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夢を捨てた俺に忘れない夏が来た
Part14


649 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 22:16:03.49 ID:PVGs7r0u
この状況になっても奈央もみんなも、笑顔を絶やさなかった。
そうなんだ。
バレーは楽しい。そういうものなんだ……
きっと、ずっと、そうで…
そんな事を思って感極まり、しばらく黙って見守っていたが、
すぐに声をかけた。
俺「カットの時は、姿勢を低くして、膝は足首の前、だよ」
「はい!」
俺「大丈夫、決して流れは悪く無い」
俺「みんな、すげー頑張ってるもんな?」
「はい!」

650 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 22:23:30.43 ID:PVGs7r0u
俺「次のセットが、本当に最後なんだ」
俺「みんな、楽しんでいこう!」
俺がそう言うと、全員の「はい!」という力強い声が響いた。
最終セットが始まる直前、奈央が俺の前に立っていた。
ぐっと拳を握って、小さなガッツポースを作ってみせた。
奈央「楽しんでくる」
にこっと笑って、そのままコートの中へと駆けていった。

651 :名も無き被検体774号+:2015/11/22(日) 22:27:29.03 ID:5wQ7Ysjm
わくわく

652 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 22:29:57.69 ID:PVGs7r0u
瞬間、風が吹いた気がした。
実際に吹いたかは分からないし、「吹き始めた」という方が、
正しかったのかもしれない。
ただ、本当に俺の心の中に熱い風が通り抜けた気がした。
最終セットは大接戦だった。
15点マッチの短い試合が、あっという間に15-15となった。
ここまで来ると、体育館の中には大勢のギャラリーがいて、
両校の応援も鬼気迫るものとなる。

653 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 22:33:52.88 ID:PVGs7r0u
そんな切迫した状況の中で、こちらのサーブが失敗してしまい、
15-16のスコアとなった。
あと1点とられたらー
チームの雰囲気が重くなって、大きなプレッシャーがかかる。
エースの奈央は後衛にいた。
全員が気を落としたその瞬間だった。
奈央「大丈夫だよ!諦めないでいこう!!」
奈央の今日一番のかけ声が、コート上でこだました。

654 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 22:40:33.15 ID:PVGs7r0u
俺もはっとして、「大丈夫だ!!一本とるぞ!!」と声を出した。
千景もそれに気づいて、「一本一本!落ち着いてこー!」
と声を上げた。
笛が鳴って、相手チームの痛烈なフローターサーブが飛んでくる。
千景が思い切りフライングし、コートに転がりこんでキャッチした。
場内に「おお!」とどよめきが湧いて、
チーム全員が「あがったー!!」と声を枯らして叫んだ。

655 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 22:44:24.54 ID:PVGs7r0u
セッターの子が懸命にトスを上げて、センターの子がフェイント気味に返した。
そのフェイントが相手の虚を突き、1点返すことに成功した。
「うわあああ!!」と歓声が湧いて、
流れが一気にこちらへと戻ってきた。
俺「よっしゃぁ!ナイスファイト!!」

656 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 22:50:03.97 ID:PVGs7r0u
滑りこんでレシーブを上げた千景は、コート上で仲間に囲まれて笑顔だった。
16-16だ。
1点返したことで、後衛にいた奈央が前衛へと戻ってきた。
俺「よっしゃ、もっかいこっから!落ち着いていこう!」
俺はコート上に立つ6人に、懸命に声を送り続けた。

657 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 22:55:02.76 ID:PVGs7r0u
こちらのサーブが通って、相手コートでレシーブが上がる。
しかしトスが乱れて、相手のスパイクミスとなった。
悲鳴にも似た歓声が湧き上がって、
奈央たちはコートの中で飛び跳ねて喜んだ。
ベンチにいた俺も、控えの子も、「おっしゃぁ!」と言って叫んでしまった。
17-16。
あと、1点だ。
あと1点で、全てが…

658 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 22:59:37.03 ID:PVGs7r0u
笛が鳴る。こちらのサーブは綺麗に相手コートに飛んでいき、
綺麗にレシーブが上がった。
強いスパイクが返ってくる。
しかし千景が上手くカバーにまわり、
運命的とも言える綺麗なレシーブがセッターの元へと上がった。
奈央「レフトォ!」
レフトでは、奈央が待っている。
体育館の中にいる全員が奈央を見ていたかもしれない。

