母「良い子にしかサンタさんは来ないのよ」少年「なんで?」
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Part1
母「良い子にしかサンタさんは来ないのよ」少年「なんで?」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:28:21.65 ID:
QdtUCwboO
あるところに1人の少年がいました。
彼はまだ幼いながらも利発で、人一倍好奇心が強い子供でした。
季節は冬。
心踊る年に一度のイベントがいよいよ差し迫ってきたある日のこと。
この時期にありがちな、ある種、教訓の1つとして口にした母親の何気ないその一言が、少年の探究心に火をつけました。
少年「どうしてサンタさんは良い子のところにしか来てくれないの?」
別に少年は悪い子ではありません。
小学校から出された宿題は欠かさず提出してますし、家の手伝いもこなす、それはそれは良い子です。
そんな少年の純粋な瞳に射抜かれた母親は、困ってしまいました。
母「それは……そうねぇ……サンタさんは、良い子にご褒美をあげる人だから……かしら?」
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:30:01.93 ID:
QdtUCwboO
そんな母親の曖昧な物言いに、到底納得出来ない少年は追求を続けます。
少年「でも、悪い子だってきっとサンタさんに来て欲しいと思ってるよ」
母「そうね。だから、サンタさんに来てもらう為に良い子にならないといけないのよ」
今回の返答には、わりと自信がありました。
なにせ正論です。
諭すように母親にそう言われて、少年もこれ以上追求することはない……と、思いきや。
少年「……悪い子だって、サンタさんに会えたら、もう悪いことはしなくなるよ」
唐突に不思議なことを言い出しました。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:31:02.60 ID:
QdtUCwboO
母「それはどういう意味?」
母親は少年の言ってることがよく分からずに、思わず聞き返します。
すると少年は、ゆっくりと自分の考えを言葉にして母親に伝えました。
少年「えっとね、たとえば泥棒さんがいるでしょ?」
母「泥棒さんがどうしたの?」
少年「泥棒さんのところにサンタさんが来てくれたら、きっとその人は……泥棒なんて悪いことをしなくなると思って」
なるほど。
突拍子もない発想ではありますが、確かに理に適っています。
しかし、それは人が生まれ持って善性を有していると仮定しての話です。
この純粋無垢な少年は、まだ性善説や性悪説など知るよしもないでしょうが、世の中には、たとえサンタさんに出会えたとしても、悪の道を突き進む根っからの悪党が存在するのです。
ですが、それを説いて聞かせるには、少年はまだ幼すぎました。
さて、どうしたものか。
母親は少しばかり悩み、そして結論を出しました。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:32:21.04 ID:
QdtUCwboO
母「あのね、よく聞いて。泥棒はいけないことだって、わかるわよね?」
少年「うん」
母「いけないことはしてはいけないの。わかる?」
少年「……うん」
母「泥棒さんはいけないことをした。だから、泥棒さんにはサンタさんが来ないの。わかるわね?」
少年「うん……でも……」
少々強めの口調で説き伏せる母親に、流石の少年も勢いを失いましたが、それでもまだ納得をするには至りません。
心優しい少年は、きっとサンタさんが来てくれない泥棒のことを憐れんでいるのでしょう。
そんな少年の優しさを汲みつつも、母親は少年を納得させるべく、最後のひと押しを言い放ちます。
母「大丈夫。泥棒さんが泥棒をしなくなったら、きっとサンタさんは来てくれるわ」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:33:26.75 ID:
QdtUCwboO
少年「ほんと?」
少しばかり強引な理屈ではありましたが、そこに含まれる希望に少年は目を輝かせて食いつきました。
こうなればシメたものです。
母親は柔らかに微笑んで、少年の追求に終止符を打ちました。
