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侍「道に迷ったらエルフに捕まっちまってござる」
Part8


227 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 22:58:13 ID:LWAoxB8.
パチパチパチパチ
侍「なあ」
エルフ「はい?」
侍「答えたくなかったら答えなくていい」
エルフ「?」
侍「その剣のことなんだが」
エルフ「ああ……」
侍「いや、何だか妙にこだわってるようだし。かといって思い入れがあるというわけでもなさそうだから、少し気になってな」
エルフ「まあ、そうでしょうね」
侍「聞いても平気か?」
エルフ「ええ。別に内緒にしているわけでもなし」

228 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 22:59:56 ID:LWAoxB8.
エルフ「わたくしもお母様から聞いた話なのですが。これは、元々父が使っていた剣なのだそうです」
侍「父君、か。ということは」
エルフ「人間ですわ」
侍「……余計なこと聞いたかな」
エルフ「いえ。そこまで大層なことではありませんわよ」
侍「ならいいが……」
エルフ「そんなことより、わたくし、あなたの国のことを聞いてみたいです」
侍「俺の国?」

229 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 23:01:34 ID:LWAoxB8.
エルフ「ええ。わたくしはこの国から出たことがありませんから。外の国がどういった所なのかよく知りませんの」
侍「一口に外国と言っても、特色は国毎に異なるんだけどな」
エルフ「細かいことはいいんです。それで、どんなところなんですの?」
侍「そうだな。まず、国を統治する機関を幕府という」
エルフ「尋問のときにそんな名称を聞いたような……」
侍「民の大多数は農民で、一部の武士階級の人間が政を行っているんだ」
エルフ「確かあなたも」
侍「ああ。ま、俺はそんなに偉い武士じゃないがな」

230 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 23:02:48 ID:LWAoxB8.
エルフ「ぶし、というのは騎士とは違いますの?」
侍「似て非なるものだ。その辺り説明しだすと長いから省くぞ」
侍「二百年ほど前に戦乱の時代が終わってからは、大きな戦は起こっていない」
エルフ「平和なんですわね」
侍「ああ。で、その頃から幕府はずっと鎖国政策を続けていたんだが、最近になって現幕府将軍が開国したんだ」
侍「噂じゃ、その将軍は昔から家に閉じ籠るのが嫌いらしくてな」
侍「政を執り行うようになって、それを国にも当てはめたらしい」
エルフ「剛毅というか大胆というか……」

231 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 23:04:08 ID:LWAoxB8.
侍「ま、為政者としては優秀らしいからな。外国の優れた文化は積極的に取り入れつつ、自国の産業を保護することも忘れない」
侍「経済とか、そういう話は苦手だから聞いた話なんだけどな」
エルフ「じゃあ、あなたが今こうしてここにいるのは」
侍「間違いなく、その方のおかげだな。開国していなければ、今も井の中の蛙だったわけだ」
侍「おかげで広い世界に出て、見聞を広げることが出来た。会ったことはないが、感謝しているよ」
エルフ「そう……」
侍「どうかしたか?」
エルフ「いえ。なんでも」
エルフ(わたくしも感謝しなければなりませんわね)
エルフ(この人と出逢うきっかけをくれたその方に……)

232 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 23:05:26 ID:LWAoxB8.
二日後
キィッーー
メイドエルフ「……怪しい気配無し。ご主人様、大丈夫です!」
エルフ母「そう。すぐ行くわ」ヒョコヒョコ
メイドエルフ「無理なさらずに。肩に捕まってください」
エルフ母「いつも済まないわねぇ」
メイドエルフ「それは言わない約束ですよ」
エルフ母「ふふ。でも、本当にありがとう」
メイドエルフ「わたしがお役に立てることなんて、身の回りのお世話とボディーガードくらいのものですから」
エルフ母「あなたが言うと、本当に簡単そうに思えてしまうわね」
メイドエルフ「事実簡単です。お嬢様のご苦労に比べたら」
エルフ母「……そうね」

233 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 23:06:30 ID:LWAoxB8.
メイドエルフ「あ、ごめんなさい! そんなつもりでは!」
エルフ母「わかってるから大丈夫よ」
メイドエルフ「……お嬢様、ご無事でしょうか」
エルフ母「きっと無事よ。あの子なら。侍さんだって側にいてくださっているでしょうし」
メイドエルフ「そ、そうですよね! わたしたちはただ、お二人を信じて待つだけですね!」
エルフ母「ええ」
エルフ母(娘を……娘をお願いします。侍さん)

234 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 23:08:55 ID:LWAoxB8.
書きためぶん終了しました。こうなったら終わるまで毎日投下に挑戦しますの。

