Part10
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:26:55.65 ID:
VhB1aNzu0
私の背中から、グググと蝙蝠の羽が隆起する。
耳り形状が変化し、周囲の物体を音で感知できるようになる。
そう、そうだ。
あとはこれを羽ばたかせて。
よし、よし、上手くいく。
あはははははは!
凄い!凄いです!
私、空を飛んでます!
これはこれで、良い経験で……
ピィィィィィィィィィィィィィィィィッ
地上から凄まじい音が響く。
それにより、私は激しくバランスを崩した。
回転する。
飛行状態を保つ事が出来ない。
一体、一体何が……。
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:27:32.66 ID:
VhB1aNzu0
回転する視界の中、地上にミドリ色の何かが見えた。
あれは、楽器?
どうしてあんな所に、巨大なラッパが。
いや、待ってください。
その後ろにある、あれは。
あれは、なんですか。
まるで、赤と青で作られた。
巨大な弓のような。
213 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:28:03.52 ID:
VhB1aNzu0
次の瞬間、私の身体が大きな衝撃を受ける。
文字通り体がバラバラになりそうな衝撃。
けど、私は自らの身体に宿した因子を総動員し、何とか飛行状態を取り戻した。
ああ、痛い!
痛い痛い痛い!
身体が痛い!
お腹が!
ああ、そうか、連中は!
あのスライム達は、自分達の身体で弓を作ったのだ!
そうして、巨大な木か岩を、私に向けて射出したのだ!
だから私のお腹にこんな大きな穴が!
214 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:29:11.98 ID:
VhB1aNzu0
けど、けど何とか耐えきりました。
ふ、ふふふふふ、これで逃げのびる事が出来る。
一撃で仕留め切れなかったのが連中の敗因です。
私の再生能力を持ってすれば、この程度の穴、数時間でふさがる。
そして……。
私は、貴女達を、決して、決して逃がさない。
次はもっと強力なキマイラを作って、あのスライム達を……。
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:29:47.82 ID:
VhB1aNzu0
「あれ、貴女の顔って、良く見たら私の顔と似てますね」
「ひょっとして、前に会った事あります?」
216 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:30:53.00 ID:
VhB1aNzu0
連中が弓で射出したのは、木や岩ではなかったのだ。
では、何を撃ちだしてきたのか。
それは……。
「ううん、そう言えば、前に貴女から酷い事をされた記憶がある気がします」
「まあ、けど、そんな事はどうでもいいですよね」
「私にとっては、お母さんが、あんな事になっちゃったことが」
「一番辛い思い出ですし」
「それ以外は、本当に」
腹部に空いた穴から這い出した黒いスライムは、私の頭に手を当てて、こう呟いた。
「どうでもいいです」
217 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:32:01.88 ID:
VhB1aNzu0
次の瞬間、合成術師は発狂した。
合成術師の体内に内包していたキマイラ達の因子も全て発狂した。
それらは合成術師の身体を内部から食い荒らした。
その結果。
合成術師は空中でバラバラに飛び散り。
肉片として森に降り注いだ。
218 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 04:57:25.76 ID:CvIRL2wH0
乙
スライム無双たまらん
219 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 05:40:16.47 ID:DmcQPUTLO
最初のがそこに繋がるのか!