659 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:03:29.00 ID:PVGs7r0u
俺は「奈央、いけぇ!!」と叫んだ。
奈央の待つレフトに、綺麗なトスが上がった。
心臓が、バクリと大きな音を立てた。
体育館じゅうの熱視線と光を浴びた奈央が、高く飛んだ。
まるでストップモーションのように、コマ送りで時間が進んだ。
奈央が打ったスパイクは、
相手コートに叩きつけられた。
その瞬間、全てが爆発したかのように、
「わっ!!」と歓声が巻き起こった。

660 :名も無き被検体774号+:2015/11/22(日) 23:08:30.58 ID:X7f1dezK
すげえな…
光景が目に浮かぶ

661 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:09:17.04 ID:PVGs7r0u
スパイクを決めた奈央は、コートを駆け回って声を上げた。
ピィ、と笛高らかにが鳴って、奈央たちが勝利したことを告げた。
奈央はコートの中で涙目になり、まるで真夏の太陽のように、
溢れんばかりの笑顔をこぼしていた。
その太陽のような笑顔が、俺の心を照らした。

662 :名も無き被検体774号+:2015/11/22(日) 23:11:21.07 ID:InSBrJXx
よっしゃ!勝った勝った!

663 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:11:59.47 ID:PVGs7r0u
瞬間、その光で俺の未来が見えた。
俺は、はっきりと気づいてしまったのだ。
この一週間、どれだけ楽しくて、
今この瞬間、自分がどんな想いを抱いているか。
夢が、できた。
奈央の笑顔が、俺の夢への道を明るく照らした。

664 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:16:10.62 ID:PVGs7r0u
挨拶が終わって、奈央たちが監督席の俺の前に集まってくる。
奈央は、もうぼろぼろと泣いてしまっていた。
奈央「うぇぇ…やったぁ…」
「先輩…」
奈央が泣くのにつられて、他の部員もどんどん泣き始めている。
俺まで、涙目になってしまった。
俺「みんな、本当によくやったよ」
目を真っ赤にしたみんなが、俺の方を見ていた。
俺「特に、3年生」
俺「今日の試合は…いや、バレーは楽しかった?」
俺がそう言うと、3年生たちは仕切りに目をこすって泣き始めた。

665 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:19:23.55 ID:PVGs7r0u
俺「今まで本当にがんばったね」
俺「バレーが好きだったら、これからも続けてね」
そう言うと、
「はい!!」という力強い返事がかえってきた。
その後、沢山の仲間や後輩に囲まれて泣き笑いする奈央の姿を見て、
泣きそうになるくらい心の底から温かいものが湧き上がった。
試合後の興奮や喧騒がおさまるまでは、時間がかかりそうだった。

667 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:26:53.51 ID:PVGs7r0u
今は、3年分の達成感、思い出、充実感、それに浸っていて欲しい。
みんなも、奈央も、本当によく頑張ったんだ。
俺はそんな事を思って体育館の天井を見た。
一人だったら、この体育館の天井は高すぎる。
でも、誰かと一緒だったら…この天井にだって届くかもしれないな、
なんて思って、笑ってしまいそうだった。
バレーを続ける方法は、何も一つじゃない。
いつの日にかも思ったが、誰だって諦めなければ、
輝くことができる。
きっと、そうなんだ。

668 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:34:13.99 ID:PVGs7r0u
俺はその後、体育館の外の水道に座って、一人で空を眺めていた。
抜けるような大きな青空で、
まるで今の俺の気持ちを反射しているかのようだった。
眩しい。とにかく眩しいが、俺は見つめ続けていた。
奈央「何やってんの、こんなとこで」
目を赤くした奈央が、俺の隣に座ってきた。

669 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:35:26.35 ID:PVGs7r0u
俺「みんなのとこいなくていいのか」
奈央「うん。どうせまた後で話すしね」
俺「そっか」
風が吹き抜ける。熱気の篭った、夏の風だ。
横を見ると、奈央も目を細めて空を眺めていた。
短くなった髪型で、白い首筋が太陽光を反射した。

670 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:37:30.36 ID:PVGs7r0u
俺「なあ、奈央」
奈央「どーしたの」
俺「俺さ、夢を見つけたんだ」
俺がそう言うと、奈央はこちらを見つめた。
太陽の光を映しこんだ、澄んだ瞳だった。
俺「高校の先生になって、バレー部の顧問になる」
俺「それで、一生バレーを続けるんだよ」
俺がそう言うと、
奈央は「本当?」と言って笑顔を見せた。