235 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 23:19:09 ID:n0OmV6d6
おつ

236 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/12(月) 23:22:22 ID:r7ODLpsY

今日も面白かった

243 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:18:14 ID:9woH24nI
さらに一日後
エルフ「見えましたわ」
侍「あれが目印の河か」
エルフ「ええ。河下は南ですので、河上を目指します」
侍「ちょうどいい。水が底を尽きかけていたし、調達しておこう。ほれ」
エルフ「ありがと。んしょっと」トン
侍「痛みはどうだ?」
エルフ「だいぶマシになりましたわ」

244 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:19:29 ID:9woH24nI
エルフ「あれから一度も襲撃はありませんわね」
侍「油断はするなよ。間を開けて警戒が弛んだところを、なんてことも考えられる」
エルフ「そうですわね」
侍「警戒しすぎて疲れても仕方ないけどな」
エルフ「それと、あの刺客がこちらを発見した方法もわかっていませんし」
侍「それは何とか確かめたいところだ。安全に身を隠すためにも」
エルフ「とはいえ、どうしたら」
侍「何か心当たりはないか? 騎士団に特殊な諜報部が存在するとか」
エルフ「……知っていたらとっくに話していますわ。わたくし、隊長になってからも主要な会議や軍議に呼ばれたことがありませんの」
エルフ「従って、他の隊長が知っているレベルの情報も持ち合わせていませんわ」
侍「……すまん」

245 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:20:50 ID:9woH24nI
侍(いかんな。聞く度に傷に塩塗ってしまう)
エルフ「ただ」
侍「ん?」
エルフ「一度、国王陛下主催のパーティに招かれたことはあります」
侍「国王主催……てことは」
エルフ「当然、招いて下さったのは陛下ですね」
侍「意外だな。言っちゃなんだが、正直人間卑下の総元締のような印象なんだが」
エルフ「そう思うのも無理ありませんけれど。でも、事実は逆ですわね」
エルフ「陛下はわたくしのお祖父様とは竹馬の友だったそうで」
侍「なるほど。母君とも親交があるのか」
エルフ「ええ。ですから、そのパーティでも主賓並にもてなされましたわ」
エルフ「そういうこともあって、陛下はわたくしのことを非常に気にかけて下さっていました」
エルフ「ただ、それ以後は陛下へのお目通りが叶わなくなってしまったのですが」
侍「妨害か?」

246 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:22:36 ID:9woH24nI
エルフ「……騎士団の上の者が、わたくしと陛下が懇意にすることを快く思っていたかったのは確かですわ」
エルフ「今の司令自ら嫌がらせをしてきたこともありましたし」
エルフ「ま、それでも騎士団から追い出すことだけはしませんでしたけど」
侍「単に国王から大目玉食らいたくなかっただけだろ」
エルフ「でしょうね」
侍(腐ってやがる)
エルフ「話が逸れましたわね。要は、騎士団に特殊な部隊があったとしても、わたくしは知らないということです」
侍「そうか」

247 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:23:13 ID:9woH24nI
ーーバサバサバサッ
侍「ん?」
エルフ「あら。わたくしの肩に」
鳥「……」キョロキョロ
侍「珍しい鳥だな」
エルフ「本当。何という鳥なのかしら」
鳥「……」ジー
侍(……ん?)
バサバサバサッ
エルフ「行っちゃった」
侍「……」
エルフ「さ、わたくしたちもそろそろ行きましょう。遅くなると、お母様たちを心配させてしまいますわ」
侍「ああ」
侍(……まさかな)

248 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:25:01 ID:9woH24nI
数時間後
侍「そういえば、北上してからの進路は?」
エルフ「半日ほど歩くと小さな町があるのですが、その手前に架っている橋を渡って向こう岸に行き、再び西へ向かいます」
エルフ「注意すべきは、橋を渡るためには一度森を出て街道に出る必要があるということですわね」
侍「人目につく危険があるってことか」
エルフ「ええ」
侍「ちなみに、橋を渡ってから隠れ家までは」
エルフ「そこまで行けば、あとはまっすぐ森を突っ切れば二日ほどで着きますわ」
侍「馬で走れば」
エルフ「一日あれば十分ですわね」
侍「なら街道の様子を見て、安全そうなら一気に駆け抜ける手もありだな」
エルフ「ええ」

249 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:25:38 ID:9woH24nI
スー
エルフ「あら?」
侍「ん? 紙か、流れてきたのは」パシャ
エルフ「お触書ですわね。町から流れてきたのかしら」
侍「なになに……」
エルフ「……」
侍「……」
エルフ「……なん、ですって……?」
侍「……」
エルフ「陛下が……暗殺された……!?」

