2chまとめサイトモバイル
夢を捨てた俺に忘れない夏が来た
Part6


241 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 00:24:09.98 ID:J77VLEdA
こんばんは
今日も続きを書いていきます

242 :名も無き被検体774号+:2015/11/05(木) 00:27:54.96 ID:huuNIk78
待ってたぞ!

243 :名も無き被検体774号+:2015/11/05(木) 00:28:07.83 ID:Crm9S0Ah
おっしゃ!

244 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 00:29:51.06 ID:J77VLEdA
俺も暑かったので、特にそれには何も言わず、
テレビを見ながらおにぎりに噛みつく。
他愛のない朝のニュース。外からは、ミーンミーンと蝉の声がした。
窓のすぐ前には、あのマリーゴールドがちらちらと咲いていた。
元気そうに咲いているということは、
奈央がさぼらずに水をやっているという事だろうか。

245 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 00:31:33.20 ID:J77VLEdA
おばさん「奈央、アンタ今日家にいるんでしょ?」
ふと、居間にやってきたおばさんが奈央に話しかけた。
奈央「多分いるけど。なんでー?」
おばさん「今日おじいちゃんいないから。畑に水やっといてよ」
奈央「ええー?この暑いのに?やだよぉ」
俺はわけも分からず、おにぎりの手を止めて二人の会話を聞いていた。
おばさん「じゃあこの炎天下でおばあちゃんにやらせるの?」
おばさん「家にいるんだから、やっといて」
奈央「えー、でもぉ」
おばさん「お願いね、おじいちゃんも今日は多分夜まで帰ってこないから」

246 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 00:34:53.91 ID:J77VLEdA
おばさんはそう言って足早に玄関から出て行った。
奈央「もう最悪…こんな暑いのに畑なんて出たくない」
俺「畑に水やり?隣の?」
奈央「うん、そう。水あげないといけないの」
俺はよく分からなかったので、続けて質問する。
俺「へーそうなんだ。あれってやっぱり、ぶどうか何かなの?」
奈央「うん、そだよ。ぶどう」
奈央「この辺はみんなぶどう農家ばっかり。毎年やってるよ」

247 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 00:41:51.06 ID:J77VLEdA
俺「へえ、ぶどうかぁ。すごいな、ぶどうなんて滅多に食べないよ」
奈央「そうなの?やっぱり東京ってそういう感じなんだ」
奈央「もうじき嫌って言うほど食べられると思うけどね」
奈央はそう言ってにやにやと笑った。
俺はそれがちょっと可愛いと思ってしまった。
俺「なんだか面白そうじゃん。水やり手伝おうか?」
奈央「え、マジ?手伝って手伝って!」
俺がそう言うと、奈央は喜々として立ち上がった。
奈央「それ食べ終わったら準備してすぐ外に来て!」
そう言い残すと奈央は急いで階段を上がっていった。

248 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 00:45:04.82 ID:J77VLEdA
パジャマであるスウェットから、とりあえずTシャツに着替えてタオルを持って外に出た。
まだ午前中だというのに、茹だるような暑さだった。
遠くの景色がグラグラと沸騰しているように揺らいで見えた。
間違いなく、この夏一番の暑さだった。
奈央は窓先の花に水をやって待っていた。
「そんな恰好でいいの?」と俺の方を見てつぶやいた。
俺「だめなの?」
奈央「いいけど、焼けちゃうし虫に刺されるかもよ?」
そう言われてみれば、奈央は長袖長ズボンで完全防備だった。

249 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 00:46:27.58 ID:J77VLEdA
俺「まあ、それくらいならいいかな。日焼けも虫も、大して気にならないし」
奈央は「ふーん、じゃあいいか」と言って、水道からホースを引っ張っていった。
俺「このホースを、そこの畑まで持っていくの?」
奈央「そだよ。うちには潅水設備とかないからね。いっつもこうやってる」
奈央「私が持ってくから、ホースが絡まらないように、そこで持ってて」
俺「オッケー」
そう言って、奈央はホースをするすると隣のぶどう畑まで伸ばしていく。

