええ、いいでしょう、では力づくで≫
ああ、ほんとうに。
うるさい。
なあ。

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:17:37.46 ID:VhB1aNzu0
「聞く必要はありません、お母さん、私だけを」
「私だけを見ていてください」
「私の声だけを聞いてください」
「間に合いました、間に合ったんです」
「ミドリが、お母さんの声を聞いてたんです」
「不測の事態だと言うのは即座に判りましたから」
「その段階で私達は洞窟から出ました」
「だから」
「ああ、良かった、間に合った」
「命の火が消えてしまったら、幾ら私達でも蘇生させる事は出来なかった」
「けど」
「けど、間に合ったんです」
「私達の、私達の大本である純白のスライムの能力は」
「再生です」
「私達の力を合わせれば、物理的な傷なんて、忽ち再生させる事が出来るんです」
「ほら、見てください、もう手も首もお腹も再生されています」
「だから、大丈夫です」
「あとは、あとは再生しつつある身体に脳が同調すれば」
「多少身体に障害は出るかもしれませんが」
「生き残れるんです」

200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:18:08.87 ID:VhB1aNzu0
「ですから」
「楽しい事を考えてください」
「同調する前に脳が死んでしまわないように」
「生き続ける事を考えてください」
「そうすれば」
楽しい。
ことを。
生きつづける。
ことを。
「……身体のうごきがにぶくなっら、もう狩りはできないかな」
「平気ですよ、もう狩人なんてやらなくてもいいです」
「私が」
「私達が、養ってあげますから」
「だから、私達のお母さんでいてください」

201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:18:54.55 ID:VhB1aNzu0
私の頭の中に、素晴らしい光景が広がる。
深い森の中。
アオとアカが狩りをしている。
アオは予想通り、狩りが上手だ。
けど、アカは上手く獲物を捕る事が出来ない。
ミドリは相変わらずマイペースで。
遠巻きに座って歌を歌っている。
その声で、獲物が逃げてしまい、アオとアカが怒っている。
私のそばには、クロが座っていて。
何かと私の世話を焼いてくれる。
狩人でなくった私。
そう、そうんな未来が。
あっても、いいのかもしれないね。
ふと、足元に花が生えているのを見つけた。
綺麗な花だ。
そうだ。
彼女に持って帰ってあげよう。

202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:19:42.45 ID:VhB1aNzu0
私は、村へ向かい。
彼女を探した。
けど、見つからない。
村中探したけど、見つからない。
見つからない。
何処にも居ない。
ああ。
そうだ。
そうなんだ。
もう。
彼女は絶対に見つからない。
生き返っても。
その世界に、彼女はいないのだ。
私が手に持っていた花は、何時の間にかなくなってしまっていた。

203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:20:22.44 ID:VhB1aNzu0
目から雫が流れる。
涙が止まらない。
胸が締め付けられる。
立っていられない。
ああ、そうか。
私はもう。
狩人じゃないんだ。
だから。
だから、誰かが死ぬのが。
こんなにも、悲しい。
悲しい。
苦しい。
いやだ。
いやだよ。
しんじゃいやだ。
いやだ。
ほんとうは。
だれにもしんでほしくなかった。
すごくかなしかったんだ。
すごくくるしかったんだ。
おかあさん。
おとうさん。
そして彼女。
あいたい。
あいたいよ、もういちど。
ああ、だめだ。
こんなことには。
たえられない。
わたしには、たえられないんだ。
たえることなんて、できるはずがないんだ。
狩人でない私は。
ただの弱いヒトなのだから。

204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:21:06.55 ID:VhB1aNzu0
素敵な光景が、消えて行く。
森も。
空も。
地面も。
落ちて行く。
私は。
暗闇の中に。
落ちて行く。
クロ達の声を聞いた気がした。
それを最後に、私の意識は暗闇に包まれた。

205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:21:37.23 ID:VhB1aNzu0
クロ「お母さん……駄目です!お母さん!」
クロ「意識をしっかり持ってください、お母さん!」
ミドリ「……」
アオ「クロ……母さまは?」
アカ「……ママ、いなくなっちゃったの?」
クロ「……いいえ、そんな事はありません」
クロ「お母さんが、お母さんが私達を置いていなくなるはずがありません」
クロ「身体は、身体はちゃんと治ったんです、あとは脳を活性化すれば」

