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夢を捨てた俺に忘れない夏が来た
Part5


200 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/03(火) 23:22:38.17 ID:vjeDc4kG0
こんばんは
昨日は落ちちゃってすみません…
今夜も続きを書いていきます。

201 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/03(火) 23:23:59.61 ID:vjeDc4kG0
初めて乗る車だったので最初は緊張したものの、しばらく運転していれば
すっかり調子をつかみ、俺の中にも余裕が生まれてきた。
俺「おばさんの車を借りてきたみたいだけど…いいのかな」
奈央「お母さんは自転車で仕事に行くから…大丈夫です」
俺「そっか」
車内に二人きりという事もあって、なかなか会話は続かない。
俺は「奈央に謝らないと」と何度も思ったが、それもなかなかに口にできない。

202 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/03(火) 23:40:49.37 ID:vjeDc4kG0
奈央「あの、なんか…迷惑かけちゃって…すいません」
俺「え、何が?別に、全然いいよこのくらい」
俺「こっちも篭もりきりだし、良い気分転換になるよ」
奈央「そうですか…ありがとうございます」
俺はその奈央の受け答えが妙にモヤモヤした。

203 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/03(火) 23:42:01.59 ID:vjeDc4kG0
俺「その敬語みたいな…やめない?」
奈央「え?」
俺「言うて2つくらいしか変わらないし、親戚なわけだし…」
奈央「あ、じゃあ…はい。分かった」
俺「うん、それでいいよ」
奈央は戸惑いつつも、俺の提案を受け入れてくれた。
俺はなんとなく、それがちょっとだけ嬉しかった。

204 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/03(火) 23:50:03.01 ID:vjeDc4kG0
俺「あのさ、この前はごめんね」
奈央「え、何が?何かあったっけ…」
奈央は本当に何のことなのか分かっていないようだった。
俺「この前、家の庭で対人した時…突然やめちゃってごめんね」
奈央「ああ…あの時の…」
奈央「あれは、私も変な事言っちゃったかなって思ってたし…」
俺「ううん、そんな事ないよ。…だから、ごめん」
奈央もなんて答えていいのか分からないようで、
「いや、そんな…」と言ってしばらく黙っていた。
俺はまた変な空気にしちゃったかな、と思って胸が騒いだ。

205 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:04:01.44 ID:mfxSqCDK0
奈央「もし」
俺「うん?」
奈央「またああいう事があったら、対人してくれない?」
奈央「一人でやるより、ずっと練習になったから」
俺「ああ、いいよ。いい息抜きになるから、声かけて」
そう言うと奈央は、「うん、よろしくね」と笑みを浮かべて手元のスマホをいじり出した。
俺も奈央のその表情を見て、なんだか安心した。
良かった、謝れて。
結局思いつめていたのは俺の一方的な感情で、
奈央はずっとずっと、心の広い子だったようだ。

206 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:06:47.81 ID:mfxSqCDK0
横を見ると、助手席に座る奈央の髪の毛に、キラっと光る髪留めが見えた。
よく見れば、何かオシャレをしているようにも映った。
俺「その、髪留めはー」
奈央「これ?別に……」
俺「いいんじゃない。似合ってると思うけど」
奈央「え、本当に?変じゃない?」
俺はそんな奈央を見てちょっと笑ってしまって、
「大丈夫、変じゃないから」と答えてあげた。

207 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:13:37.09 ID:mfxSqCDK0
奈央は、手に何か大事そうに持っていた。
野球のユニフォームの形をした、お守りのような…そんなものだった。
俺「それは、お守り?」
奈央「あ…ま、そんなとこ」
俺は「ははーん」と思って、微笑ましい気持ちになった。
奈央がどうしてそこまで時間どおりに行くことに固執していたのか、分かった気がした。
そう気づくと、自分でもにやけを抑えるのに必死になってしまって、少し大変だった。

