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少女「記憶の中でずっと二人は生きていける」
Part2


35 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 19:45:33 ID:SMJlWAL.
少女「ここで一日過ごしてたらいいのね」
男「ヒマだなあ」
天使「四方の白い壁は、念じれば現実世界の様子が見られるスクリーンになります」
少女「へえ」
男「すげえ」
天使「それを見て、現世との別れを惜しむのも悪くないかもしれません」
少女「ううん、どうしよ」
天使「見る見ないは自由ですから、お好きになさっていてください」

36 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 19:53:47 ID:SMJlWAL.
バタン
男「なんの話、してたっけ」
少女「もう、いいよ」
男「あ、そうだ、君の友だちの話」
少女「うん、もう、いいの」
男「好きだったんだろ、見ないの? スクリーンで」
少女「……どうしよっかなあ」
男「怖いか」
少女「そりゃあね」
少女「あんただって、そうでしょ」
男「まあね」

37 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:01:34 ID:SMJlWAL.
少女「あんたもさ、そのハンカチの持ち主の女の人がさ、重荷に思ってないか心配なんだ」
男「ていうか、おれの場合は完全におれが悪いからなあ」
少女「そうだけど」
男「目の前で自分のハンカチ持ったまま落ちて死んだ同級生に、同情はできないよなあ」
少女「そうだけど、さ」
男「トラウマになってないか、心配」
少女「あはは、そっちか」

38 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:38:41 ID:SMJlWAL.
男「おれは、見てみようかな」
少女「……そう」
男「別に、君も見てもいいからな」
少女「……うん」
男「んっと、どうやんのかなあ」
ヴォーン
男「お、出た出た」
少女「……」

39 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:45:10 ID:SMJlWAL.
男「……」
『あいつは……まだ……18だぞ!!』
男「兄貴……」
『どうして……どうして……くぅっ』
男「ははは、なんか、申し訳ないな」
『馬鹿野郎……おれより先に死にやがって……』
男「親父……」
『くそっ……くそっ……』
男「……」

40 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:51:01 ID:SMJlWAL.
少女「ねえ、辛くなるなら見ない方が……」
男「いい、全部見る」
少女「でも」
男「辛くなってもさ、仕方ねえじゃん」
男「そもそもおれが阿呆な死に方をしたのが悪いんだし」
少女「ん……」
男「反省して、うん、天界でも冥界でも行って、もっと反省する」

41 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:57:54 ID:SMJlWAL.
『馬鹿な死に方して……あの子はほんとに……』
男「母ちゃん……」
『なんで……なんでこんな……』
男「母ちゃん、御免」
男「おれが悪いんだよ」
『屋上でふざけあってたって言う、あの子たちが悪いのよ……』
男「違う!! おれが悪いんだ!! あの子は悪くないんだ!!」
男「おれが……」

42 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:04:26 ID:SMJlWAL.
少女「……」
ヴォーン
『あの子は、優しい子だった』
少女「お姉ちゃん……」
『私には、ないものを、たくさん……うぅっ』
少女「……」
『早すぎる……早すぎるわよぉっ……』
『本当に……どうしてあの子が……』
少女「ママ……」

43 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:13:38 ID:SMJlWAL.
『あの子が事故に遭っているとき……おれは……涼しい部屋で……書類なんか見ていて……』
『あの子の苦しみも知らず……あの子を想ってやれず……』
少女「パパ……」
『もっと……もっと構ってあげれれば良かったっ……』
少女「うっ……うっ……」ポロポロ
『それは、私も同じよ……』
『あの子……ずっと私に遠慮していたもの……』
『もっとお姉ちゃんらしいこと……してあげるんだったわ……』
少女「そんなこと……言わないで……」ポロポロ

44 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:19:27 ID:SMJlWAL.
プツン
男「……」
少女「見るの、やめちゃったの?」
男「ああ、ちょっと、精神的に来るものがあるな」
少女「……私も」
男「なんだ? 目が赤いぞ?」
少女「……気のせい」スイッ

45 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:24:10 ID:SMJlWAL.
男「泣いたのか」
少女「……」
少女「いいじゃない、別に」
男「悪いなんて、言ってないよ」
男「悲しくて泣けるなら、人間らしい」
少女「人間らしくなかったら、どうなるの?」
男「悲しくても泣かない」
少女「そんな人、いっぱいいるでしょう」
男「じゃあ、えっと、悲しいとき笑う」
少女「それ、ただの変な人じゃん」

46 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:36:57 ID:SMJlWAL.
男「悲しいという感情がない」
少女「ああ、それは人間らしくないね」
男「……」
男「……なんの話をしてたんだっけ」
少女「忘れちゃった」
男「悲しいのはどんなとき、って話だっけ」
少女「そんな話、してたかな?」

47 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:44:53 ID:SMJlWAL.
男「おれさ、15のときにさ、ばあちゃんが死んで」
少女「うん」
男「病院で、めちゃくちゃ泣いたんだ」
少女「……うん」
男「身近な人が死ぬのって、それが初めてだったから」
少女「……うん」
男「なんか、リミッターが外れたって言うか、ボロボロ涙が勝手に出てさ」
少女「……うん」

48 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:49:33 ID:SMJlWAL.
男「でも、落ち着いたら、すごくすっきりしたんだ」
男「ばあちゃんは、高齢だったし、大きな病気とかもしなかったし」
男「天国で幸せに暮らしてね、って素直に思えたんだ」
少女「寿命なの?」
男「うん、まあ、そうかな」
少女「私、おじいちゃんもおばあちゃんも、まだ生きてるの」
男「そっか、羨ましいね」
少女「でもいつか、死んじゃうんだよね」
男「そうだね」

