Part2
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/28(土) 14:56:49.86 ID:
FLbrBElf0
ジュルルルと肉を吸収する音がする。
私が狩った蝙蝠達は、スライム達にとってご馳走のようだ。
ここ数日、毎日与えてるけど、骨も残さず溶かしてくれる。
その様子を見ていると、何だか不思議な気分になってくる。
基本的に、私は自分が生きるのに必要な分しか狩りをしない。
時々、幼馴染に獲物を分けてあげる程度だ。
その場合だって、幼馴染は何らかの対価を私に渡してくれる。
まあ、それらは私にあまり必要ない髪飾りとか洋服だったりするんだけど。
それでも対価を受け取っているのには変わりないのだ。
今のように、何の対価もなく獲物を分けてあげることは、無かったと思う。
何だか奇妙な感じだ。
「狩りをした後の充実感とも違うし……」
「んんんー……なんだこの感覚」
「……戻ったら、幼馴染に聞いてみよっと」
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/28(土) 15:24:44.51 ID:Ko4E+xCxo
それは母性愛ッ!
スライムかわいいな、今んとこは
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/28(土) 16:03:09.53 ID:
FLbrBElf0
〜10日目〜
晴れて晴れて曇って雨が降って雨が降って晴れて晴れて晴れて雨が降った。
脱出経路は見つからない。
一応、瓦礫を少しずつどかしてみたけど、流石にこれ以上は無理かな。
腕力が足りない。
長期的計画を立てて筋肉をつけるという手もあるけど、栄養源が少ないからそれも難しいと思う。
この数日、蝙蝠の肉を餌にして水溜りに釣り糸を垂らしてみた。
釣果は1匹。
半透明な目の無い魚だったが、捌いて炙って食べてみた。
「……うん、まあ、蝙蝠よりは美味しいかな」
青いスライムが物欲しそうな感じでピピィと鳴いた。
蝙蝠ばかりで飽きてきたのかもしれない。
次に魚がつれたら、このスライムに分けてあげよう。
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/28(土) 16:14:31.65 ID:
FLbrBElf0
〜12日目〜
起きてから、何だか寒気が止まない。
体調には気をつけているつもりだったけど、如何せんココには身体を温める物が少ない。
私が身につけていた毛皮くらいだ。
栄養が足りないのも原因の一つなのだろうけど。
「火を起こせれば暖を取れるけど、もう油も少ないからなあ……」
取り合えず今日の分のスライム達のご飯の食事を私で食べられて。
狩りを蝙蝠で魚が消化されて。
「……あれ」
違和感。
今、私は何を考えてたんだっけ。
視界が急激に狭まる。
これは、いけない。
駄目だ。
意識を。
「おかしい……な……森でなら、何日野営しようと……こんな事は……なかったのに……」
そう考えたのを最後に、私の記憶は途切れた。
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/28(土) 16:30:16.18 ID:
FLbrBElf0
そう、私は森では無敵。
いや、流石に無敵は言いすぎか。
少なくとも、森でならどんな劣悪な環境でも適応できた。
けど、森以外では全然駄目だった。
例えば、ごく短い期間だったけど、村で暮らしたことがある。
その時も、今回みたいに体調を悪くさせた。
そして幼馴染に看病された。
「ぷぷぷぷ、アンタ、どうして寝込んでるの?」
「バカは風邪を引かないって言葉知らないの?」
「もしかして風邪を引くことで自分がバカじゃないって事を主張したかったの?」
「そうだとしたら傑作だわ!ぷーくすすすす!」
ううん、アレは本当に看病だったのだろうか。
単に笑いに来ていただけのような気もする。
けど、いやな気分ではなかった。
ちゃんと食べやすくて暖かい料理を置いていってくれたし。
テーブルの上に置きっぱなしで帰っちゃったから這って食べに行かないといけなかったけど。
食べた時は、もう冷めかけていたっけ。
けど、その暖かさが、とても心地よかった。
そんな記憶がある。
そんな記憶が……。
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/28(土) 16:44:56.28 ID:
FLbrBElf0
ふと目を開けると、目の前に赤いスライムがいた。
ぐじゅる、ぐじゅると蠢いている。
「……ああ」
私の身体は、赤いスライムに半分以上覆われていた。
きっと、お腹が空いてしまったのだろう。
私がどれくらい意識を失っていたのかは判らないが、少なくとも1日以上は食事をしていなかっただろうから。
だから、赤いスライムが我慢できなくなっても、仕方ないように思えた。
出来れば抵抗したいけど、私の意識はまだ朦朧としている。
痛みは、感じない。
ただ、むず痒さと熱さだけがある。
死ぬ事に対して、怖さは感じない。
けど。
「……ごめんね」
「誕生日、間に合いそうにないや……」
彼女に対する申し訳なさだけがあった。
赤いスライムが、私の顔に迫ってくる。