208 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:24:19.50 ID:mfxSqCDK0
30分も車を走らせていれば、目的地である野球場に近づいてきた。
球場の敷地に入って、「駐車場はどこだー」なんて言いながら進んでいると、
奈央が突然「あ、ニシ君!」と外を見て叫んだ。
俺が「は?」と言って聞き返す前に、
奈央は「ここでいいから!止めて止めて!」と座席を揺らした。
俺「帰りは、どうすんの?」
奈央「終わったらガッコ戻るから、別にいい!」
奈央は「ありがとね!」と言って勢い良く車から飛び出して行き、
球場脇にいた数人の野球少年たちの元へと走っていった。
そして、先頭に居た精悍な顔立ちをした少年と話しているようだった。

209 :名も無き被検体774号+:2015/11/04(水) 00:26:00.46 ID:sb28UB8W0
甘酸っぱいw
支援

210 :名も無き被検体774号+:2015/11/04(水) 00:26:01.73 ID:2Ae5m9aD0
青春だな

211 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:29:42.89 ID:mfxSqCDK0
「なるほどーあれが、ニシ君ってわけね」
俺は、「お守りちゃんと渡せたかなw」なんて思いつつ、
おばさんから借りた軽自動車を駐車場に停めて、球場へと向かってみた。
なぜだか知らないけど、俺は妙に楽しくなってしまって、
ちょっとウキウキした気持ちで球場へと歩いて行った。

212 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:31:34.78 ID:mfxSqCDK0
球場と言ってもとても簡素な作りで、
ほとんど屋外運動場のようなものだった。
両校の応援と、父兄らしき人や他校の野球部?が大勢いて、それなりに観客が来ていた。
かくいう俺は一塁側近くの外野席のようなところに座って、
遠くから試合を眺めることにした。
どうやら、奈央たちの高校は一塁側のスタンドのようで、なかなかの大所帯だった。
俺は、「そもそもこれ何回戦なんだ」とか疑問に思いつつ、
頭からタオルをかぶって、おばさんからもらったポカリをグッとあおいだ。

213 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:32:55.40 ID:mfxSqCDK0
昼前の良い時間帯で、球場には屋根も何もないから、
頭上からは嘘みたいに真っ白な日光が降り注いで、
今にも焼け焦げてしまいそうなほどだった。
「ミーンミーン」と遠くから聞こえる蝉の声でぼーっとしていると、
三塁側から「パパパーン!」と「ねらいうち」の演奏が勢い良く始まって、
「あ、始まったんだな!」と体を起こした。

214 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:34:23.33 ID:mfxSqCDK0
遥か遠くで、球児たちが元気いっぱいに躍動している。
どちらの高校が打っても球場全体に「ワアアアア!」という歓声が沸き起こり、
「パーパーパッパパー!」というブラバンの演奏が高らかに鳴り響く。
それは見ていてとても爽快なもので、全然関係ない俺も、
「よっしゃあああ!」「いいぞー!」と声を荒げるほどだった。
ブラバンの演奏がまた面白くて、
エヴァの曲だとか、ドラクエの曲みたいのまで吹いてて、
今はなんでもありなんだなぁ、と聴いていて楽しくなった。
定番の曲もいいが、知っている曲が流れてくると、何だか嬉しい。

215 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:35:50.37 ID:mfxSqCDK0
そんな風にして俺も興奮していると、
『4番、ピッチャー、ニシ、くん』というアナウンスと共に、
先ほどのあの少年が打席に立った。
「ああ、ニシ君、エースで4番なのか。すごいなぁ」
なんて思って、「そりゃ奈央が好きにもなっちゃうわけだ」と笑ってしまった。
今までの演奏よりも一層力強く「パンパーン!!」と「カモンマーチ」が鳴り響いた。
勢いのある曲で、応援する側もついつい力が入ってしまう。
「かっとばせー!ニーシ!ニーシ!」という応援が響き渡る。
その力強い応援から、奈央の高校がことさらニシ君に期待してるんだな、ということが分かった。

216 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:37:54.02 ID:mfxSqCDK0
ニシ君が勢い良く空振りする度に、
悲鳴にも似た「あーー…」という声が響いて、
「オッケー次々!!」という野球部の応援団の声が飛び交った。
俺も全然関係ないのだが、なぜだか彼にすごく打って欲しい気持ちが湧いて、
「かっとばせーにーーし!!」と声を張り上げた。
熱の篭った球場。彼は「カキン!」と快音を響かせ球を跳ね返したが、
内野ゴロに倒れ、あっという間にスリーアウトとなった。

