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狩人「スライムの巣に落ちた時の話」
Part3


47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 12:06:58.20 ID:0m5tXs/U0
「アンタ、狩人さんの娘?ずいぶん細いのね」
「水くらいなら、あげるわよ、汲んできてあげよっか?」
「ねえ、聞こえてるの?返事くらいしたら?」
「……ごめんなさい、もしかして、あんまり言葉が喋れないの?私の言ってること、判る?」
矢継ぎ早に、質問が来る。
私は答えようとするけど、口の中が乾燥して声が出せない。
彼女は暫く私を眺めていたが、そのうちプイと顔を逸らして、何処かへ行ってしまった。
「……」
何だか残念な気持ちになる。
居心地が悪い。
帰りたい。
森に帰りたい。
蹲って、両親の用事が終わるのを待つ。
背後から、再び足音が聞こえた。
今度はちゃんと認識できる。
さっき去っていった少女と、同じ足音だ。
声をかけられても、今度は驚かない。
「はい、水を持ってきてあげたわよ」
振り返ると、そこに。
ゴボゴボゴボゴボ
黒い何かが立っていて。
私を覗き込んでいた。
そこで私は夢から覚めた。

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 12:15:50.63 ID:WeMJL4dgO
面白い

49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 12:23:20.48 ID:0m5tXs/U0
目を開けると、夢で見た光景が続いていた。
「ゴボゴボゴボゴボ」
奇妙な音と共に、私を覗き込む黒い何か。
それは細長い、歪なヒトの形をしていた。
私の事を、観察している。
私の動きを、反応を。
いや、それだけではないのだろう。
直感的に判る。
この黒いスライムは、ヒトの心を覗くことが出来るのだ。
きっと、今見ていた夢も、覗かれていたのだろう。
「ゴボゴボゴボゴボ」
「……生まれたばかりだし、周囲の情報を集めようとしてるのかな」
「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」
「生き物としてそれは当然のことだと思う、だから、今回の事は責めないよ」
「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」
「けど、これ以上はやめて欲しい、アレは大切な思い出だから」
「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」
「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」
「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」
「次に同じ事をしたら殺す」
「ゴボ……」

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 13:26:28.35 ID:0m5tXs/U0
黒いスライムは、そのままの姿勢で私の様子を観察しているようだった。
目も鼻も口も無い頭だが、何となく気分を害しているように思える。
暫くすると、細長かった身体が縮み始めた。
恐らく、身体の体積を「背伸び」させる形で身長を稼いでいたのだろう。
みるみるうちに元のサイズの黒いスライムに戻ると。
そのまま歩いて定位置まで戻り、以前と同様に蹲ってしまった。
そう「歩いた」のだ。
他のスライム達のように、転がったり這いずったりはしなかった。
簡易的な足を使って、歩いてみせた。
「……もしかして、前よりもヒトの形に近づいてる?」
もし、ヒトと同じ形態になって、こちらの心を読めるのだとしたら。
意思の疎通が可能になるのではないだろうか。
そうしたら、脱出の手助けをしてもらえる可能性が高くなる。
少し、希望が出てきた気がした。
「……まあ、黒いスライムが私の希望を汲んでくれるかは、判らないんだけどね」
ガボガボガボ
黒いスライムが返事らしき音を出した。
それがどんな意味を持っているのか。
それは、まだ判らない。

51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 13:41:10.53 ID:0m5tXs/U0
〜26日目〜
「パチパチパチパチ」
「誕生日おめでとう、今日で18歳だね」
「残念ながら誕生日プレゼントは用意できなかったんだ」
「けど何も無いのはあんまりだから、歌を送ろうと思う」
「喜んでくれたらうれしいんだけど」
「では」
洞窟の中。
昔、幼馴染から教えてもらった「誕生日の歌」が響く。
「生まれてくれてありがとう」
「私と一緒に生きましょう」
そういった意味の歌詞だったと思う。
まあ、誕生日の主役はココには居ないんだけどね。
けど、何もしないのはあんまりだと思うから、形だけでもお祝いしてみる。
緑のスライムが、私の歌に反応して揺れ始める。
ぷよぷよ。
ぶるんぶるん。
ひょっとして、歌が気になるのかな。
そういえば、緑のスライムは音に敏感だった気がする。
「……」
「良く考えると、スライム達の誕生日は、私がここに落ちてきたその日だったんだよね」
「だとしたら、何かプレゼントしたほうがいいのかな」
「と言っても、あげられるものは蝙蝠肉か魚くらいしかないんだけど」
「他には、何か、んんー……」

