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狩人「スライムの巣に落ちた時の話」
Part5


102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 10:22:58.60 ID:xKrYj/gN0
〜64日目〜
アカは、体温が高いスライムだ。
夜、洞窟内の気温が下がり私が寒がっていると、何時の間にか傍にいてくれる。
正直、助かっている。
今日も、眼が覚めるとアカが傍にいてくれた。
いつもと同じで、暖かい。
いつもと違って、声が聞こえる。
「……ママ」
少し驚いたけど、身体を動かすのはやめておく。
アカは、他のスライム達に比べて臆病だ。
特に、私からの視線には強く反応する。
隠れてしまうのだ。
こっそりと首を動かして、後ろにいるアカの様子を伺ってみる。
私の背中に寄り添っているのが見える。
アカの変体は、この短期間で完了していた。
クロのように、完全にヒトの形になっている。
ただ、クロと違うのは……。
「何となく、私に似ている気がするなあ」
顔を洗う時に、水面に移る私の顔。
それに似ている気がする。

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 10:24:22.96 ID:xKrYj/gN0
先ほどの声は、アカの物だろうか。
だとしたら、もう喋れるという事になる。
少し、会話してみようか。
脱出の為、というのもあるけど。
単純にアカと意思疎通してみたいという気持ちのほうが強かった。
前を向いたまま、後ろのアカに話しかける。
狩人「アカ、私の言葉がわかる?」
アカ「……うん」
狩人「もう、喋れるようになったんだね、クロと比べて、ずいぶん早い気がするけど」
アカ「……うん」
狩人「アカの顔、見てもいい?」
アカ「……いや」
狩人「そっか、残念」
アカ「……」
狩人「……」
アカ「……ママは、おこるかも」
狩人「どうして?」
アカ「……アカは、ママ以外のヒトをしらない」
狩人「うん」
アカ「……クロから、ヒトの姿になれって言われても、わからない」
アカ「……だから」
ヒトの外見に関する情報が少ないから、私を模した形になったってことかな。
納得できる話だ。
けど、それじゃあクロの外見は、何なのだろう。
私とは似ていない。
私の夢に出てきた幼馴染を模した……という訳でもない。
あれは、誰の外見なのだろう。

104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 10:24:59.22 ID:xKrYj/gN0
アカ「……ママ、やっぱりおこってる?」
狩人「私の外見を模したこと?そんな事では怒らないよ」
アカ「……そう」
アカ「……よかった」
狩人「じゃ、見ていい?」
アカ「……やだ」
狩人「残念」
まあ、アカの姿をちゃんと見る機会は、そのうち生まれてくるだろう。
この洞窟は狭く、時間はまだたくさん有るのだから。

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 10:26:00.54 ID:xKrYj/gN0
アカ「……ママは」
狩人「うん」
アカ「……お外に、出たいの?」
狩人「……そうだね、出たいよ」
狩人「ずっと、そう思ってる」
アカ「……アカ達の事が、いや?」
狩人「違うよ、そうじゃない、そうじゃないんだ」
狩人「私はね、アカ、約束をしたんだ、あるヒトと」
狩人「けど、洞窟に落ちちゃったことで、その約束を破ってしまった」
狩人「ずっと、破り続けてる」
狩人「それが、嫌なんだよ」
アカ「……」
狩人「アカ?」
アカ「……アカは、ママと離れたくない」
その言葉に反して、暖かい感触が背中から離れた。
ううん、話の仕方を間違えちゃったのかな。
こんな時、幼馴染だったらどうするんだろう。
どうしたら、いいんだろう。

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 10:45:46.02 ID:xKrYj/gN0
〜同日〜
〜夜〜
クロ「お母さん、アカから聞きましたよ、まだ外に出たがっているのですか」
狩人「そりゃあ、出たいよ」
クロ「もう、仕方のないお母さんですね……仕方ありません」
狩人「手伝ってくれるの?」
クロ「はい、勿論です、お母さん」
クロは、機嫌良くそう答えた。
良かった、問題が一気に解決した。
もしかしたら前の時は機嫌が悪くてあんな返答をしたのかもしれない。
けど、クロは普段はとても理知的だし、一族の中で一番かしこいって話だ。
きっと、私の為に考えを変えてくれたんだな。
ありがとう、クロ。

