Part8
169 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:00:32.42 ID:dxS7ozrO0
ー6th daysー
ーーー私は全てを知っている
だから私は何も知らない
始まりも終わりも、全てを見てきた
だから何も怖くない、でも全てが怖いーーー
とうとう六日目だ
この時代にどっぷりと浸かり楽しんでいる事を自覚している
それは神器に魅せられたからか、それとも彼女に魅せられたからか……
男(しかし、今日は来るなとは言われたものの……)
どこに、とまでは言われてはいない
彼女が会いたくないのならばそれでいいだろう。また後日伺えば
今日はこの建造物の探索
建物の内部で幻想玉を使い、こっそりとこの時代の内部を見て回っている
元の時代ではただ廃墟と化していただけの内部も、ここでは頑丈な壁で覆われている
……そもそも今回の探索理由は、散々資金繰りに失敗してきて、このまま手ぶらでこの地を去ることになるのが癪になっただけだ
何か稼ぎが出来ないかどうかという最後の悪あがきでしかないのだが……
170 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:01:27.07 ID:dxS7ozrO0
男(……?おかしいな)
以前商人から買い取った地図を右手に、ランプを左手に持ち先を進んでいる
しかし、俺が元の時代で来た道を進んでいるにも関わらず、兵士もいなければ罠も無い
だた真っ暗な道が続くだけ。ある程度は覚悟していたが、これでは肩透かしを食らった気分だ
商人たちが元の時代で罠を機動させたであろうルートを避けて進もうとしても、そこに通じる道すら無い
男「こりゃどういう事だ」
元々は別の通路で、長い年月の経過による風化で道はそれぞれが繋がってしまったのか
そして一切の繋がりは無かったものとすれば……一体ここは何のための道だろうか
171 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:02:23.45 ID:dxS7ozrO0
長い一本道が続く中、やがてその終着点が見えた
男「お、おいおい。何で道がないんだよ……」
行き止まりだ
道はここで途絶え、目の前には辺りとなんら変わりのない壁が俺の前を遮る
困ったことに、どうやらこの道は普段ヒトが通ることを想定していないようだ
男「俺は入口から入った訳でもないし、何より出口が見つからない……」
幻想玉を使い通路の途中から入ってきている以上、文句が言える立場ではないが
謎だ、どうしてこのような通路が存在するのか
来た道を戻り、壁を入念に調べる。もしかするとここは隠し通路の類なのかもしれない、だとすればどこかに通じる抜け道が……
172 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:02:55.26 ID:dxS7ozrO0
引き返す途中、空気の流れが変わる
一見何ともないようなことだが、この密閉されているであろう場所で微かながら濁りを感じた
……この長い通路の先に何かが見える
男「ッ!」
明かりだ
壁や扉から指す光ではない。それは動いている
男(兵士……!?隠し通路じゃないのかここはッ!)
仕事柄これでも夜目が利く
戻ろうにも行き止まり。このままでは鉢合わせは必至
幻想玉を使って帰ろうにも、安全が保障できない
元の時代で穴だらけの場所に出ようものなら最悪落下して大怪我だ
男(どうする……)
173 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:03:33.62 ID:dxS7ozrO0
せめて時間を稼ごう
無様に来た道を戻り、再び行き止まりの前まで来てしまう
最悪、この場で幻想玉を使い元の時代に帰るしかない
あるいは、以前のように兵士を……
その時、僅かだが背にしていた壁が動いた
ズルズルと何かが引き摺られる
石と石、そして若干の砂が混じり、臼で引いたかのような音とともに今俺が行き止まりと思っていた壁から光が差した
勿論俺は何もしていない
男「……ッ!」
174 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:04:13.14 ID:dxS7ozrO0
世界が反転する
それも物理的にだ
「……お?」
「……」
突然開いた壁から一瞬を垣間見る暇もなくその身体は投げ出されたのだ
鈍い痛みを負いながらも、状況を理解出来ずにただ目の前の光景を見る事しか出来ずにいた
「警備は順調だ、そちらも異常はないな?」
「……」
大きな帽子と大きな手袋
宙に浮いたそれらは、兵士の言葉に反応するようにユサユサと縦に揺れた
175 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:05:02.84 ID:dxS7ozrO0
男(スケル……マター……?)