乙
220 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:07:01.58 ID:
VhB1aNzu0
〜86日目〜
共和国医療師団報告書より抜粋
天候、晴れ。
村長からの救助指令を受けた私達は、村とその周辺を調査。
情報通り、異形の生物に食われたと思われる死体を多数発見しました。
情報と違っていた点は、異形の生物の死体も多数発見された事。
この村は、迷いの森の狩人と縁があったらしいので、彼女が責務を果たしたのかもしれません。
事情を聴こうにも、彼女の家が何処にあるか不明なので無理なのですが。
死体は全て私達で埋葬予定。
以下、私見です。
先日配属された女医が反抗的です。
私の命令を無視する事が何度か。
転属要請を同封致しますので、どっか別の師団に移してください。
そもそも治療魔法を使える私が居るのに、医者とか不要でしょう。
221 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:08:10.07 ID:
VhB1aNzu0
シスター「はい、報告書作成終わり」
シスター「伝令さん、これを拠点まで届けてくださいな」
シスター「残りの皆さんは遺体を集めてください、埋葬します」
女医「……」
シスター「ほら、女医さんも、手を貸してください」
女医「隊長、この子……」
シスター「……まだ若い娘なのに、可哀そうですね」
シスター「けど、感傷には浸ってられませんよ、死体が腐敗する前に埋葬しないと疫病が……」
女医「いえ、この子はまだ死んでません」
シスター「……死んでいますよ、生命反応がありませんから」
シスター「貴女には魔力が無いので判らないかもしれませんが……」
女医「複数の外傷がありますが、どれも古い傷です」
女医「直接的な死因と見られる傷はありません」
女医「何らかのショックを受けて心停止しただけの可能性があります」
女医「蘇生を試みますので、手伝ってください」
シスター「いや、だからもう死んでますって言って……」
女医「早くなさい!」
シスター「ひゃ、ひゃい!」ビクッ
シスター「……」
シスター「何なんですかこの人、怖いんですけど」ブツブツ
シスター「何で隊長である私が怒鳴られないといけないんですか」ブツブツ
シスター「そもそも、死んだ人間を蘇らせるなんて、出来るはずが」ブツブツ
シスター「え、この人、何してるんです、死体の口に、え、キス?」ブツブツ
シスター「え、え、え……」
222 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:08:57.39 ID:
VhB1aNzu0
共和国医療師団報告書より抜粋
追記。
村の傍にて生存者を確保。
しかし、村人ではありません。
何も食べていなかったのか、非常に弱っています。
ただ、この生存者は村を襲った異形の生物の正体を握っている模様。
詳しい情報は拠点に戻ってから調査する予定です。
私見の追記。
先の転属届けは無効にしてください。
彼女は素晴らしい方です。
まさか死んでしまった人間を生き返らせるなんて。
しかも、その様子が凄く格好よかったです。
彼女は優秀な人間です。
超優秀です。
お給料あげてあげてください。
好き。
223 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:09:24.55 ID:
VhB1aNzu0
「悪魔と人間のキマイラ」である少女は、こうして共和国に保護された。
彼女がどんな顛末を迎えるかは、また別のお話。
224 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:10:02.70 ID:
VhB1aNzu0
〜10000日後〜
〜洞窟内〜
神殿の掃除を終えた私は、物陰に灰色のスライムが蹲ってるのを発見した。
「また来たのですか、ここは気軽に立ち寄っていい場所ではないとあれほど……」
「クロお姉ちゃん、おはなしきかせて」
「……何のお話がいいんですか」
「お母さんのおはなしー」
「ふふふ、貴女はお母さんの話が好きですね」
「かっこういい」
225 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:10:48.24 ID:
VhB1aNzu0
「そうです、お母さんは、凄く格好よくて、凄く優しくて、凄く綺麗なヒトでした」
「私はね、最初にお母さんの姿を見た時、凄く感動したんです」
「何て綺麗なヒトなんだろうって」
「自分も、そうなりたいって」
「だから、私は頑張りました」
「頑張って、お母さんの事を知って、同じ姿になろうとしたんです」
「そして、知れば知る程、お母さんの事が好きになりました」
「お母さんの心も好きになりました」
「けど……」
「同じ姿になるのには、躊躇しました」
「何だか、不謹慎な気がしたんです」
226 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:11:17.73 ID:
VhB1aNzu0
「私は、ヒトの外見を3種類しか知りませんでした」