217 :名も無き被検体774号+:2015/11/04(水) 00:40:31.48 ID:5UR156WY0
http://youtu.be/SZByd6U01kw
カモンマーチってこれか

219 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:44:06.21 ID:mfxSqCDK0
>>217
そうそう!これです

218 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:42:58.45 ID:mfxSqCDK0
試合は終始接戦で手に汗握るものだったが、
その日「ニシ君」がヒットを放つことはなかった。
そして、奈央の高校は惜しくも敗北を喫した。
挨拶をし、1塁側スタンドに駆け寄ってくる野球少年たちは肩を落とし、
崩れ落ちて泣いている人もいた。
スタンドの生徒たちも「ありがとーーー!」「おつかれーーー!」と
声を上げていて、その健闘をねぎらっているようだった。
遠くでただ、「ミーンミーン」とうるさい蝉の声が聞こえて、スタンドの喧騒に混じりこんだ。

220 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:47:05.92 ID:mfxSqCDK0
その中心には、泣く野球少年達と、あのニシ君の姿。
俺は心の中で「いいなぁ」と思った。
あの春高バレーの決勝を見に行った時の感情と、よく似ていた。
俺もできることなら、もう一度あの熱情の中に飛び込みたい。
沢山の声援や光を一心に浴びて、仲間と抱き合って駆け跳ねて、
勝ったら大喜びして、負けたら一緒に泣いて…
俺の夢ーそれは、バレーをしたいのももちろんだが…
多分、もう一度だけ、あのキラキラとした輝きと熱さの中に、飛び込みたかったんだ。

221 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:49:41.91 ID:mfxSqCDK0
やり遂げられなかったバレーボール、部活。
例え途中で負けてしまっても、最後までやりきっていたら、
仲間と一緒に走り抜けていたら…
どんな景色が見えたんだろうか。
俺はそれを知らなかったから、見てみたいと思った。
ニシ君や、あの春高決勝で輝いていた選手たちのように…
仲間と一緒に走り抜けた先には、一体どんな景色があるんだろうー
そんなことを思った。

222 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:50:44.79 ID:mfxSqCDK0
試合が終わって、両校の応援や父兄が球場からなだれるように捌けていく。
おばさんからもらったポカリはもうすっかり飲み干してしまったので、
自販機でジュースでも買ってから帰ろうとした。
球場脇にある自販機の前に歩いて行くと、何やら見覚えのあるものが落ちていた。
ユニフォームの形をした…お守りだ。

223 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 00:52:21.44 ID:mfxSqCDK0
最初は目を疑ったが、それは間違いなく、
先ほど見た奈央の作ったものだった。
「どうしてこんなとこに落ちてんだ」と思って手にとった。
お守りには、「NISHI」と背番号の数字が縫い付けてあった。
結び紐が切れているという事もなく、ポケットからうっかり落としてしまったんだろうか。
それか、まさか捨てたのか…
先ほどまで全力で頑張っていたあの少年が、そんな事をするなんて信じられなかった。

224 :名も無き被検体774号+:2015/11/04(水) 01:15:42.79 ID:sb28UB8W0
お疲れ様
楽しみにしてるからな

225 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 01:44:23.30 ID:mfxSqCDK0
すみません、ちょっと離席してましたー

226 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 01:47:12.04 ID:mfxSqCDK0
拾ったものの、これをどうしようか。
奈央に見せた方がいいのだろうか、
もしかしたら渡せなくて、奈央が自分で捨てたのかもしれない。
渡せなかったとしても、自分で苦労して作ったものを捨てたりするだろうか…
考えたら考えただけ、どうしたらいいものか、分からなくなった。
とりあえず、そのままにしておくのもあれなので自分のポケットに突っ込んだ。
これを持って帰ってどうしたらいいのか分からないが、そうするほかなかった。
帰りはまだまだ陽が高い位置にあって、帰ったら勉強しないとな、と思った。

227 :名も無き被検体774号+:2015/11/04(水) 01:51:16.95 ID:EhWQXs2u0
今日はもう終わりかと思ったから嬉しい!