250 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 00:47:32.43 ID:J77VLEdA
毎年手伝っているんだろうか、かなり慣れた様子だった。
俺もホースを中継しつつ、隣のぶどう畑に足を踏み入れる。
奈央「あ、そこ!」
俺「へ?」
奈央「ムカデ!ムカデがいるよ!」
俺「うえええ!?」
突然言われて、思わず変な奇声を発してしまう。

251 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 00:48:45.48 ID:J77VLEdA
奈央「あっはっは!ウソウソ!ムカデなんていないよ」
奈央は楽しそうに、大口を開けて笑った。
俺「ひっでー。なんでそんな嘘つくのよ」
奈央「ごめんごめんwでも本当にでることもあるから、気をつけてね」
奈央はよっぽど面白かったのか、しばらくクックック、と笑うのを堪えられないようだった。
数日前には何か落ち込んでいるようだったから、
たとえからかわれても、奈央が楽しそうに笑っているのは何か安心した。

252 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 01:05:04.81 ID:J77VLEdA
水道に戻って合図をする。
俺「じゃあ水出すよー」
奈央「お願いー」
俺が蛇口を捻ると、グオっと水が通うのを感じた。
そのまま小走りでぶどう畑の方に向かう。
頭上にぶどうの樹の葉っぱが幾重にも重なっているから、
ぶどう畑の中には木漏れ日が無数に揺れていた。
風が吹くたびにぶどうの葉も揺れて、木漏れ日もキラキラと瞬いた。

253 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 01:06:31.97 ID:J77VLEdA
その中で真剣な顔をして水をやる奈央を、しばらくぼーっと眺めていた。
俺「へー、こうやって水をあげるんだね」
奈央「そうだよ。でもあげすぎもダメだから、何日かに一回って感じ」
奈央「暑い日が続いたら、ただの水撒きもしたりする」
何もかもが初めてのことで、こんな農作業は初体験だった。
俺「こういうの初めてだから、なんかワクワクする俺」
俺がそう言うと、奈央は「うそーw」と言って笑った。
奈央「まあ、家が農家でもないとこんなんないよね」

254 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 01:12:49.54 ID:J77VLEdA
俺「なんでぶどうに紙袋みたいのかぶせてるの?」
奈央「日焼けしちゃうからだよ」
俺「日焼けぇ?ぶどうが?」
奈央「そう。日光に当てすぎるのは良くないんだよ」
俺「へぇー…」
俺はホースの補助をしながら、水をやる奈央を見ていた。

255 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 01:44:19.93 ID:J77VLEdA
木漏れ日がゆらゆら揺れて、奈央と俺を照らす。それが眩しかった。
奈央「あのさ」
俺「何?」
奈央「…やっぱいい」
俺「は?どうしたの?気になるじゃん」
そう言うと、奈央は申し訳無さそうな表情でこちらを見た。
奈央「なんで、バレーやめちゃったの?」
俺「え」
奈央の言葉に不意を突かれてドキリとしてしまう。

256 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 01:45:25.01 ID:J77VLEdA
奈央「ごめん。本当は聞かない方がいいと思ったけど」
奈央「嫌なら、言わなくてもいいから」
俺はしばらく悩んだ。
どうしてか、奈央にケガの事を言うのは憚られた。
たぶんおばさんにもおじさんにも、
俺が腰を悪くしてバレーを辞めたのは伝わっていないはずだ。
ケガをしてしまった自分が情けなく思えて、俺は隠していたかったのだ。