250 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:27:06 ID:9woH24nI
一日前 王城
エルフ王「ぐぅお!?」ガシャンッ
司令「……」
エルフ「がっ……か……おのれ……貴様ぁ……げほっ!」
司令「……あなたが悪いのですよ」
司令「下らない情にほだされて、人間誅討の軍を起こそうとしないあなたが」
エルフ王「愚か……もの……が……ーー」コト
司令「……参謀」
参謀「ここに」

251 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:28:09 ID:9woH24nI
司令「先の隣国との戦で『殺された』のは、『国境守備隊の全隊員』とあの混血の部隊員が『全員』だな?」
参謀「はい。『確認済み』にございます」
司令「では全ての民に触書を出せ。国王陛下以下全ての死者は、隣国の回し者である混血と人間の手によるもの」
司令「よって我ら騎士団はその二名を特別手配すると共に」
司令「仇討ちのため、隣国討伐の戦に向け準備を開始する、と」
参謀「承知いたしました」

252 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:30:55 ID:9woH24nI
エルフ「そんな……誰が!」
侍「俺たちだそうだ」
エルフ「え!?」
侍「ここ見てみろ」
エルフ「……」ギリッ
侍「しかも、俺たちの正体は隣国のスパイらしいな」
エルフ「なんということ……!」
侍(それに、エルフの国側の死傷者数……隣国の将軍の話とはずいぶん違うな)
侍「不幸中の幸いか、母君とメイドエルフについては触れられていないが」
侍「とにかく、今は先を急ぐしかない。隠れ家を見つけられたら、二人まで危険な目に会う」
エルフ「そ、そうですわね。なら、あなたも馬に乗ってください。一気に駆け抜けて……」

253 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:32:00 ID:9woH24nI
ーーニゲテ!
エルフ「!?」
ヒュン ヒュン ヒュン グサッグサッ
馬「ーーーー!」ヒヒーン!
エルフ「きゃあっ!?」
侍「エルフ!」ダキッ
侍(矢が馬に……これは!)
エルフ兵「あそこだ! かかれー!」
エルフ「騎士団!? 何でここが!」
侍「考えるのは後だ。走れるか?」
エルフ「……問題なーーきゃっ!」ガバッ
侍「一瞬間が空く時点で無理だろ! 捕まってろよ!」ダッ

254 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:33:03 ID:9woH24nI
ーーマエカラモクルヨ!
エルフ「ーー前からも来ますわ!」
侍「!」
ヒュンヒュンヒュン ドスドスドス
侍「くっ!」
エルフ兵「突撃ー! 挟み撃ちだ!」
エルフ「なんて数……!」
侍(くそ。あの数相手に今の状態じゃ……!)
侍「お前、泳げるか」
エルフ「……それしかありませんわね」
侍「ああ。行くぞ!」
ドボンッ

255 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:34:43 ID:9woH24nI
エルフ兵「河へ逃げたぞ! 弓兵、急げ!」
侍「ーーぷはっ! エルフは!」
エルフ「ーー」
侍(泳げてはいるが、速度がない……やはり足の怪我が響いてる)
侍「はっ」ジャブジャブジャブ
侍「掴まれ!」グッ
エルフ「! ちょっと! そんなことしたら、あなたまで遅くなりますわよ!」
侍「気にするな! 捕まったらその時はその時だ!」

256 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:35:08 ID:9woH24nI
エルフ「そういうことを言っているわけではありません! このままだとーー」
エルフ兵「放てー!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン
エルフ「まずーー」グイッ
エルフ(!?)
ボチャボチャボチャボチャーードスッ
侍「ぐっ!?」
エルフ「侍さん!!」
侍「だ、大丈夫だ。急所じゃない。それより急ぐぞ」
エルフ「は、はい!」
エルフ(わたくしを、かばって……!)

257 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:36:13 ID:9woH24nI
ザバァッ ザバァッ
侍「はぁ、はぁ、はぁ」
エルフ「はぁ、はぁ……さ、掴まってください」
侍「平気だよ。足をやられたわけじゃない……ふ!」ブシッ
侍「つ……。行くぞ」
エルフ「は、はい……」

258 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/13(火) 23:37:31 ID:9woH24nI
侍「敵は?」
エルフ「……まだ追ってきているようですわ」
侍「森に入ったはいいが、このままだと追い付かれるのは時間の問題か」
エルフ「ええ。今のうちに距離を稼ぎませんと」
侍「それはいいが、どうする? このままじゃ、隠れ家に直行というわけにはーー」ドクンッ
侍「っ?!」クラッ
エルフ「どうしましたの!?」
侍「……何でもない。早く行こう」
エルフ「え、ええ。ひとまず河下の方に」