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狩人「スライムの巣に落ちた時の話」
Part6


120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:32:12.90 ID:xKrYj/gN0
それは、私が何度かミドリに聞かせてあげた、あの歌。
あの歌が、音の連なりとして流れているのだ。
どうやっているのかは、不明だけど。
きっと、これはミドリが奏でてくれているのだろう。
そっか、ミドリはあの歌が好きだったからな。
なら。
「さあ眼を開けて」
「私の大切な可愛いあなた」
「生まれてくれてありがとう」
「私と一緒に生きましょう」
「暗いときも明るいときも」
「私達が共に歩めますように」
「最後に眼を閉じるその時まで」
「共に歩めますように」
私の声と、ミドリの音色が重なる。
私は、この歌が好きだった。
幼馴染が歌ってくれた、この歌が好きだった。
そして、今日。
私はこの歌の事を、もっと好きになった。

121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:32:43.82 ID:xKrYj/gN0
歌が終わった時、満足感があった。
ミドリは何も言わないけど、きっと同じ気持ちなんだと思う。
共鳴として、それが感じられる。
「ミドリは、どうやってさっきの音を出していたの?」
「まるで、楽器みたいだったけど」
ミドリは私を見て、次に自分の髪を見た。
髪といってもスライムの身体が変形して作られたものだ。
どちらかというと、陶器のような滑らかさがある。
その髪には、小さな穴がいくつも開いていた。
「そっか、空気がこの小さな穴を通るときに、音が出るのか」
笛と同じ仕組みなのだろう。
最も、大きさと穴の数から考えると、ミドリの髪の方がもっと複雑なんだろうけど。
もしかしたら、ミドリが喋らないのは、この仕組みが関係しているのかも。

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:33:32.06 ID:xKrYj/gN0
「ミドリは、歌が好き?」
「……」コクン
「そっか、じゃあ、もっと歌を聞かせてあげたいけど」
「……」
「ごめんね、私が知ってる歌は、これだけなんだ」
「……」フルフル
「幼馴染なら、もっと沢山の歌を知ってるんだろうけど」
「……」
「もし、私が外に出られたら、幼馴染から、歌を教えてもらうよ」
「……」
「いっぱい、いっぱい教えてもらうから」
「……」
「それを、ミドリにも聞かせてあげるね」
「……」コクン
その時、ミドリは笑った。
控えめにだが、とても可愛く笑った。

123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:34:09.95 ID:xKrYj/gN0
〜73日目〜
「雨は嫌いです、過剰湿度のお陰で、眠くなります」
確かにクロの動きは鈍かった。
鈍いというか、半分寝ぼけていた。
アカやミドリにも、若干その傾向がある。
皆が寝そべる、けだるい時間。
その隙に、アオには洞窟の外に出る練習をしてもらった。
具体的に言うと、雨水の流れる壁面を登ってもらったのだ。
水中で活動することが出来るアオは、雨水にも負けず、天井の穴まで登ることが出来た。
更に言うと、ほんの少しだけど外に出る事に成功したのだ。
まあ、怖くなってすぐに戻ってきちゃったんだけどね。

124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:34:35.60 ID:xKrYj/gN0
〜77日目〜
雨はまだ止まない。
降り続いている。
洞窟の中にも水は入り込んできたから、私達は少し高い岩場の上に避難していた。
アカが私に寄り添って、身体を暖めてくれている。
だから、風邪を引く心配は無いのだけど。
完全にアカから監視されている状態になっているから、身動きが取れない。
良かった事といえば、アカの姿をちゃんと見れたことだ。
何となく、アオやミドリと比べて幼い顔つきのような気がする。

125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:35:08.60 ID:xKrYj/gN0
〜80日目〜
「晴れです、晴れ、久しぶりに晴れましたよ、お母さん!」
「見てください、お母さんに抱きついてもこびり付いたりしません!」
「ちょうど良い湿度、ちょうど良い温度、ちょうど良いスキンシップ!」
「ゴボゴボゴボゴボゴボ!」
クロの機嫌はとても良い。
良すぎる。
離れない。
性的なことをされる様子は無いのだけど。
私は再び、身動きが取れなくなる。
まあ、けど、クロだって一時的に興奮状態になっているだけなのだ。
多分、数日もすれば落ち着いてくれるだろう。
それまで、我慢、我慢。
私は我慢した。
けど、我慢できなかった子が居た。

126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:38:09.80 ID:xKrYj/gN0
〜83日目〜
「母さまは、ボクと一緒に外に行くんだから、邪魔しないで」
この日、彼女達姉妹は正面衝突した。
私と一緒に外へ行くと約束していたアオの我慢が頂点に達したからだ。
もう少し気をつけておくべきだった。
アオは行動的な分「先延ばしにされる事」が苦手だったのだ。
アオの言葉を聴いたクロは、途端に不機嫌になった。

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 16:18:41.31 ID:xKrYj/gN0
クロ「外に?一緒に?貴女が?お母さんと?」
アオ「そう、ボクと母さまが」
アオ「……ママ、いっちやうの?」
クロ「行きません、そもそも何時そんな話になったのですか、誰の許可を得て?」
アオ「しばらく前に、母さまは良いよって言ってくれた」
クロ「お母さん、言ったんですか?」
アカ「……ママ?」
アオ「母さま、言ってくれたよね?」
ミドリ「……」
蜂の巣を突いたかのような騒ぎになった。
もう少し、穏便に事を進めたかったんだけどな。
まあ、けど成ってしまった事は仕方ない。
あとは最善を尽くすだけだ。