228 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 01:51:31.78 ID:mfxSqCDK0
その日の夜、俺は早々に勉強への集中力が枯渇し、
おばさんと夕飯の手伝いなんかをしていたら、奈央が帰って来た。
鍵を忘れたようで、インターホンを仕切りに鳴らしており、
おばさんに「開けてあげてw」と言われて、俺は玄関のドアを開けた。
俺が鍵を開けて、「おかえり」と言うと、「ただいま」とだけ言って
すぐに階段へと向かっていく。
お守りの事、言った方がいいのだろうか、なんて考えていたら、
奈央は振り返って「今日はありがとうね」とだけ言って階段を上っていった。
疲れているのか、表情はとても暗かった。

229 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 01:52:59.63 ID:mfxSqCDK0
「もうすぐ夕飯になるよ」と言うと、「うん」とだけ答えてくれた。
しかし、奈央が夕飯の場に顔を出すことはなかった。
「あとで食べる」とだけ言い、家族の前に顔を出すことはなかった。
俺はちょっと心配になったけど、女子高生なんてそんなもんだろうか、とも思った。
高校の時、仲の良い女子は大勢いたが、付き合ったりもしなかった。
(美香にはふられてしまったし)
俺は家であの子たちがどんな感じかは知らない。
学校ではみんなノリがよくて、ニコニコしていたけど、
そりゃあみんな家に帰ったら「素」に戻るよな、って一人で納得していた。

230 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 01:55:54.90 ID:mfxSqCDK0
俺なんかが心配したところで、奈央もいい迷惑だろう。
それに俺は浪人生の居候で、わけもわからず突然家に来た奴だ。
そう考えれば、奈央は俺のことをだいぶ受容してくれているだろう。
もっと、根本的に拒否する女の子だっているかもしれない。
そう考えれば、奈央はかなり優しい子なんだろうな、とも思えた。
それも全て、俺がバレーボールをやっていたから、かもしれないが。

231 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 01:57:16.28 ID:mfxSqCDK0
それから数日後の朝、とんでもない暑さで目が覚めた。
熱気と自分の汗で溺れるんじゃないか、と思うくらいの目覚めだった。
間違いなく、ここに来てから一番の熱さだった。
一階に降りると、一番におばさんに話しかけられた。
おばさん「今日は暑いね〜今麦茶出すから待っててね」
俺「本当に暑いですね…」
おばさん「熱中症にならないように、気をつけてね」
そう言われて差し出された麦茶を飲んだ。

232 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 02:00:06.83 ID:mfxSqCDK0
俺「今日は、おばあちゃん達は」
おばさん「おばあちゃんなら、部屋にいるじゃない。おじいちゃんは出かけてる」
おばさん「私そろそろ仕事にいくけど、そこにおにぎり作っといたから、食べてね」
ありがとうございます、と答えて居間の方に行くと、
壁に寄りかかってアイスを食べている奈央がいた。
俺が「おはよう」と言うと、「おはよー」と気持ちの篭っていない声が返ってきた。
俺は居間のテーブルに置かれていたおにぎりを食べながら、話しかけた。

233 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 02:03:20.39 ID:mfxSqCDK0
俺「今日は、部活は?」
奈央「今日は休み」
俺「あ、そうなんだ」
奈央「宿題しないとなー」
話しながらも、奈央の視線は終始テレビの方を向いていた。
窓は開け放たれていて、すぐそばに扇風機が置かれている。
ゴオオオオ、と轟音を放ち、明らかに強になっていた。
他の家族は皆、強にはしない。おそらく、奈央の仕業だ。

234 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/04(水) 02:04:46.68 ID:mfxSqCDK0
今日は一旦ここまでにします。
見てくれている人ありがとうー
また明日来ますね。

235 :名も無き被検体774号+:2015/11/04(水) 02:15:59.65 ID:E7HpWHJ3O
おつかれさま!

239 :名も無き被検体774号+:2015/11/04(水) 19:58:21.08 ID:QEYH360h
夏の田舎のなんでもない描写が、妙にリアルで胸にくるな

240 :名も無き被検体774号+:2015/11/04(水) 20:12:52.82 ID:Hkh4Arlw
暑い日差しとともに、田畑を吹き抜ける爽やかな風を感じるよw