私はそれを、目を瞑って受け入れた。
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/28(土) 17:04:03.89 ID:
FLbrBElf0
〜15日目〜
目が覚めると妙に気分が良かった。
何より、暖かい。
起き上がろうとすると、ペチャリと音がして、何かが上半身から零れ落ちた。
「……あれ、私は確か、スライムに食べられて」
いや、現在進行形で私は赤いスライムに覆われている。
上半身だけがそこから出ている状態だ。
暖かいのは、赤いスライムに部分。
「んー……もしかして、私を食べるつもりはないのかな」
赤いスライムは、ピィと鳴いて私の上半身に再び這い上がってきた。
ああ、これは、ひょっとして……。
「そっか、暖めてくれたのか」
以前に感じたことがある感覚が、再び湧いてきた。
これは、これは何なのだろう。
この感覚は何なのだろう。
今すぐに、聞いてみたい。
幼馴染に。
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/28(土) 17:16:04.74 ID:
FLbrBElf0
〜18日目〜
体調が回復してから気になっていたことがある。
ここ数日、朝、目が覚めると魚が置いてあるのだ。
例の目の無い半透明な魚だ。
水溜りから、跳ねてここまで来たのだろうか。
いやいやいや、そんな都合が良い偶然は無い。
もしかしたら一度だけならば有り得るのかもしれない。
けど、二度三度となると……。
そんな事を考えている間に、「犯人」が水溜りからザバンと浮上してきた。
答えを先に行ってしまうと、青いスライムだ。
青いスライムが、体内に複数の魚を捕らえた状態で、水から上がってきたのだ。
青いスライムはプルプルと体を震わせて、水を切った。
半液体状のスライムでも、水浸しなのは嫌なのかな。
そんなどうでもいい疑問を抱いてると、青いスライムは私の前に魚を置いてくれた。
「……ええと、くれるの?」
ピピィ、と青いスライムが鳴く。
うんうん、なるほど。
判った。
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/28(土) 17:49:08.48 ID:Qjc4SrI6o
待ってた
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/29(日) 06:04:50.40 ID:iP6qWbTVO
ええのー
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/29(日) 09:40:45.81 ID:g7WAImFEo
うむ
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/30(月) 17:58:53.72 ID:SzpdwLsZo
面白い
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/01(水) 11:47:36.29 ID:
LpZs8Gbp0
そう、判ったのだ。
認めずには居られない。
このスライム達は、やはり普通では無い。
生まれたばかりにも関わらず、知性と理性が非常に高いのだ。
だから私は捕食されずに済んだ。
それどころか、弱っていた体を温めてもらった。
餌を分け与えて貰いさえした。
私はスライム達に対して「脅威を避ける為の餌付け」という考えで接してきたけれども。
今のこの状況ならば、もう一歩踏み込んで考えてみてもいいのかもしれない。
つまり。
「スライム達と積極的に交流し、可能であれば脱出の手助けをしてもらう」という具合に。
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/01(水) 12:29:51.20 ID:
LpZs8Gbp0
〜20日目〜
「村の連中がアンタを怖がるのは、アンタの事をちゃんと知らないからよ」
「そりゃそうよね、普段は森に住んでて滅多に姿を見せないし」
「たまに姿を現したと思ったら服に獣の血がついてるし」
「私以外とはあんまり喋らないし、笑わないし」
「連中にとっては、アンタは意味不明で不気味な存在なの」
「だから、嫌がらせされたり、陰口叩かれたり、無視されたりする」
「そこで提案なんだけど……」
幼馴染との会話を思い出す。
要するに、相手の事を把握しないと、ちゃんとした関係を築くことは出来ないという事だ。
その言葉に従って、私はスライムの観察をはじめていた。
正直、スライム達の事は色の違いでしか把握していなかった。
けど、ここ数日で色々細かい違いがあることがわかった。
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/01(水) 12:53:13.79 ID:
LpZs8Gbp0
まず、青いスライム。
やたらと動き回って、やたらと良く食べる。
私が何かを放ったりすると、それに反応して拾いに行ったりする。
水に入るのが好きで、よく水溜りの中に潜っている。
次に、赤いスライム。
私が観察していると何故か瓦礫の隙間等に隠れる。
ヒトの視線に敏感なのかもしれない。