257 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 01:48:04.17 ID:J77VLEdA
俺「もう、十分やったからね。満足したって感じ」
俺「深い意味はないよ」
奈央「バレー、嫌いになっちゃったの?」
俺は大きく首を横に降った。
俺「まさか。大好きだよ。他のどのスポーツよりも好き」
奈央は、「ふーん…」と言いながら、水やりを続けていた。
何か、見透かされているような気がした。

258 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 01:49:15.93 ID:J77VLEdA
奈央「これが終わったら、対人してくれない?一日ボールに触らないの、不安だから」
奈央「勉強する…?」
俺「お、やる?全然いいよ。じゃあ早く終わらせよ」
俺がそう言うと、奈央は「うん!」と言って笑顔になった。
今は難しい事は考えたくない。
奈央に笑顔が戻ってきたなら、それでいいんだと思った。

259 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 01:50:21.91 ID:J77VLEdA
日差しは相変わらず強い。もう、夏も本番なんだ。
「よし!こんなんでいいかな!」と言った奈央は、畑からホースを撤収し、
家の目の前に向かって勢い良く水を振りまいた。
アーチを描いて霧散した水滴は、
太陽光を反射してプリズムのようにキラキラと散っていった。
燦然たるその光景が、なぜだか俺の胸をきゅっと締め付けた。

260 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 01:52:32.73 ID:J77VLEdA
すみませんが、今日はここまでにします。
つづきはまた明日。
それではー

261 :名も無き被検体774号+:2015/11/05(木) 01:57:21.41 ID:Crm9S0Ah
おつかれー

274 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 21:51:48.43 ID:NHoSgdPp
こんばんは。保守ありがとう
今日も続きを書いていきます

275 :名も無き被検体774号+:2015/11/05(木) 21:53:53.82 ID:M93JDL3P
待ってたよ〜♪

276 :名も無き被検体774号+:2015/11/05(木) 22:30:05.39 ID:aaH4iZXE
wktk

277 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 22:34:33.43 ID:NHoSgdPp
奈央がボールをポンポンと叩きながら玄関から出てくる。
俺は水道で水をがぶ飲みしていた。
奈央「この前と同じ感じでいい?」
俺「ん、いいよ」
俺はびしょびしょになった口元を腕で拭って返事をした。
水を飲んだら、溌剌とした気分になった。

278 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 22:35:53.66 ID:NHoSgdPp
「いくよ」
奈央がボールをひょいっと上げて、俺の元に打ち込んできた。
バンッと両腕でキャッチ(レシーブ)し、奈央の頭上へ優しく返す。
奈央が「さすが」と笑いながら、俺に向かってトスを上げる。
綺麗にトスが上がって、「いける」と感じた。
振りかざした手はバチンッと気持ちよくボールにミートして、
かなりの速さで構えた奈央の元へ飛んでいった。
軌道が安定していたので、
奈央はほとんど動くこと無くレシーブを高々と上げた。
奈央はレシーブしながら痛切な声で「はっや」とつぶやいた。
俺は「ナイスカット」といいながら、少々低めのトスを返す。
奈央は「よし!」と言いながらトスの軌道を見定めて、パシン!とボールを叩いた。

279 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 22:39:17.08 ID:NHoSgdPp
俺の構えとぴったりの所にボールが飛んできて、
「おっけ!」といいながらレシーブを奈央の元へと返す。
奈央も「ナイスカット」と笑いながら俺にトスを上げた。
これまた、いい感じの打ちごろのトスだ。
俺は軽やかにボールを叩いて、奈央の元へ打ち込んだ。
ボールは少々手前に落ちそうになって、俺はまずいと思った。
奈央が、「オーケー!」と叫んで地面に滑り込んだ。
ボールは奈央の目の前でバウンドし、奈央はそのまま地面に倒れこんだ。