52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 13:42:37.32 ID:0m5tXs/U0
 
「なまえぼ」
 

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 13:47:56.16 ID:yGV7uBcgo
ヒエッ

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 13:49:30.34 ID:Jem0buZ7o
ヒェー……

55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 13:52:47.15 ID:0m5tXs/U0
「え?」
何処かから、声が聞こえた気がした。
周囲を見渡すが。誰も居ない。
私とスライム達だけだ。
気のせい、かな。
言葉の意味も良くわからなかったし。
「なまえぼ」ってなんだろ。
「なま、えぼ」
「生のエボ?」
「生海老」
「生野菜」
「なま」
「なまなまなま」
「なまなまなまなまなま……」
うーん、判らない。
ふと、黒いスライムが目に入った。
そう言えば、ずっと黒いスライムとか赤いスライムとかで呼ぶのは、ちょっと面倒くさい気がする。
もっと簡単な……。
「……ああ、そっか」
「名前を」
「付けて欲しいのかな」
黒いスライムは、ゴボゴボと音を発した。
どうやら、当たりのようだった。

56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 14:48:35.57 ID:0m5tXs/U0
黙考すること10秒。
私はスライム達を順番に指差し、こう言った。
「赤いスライムは、アカ」
「青いスライムは、アオ」
「緑のスライムは、ミドリ」
「黒いスライムは、クロ」
「今日からこれが、君達の名前ね」
スライム達からの反応は無い。
黒いスライム……もとい、クロだけは「ガボガボガボガボ」と何らかの意思表示をしている。
「そして、これが今日のご飯だよー」
蝙蝠肉を、何時もより多めに放ってあげると、アカとアオとミドリは大喜び。
うん、みんなが嬉しそうで、私も嬉しい。
苦労して考えた甲斐があった。

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 15:14:52.74 ID:0m5tXs/U0
〜30日目〜
「アオ」
「ピピィ」
知性の高いアオ達は、呼べば反応するくらいには慣れてくれた。
ただ、これは言葉の意味を理解して反応している訳ではないようだ。
ここ数日の経験で「この音がすると自分が呼ばれている」と感じているにしか過ぎない。
恐らく、ヒトの言葉を正確に理解させる為には、もっともっと沢山の時間が必要になるだろう。
となると、期待できるのは他のスライム達とは違う能力を持つ個体。
「クロ」
「……」
「クロ?」
「……」
「今日も返事は無し、と」
「……」
おかしいな、ヒトの心を読めるはずなんだけど。
どうしてか反応がない。
私が前に叱ったことを、気にしてるのだろうか。
「クロ、今は私の心を読んでもいいよ」
「返事して?ほら」
無反応。
蹲ったまま、ピクりともしない。
あのゴボゴボ音さえも出さない。
「ううん、他の子達と比べて、知性の発達が遅いのかな」
「まあ、生物なんだから能力の劣った個体が出るのは、仕方ないよね」
「もう少し、根気良く対応してあげないと駄目なのかも」
クロが、蹲ったままクルリと私のほうを向いた。
何か機嫌が悪そうな態度……な気がする。

58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 15:55:09.31 ID:0m5tXs/U0
〜40日目〜
毎日、根気良く話しかける。
物の名称だけでなく、行為の名称も繰り返し唱えて、関連付けを促す。
「これが、石」
「あれが、蝙蝠」
「投げる」
「当てる」
「落ちる」
「食べる」
その反復作業に対して、最初に成果を出してきたのは、意外なことにミドリだった。

59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 17:32:41.27 ID:dMGU12ROO
わくわくと不気味な気持ちが混ざる不思議な感覚
面白い

60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 18:17:32.78 ID:MDvx1Uj3o
これ、ネーミングセンスのなさに怒ってるやつじゃ