透明の魔法生物は兵士と親しそうに会話をしている
と、言っても、兵士が一方的に話しているだけで魔法生物は言葉を発しないのだが
「この前は済まなかったな、お前がーーーを連れてーーーどうなっていたことか」
「……」
「ま、実際はーーーだったが……何はともあれ助かったよ」
頭を強く打ったか、意識が朦朧としてよく聞こえない
「……ーーーせいで警備を強化することになって、俺もこんなーーーを見て回らなきゃいけなくなるとは」
「……」
176 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:05:29.95 ID:dxS7ozrO0
「所で、どうしてお前からここへ?姫様はーーーだろう?」
「……」
男(あ……不味い……)
「……結局、使われなかったんだな……ーーーまで。ーーーはないのか?」
「……」
「ハハッ、お前に聞いても仕方がないか……俺たちは、もうどうすることもーーー……」
「…………」
男(ダメだ……意識が……)
「……」
暗闇に消えていく視界の中で
一瞬、ほんの一瞬だけ
顔も見えないハズの魔法生物が、こちらを睨んだように思えた……
177 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:06:03.42 ID:dxS7ozrO0
ーーーーーー
ーーー
ー
男「ッ!?」
頭を走る鈍痛と共に目を覚ます
ここはどこだ?
さっきの兵士は?魔法生物は?
辺りを見回しても、何もない
男「……あ」
痛みの箇所を抑えると、覚えのない物が巻き付けられていた
男「っ……包帯も……何なんだよもう……」
178 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:09:27.53 ID:dxS7ozrO0
毛布をかぶせられ、傷口には何かを塗られ包帯を巻かれているようだ
頭に負った怪我はどういう訳か治療が施されている
男「一体誰が……ん?」
今俺が寝ていた頭元には、ご丁寧にもあの果物が皮を剥かれて置かれていた。これで誰が俺をここに連れ込み、治療したのかはすぐにわかった
兵士に見つからないように助けてくれたのか、はたまた違う理由があったのかはともかく
あの魔法生物は妙なところで気が利く。やり過ぎたという詫びのつもりなのだろうか
呆れながらも果物を一口齧る。口の渇きが気になっていた分丁度いい
水分を取れたのか、身体の熱もスッと引いていく
改めて周りをよく見れば、先ほど気を失った場所とは違うという事がわかる
窓のない薄暗い部屋、もう日は落ちかけている。部屋の外からの明かりも少ない
ここはまるで何かの調合室だ。それらしい道具もいくつか置いてある
男「……出よう」
気を取られる程の物でもない
ここでいつまでも寝ている訳にはいかない
おぼつかない足取りでこの部屋を後にする
179 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:10:01.98 ID:dxS7ozrO0
ここがどこかは分からないが、この建造物の見知った場所に出るまでは幻想玉は使えない
今の状態では、出る場所によっては怪我じゃ済まなくなる
長く続く石の道
いくつもの小さな部屋に目もくれず、変わらない景色を通り過ぎていく
高い金を出して買わされた地図を思い出せ、あるハズだ。俺の知る場所が
男「……ああ」
……あった
見知った道、見知った間取り
180 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:10:43.29 ID:dxS7ozrO0
その先にある部屋から微かな明かりが零れる
彼女がいる場所だ
その安定しない足取りは、不思議と足早になっていく
見も知らぬ場所に放り出された不安からか、誰か知っている人の顔を見たくて仕方が無かった
彼女に会おう、また話をしよう
きっと彼女は俺を迎え入れてくれる……そう信じて
181 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:11:13.00 ID:dxS7ozrO0
男「おい!遅くなったな!今日も来てやったぞ!」
「……」
姫「……ッ」
様子がおかしい
彼女の顔色は明らかに悪く、息が細い
青ざめたその表情は、こちらの存在を確認すると怒ったように
いや、悲しそう……?困っている……?
どちらとも取れるだろうその顔に精気は無い
182 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:11:40.27 ID:dxS7ozrO0
姫「何故……」
男「?」
何故?