逆に、私が目を瞑ったり寝たりしているとすぐ傍まで接近してきて居たりする。
他のスライム達に比べて体内の温度が高い。
次に、緑のスライム。
一番体が大きく、動きが遅い。
蝙蝠肉を与えても、食べようとしない事がある。
蝙蝠を狩る際の指笛に強く反応する。
他の二匹に比べて、行動が読みにくい。
そして……。
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/01(水) 13:09:11.65 ID:
LpZs8Gbp0
一番小さい、黒いスライム。
……。
……。
……。
動かない。
緑のスライムは緩慢ではあったけど、それでも動く。
けど、このスライムは動かない。
そういえば、最初に見た時から動いた形跡が無い。
多分、蝙蝠肉も食べに来ていない。
「……もしかして、死んじゃったのかな」
その声に反応したのか、黒いスライムはこちらを見上げてきた。
良かった、生きてはいるみたいだ。
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/01(水) 13:33:06.80 ID:
LpZs8Gbp0
……。
……。
……。
今、何か違和感を感じた。
ほんの小さな違和感。
何だろう、何か……。
「……そうだ、何で『こちらを見上げてきた』と感じたんだろ」
赤いスライムは、ヒトの視線を感じることが出来るようだ。
狩人である私も「獲物からの視線」を少しくらいは感じる事が出来る。
けど、今回はそれとは違うように感じる。
もっと根本的な……。
「……」
「……」
「ああ、そうか、このスライム」
「形がちょっとヒトに似ているんだ」
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/01(水) 15:17:24.15 ID:mPnXMQTh0
やっと黒の話が出たらいきなり不穏な
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/01(水) 18:10:10.69 ID:RIBIRkvFO
これは…
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 10:59:47.47 ID:
0m5tXs/U0
造詣的には、辛うじて手と足と頭があると判る程度でしかない。
幼馴染が持っていたヌイグルミよりも、更に単純な形状。
けれど、そのスライムは確かに……蹲るヒトに似ていた。
「……このスライム、元々こういう形だっけ」
「それとも、徐々に変化した?」
あまり印象深くは無いけれども……最初は、他のスライムと似たような形状だったと思うのだ。
変化したとしたら、そこにどんな意味があるのか。
あまり頭のよくない私には、予想できない。
けど、少し注意しておいたほうが良いのかも。
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 11:33:57.54 ID:
0m5tXs/U0
〜22日目〜
スライム達の観察と平行して、脱出方法の模索も続けている。
スライム達と十全な協力体制を築けたと仮定して、どうやれば脱出できるのか。
例えば……洞窟の天井に開いている穴からスライム達を外に送り出して。
蔦なり何なりをぶら下げてもらえば。
そこを登って脱出することが可能だろう。
理屈としては不可能では無いように思える。
問題は……。
「そこまで複雑な行動を、スライム達が理解できるのかって事なんだよね」
壁に向かって石を放ると、それに反応した青いスライムがピィピィと動き出す。
石を回収して、遊び始める。
元々はスライム達の反応を伺うためにやりはじめた石投げだが、青いスライムは気に入っているようだ。
「この辺の習慣を利用すれば、洞窟の外に送り出すのは可能だろうけど」
「その後がなあ……」
スライム達の気分次第ではあるけど、反復して行動させる事でそれを習慣として教え込むことは出来ると思う。
けど、ここには蔦もロープも無い。
代用品すらない状況だと、習慣として教え込むことは難しいんじゃないだろうか。
「せめて、言葉が通じたらいいのにね」
洞窟の天井に開いた穴から、外の様子が見える。
今日は満月だ。
あと数日で、幼馴染の誕生日。
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 11:54:12.32 ID:
0m5tXs/U0
〜25日目〜
両親に連れられて、初めて村を訪れた時。
私はすごく警戒していた。
だって、父と母以外のヒトを見た事なんて無かったから。
村のヒト達は、私達と違い、随分とノロノロ動く。
物音を隠そうともしない。
隠れもせずに、私達を遠巻きに眺めてくる。
両親が村長と話している間、私はずっと建物の陰に隠れていた。
私達と、ここのヒト達は、違う。
違いすぎる。
鼻がむずむずする。
口の中が乾燥する。
気分が悪い。
いつも行く、森の泉で綺麗な水を飲みたい。
水を。
「水を飲みたいの?」
背後から声がしたので、凄くびっくりした。
何時の間に近づかれたのだろう。
足音は、あったはずだ。
けど、周囲の物音にまぎれて、ちゃんと認識することが出来なかった。
私は警戒しながら背後を振り返り。
彼女と出会った。