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 20:40:03.62 ID:okuR0ozB0
これ賢くしちゃいけないタイプだ

62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/03(金) 16:11:52.57 ID:QfTYX+Zd0
「ミドリ、今から右の壁に石を投げるから、拾ってきて」
「ピィ」
私の声に反応して、ミドリは移動を開始する。
ぷよぷよふよ。
ぷよぷよぷよ。
ゆっくりと『左側の壁』の付近まで移動したミドリは、ベチャリと床に広がった。
「絶対にココから動きません」の構え。
うん、複数の言葉を理解している動きだ。
すごい進歩。
「……問題は、どうして左の壁のほうに行ったのかって事なんだけど」
「まあ、石で遊ぶのが嫌いなんだろうなあ」
スライム達は、それぞれ好みが違う。
ミドリはあまり活発に遊ぶような子ではないのだ。
寧ろ、アオ達が石遊びをしていると遠ざかるような性質を持っている。
なら……。
「石を拾ってきたら、歌をうたってあげるよ」
ピクリ、とミドリは反応した。
この子は、特殊な音に対して、強い反応を示す。
もっと端的に言ってしまうと、歌が好きなのだ。

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/03(金) 16:46:25.20 ID:QfTYX+Zd0
私がポイと石を投げると、ミドリはゆっくりと移動を始めた。
今度は、石がある右側の壁に向かっている。
「これだけ早く複数の言葉を理解出来るようになったのは、音に興味があるからかな」
「もっと沢山の言葉を覚えれば、複雑な意思の疎通も可能に……なる?」
この子達が元々持っている高い知性と理性、それに私が知っている知恵を付け加える。
そうすれば、スライム達の手助けを受けてここから脱出することが出来るだろうか。
天井の穴からスライム達を外に送り出し、自立的に蔦や縄を発見させて、それを固定させ穴から吊り下げる。
……やはり、縄や蔦という「スライム達が見た事も無い物」を覚えさせる方法が、思い浮かばない。
ぷよぷよと音を立て、ミドリが石を持ってきてくれた。
そのお返しに、私は歌をうたってあげる。
まあ、そんなに沢山の歌を知ってるワケじゃないんだけどね。
「暗いときも明るいときも」
「私達が共に歩めますように」
幼馴染が教えてくれた歌。
私の誕生日に、唄ってくれた歌。
もう一ヶ月以上も、彼女に会ってない。

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/03(金) 17:00:14.13 ID:QfTYX+Zd0
〜48日目〜
「あのさ」
「……」
「クロって、何か更にヒトに近づいてない?」
「……」
そう、クロは以前に比べて明らかに精度が上がっている。
『ヒトとしての形』の精度だ。
相変わらずまったく動かないのだが、徐々に変化していっているように思える。
だって、以前はもっとズングリむっくりしていたし。
手足もただ太い棒をくっつけただけみたいな大雑把な形だったから。
けど、今は『ヒトの形』に近づいている。
具体的に言うと、頭部の形状がヒトの顔に近づいてきている。
腕や足や腰が細くなり、間接部が生まれている。
そして、胸に当たる部分が、少し盛り上がってきている。

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/03(金) 20:22:48.47 ID:QaRsCoHIo
模してる感…!

66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/05(日) 13:47:29.37 ID:gaNxEPwz0
クロは、メスのスライムだったのか。
いや、単純に私の姿を模しているだけ、という可能性もあるかな。
「クロ、手を見せてみて」
無反応。
ツン、とした感じで明後日の方角に顔を向けている。
昆虫の類は変体の時に蛹になり、まったく動かなくなることがある。
その手の形態の時、昆虫は極端に「弱く」なる。
ひょっとしたら、クロもそんな状態なのかもしれない。
「ううん、無闇に接触するのは避けたほうがいいのかな」
クロに何かあったら困る。
……。
……。
……。
困る?
ああ、確かに脱出の手段が減るという意味では、困った事態になるだろう。
……けど、今の私の反応は。
まるで、考える間もなく浮かんできたかのように。
何の思考も通さず「困る」と思ってしまったような気がする。
何だか不思議な感覚だ。
クロが、動かないまま、久しぶりにゴボゴボと音を出した。