128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 16:19:22.98 ID:xKrYj/gN0
狩人「言ったよ、アオに、一緒に外に出ようって」
狩人「アオは、それを希望していたからね」
狩人「私も同じ事を希望してるんだし、協力し合うのは当然のことだよね」
狩人「私は前から」
クロ「……」
狩人「外に出たいって言って……」
アカ「……」
狩人「たと、思うんだけど……」
ミドリ「……」
狩人「……」
アオ「……」
空気が凍った気がした。
アオが爆発した時とは、また別の雰囲気だ。

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 16:21:41.43 ID:xKrYj/gN0
クロ「わた……ちに……」
狩人「え?」
クロ「私達に黙って、外に出ようとしたのですか」
狩人「いや、黙ってというか」
クロ「私達に黙って、行くつもりだったんですか」
狩人「クロ、話を」
クロ「私達に黙って、黙って、黙って、黙って」
クロ「それで、終わるつもりだったんですか」
クロ「私達を、私達を、捨て、捨て、捨て、捨ててて」
アカ「……やだ」
アカ「やだ、やだ、やだよぉ、ママ、いっちゃうの、やだ」
アカ「アカ、悪いことしちゃったの?アカが悪いの?」
アカ「悪いの悪いの悪いの悪いの悪いの悪悪悪悪悪」
頭痛と、吐き気がした。
眩暈がする、立っていられない。
クロの声が、頭に響く。
頭の中に入り込み大切な部分を壊そうとする。
それと同時に、熱風を感じた。
アカの声に呼応して、洞窟内の温度が上昇する。
眼が開けていられない。
肌が痛い。

130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 21:21:47.54 ID:iXtMPv7I0
あっ
ついに冒頭に・・・・
更新お疲れ様です

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 22:49:16.20 ID:5GvdWgVVO
ボクっ子スライム尊い……

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/14(火) 17:57:27.04 ID:T00XNCc00
彼女達に、殺意は無いと思う。
ただ、状況に適応できず過剰反応を起こしているだけだ。
彼女達は、まだ生まれたばかりの赤子なのだから。
ストレスに対する耐性が無いのだ。
どうしよう。
このままだと、文字通り話にならない。
どうしたら。
ふと、クロの言葉が頭に浮かんだ。
「このような事は改めて言う必要もない、当たり前のことなのですが」
「それでも、私はヒトが行う、言葉のやり取りを尊重したいと思います」

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/14(火) 17:59:03.23 ID:T00XNCc00
結局のところ、足りなかったのは交渉でも説明でもなく。
コレなのかなと思う。
私は、彼女達から母と呼ばれている。
それは、私自身が選択した行動の結果だ。
けど、決定的な言葉を、私は口にしていない。
ずっと前から、心の中に浮かんでいたのに。
何故か、決して言葉にはしなかった。
多分、彼女達は、蝙蝠肉なんかよりも、この言葉を欲していたのだろう。
今まで具体的な形として与えられていなかったから、不安だったのだろう。
それが今回のような形になって、爆発したのだ。
私が、両親からずっと与えてもらっていた言葉。
私が、彼女に与えることが出来る言葉。

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 07:57:32.52 ID:0+XFa7tR0
おっ、改善なるか…?

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 08:51:48.19 ID:+9EHKWR90
「いい子にしないとおやつ抜きにするよ!」

143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:02:46.04 ID:io/ozYfw0
 
「クロ、アカ、そしてアオとミドリも」
「私はね、みんなを」
「みんなを」
「愛してるよ」
 

144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:03:20.10 ID:io/ozYfw0
荒れ狂っていたクロの動きが、止まった。
悲しんでいたアカの動きが、止まった。
クロに襲い掛かろうとしていたアオの動きが、止まった。
1人静観していたミドリが、私のほうを見た。

145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:04:02.19 ID:io/ozYfw0
「最初はね、私の中の感情が何なのか、判らなかった」
「けど、今はわかるよ、これはきっと、愛情だ」
「ちょっと思い込みが激しくて、けど誰よりも努力家なクロ」
「照れ屋だけど、何時も私を気遣って、暖めてくれるアカ」
「好奇心旺盛で、私や姉妹の為に魚を取って来てくれるアオ」
「私と一緒に歌を歌ってくれる、ミドリ」
「ここで生まれ育ったスライム達」
「私の傍で育っていった大切なスライム達」
「その良い部分も、悪い部分も」
「今の私にとっては、凄く大切に感じられるんだ」

146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:04:39.37 ID:io/ozYfw0
「勿論、私達は種族が違う」
「考え方も、当然違うだろう」
「けど、けどね」
「クロ達が私に歩み寄ってくれたように」
「私も、クロ達に色んなものを与えてあげたいんだ」
「私がどんな場所で過ごしてきたか」
「どんなヒトと過ごしてきたか」
「どんな約束をしたのか」
「何処へ行こうとしているのか」
「そんな、私の全てを」
「皆にも、知ってもらいたと思ってる」

147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:05:08.35 ID:io/ozYfw0
クロ「……」
アカ「……」
アオ「……」
ミドリ「……」
狩人「うん、確かにクロが言ってたとおりだ」
狩人「多分、これは直接口に出して伝えないと自覚できなかった事だと思う」
狩人「少し、すっきりもしたかも」
アカ「……ママ」
狩人「うん」
アカ「……本当に、アカのことが好き?」
狩人「うん、大好き」
アカ「……う、うん、アカも、ママのことだいすき」

148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:05:36.83 ID:io/ozYfw0
アオ「母さま!母さま!ボクは!?ボクの事は!?」
狩人「うん、アオも好きだよ、大好き」
アカ「……ママ、もう一回言って」
狩人「アカが大好きだよ」
ミドリ「……」
狩人「うんうん、ミドリの事も、勿論好きだよ」
アカ「母さま!母さま!」
アカ「ママ!ママ!」
大騒ぎになった。
そんな中、クロだけが沈黙していた。