49 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:57:28 ID:SMJlWAL.
少女「私ね、お葬式って、行ったことがないの」
男「そう」
少女「どんな感じ?」
男「ん、みんな下向いてて、寂しくて、暗い感じ」
少女「行ったことあるの?」
男「ばあちゃんのとき、一回だけだけどな」
少女「悲しかった?」
男「おれは、病院でひたすら泣いたから、葬式では泣いてないよ」
少女「そっか」

50 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 22:05:35 ID:SMJlWAL.
男「なんか、気になる?」
少女「ん? んっと、私のお葬式って、どうなるのかなあ、とか」
男「ああ、そうか」
男「明日は、おれたちの葬式か」
少女「今日じゃないの?」
男「今日はお通夜かな、たぶんね」
男「宗派にもよるだろうけど」
少女「宗派ってなに?」
男「仏教か、神道か、みたいな」

51 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 22:13:27 ID:SMJlWAL.
少女「仏教はわかるけど、神道ってなに?」
男「えっと、家に神棚か仏壇かある?」
少女「神棚があるよ」
男「じゃあ君んとこは、神道だ」
少女「そうなの?」
男「たぶんね」
男「それ以上の細かいことは、詳しくないけどさ」
少女「ふうん」

52 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 22:24:43 ID:SMJlWAL.
男「今日、お通夜があって、明日は火葬して……」
少女「火葬って……」
男「焼いて、埋めるんだよ」
少女「私たちの身体、焼かれちゃうの?」
男「……そうなるね」
少女「身体、なくなっちゃうの?」
男「……そうだね」

53 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 22:30:43 ID:SMJlWAL.
少女「なんか、実感わかないなあ」
男「まあ、まだ実体はあるもんねえ」
少女「お通夜の様子、見てみようかな」
男「悲しくなるよ?」
少女「悲しくて泣くのが、人間らしいって、さっき言ってたじゃん」
男「そうだけど……」
少女「泣いてすっきりするの、私も」
男「そうかい」

56 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 18:27:26 ID:fk88xNuI
いいね

57 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 20:38:39 ID:vXX/6iJ2
少女「今何時なんだろうねえ」
男「わっかんねえなあ」
少女「ここに来てからどれくらい経ったんだろうねえ」
男「わっかんねえ」
少女「なんかさあ、こういう映画あったよね」
男「どんな?」
少女「なぜか、見知らぬ部屋に閉じ込められてるってやつ」
男「よくあるよな」
少女「ホラーにもコメディにもあるよねえ」
男「ああ」

58 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 20:45:49 ID:vXX/6iJ2
少女「ああいう人たちって、どうやって時間を知ってたんだっけ」
男「さあ?」
少女「携帯とか、持ってない?」
男「ポケットにはなんも入ってなかった」
少女「そっか」
男「ハンカチも、持ってなかった」
少女「それは、いいでしょ、別に」
男「あいつの」
少女「ああ」

59 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 20:52:35 ID:vXX/6iJ2
男「まだ、現世は明るいみたいだったけれど」
少女「お通夜って、夜だよね、だいたい」
男「まあそうだろうな」
少女「それまで、なにしようかなあ」
男「あの、友だちの」
男「やっぱなんでもない」
少女「ははは、私もそれ考えてたんだけどさ」
男「……うん」
少女「やっぱちょっと、勇気、いるよね」
男「ああ」

60 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 20:59:11 ID:vXX/6iJ2
少女「でも、見ないと、きっと後悔する」
男「そうだな」
少女「だから私、見るよ」
男「偉いな、君は」
少女「え?」
男「おれがビビって足踏みしてる間に、どんどん先に行くんだもんな」
少女「でも、スクリーンを最初に見たのは、あんたの方だったでしょ」

61 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:09:17 ID:vXX/6iJ2
男「そうだっけ」
少女「あんたも、友だちの姿を見るのを怖がってる」
男「……ああ」
少女「私も、怖いよ」
男「……だろうね」
少女「だからさ、せーので見ようよ」
男「……はは」
少女「なによ」
男「いいアイデアだ、と思ってね」
少女「……でしょ」

62 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:17:15 ID:vXX/6iJ2
……
男「よし、じゃあ見よっか」
少女「うん」
男「背中合わせで座ろうか」
少女「……うん」
男「ふーっ」
少女「ふーっ」
男「よし、いくぞ」
少女「や、や、や、ちょっと待って!!」

63 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:22:42 ID:vXX/6iJ2
男「なんだよ」
少女「心の準備が」
男「ったく、さっきまでの威勢はどこ行った」
少女「大丈夫、大丈夫」
男「そうそう、大丈夫」
少女「うん」
男「どうせさ、おれらは死んでるんだから、客観的に見てようぜ」
少女「そんな自信ないけど……」
男「いいから、ほら、いくぞ」
少女「うん」

64 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:29:13 ID:vXX/6iJ2
ヴォーン
男「あれ、もう、お通夜の時間?」
ざわざわ
男「クラスのやつら……先生……叔父さん……叔母さん……」
『あんなにいい子が……』
『このたびは誠に……』
『お悔やみ申し上げます……』
男「みんな……」
ぐすっ……えぐっ……ひっく……
男「みんな……おれのために……」