息も絶え絶えに問いかけた
姫「何故……ここへ……来た」
ああ、そうだ
忘れていた
……愚かしくも、彼女の言いつけを忘れ
俺はその"踏み入れてはいけない"場所に辿り着いてしまった
姫「言ったぞ……私は……」
姫「"来るな"と……」
183 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:12:14.36 ID:dxS7ozrO0
言い訳がましく反論する
どうしても顔が見たかっただの、冗談の一つでも飛ばしに来ただの
しかし、彼女はそれでも晴れた顔は作らない
「……」
もう何も聞く気はない
そう一言、こちらに告げると
彼女はそのまま動かなくなった
男「……おい、ヒトがせっかく来てやったというのに、早速眠ってしまうとはあんまりじゃないか?」
……返事はない
184 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:12:52.95 ID:dxS7ozrO0
男「そう怒るな、悪いとは思っている。確かに約束は破ってしまったが、まぁお互いに暇を潰せるのならそれでいいだろう」
男「またお前の話でも聞かせてくれ、今度はまた違う手土産でも持ってきてやるからさ」
……おかしい
こちらが生意気な口を利けば皮肉か果物が飛んでくるところだ
確かに彼女は寝付くが早いのは知っている
それでも、今しがた話していた途中なのにそうも簡単に意識が落ちるだろうか
男「おい!どうなってるんだ!!」
彼女の隣に佇んでいた魔法生物に詰め寄る
話が通じないと分かっていても、このスケルマターには他に聞き出したい情報もある
彼女と話が出来ないのなら、こちらを頼るしかほかない
185 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:13:24.04 ID:dxS7ozrO0
男「なんとか言ったら……ッ!!」
伸ばした手を跳ね除けられる
その透明な魔法生物は一度、握り拳を作り小刻みに震えた
まるで、人間が取る"口惜しさ"の仕草を真似るように
ダメだ、コイツとは意思の疎通が取れない
何を考えているか分からない不気味な生物から目を逸らし、もう一度、そこに眠る彼女に目をやる
男「……?」
一つ
その時、ある一つの事に気が付く
幼くも美しいその姿よりも
白く透き通るその肌よりも
彼女は……
186 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:14:13.11 ID:dxS7ozrO0
男「……動いて……無い?」
今まで確かにそこに"在った"
だが、もうここには"無い"
抜け殻だ
目の前にあるのは彼女の形をした"ナニか"でしかない
男「う、ウソだろ……?オイ!息を止めてるんじゃない!!驚かそうとしているのか!?なぁ!返事をしろ!!」
必死の呼びかけも虚しく、返事は返ってこない
この6日間、絶えずこの場に存在し続けたものは、もう無くなってしまっていた
俺の声だけが部屋に響く
確かにここには2人と1匹がいるのに
その声は寂しく響く
187 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:14:51.32 ID:dxS7ozrO0
冷たくなっていく身体を見つめることしか出来ない
信じられない
だって、彼女はこんなにも
美しいのに……
男「ッ!あ、ぐッ!!」
強い鼓動が胸を打った
喪失感からか、それとも頭の傷が開いたからかは分からない
目の前が燃える
比喩ではない、本物の炎が目の前で渦巻き熱を放つ
いつのまにか、と言えるほどのほんの一瞬の出来事だ
視界が霞む
強い吐き気に見舞われる
世界が歪む
188 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:15:57.38 ID:dxS7ozrO0
先のものとはまた違う
今度は"世界が壊れる"感覚が脳髄を襲う
息が詰まる、呼吸が出来ない
ただ気絶するだけではない
全てが消えてなくなる
「……」
魔法生物が彼女の枕元で何かをしている
その光景を最後に
意識が飛んでいく
真っ赤な景色に身を焼かれ
「……」
世界を置き去りにして
189 :
◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 02:16:54.83 ID:dxS7ozrO0
小休止
これで半分くらい
再開時期未定
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 09:23:46.18 ID:FtgHwlfE0
おつかれー
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 10:29:59.50 ID:5wQH6vZmO
おつおつ
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/18(月) 00:13:56.60 ID:11BASOJPO
乙!
林檎ちゃんかわいい