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姫「置き去りにされた世界の中で」
Part5


99 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:11:41.92 ID:dxS7ozrO0
「協力感謝する。しかし、あまりここをうろつくな。不審者と思われても仕方がないぞ」
「へいへい、そりゃよく分かりましたよ」
不機嫌に荷物を受け取り、もう一度この建物を見上げる
再び起こしたその行動に呆れたのか、兵士は口調を崩し語り掛ける
「そんなに気になるのか?これが」
男「気になるだろうな。旅行者としては」
あくまでもそこは強調しておくとしようか
仕事柄、あまり喋ることが出来ないためか、ここぞとばかりにダムが決壊したかのように兵士は嬉々として言葉を続ける

100 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:12:09.89 ID:dxS7ozrO0
「それもそうか……ここは王族の住居となっている。いうなれば城だ、他の地方とは大きく形は変わるがな」
男(知ってる)
「この都市を作るにあたり、初めに造られた建造物であり、そしてこの国の象徴ともいえるものだ。旅行者ならそれくらい調べてこい」
男「悪かったね。パンフレットとか見ないタチなんで」
「……だが、それも今では違う役割となってしまったがな」
男「?」
兵士は目を伏せ顔を俯けた
何か思うところがあるのか、そこからは口を噤んだまま何も言わなくなってしまった

101 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:13:05.85 ID:dxS7ozrO0
男「違う役割ってのは……なんだよ」
この間は気に入らない
しかし、こちらから切り出したその話題は、兵士にとってはあまり口に出したくない物だった
「すまないな、国の体制の事情だ。一般の、それも旅行者に話せることではない」
思わせぶりな事を言ったのはそちらだろう
と、そんなことは思っても口には出さない
それほどまでに兵士の顔はどこか哀愁を漂わせていた
気になることは全てあのお姫様に聞けばいい
国の事情に首を突っ込むな、と言われそうでもあるが

102 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:13:43.69 ID:dxS7ozrO0
これ以上ここに居ても仕方がない
適当な場所で幻想玉を使い、元の場所へ戻ろう
行動に移そうとしたその矢先、何を思ったのか、兵士は俺の身体の一部に目をやった
「お前、その右腕はどうした?」
男「ッ!」
布を巻きつけ、リングの飾りつけをした右腕だ
ファッションとしても成立しているし、この時代でもなんら不自然ではない
……それを今更なんだというのだ

103 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:14:33.24 ID:dxS7ozrO0
「巻き方が不自然だったからな。まるで何かを隠しているような……おい、ちょっと見せてみろ」
男「ッ!!触るんじゃねぇ!!」
軽く腕を掴まれるもすぐに振り払う
鳩が豆鉄砲くったように唖然としている兵士を気にせず、俺はその場から立ち去ろうとする
だが、その拍子に腕に巻かれていた布はハラリと宙を舞い、右腕に隠されていたものを曝け出してしまった
「それは……刻印?貴様、まさかとは思うが……ッ!?」
その言葉を言い切る前に、兵士の喉に銀色の光を放つものを突き立てた
柔らかな感触と共に、弾けだした温かいものが全身を覆う
喋りたがりのお前が悪いんだ
俺を引き留めたお前が悪いんだ

104 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:15:09.70 ID:dxS7ozrO0
……すっかりと日は落ちていた
太陽が出ている内は暑く、引っ込んでしまえば風が冷たい
そんな風に吹かれながら、静かに目を閉じる
あの窓の中にいる一人の少女の事を考えながら、俺は幻想玉を手に取った
今日は行くことは出来なかった
また明日は訪れてみよう
招かれてはいないが、きっと退屈はしないだろう
お互いに……
「……」

105 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:15:47.98 ID:dxS7ozrO0
ーーーーーー
ーーー

男「どうだ?珍しいだろ?」
商人「んー……」
翌朝、現代に戻り早速行動に移す
出所不明なものを普通の商店が買い取ってくれるとは思わない
かといって、他のどこかに売りつけるにしてもたかが知れている物
そうなれば答えは一つ、旅商人に流すのが一番だろう

106 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:16:32.09 ID:dxS7ozrO0
商人「確かに珍しいものですが……こりゃまた難儀な」
男「商売人がケチつけるつもりか?相当なレアものだと思うが」
この商人が珍しいもの好きだということは調べがついている
だからこそ今度は吹っかけ返すつもりでいたのだが……
商人「ほぼガラクタですよ」
男「何だと!?」

107 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:17:10.45 ID:dxS7ozrO0
商人「こういった嗜好品というものは時代を経てさまざまな流行により移り変わっていきます」
商人「例えばこの石製の笛。確かに作りも丁寧ですし装飾も綺麗です、が」
商人「これが人気だったのは遥かに昔でしょうね。確かに普通の店では扱いは無いでしょうし、見る人が見ればそれなりの値段はつくと思いますが……私はいりませんね」
商人「他にもこういった同じような小物や、そうでなくても武器なんかも古い型というだけで特には……」
男「ま、待てよ!年代的価値とかそういうのは……」
商人「こんな素人が見ても新品だってわかる物にそんなものある訳ないでしょうが!」
俺は阿呆か
言われてみればそうだった……
例えあちらから持ってきたとしても、俺の手元にある時点でそのまま綺麗な形で残ってしまう

