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狩人「スライムの巣に落ちた時の話」
Part7


149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:06:03.34 ID:io/ozYfw0
狩人「クロ?」
クロ「……」
狩人「……外を怖がるのは理解できるよ」
狩人「けどね、私はずっとそこで生きてきたんだ」
狩人「それを捨てるなんて、簡単には出来ない」
狩人「私は外に戻るよ」
クロ「……」
狩人「だから、出来れば、クロ達にもついてきて欲しい」
クロ「……」
狩人「もし怖い眼にあっても、大丈夫だよ、だって……」
「森以外で暮すのが怖い?」
「大丈夫よ、だって……」
狩人「……だって、私が一緒にいてあげるから」

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:06:29.73 ID:io/ozYfw0
クロ「……」ブツブツ
狩人「クロ?」
クロ「……」ブツブツ
狩人「おーい?」
クロ「……」ブツブツ
狩人「何か呟いて……?」
「愛してるって言ってくれましたお母さんがお母さんがお母さんが私の事を」
「愛してるってお母さんが愛してるって愛を与えてくれるってそもそも愛って」
「愛って何でしょうかそれは全面的な肯定の言葉ですつまり私はお母さんに」
「全面的に肯定された私の行為が思想が身体が全て全てお母さんに受け入れられた」
「嬉しい嬉しい嬉しいです凄く満足で気持ちいいです私もお母さんが大好きです」
「だから」

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:07:05.35 ID:io/ozYfw0
クロ「そうです、お母さん、気持ちいい事をしましょう」
狩人「え?」
クロ「先日は有耶無耶になりましたが、お互いの愛情を確認しあえたのですから」
クロ「性的欲求を解消しあうのは当然のことです」
クロ「好きです、好きです、大好きです、私も愛してます、愛してます」
狩人「いや、私の愛情は家族に対するものだと思うんだけど」
クロ「いいじゃないですか!家族で性的な事をしても!」
狩人「クロだけ何か反応が違う……」
その日、高ぶるクロに襲われかけたけど。
アオとアカとミドリが助けてくれた。
ああ、家族同士助け合うのって、いいなあ。

152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:17:57.39 ID:io/ozYfw0
〜85日目〜
あれから、私達は細かい話し合いをした。
私が外に出たいこと。
希望するスライム達を、連れて行ってあげたいこと。
アカやアオ、そして無言のミドリは私の意見を肯定してくれた。
クロだけは少し渋った。
クロ「ですから、外は恐ろしいものが一杯なのです」
クロ「その点、ここは本当に理想郷で……」
アオ「母さま、外に出たら弓の使い方教えてね」
アカ「……ゆみって?」
アオ「母さまが得意な道具だよ、きっと格好良いんだろうなあ」
アカ「……アカも、やってみたい」
狩人「うん、いいよ、アカにも教えてあげる」
アカ「……やった」
アオ「母さまと、私達3人でやる狩り、きっと楽しいよね」
クロ「……まちなさい、その三人というのは誰と誰と誰なんですか?」
アオ「え?ボクと、アカと、ミドリだけど」
クロ「な、何でそうなるんですか!私はどうなるのです!」
アオ「だってクロは理想郷に残るんだよね?」
クロ「ガボガボガボガボガボガボ……」
結局、最後はクロも折れてくれた。

153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:29:40.97 ID:io/ozYfw0
その後は早かった。
クロ達は即座に洞窟から離脱し、蔦を収集。
それを編み上げて簡易の吊り上げ具を作成。
洞窟の下と上から補佐を受けた私は、実にあっさりと。
洞窟から脱出することが出来た。
凡そ、85日ぶりに地上へ戻ることが出来たのだ。

154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:35:12.59 ID:PTQAhIzA0
いよいよ85日目か…

155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:40:18.42 ID:io/ozYfw0
狩人「やっぱり、洞窟の中とは空気が違うね、湿度も軽いし」
アオ「母さま、この後どうするの?」
狩人「そうだね……まず、村に行こうと思うんだけど」
狩人「……いきなり皆で村に押しかけると、凄い騒ぎになる気がするなあ」
クロ「まあ、そうでしょうね、村って言うのはヒトの住む所ですから」
ミドリ「……」コクコク
狩人「だから、まずは私だけで村に行こうと思う」
狩人「クロ達は、もう少し洞窟で待ってて」
アオ「ええー、ボクも行きたい……」
狩人「ちょっとの間だけだから、ね?」
アオ「……うん」
アカ「アカは、待てるよ」
狩人「そっか、アカは偉いね」ナデナデ
アカ「……えへへ」
狩人「じゃあ、そういう訳だから、私が村に言ってる間、皆の事をお願いね、クロ」
クロ「……」
狩人「クロ?」
クロは、私の手を掴むと、こう言った。