280 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 22:51:02.81 ID:NHoSgdPp
俺「あ、あぶないよ!」
奈央「いった…つい癖で、フライングしちゃった」
奈央はそう言うと、俺の方を見て「しまった」という感じで苦笑いした。
俺「その執念は良いと思うけど、今は外だから…手とか大丈夫?」
奈央「うん、平気だよ」
奈央はTシャツが土だらけになっていたが、ケガはなさそうだった。
俺「よかった。大事な試合があるんでしょ?あんまり無茶すんなよ」
奈央「ああいうボール、試合でもよくあるけど、とるのが難しくて」
奈央は服を払いながら立ち上がって、俺の方を見た。

281 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 22:52:05.18 ID:NHoSgdPp
俺はピンと来て、奈央の姿勢を見てみることにした。
俺「ちょっと、レシーブ姿勢とってみて」
奈央「うん?…こうかな」
奈央は膝を曲げて腰の重心を落とした。
俺「うん、間違ってはいないね」
俺「でもそれだと、前にボールが落ちそうな時、すぐ反応できないんだ」
奈央「確かに」
俺もレシーブ姿勢を構えて、奈央の前で見せて上げた。
俺「ただ膝を曲げればいいってわけじゃないんだ」
俺「膝の皿は、自分の足首より前に持っていく感覚なんだ」

282 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 23:02:51.14 ID:NHoSgdPp
奈央「足首の前…?」
俺「そう。そうすると、重心は落ちながらも自然と体は前にいくでしょ?」
奈央「あ、本当だ!なんだか動きやすいかも」
奈央の顔がキラリと光って、何度も何度もその姿勢を確かめた。
俺「これがレシーブの基本なんだ」
俺「相撲の取り組みっぽい姿勢だ、なんて言われたなぁ俺は」
そう言って俺が笑うと、奈央も「ほんとだw」と言って笑った。
俺「俺も高1の頃レシーブ下手だったから、コーチに何度も言われてさ」
俺「もうすっかり、頭から離れないわw」

283 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 23:06:21.40 ID:NHoSgdPp
奈央は輝いた表情で、「うんうん」と頷いて繰り返し姿勢を確認していた。
俺「打ってみるから、カットしてごらん」
奈央「うん、オッケー!」
俺が少しだけ厳しい球を打つと、奈央はススス、と滑らかに移動してボールをカットした。
俺「そう、それだよ!いい感じじゃん」
奈央「わー、なんかぜんぜん違うかも!」
俺「さっきはこの球に飛び込もうとしてたからなw」
奈央「ほんとだよねw」

284 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 23:08:09.08 ID:NHoSgdPp
奈央とバレーをしていると楽しかった。
腰の痛みも、一瞬だけ忘れるようだった。
奈央は俺の言ったことを素直に受け止めてくれ、
それをひたむきに実践しようとしていた。
そんな奈央を見ていると、
俺は失った気持ちを色々と取り戻すような気分になれた。
奈央「1、教えるの上手いね」
奈央は肩で息をつきながら、俺の方を見て言った。
そう言ってもらえるのが嬉しくて、不意に胸が熱くなってすぐには何も言えなかった。
奈央「あっつい。そろそろ水飲んでいい?」
俺「うん、飲みなよ。熱中症になったらやばいよ」

285 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/05(木) 23:09:36.26 ID:NHoSgdPp
昼前の白い日光が庭中を照らしていた。暑すぎる。
奈央「1に教えてもらってたら、めっちゃ上手くなれるかも」
奈央は水道で水を飲みながらそんな事を言った。
俺はやっぱり、その言葉が純粋に嬉しくて、少し恥ずかしかった。
俺「俺のおかげってわけじゃないよ。奈央だって真面目にやってるから」
奈央「だよねーん」
奈央はそう言うと、元気ににかっと笑った。
溌剌とした笑顔、とはこういうものを言うんだろう。
その笑顔を見て、ちょっとだけ胸が騒いだ気がした。

286 :名も無き被検体774号+:2015/11/05(木) 23:11:47.39 ID:7I2c9t8c
>>285
透明すぎる
あなたの書く世界、透明すぎるよ…