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 10:46:49.24 ID:xKrYj/gN0
クロ「ヒトである以上、その欲求があるのは当然のことです」
クロ「私が生誕してからずっとお母さんを観察してきましたが、一度もその行為をしたことはありませんでした」
クロ「きっと、私達を育てるのに気をとられて、自分の欲求は後回しにされていたのですね」
クロ「尊い」
クロ「けど、大丈夫、これからは私がいます」
クロ「そりゃあ私はスライムですから、最初はちょっと失敗とかするかもしれませんが」
クロ「時間は沢山あります、最終的にはお母さんの満足行く結果を導く出せると保障します」
狩人「……何の話をしてるの?」
クロ「性的欲求の話ですよね?」
狩人「え?」
クロ「外に出て相手を探さなくても、私達で対処できますよ、それくらい」
クロ「私以外の姉妹も、決してお母さんの性的欲求を拒む事はありません」
クロ「体液を摂取する事で性別や種族を無視して子を作ることが出来ます」
クロ「きっと、お母さんを満足させてあげられますよ」
狩人「……」
クロ「さあ、服を脱ぎましょうね、お母さん」
クロが、私の身体に纏わりついてくる。
掴んで押しのけようとしても、軟体であるが故にすり抜けられる。
……あれ、これ、洞窟に落ちて以降で一番のピンチなんじゃないかな。

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 11:07:29.14 ID:xKrYj/gN0
クロの冷たい手が私の身体に触れる。
肌の上を軟体の何かが這うような感触。
まるで複数の指で触られているかのような。
「クロ、止めて」
「遠慮しなくても大丈夫です、怖くないですから、痛くしませんから」
うん、聞こえていないなコレ。
私はそのまま押し倒された。
グチュリ、と私の上にクロの身体が乗って来る。
手足は既に拘束されており、逃げられそうにない。
仮に手が使えたとしても……悪意が感じられないクロを傷つけるのは躊躇しただろうけど。
半ば諦めていた私の視界を、青い何かが横切る。
それと同時に、ザプンっと音がしてクロの上半身が消し飛んだ。

109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 11:26:24.49 ID:xKrYj/gN0
私を拘束していたクロの身体が、ベチョリと崩れる。
何とか動けるようになった。
そんな私を見下ろし、手を差し伸べてくる青い人影。
「母さま、だいじょうぶ?」
アオだ。
ヒトの形へと変体を遂げたアオが、助けてくれたのだ。
「アオ、どういうつもりですか、お母さんの性的欲求解消を妨害するなんて」
「母さまは嫌がってた、ボクは母さまの言葉を信じただけ」
「嫌よ嫌よも好きのうちという言葉があるのです、照れによる拒絶を本気にしてどうするのです」
「なにそれ、意味わかんない」
吹き飛ばされたクロの上半身と、私の上から零れ落ちた残りの粘液が合流する。
何事も無かったかのように、クロは復活を果たした。

110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 11:32:30.40 ID:xKrYj/gN0
「これだからお子様は始末に終えません、判らないなら下がっていなさい、これは系譜最先端である私からの命令です」
「ボクの方がお姉ちゃんだけど」
「一番最初の生誕しただけでしょう、後に生まれる個体の方が優秀であるのは自明の理」
「ボクの方が母さまと良く遊んだ」
「私がヒトの形になる為に自己改造していた隙をついて遊んでいただけでしょう!誰のお陰でその形になれたと思って!?」
「母さまは、ボクが捕った魚を見ていつもほめてくれる」
「ガボガボガボガボガボガボ!」
喧々囂々。
どうやら、スライム達も一枚岩ではないらしい。
アオは、クロよりも私を尊重してくれているようだ。
この日、私はクロとの子を作らずに済んだ。
けど、クロは諦めてないように思える。
ちょっと、怖いなあ。

112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 12:57:52.91 ID:xKrYj/gN0
〜66日目〜
アオの身体は、やはり私を模した物だった。
アカと明確に違うのは、髪に類似した部位を纏めて後ろで垂らしている点。
彼女達は個体差を守ろうとする意志がある。
同じ「私と似た外見」であるが故に、意識して差異をつけたのだろう。
アオ「母さま、あれとって」
狩人「うん、いいよ」
アオに請われて、私は指笛を吹く。
驚き飛び交う蝙蝠に、礫を当てる。
アオは大喜びでそれをキャッチ。
楽しそうなその様子を見て、何故か私も嬉しくなる。