母「ええ。本当よ。だから、泥棒さんに限らず、悪いことをしている人には注意すること。はいっ!この話はおしまい!いいわね?」
少年「うんっ!」
にっこり笑って少年は頷きます。
そんな素直で可愛い少年の頭を撫でていると、玄関の扉が開く音が聞こえました。
父「ただいま〜……ん?どうかしたのか?」
少年「お父さんおかえりなさい!」
母「おかえりなさい。まったく、あなたはいつも一足遅いんだから……」
まるで事態が解決したのを見計らったかのように帰宅した父親に母親は苦笑しつつ、夕食をテーブルの上に並べ、先ほどの話を交えながら、穏やかな団欒の時を過ごしました。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:34:43.68 ID:
QdtUCwboO
あくる日。
小学校にて。
友1「やべぇー!どうしよー!?」
少年の友達が、何やら騒いでいます。
何事かと、少年は事情を聞きました。
少年「どうしたの?」
友1「いや、それがさ〜……親に出すプリントを忘れててさぁ」
少年「それってたしか、今日までだったよね?」
友1「そうなんだよ……あーどうしよう!?母ちゃんに怒られるー!!」
頭を抱えて絶望する友達を見て、少年は昨日母親に言われたことを思い出します。
『良い子にしかサンタさんは来ないのよ』
その言葉を思い出した少年は、思わずそれを口に出してしまいました。
少年「昨日ぼくの母さんが、『良い子にしかサンタさんは来ない』って言ってた。だから、ちゃんと謝って許して貰った方がいいよ」
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:35:54.04 ID:
QdtUCwboO
友達のことを思っての発言だったのですが、当の本人は口をポカンと開けて……
友1「あははははははは!なんだよ、そんなこと本気で信じてるのか?」
盛大に笑い出しました。
それを受けて、今度は少年がポカンと口を開けます。
何故笑われているのだろう?
自分は何かおかしなことを言ったのだろうか?
そもそも、この友達の物言いでは、まるで自分が騙されているかのようではないか。
騙されている?
誰に?
母親に?
そんな答えの出ない疑念が、頭の中をぐるぐる回り、少年は堪らず聞き返します。
少年「ど、どういうこと?ぼく、なにか間違ってる?」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:37:03.88 ID:
QdtUCwboO
そんな少年の戸惑う様子を見て、友達はゲラゲラ笑うのをやめ、代わりに口元をピクピクひくつかせながら説明します。
友1「いいか?まず、昨日お前が母ちゃんに言われたったいう、『サンタは良い子のところにしか来ない』だったか?そんなのは……嘘っぱちだ」
初めから全否定。
あまりのことに少年の頭の中は真っ白になりました。
しかし、それでは……
少年「そ、そんな……母さんは、ぼくを騙したの?」
そう、母親は少年のことを騙した、という結論に行き着きます。
ショックを受ける少年に、友達は慌てて説明を付け足しました。
友1「待て待て。別に騙したわけじゃないだろうよ。きっと、お前に悪い子になってほしくないから、そう言ったんだよ」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:38:08.82 ID:
QdtUCwboO
そう言われても、少年としては釈然としません。
ですが、少しは冷静になることが出来ました。
騙す騙されたはこの際置いておくことにして、まず先に、この友達の言い分が正しいのかどうかを見極める必要があります。
人に言われたことをなんでもかんでも鵜呑みにするのは危険だと、少年は学びました。
少年「それより、君はどうしてそれが嘘だと思うの?その理由を聞かせて欲しい」
持ち前の利発さを取り戻した少年の質問に、友達はニヤリと不敵な笑みを浮かべてこう返しました。
友1「なぜかって?そりゃあ単純なこった。なにせ……この俺が、毎年クリスマスプレゼントを貰えているんだからな!」
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:40:12.84 ID:
QdtUCwboO
それはとても説得力のある事実でした。