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:41:11.43 ID:io/ozYfw0
 
「本当に、戻ってきてくださいね」
「もし、戻ってこなかったら」
「多分、酷い事になると思いますから」
 

157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:50:40.50 ID:io/ozYfw0
洞窟を出て少し離れた所に、弓と矢筒が落ちていた。
弦は外れているが、特に損傷は無いようだ。
洞窟に落ちた時に瓦礫に潰されたのかと思ってたけど。
地上に取り残されてたんだね。
良かった。
この弓は、割と気に入ってたんだ。
弦を付け直し、指で弾いてみる。
ビンっと音がした。
久しぶりに聞く音だ。
とても、気持ちがいい。

158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:59:39.05 ID:io/ozYfw0
山を降りて、森に足を踏み入れる。
深い木々の匂い。
動物や虫の匂い。
湿度を孕んだ土の匂い。
緑色。
土色。
水色。
草の音。
川の音。
虫の声。
それらが、私の五感に染み渡ってくる。
ああ、帰ってきたんだ。
私は、ここに、故郷に。
心が躍る。
気持ちが高ぶる。
走り出したくなる。
そう、そうだ、ここは私の住処なのだ。
ずっと、そうだったのだ。
私は、ここで生まれて。
ここで、暮らして。
ここで……。
……。
……。
……いや、落ち着こう。
まずは、村に行かないと。
幼馴染が、待っているのだから。
私は、村へ向かう最短経路を走り始めた。
天候は晴れ。
昼頃には到着できるだろう。

159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 15:06:46.87 ID:io/ozYfw0
走り始めて10分後。
周囲に気配を感じた。
何者かが、私を追跡している。
ケモノかな。
数は……1、2、3、4。
4体。
集団で狩りをするケモノ、狼だろうか。
……いや、狼は吼える事で連携し、獲物を狩場まで誘導する。
私を追跡している連中は、まったく吼えていない。
それどころか、移動音すら殆ど立てていない。
にも関わらず、きっちりと連携して私を追跡してくる。
本当なら足を止めて観察したいけど、今は村へ急ぎたい。
だから……。

160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 15:48:50.04 ID:io/ozYfw0
そのまま速度を緩めず疾走する。
獲物たちも、離れずに追跡してくる。
獲物の姿は視認出来ない、つまり私の死角。
獲物の匂いは確認できない、つまり風下。
獲物の移動音は鈍い、つまり音が出にくい経路。
周辺地形は湿地に差し掛かる。
獲物が選択できる移動経路は極端に少なくなる。
ここであれば、どの場所に足を掛けて移動しているのか、容易に予想がつく。
一歩進む間に、私は四本の矢を放った。
二歩進む間に、その矢は獲物達が通ると予想される地点に、落下する。
三歩進む間に、獲物に矢が食い込んだ。
一匹目、命中。
二匹目、命中。
三匹目、命中。
四匹目……弾かれた?
硬い殻に覆われた動物だろうか。
その割には、他の三体はあっさりと倒れた。
複数の種族の動物が群れになっている?
まあ、例が無いわけじゃないけど。
……。
……。
……。
このままだと、村まで着いてきちゃうか。
よし、ここで仕留めよう。

161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 15:56:42.37 ID:io/ozYfw0
急制動。
それと同時に、矢を番う。
獲物も急停止したが、止まりきれなかったのか木々の死角から姿を現す。
それは、巨大な猪だった。
凄い、こんな身体で私を追跡してたのか。
いや、そんな事よりも気になる点がある。
「全身鉄に覆われた猪なんて、見たこと無いんだけど」
猪は、私の姿を確認すると、再び移動を開始した。
いや、それは移動ではなく「攻撃」だった。
凄まじい速度で、私に向けて突撃を掛けてくる。
仮に、猪を覆っている鉄が本物なのだとしたら。
その重量は凄まじいことになる。
そんな重量の突撃を受ければ、私は忽ち死んでしまうだろう。
何より、鉄には、矢が通らない。