206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:22:29.94 ID:VhB1aNzu0
クロ「……そうです、やっぱり、やっぱり洞窟から出るべきじゃなかったんです」
クロ「そうすれば、こんな事にはならなかった」
クロ「……戻りましょう、お母さん」
クロ「そ、そうすれば、お母さんだって、きっと」
クロ「きっと、目が覚めてくれるはずです」
クロ「アカ、お母さんの身体を温めてあげてください」
クロ「あの洞窟の温度は、お母さんの身体に悪い」
クロ「アオ、お母さんが何時目覚めても言いように、新鮮な魚を用意してください」
クロ「ミドリは、お母さんが好きだったあの音楽を」
クロ「お母さんは、お母さんは」
クロ「今は、ただ、疲れて眠ってるだけなんです」
クロ「私が保証します」
クロ「種族の最先端である、この私が」
クロ「何時か、お母さんが目覚めると」
クロ「……さあ、早く戻りましょう、私達の理想郷へ」
クロ「ああ、それと」
クロ「帰る前に、少し狩りをしまいましょうか」
クロ「上手く狩れれば、お母さんが喜んでくれるかもしれませんし」

207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:23:22.47 ID:VhB1aNzu0
スライム達が狩人の死体に集まっている間に、私は準備をしていた。
村の周囲をキマイラ達で包囲させたのだ。
逃がさない。
絶対に逃がさない。
スライム達が世代交代、いや「進化」していた事は予想外だった。
とても喜ばしい事だ。
あのスライム達を解析すれば、私の合成生物達を更に強化する事が出来るだろう。
スライム達の戦闘能力は不明だが、こちらには切り札がある。
「竜とケモノのキマイラ」よりも、更に戦闘力が高い合成生物。
「悪魔と人間のキマイラ」を温存しているのだ。
今はまだ覚醒させていないので只の小娘だが。
私が術式を解放すれば真価を発揮できる。
文字通り、悪魔のような力を発揮するだろう。
私が配置したキマイラは38体。
それは小さな国であれば蹂躙出来る程度の戦力。

208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:24:23.19 ID:VhB1aNzu0
戦闘開始後。
2秒後には、竜獣のキマイラが超振動によって砕け散り。
8秒後には、13体のキマイラが熱に焼かれて死滅し。
13秒後には、9体のキマイラが凍結四散し。
17秒後には、14体のキマイラが発狂し岩や木に頭を叩きつけ自害した。
切り札であったキマイラに至っては。
黒いスライムの精神浸食に怖じ気づき、私の制止を振り切り。
あっさりと逃げ出してしまった。
その段階で、私は脚部に埋め込んだケモノの因子を活性化させ、高速で村を離脱。
スライム達の攻撃を幾つか受けたが、何とか森へ逃げむ事に成功した。

209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:25:06.01 ID:VhB1aNzu0
痛い、痛い、痛い
右足が痛い
今すぐ蹲ってしまいたくなるほど、痛い
きっと傷口は大きく、骨にまで達しているのだろう
ああ、けど止まる訳にはいかない
止まったら追いつかれてしまう
どうして
どうしてこんな事になったのだろう
様々な感情が頭をよぎるが、それでも
それでも、私は足を動かし続ける
森の中を走り続ける

210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:25:57.66 ID:VhB1aNzu0
私は、自らが作り上げた合成生物の因子を身体に取り込んでいる。
皮膚を硬化出来るし、四肢の性能を一時的に上げる事が出来る。
再生能力すらあるのだ。
そんな私が、こんな所で死ぬはずがない。
そう、そうだ、思い出せ。
確か随分前に、共和国軍に蝙蝠と人間のキマイラを納品した事がある。
あの時の因子が、私の身体の中にも残っていたはずだ。
あんな大きな因子を活性化させると、ヒトの形に戻れなくなる可能性もあるが。
そんな事はこの際どうでもいい。
今は、ここから逃げのびて。
私の知識を残す事を最優先にしないと。
私が死ねば、私が積み上げてきた知識が全て無くなってしまうじゃないですか!