なにせこの友達はお世辞にも『良い子』とは言えず、たびたび先生に注意されるような、どちらかと言えば『悪い子』だったのです。
とは言え、根っからの悪い子……所謂、『不良』というわけではなく、愛嬌のある気の良い性格なのですが、どこか抜けているところがあって、間が悪かったり、忘れ物をしてしまうような、そんな友達でした。
話上手で、いつも面白いことを言って楽しい気持ちにさせてくれるので、今までその欠点については然程気にならなかったのですが、そんな彼が毎年クリスマスプレゼントを貰っているとなれば、話は別です。
少年「君が毎年クリスマスプレゼントを貰っているって……それは本当?」
友1「ああ、本当だとも」
少年「……なるほど。君が毎年クリスマスプレゼントを貰えているならば、サンタさんは良い子じゃなくても来てくれるってことか」
友1「その言い方はちょっとムカつくけど、俺の言いたいことはそういうこった。俺みたいな悪ガキにだって、ちゃんとサンタさんは来てくれるのさ」
ふふんっと鼻を鳴らし、胸を逸らす彼は、それが自虐的な発言だとは露知らず、勝ち誇ったような表情を浮かべていました。
そんなお馬鹿な友達は、とても嘘をついているようには見えません。
少年「ん〜……もう少し情報が欲しいな」
もっと情報が欲しい。
何が真実で、何が虚実なのか。
少年の探究心はメラメラと燃え上がります。
と、その時。
友2「なになにー?なんのはなしー?」
友3「ぼくらも混ぜてよ」
情報提供者が現れました。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:42:04.58 ID:
QdtUCwboO
友2「なんか面白いこと話してたよね〜」
友3「サンタさんがどうかしたの?」
どうやら、知らず知らずのうちに、衆目を集めてしまっていたようです。
そのことに気恥ずかしさを覚えながらも、そのおかげでこうして情報提供者が名乗り出て来てくれたことに感謝し、少年は彼らにも話を聞くことにしました。
少年「えっとね、実は昨日、僕の母さんが……」
彼らに昨日母親に言われたことを伝えます。
すると、2人ともキョトンとした顔をして、おもむろにこんなことを言いました。
友2「えー?そんなの当たり前じゃん」
友3「そうだね。『良い子にしかサンタさんが来ない』というのは、当たり前のことだね」
彼らは少年の母親の言葉を全面的に肯定したのです。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:44:18.05 ID:
QdtUCwboO
話が違うではありませんか。
先ほどの証言とは真逆なことを言われ、少年は混乱してしまいました。
先ほどの証言は嘘で、少年を騙していたのでしょうか?
そう訝しんで、第1証言者の方を見ると。
友1「おいおい!お前らまでそんな迷信を信じているのか?この俺が毎年クリスマスプレゼントを貰ってるんだから、そんなの嘘っぱちに決まってるだろ!」
慌てて先ほどの話を彼らに聞かせます。
すると彼らも首を傾げて……
友2「それっておかしくない?」
友3「おかしいね。彼の普段の行いは、とても良い子とは言えないし」
友1「……ちょっとイラっとくるけど、信じて貰えて嬉しいような、やっぱり悲しいような」
彼らの反応に複雑な表情をしつつ、悪い子の友達の発言は他の子達にも疑問を植え付ける結果となりました。
その後、周囲の他の子達からも情報を収集してみたのですが、『サンタさんは良い子にしかプレゼントをくれない』と信じてる派閥が多数で、『サンタさんは平等だ』と信じてる派閥は少数という結果になりました。
そして、もう1つ。
興味深い主張をする者も現れました。
不良「ばっかじゃないの?サンタなんて……いるわけないじゃない」
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:46:37.53 ID:
QdtUCwboO
クラスで一番の不良のその子は、遠巻きに、そしてつまらなそうにこちらを見ていたのですが、我慢の限界と言わんばかりにこれまでの証言を全否定するような発言をしました。
それに伴い、あれだけ騒がしかった教室内がしんっと静まります。
クラスで一番の不良は、それほどまでにクラスメイト達から恐れられているのです。
不良は目つきが悪く、それに態度も悪くて、今も自分の机の上に足を投げ出しています。