162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 16:02:16.78 ID:io/ozYfw0
ここで復習をしよう。
ごく簡単な、職業の復習。
狩人は、対人戦闘では戦士に劣る。
集団戦闘では、騎士に劣る。
射程では狙撃手に劣る。
器用さでは盗賊に劣り、速度では無手の武闘家に劣る。
魔法使いのように火炎を起こすことも、僧侶のように人を癒すことも出来ない。
死霊術師のように、シビトを操ることは出来ない。
通訳者のように、多種族の言葉を操ることは出来ない。
では、狩人は、何に秀でているのか。
狩人は、ケモノを狩ることが出来る。
人類がまだ国という概念を持たぬ、古い時代。
言語体系さえ確立されていない時代から、彼らはケモノの狩り方を研鑽し始めた。
その技術を磨き続けた。
視線を読み、匂いを嗅ぎ、音を聞く。
空気の流れを読み、湿度を嗅ぎ別け、鼓動を聞分ける。
移動範囲を予想し、空間を把握し、ケモノの意識の死角を突く。
長く継承され続けた「経験」がそれを可能にする。
人類最古の戦闘職、狩人。
その系譜の最先端が、彼女である。

163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 16:26:35.69 ID:io/ozYfw0
猪が突撃を開始した次の瞬間、鉄に覆われていない部分に矢が殺到した。
相手を視認すのに必要な軟体構造、眼。
呼吸時に粘液が必要な、鼻腔。
運動時に可動性が必要な五つの間接部。
射線が通る範囲の急所全てに矢が突き刺さる。
その数、合計12本。
それでも、猪は止まらなかった。
眼が潰れているにもかかわらず、まるで狩人が見えているかのように。
突撃し、牙を突きたてようとする。
その牙が、狩人に届く直前。
13本目の矢が、再び猪の目に突き刺さり。
そのまま貫通し、体内を蹂躙、背中からボシュッと突き出た。
そこまでして、猪はやっと息絶えた。

164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 16:39:21.59 ID:io/ozYfw0
「何なんだろうね、この猪」
「どう見ても普通じゃないんだけど」
「突然変異?」
「いや、けど……」
何故か、クロ達の姿が頭を過ぎった。
そうだ、私は最初、彼女達を突然変異で巨大化したスライムだと思って……。
「……ううん、判んないや」
「ねえ、貴方なら判る?」
「そこに、隠れてずっと見てるよね?」
100m程先の大木。
その陰から、ヒトの匂いがする。
害はなさそうだから放置してたけど。
流石に、この状況だと、少し気になる。
「出てこないようなら、もう行くけど」

165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 16:57:26.68 ID:io/ozYfw0
「ま、ま、待ってくだ、さいっ!」
大木から姿を現したのは、黒い髪の女性だった。
あれ、私、このヒトと……会ったことがある?
けど、名前も何も思い出せない。
おかしいな、確かに、見覚えが……。
「う、うふふふ、わ、悪気は無かったんです、ちょっと、ちょっとだけ」
「迷いの森の狩人さんの力を、た、た、確かめたかっただけで」
「も、も、も、勿論、殺す気なんてなかったんですよ」
「だって、だって、うふふふ、わ、私は、迷いの森の狩人さんの、ファンですし」
女性は、私に視線を合わせないまま会話を続けた。

166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 17:20:57.48 ID:io/ozYfw0
「そう、そうです、私、私、ファンなんです!」
「見ました、私、見ました、あの時、大会会場に居たんです」
「100年に一度行われる、帝国主催の狩猟大会!」
「高名な弓師や帝国の騎士達を押しのけて、優勝を果たした貴女の姿を!」
「凄かったです、ほ、本当に!特に凄かったのは終盤に行われた竜種狩り!」
「か、感動したんです!ヒトの力で竜を狩れるなんて!」
「うえへへへ、す、すごいなあ、話しちゃった、私、迷いの森の狩人さんと話しちゃった!」
一度、幼馴染と一緒に帝国を訪れて狩猟大会に参加したことがある。
あの時も、森から離れた影響で体調悪くして幼馴染に介抱された。
まあ、大会会場が帝国領内の大き目の森だったので、体調は戻ったけど。
森じゃなかったら、私はかなり序半に脱落してたんじゃないかなあ。