113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 12:59:20.60 ID:xKrYj/gN0
狩人「アオは、水の中とかも好きだよね」
アオ「ちがうよ、母さま、ボクは魚をとるのがすきなの」
狩人「そっか」
アオ「石で遊ぶのも好き、母さまみたいに石投げしたい」
狩人「……アオは、性質的にも私と似ているのかな」
アオ「ボクも母さまみたいになれる?」
狩人「どうだろう、他人にやり方を教えたことは無いけど」
ふと、子供の頃を思い出す。
父とは母、私の教育にとても熱心だった。
ヒトとしての有り方を教えるよりも、狩人としての生き方を優先して教えてくれた。
その知識は、まだ私の中に残っている。
根付いている、と言ったほうがいい。
なら、私にも、両親のように出来るのかもしれない。
狩人「……そうだね、まずは弓の使い方を覚えないと」
アオ「ゆみ?」
狩人「そう、私が一番得意な得物、石なんかよりももっと速く遠くまで飛ぶ」
アオ「すごい!見せて見せて!」
狩人「ううん、それは難しいかなあ」
アオ「どうして?」
狩人「ここに落ちてくる時、無くしちゃった」
アオ「ここに……」

114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 13:00:00.74 ID:xKrYj/gN0
アオは、天井の穴から外を眺めた。
何か、考えているようだ。
アオ「……ここの、外には、何があるの?」
狩人「色々あるよ、森とか、村とか」
アオ「それだけ?」
狩人「……もう少し南にいくと、帝国領がある、その向こうはまた別の国があって」
アオ「くに?」
狩人「沢山のヒトや、ケモノが住んでいる所だよ」
アオ「どれくらい沢山?」
狩人「数えられないくらい」
アオ「そんなに?」
狩人「うん」
アオ「ふーん……」
途中から、予感があった。
アオは、活発で好奇心が旺盛なのだ。
この小さな洞窟だけで、満足が出来るはずはない。
だから。
アオ「母さま、ボク、外に出てみたい」
アオ「連れて行って」
こうなる事は、半ば必然だった。

115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 13:16:51.38 ID:SSq3R5Kqo
ああ冒頭の状況まで残り20日切った

116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 13:40:59.44 ID:HxhS0gAko
尊い

117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:30:42.31 ID:xKrYj/gN0
〜69日目〜
アオが協力してくれる。
それは、とても心強い申し出だった。
今の彼女の知能であれば、洞窟から出て蔦を見つけて来る事は容易いだろう。
けど。
「そのまま、あっさりとは脱出させてくれないだろうなあ」
クロとアカは、私の脱出に対して否定的だ。
私が蔦を登っているのを見たら、当然邪魔をしに来るだろう。
アオ1人で、それを阻止できるかどうかは微妙だ。
最悪、私はもう一度地面に叩きつけられる事になるかもしれない。
なるべくなら、それは避けたい。
もう少し、作戦を練る必要があるかな。
「そういうのは、得意では無いのだけどね」
ピチャン、ピチャンと音がする。
天井の穴から、雫が入り込んでいるのだ。
今夜は、久々に雨である。

118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:31:10.67 ID:xKrYj/gN0
雨音に混じって、妙な音が聞こえた。
口笛?
いや、もっと綺麗で鋭い音色だ。
前に幼馴染が聞かせてくれた、横笛の音に似ている気がする。
音は、壁際に座っている緑色の人影から聞こえる。
ミドリだ。
彼女の変体も、既に数日前に完了していた。
アオやアカと同様、私の外見を模している。
2人と明確に違う点は、髪の長さ。
姉妹で一番大きかったミドリの体積は、その殆どが髪に長さに費やされている。
「ミドリ、今、口笛吹いていた?」
「……」
無表情。
返事は無い。
クロの言葉が確かなら、ミドリは音に対して親和性が高いとの事。
つまり「喋れないから返事が無い」という状況では無いと思うんだけど。
前から、読めない所がある子だったからなあ。

119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/11(土) 15:31:41.86 ID:xKrYj/gN0
「……」
「とても、綺麗な音だったね」
「……」
「風鳴の音だったのかな」
「……」
再び、音がする。
高く、低く、遅く、長く。
ミドリの口は、閉じられている。
だが、それは確かにミドリから聞こえていた。
その音の連なりには、何故か聞き覚えがあった。