その上、服装もまただらしないので、少々目のやり場に困るというか、何と言うか……。
そのことを先生に注意されても、平然と聞き流し、たびたびクラスメイト達と揉め事を起こすような存在でした。
とはいえ、イジメなど、陰湿なことには手を出すことはなく、もちろん恐ろしいのですが、少年は周りの子供達ほど、不良に対して悪い印象は持ち合わせていませんでした。
なので、物怖じすることなく、不良に対して発言の真意を聞き出すことにします。
少年「それはどういう意味?」
静寂を切り開くように放たれたその言葉に、周りのクラスメイト達が息を飲みます。
関わらないほうがいい。
彼らのそんな意図が透けて見えるようです。
ですが、彼らの不良に対するそんな態度は、間違っていると少年は考えます。
不良のクラスメイトがいるなら、尚更話を聞いてあげて、更生させるべきだと、少年はそのように思うのです。
そう、昨日母親も言ってました。
『泥棒さんが泥棒をしなくなったら、きっとサンタさんは来てくれる』、と。
母親の言葉には、もしかしたら嘘が混じっているのかも知れませんが、この言葉だけは真実だと、少年は信じたいのです。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:48:28.54 ID:
QdtUCwboO
不良「言葉通りの意味よ。サンタなんていない。それ以上でも以下でもない」
少年の問いかけに対して、きっぱりと不良は断言しました。
サンタがいない。
その可能性については、少年も、そしてクラスメイト達もありえると感じていました。
しかし、それは言葉には出さない。
いや、出してはいけないと、無意識のうちに封印していたのです。
だって、それを口にすれば、本当にサンタさんがいなくなってしまいそうで……。
そのことを皆、恐れていたのです。
しかし、事ここに及んで、それに怯えていては真実にたどり着くことは出来ません。
少年は意を決して、不良に相対すことを決意しました。
少年「君は、どうしてそう思うんだい?サンタさんがいないと、なんでそう言い切れるの?」
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:50:08.26 ID:
QdtUCwboO
不良「そんなの簡単よ」
少年の問いかけを嘲笑うかのように、不良は嘯きます。
そしてその次に続くだろう言葉を、その恐ろしい呪詛を、周りのクラスメイト達は聞くのを恐れて、皆一様に耳を塞ぎました。
しかし、少年は、少年だけは、例えどんな言葉だろうと、しっかり聞き届けるべく、真っ直ぐ不良へと視線を送り、そして不良もその視線を受け止めて、続きをポツリと紡ぎました。
不良「だって、私……一度もサンタからプレゼント貰ったこと、ないから」
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:52:27.41 ID:
QdtUCwboO
その衝撃的な告白を耳にしたのは、クラスの中で少年だけであり、そして不良の悲痛そうなその表情を目撃したのもまた、少年だけでした。
それはあまりに……あまりに、残酷なことです。
母親の理屈から言えば、なるほど、たしかに不良にはサンタは現れず、もちろんプレゼントも貰えないでしょう。
ですが、この不良にだって、不良となる前があった筈で、それなのに、一度もプレゼントを貰っていないというのは、どう考えても納得出来ません。
これでは『サンタなんかいない』と言われても、致し方ないではありませんか。
少年は、そんな不条理が、たまらなく許せませんでした。
だから、どうにかしてあげたかった。
今にも泣きそうなこの不良を助けてあげたいと、そう思わずにはいられませんでした。
少年「い、いまからでも遅くないよっ!毎日家の手伝いして、しゅ、宿題だって毎日出せば……」
しかし、そんな藁にも縋るような少年の提案は、不良に一蹴されます。
不良「そんなことしたってなんの意味もない。私はこれまで、毎日夕飯を作って、お風呂掃除して、週末には家の掃除もしてるんだから」
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:54:21.31 ID:
QdtUCwboO
その不良の言い分に、少年は驚愕を禁じえません。
毎日夕飯を作る?
お風呂掃除も?
週末には家の掃除もだって?