「一つ目は、お母さん」
「二つ目は、お母さんの大切なヒト」
「三つ目は、記憶には残ってるけど誰だかわからないヒト」
「お母さんの大切なヒトを模すと、お母さんから猛烈に怒られそうな気がしたんで」
「消去法で、三つ目の外見を選択したんです」
「ああ、けど」
「怒られてもいいから、二つ目を選択しておくべきだったかもしれません」
「そうすれば……もしかしたら……」
「私は、クロお姉ちゃんの姿、好き」
「……そうですか、ではこの姿を選択した甲斐があるという物ですね」
「うん!」
227 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:11:57.74 ID:
VhB1aNzu0
「さあ、そろそろお昼の時間ですよ、下へ降りましょう」
「はーい、お母さん、またね」
灰色のスライムは、幼いヒトの姿で、するすると降りて行く。
私達が「水溜り」と呼んでいた穴だ。
もう既に、水は抜いてある。
お母さんの予想通り、その下には広大な地底湖があった。
その水を全て排除し、そこに私達は住んでいるのだ。
228 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:12:38.26 ID:
VhB1aNzu0
「では、お母さん、また明日、来ますね」
お母さんは。
アオの力で作り上げた、巨大な氷の中で眠っている。
私達が、過ごした、あの洞窟で。
天井を塞いで地上への道を閉ざした、あの洞窟で。
あの日からずっと。
ずっと眠っているのだ。
今日も眠っていた。
きっと、明日も、明後日も。
けど、いつの日か。
その瞼が揺れて、目を開けてくれるのだ。
私には、それが判る。
何日かかかわるは、判らない。
けど、何時かきっと。
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:13:06.81 ID:
VhB1aNzu0
「それまで、待ちます」
「ずっと、待ち続けます」
「いつまでだって、待ち続けます」
「例え、地上が滅んでも」
「例え、ヒト族が息絶えても」
「ずっと」
「ずっと」
「私達の巣で」
「だって」
「だって、私達は」
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:14:01.34 ID:
VhB1aNzu0
「神殿」から降りた私は、周囲を見渡す。
ヒカリゴケに照らされた、膨大な空間。
そこには深い森が広がっていた。
兎や、鳥たちの姿も見える。
地上への道を塞ぐ前に集ておいた植物や動物。
それに私達の因子を埋め込んだのだ。
お陰で、太陽の光が無いこの空間でも根付いてくれている。
成長も早い。
「……クロ、聞いて、またアオが我儘言ってる」
「我儘はアカの方だろ、ボクはただもう少し動物を増やしたいって言ってるだけで」
「……増やし過ぎたら、植物が減ると、アカは思う」
「大丈夫、増やした分、ボクの眷族がちゃんと狩るからさ」
「……狩るなら別に増やさなくていい」
何時ものように、騒がしい日々。
高台の上からは、ミドリ達が演奏する曲が流れている。
そう、ここは。
数千匹にまで増えた、スライム達の巣。
私達の、理想郷なのだ。
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:14:43.89 ID:
VhB1aNzu0
きっと、お母さんも気に行ってくれる。
だから、私達は何時までだって待てる。
だって。
232 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:15:09.58 ID:
VhB1aNzu0
「私達は、貴女の事を愛しているのですから」
233 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:15:35.67 ID:
VhB1aNzu0
こうして、スライムの巣での一日が、また始まる。
彼女が目覚めるまで。
完
234 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:16:02.80 ID:
VhB1aNzu0
同一世界線のSS
狙撃手「観測手ってレズなの?」 観測手「ふっへっへ」
幼女「お医者さんごっこするれす」 メイド「嫌です」
235 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 06:25:48.74 ID:kzfB6Fzzo
乙
貴方だったのか
236 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 08:18:11.56 ID:i8md4zI00
おつ
クロ達が最後まで狩人をちゃんと愛してくれたみたいで良かった
237 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/19(日) 09:47:00.93 ID:DWq7qwY20
乙でございます
冒頭へのつなぎ方がおぉってなりました
良いSSありがとうございましたです