671 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:40:38.02 ID:PVGs7r0u
俺「だからね、東京の教育大学に行くんだ」
俺「今度は、絶対」
俺「これは、俺の夢だから」
奈央は「ふふ」と吹き出し、満面の笑顔で
「頑張ってよね」と言った。
そんな風に笑う奈央を見て、俺の胸が熱くなった。

672 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:41:59.37 ID:PVGs7r0u
奈央「私は、どうしようかな…」
奈央「バレーも、夢も、まだ見つからないよ…」
瞬間、俺の奈央への気持ちが溢れだした。
俺は、横に置かれていた奈央の手を握った。
奈央「え…?な、何…?」
俺「奈央、今まで本当にありがとう」
俺「奈央に会えたから、夢が見つかった」

673 :名も無き被検体774号+:2015/11/22(日) 23:42:54.34 ID:X7f1dezK
おお!頑張ったな!!

674 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:48:38.39 ID:PVGs7r0u
奈央は照れくさそうに、顔を伏せた。
奈央「え、そんな…別に私は何も…」
俺「ううん、奈央がいなかったら、俺はずっと前のままだった」
俺は奈央の手を強く握りしめた。
俺「奈央、東京で待ってるから」
俺「一緒に、東京の大学に行こう」

675 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:52:40.96 ID:PVGs7r0u
俺のその言葉に、奈央は「…頑張ってみるね」と答えた。
俺は嬉しくて、「うわ、やった!」と言ってしまった。
空はよく晴れていた。
その青さはどこまでもどこまでも広がっているようだった。
夢の始まりの日、それは一夏の出会いだった。

676 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/22(日) 23:55:22.42 ID:PVGs7r0u
一度はなくした夢が、再び輝きを帯びて目の前に現れた。
そんな俺の話でした。
ということで、この話はここでおしまいです。
1ヶ月弱の間、付き合ってくれた人、ありがとう。

677 :名も無き被検体774号+:2015/11/22(日) 23:59:02.32 ID:X7f1dezK
お疲れ様。
いい話だったよ…

680 :名も無き被検体774号+:2015/11/23(月) 00:03:19.19 ID:2HFLBwDh
おつかれさまでした!
完走してくれてありがとう♪

681 :名も無き被検体774号+:2015/11/23(月) 00:03:56.24 ID:FFRBfVDB
いい話をありがとう
もしかしてだけど、ゲーセンの作者さんでは無いよね?

682 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/23(月) 00:04:42.91 ID:/6Gd4nKA
最後に、この話は私富澤南の創作でした。
なので、物語として楽しんでもらえたらな、と思います。
ここまで読んでくれた人、ありがとうございました。

683 :名も無き被検体774号+:2015/11/23(月) 00:05:18.34 ID:U+D+iXqR
おつかれさま♪
そして ありがとう(^^)

679 :名も無き被検体774号+:2015/11/23(月) 00:02:26.74 ID:kYCyV60W
いやぁ良かったわぁ…
質問とかだめなのかな?

684 :1 ◆aPqsLiX.0g :2015/11/23(月) 00:06:52.34 ID:/6Gd4nKA
ここでも可能な限り質問に答えますが、
スレはいつか落ちてしまうので…
ご意見・感想等ありましたらTwitterでお願いします。
https://twitter.com/tomizawa_2ch
それでは、ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました!

685 :名も無き被検体774号+:2015/11/23(月) 00:08:28.27 ID:kYCyV60W
やっぱりアンタかぁ
一貫して本当に透明な物語で、
すばるあたりの新人賞作品だって言われても疑わないレベル。
ありがとな

689 :名も無き被検体774号+:2015/11/23(月) 00:13:19.54 ID:mDw/jKnV
気持ちがすーっとしたわ
あー早く夏にならないかなー

690 :名も無き被検体774号+:2015/11/23(月) 00:13:41.18 ID:PxrS/rPM
ありがとう。
今回のは本当に透き通った物語だった。
あと最初の星城と大塚の描写とか、山梨のブドウ畑の描写とか、すげえリアルだったわ。

691 :名も無き被検体774号+:2015/11/23(月) 00:32:27.38 ID:+p3IwQhI
やっぱり貴方でしたか
今回も美しい物語ありがとうございました

703 :名も無き被検体774号+:2015/11/23(月) 07:42:16.32 ID:zz+L2zdL
やはりプロの方でしたか。短編集に入れてください。素晴らしい。