それは、普段の不良からは考えられない働きっぷりで、それなりに家の手伝いをこなしていると自負している少年よりも、遥かに多い仕事量でした。
それに加え、さらに不良は追い討ちをかけます。
不良「もちろん、宿題だって欠かしたことはない。こう見えても、やることはやってんだよ」
そんな。
それじゃあ、どうしてサンタは……。
足元がガラガラ崩れるような感覚に陥り、頭が真っ白になった少年の胸ぐらを掴んで、不良は目尻に涙を浮かべて、決定的な言葉を突きつけます。
不良「それでも、サンタは私にプレゼントをくれなかった!その代わりに、母さんが……私が産まれて間もなく亡くなった父さんの分も一生懸命、夜遅くまで働く母さんが、ごめんねごめんねって、謝るんだ!!母さんは何も悪くないのにっ!!」
なんだそれ。
それじゃあ、一番悪いのは……。
不良「私に……そして母さんに悲しい思いをさせるサンタを!私は絶対に許さないっ!!」
真っ白になった少年の胸に、真っ赤に燃える火が灯りました。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:56:48.09 ID:
QdtUCwboO
少年「……君の言い分はわかった。ほら、これで涙を拭いて?」
胸の中心で燃える真っ赤な炎は、その火傷しそうなほどの熱量とは裏腹に、逆に少年に冷静さを取り戻させました。
頭の芯がすぅっと冷え、そして冴えわたっていきます。
少年が初めて感じる純粋な怒りは、凍てつくような熱さで、胸を焦がし、彼を一つ大人へと成長させたのです。
狼狽えるだけだった少年が、慈しむような表情を浮かべて差し出すハンカチを、不良は戸惑いながらも受け取り、知れず流れ落ちていた涙を拭いました。
不良「あ、ありがとう……だけど、これであんたもわかったでしょ?サンタなんていないって」
自らの醜態を見られたことに、不良は気恥ずかしそうに頬を染め、泣いたばかりの目はウサギのように真っ赤でしたが、気丈に装ってそう結論付けました。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 21:59:23.44 ID:
QdtUCwboO
少年と不良の問答がひと段落ついたことを察すると、周囲で耳を抑えて俯いていたクラスメイト達も徐々に顔をあげて、心配そうに少年を見つめてきました。
何を話していたかは聞こえてはいませんでしたが、先ほどの結論からわかる通り、状況は少年の劣勢で、サンタの存在は否定されかけているということは明白でした。
皆、気が気でない面もちで少年を見据えています。
しかし、少年には彼らの期待に応えようという気持ちは毛ほどもありません。
人に意見を代弁して貰う彼らは、不良の言い分に対して何ら対抗手段を持ち合わせていないのです。
例え、少年が不良を説き伏せたとしても、彼らに喜ぶ資格はおろか、勝ち誇る資格などないのです。
だから少年は、まだ目が赤く、鼻をすすっている不良の耳元に口を寄せ、他の誰にも聞かれないように声を潜めてこう言いました。
少年「24日に、ぼくの家においで」
不良「えっ?」
突然のことに、不良が目を白黒させていると。
先生「おーい、お前ら席につけ〜」
ガラリと扉が開き、先生が現れ、少年の周りのクラスメイト達は蜘蛛の子を散らしたように自分の席に戻っていきました。
あまりに遅すぎる登場。
役に立たない担任教師に、ため息の一つも吐きたくなりましたが、ある意味タイミングが良かったとも言えるので、良しとしましょう。
不良「……」
物言いたげにこちらを見つめる……ともすれば、睨みつけているようにも見える不良に、声には出さずに『や・く・そ・く』と口パクで伝えると、不良は微かに、そして確かに頷いたのでした。
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 22:02:02.81 ID:
QdtUCwboO
あっという間に24日。
クリスマスを明日に控え、とうとうクリスマス・イブを迎えた今日。
ついに、作戦を決行する時がやって来ました。
少年「ご馳走さまでした!それじゃあ、ぼくはもう寝るね!おやすみなさい!」
父「おう!ちゃんと歯を磨くんだぞ!」
母「ちゃんとあったかくして寝なさいね?」
クリスマス・イブのご馳走を平らげ、足早に自室へ向かう少年を、両親は微笑ましく見送りました。
何を隠そう、少年は既に入浴を済ませており、あとは歯を磨いて寝るだけに準備を整えていました。
まるで早く寝れば、それだけ早くサンタが来てくれると思っているかのような、そんな少年の態度に、父も母も温かな気持ちになりました。
しかし、両親は気づいていません。
この日、少年が大きな隠し事をしていることを。