108 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:17:46.61 ID:dxS7ozrO0
商人「あーあ、期待して損した。あ、それら全部処分するなら無料でやっときますけど?」
男「いらん!!それで転売なんてされて、本当に小銭程度にしかならなかったら余計に惨めだ!!」
商人「チッ、まぁそれはいいとして……」
男(今の舌打ちは何だ)
こちらのしかめた表情を見て見ぬふりをし、商人は小さな袋から次々と細々したものを出して並べていく
色鮮やかなそれらは奇妙で怪しげな魅力を持っている

109 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:18:28.12 ID:dxS7ozrO0
商人「見て楽しむ触って楽しむのならこれ!今流行りの物をズラッと並べさせていただきました!」
男「それを……どうするんだ」
商人「どうするって?売るに決まってんでしょ」
男「誰に?」
商人「貴方に」
男「……」
悪戯っぽく笑みを作ると、商品を軽く小突いた
着物から出ている尻尾がピョコピョコと揺れているのは楽しんでいるからか
自分の買い取りは蹴っておいた上でこういった踏み込んだ商売をしてくるとは、何とも図太い神経をしている
面だけは可愛い為に余計にタチが悪い

110 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:19:24.09 ID:dxS7ozrO0
商人「そうですね……今はこれが一番の売れ筋ですかねぇ」
一つ、手のひらに収まるものを差し出す
透き通るガラス、中心はくびれた管で出来ている
外枠は木材で作られ、その美しい形状を保持している
男「砂時計……?いや、しかし」
本来砂で埋められるハズのその中には水が詰められている

111 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:19:54.33 ID:dxS7ozrO0
商人「水時計と言いましてね。まぁそれ自体は珍しくもなんともないのですが」
男「そんなもんを売ろうってのか?」
商人「私はそんなつまらない物は扱いませんよ。この中には魔力を帯びた液体で満たされています」
商人「まぁともかく見ていてください……」
男「……これは」
自慢げに語る商人はその水時計の仕掛けを説明した
美しい魔法を見せるが如く……

112 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:20:25.04 ID:dxS7ozrO0
商人「最近仕入れた中でも特にお気に入りなんですよ。今ならお安くしておきますが、いかがですか?プレゼントなんかにはもってこいですよ」
男「プレゼント……」
その言葉に何故か食いついてしまう
男(……いかんいかん、俺は何を考えとるんだ)
商人「迷うのなら行動!やらなきゃ後悔必至!自分の感情を誤魔化さずに!」
男「……」

113 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:20:57.37 ID:dxS7ozrO0
商人と別れ、半時ほど経った後
俺はここ数日で通いなれてしまった道を歩いていた
遺跡への道、寂れ風化した街並み、そしてあの場所へ
男「……ホント、何やってんだ俺は」
手には商人の口車に乗せられて買った一つの水時計
渡すような相手はいない、それなのに
俺はあの場所でただ退屈そうに窓の外を眺めていた彼女の事を思い浮かべていた
男(特別な感情を抱いている訳ではない……ただ)
ただ
可哀想に思えただけだ。あんな場所で一人で居ることが
俺には理解できない、孤独というものを背負った彼女が……

114 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:21:47.40 ID:dxS7ozrO0
ーーーーーー
ーーー

ー4th daysー
ーーーもう飽きた
   どれほどの時が過ぎようとも
   私を知り得る者などいない
   ああ、恋しい
   人の温もりがただただ恋しいーーー
姫「ん?遅かったじゃないか」
男「来ることを期待していたのか?」
姫「それなりに……な。昨日は寂しかったぞ?」
男「言ってろ」
この数日、僅かな時間しか会っていないのにも関わらず、お互い軽い口を叩ける程には近づけていた

115 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:22:25.96 ID:dxS7ozrO0
姫「それで、昨日は随分とこの国の市場を満喫いていたみたいじゃないか」
男「何で知ってるんだよ」
彼女は親指を立てて自分の隣を指し示す
そこには見覚えのある大きな帽子がと手袋が宙を浮いていた
男「ああ、そういう事……」
姫「ここから偶然お前の姿が見えたからな。後をつけさせた」
「……」
水を飲んでいたのか、魔法生物が持つ盆の上には器が乗せられていた
相変わらず無言の魔法生物の横で、歯を見せて悪い笑顔を浮かべる
彼女からしてみれば茶目っ気を見せたつもりだろう

116 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:22:59.78 ID:dxS7ozrO0
男「で、俺が何をしていたかそいつから聞いたって訳か?」
姫「いや?前にも言ったがこいつは喋らない。だから何をしていたかは適当に身振り手振りで伝えられた」
随分と回りくどい
しかし、それでは後をつけた意味もあまりないだろうに
姫「大まかに行動を把握できればいいと思っただけだ。意味は無い、ただの遊びだ」
男「趣味が悪いな」
姫「結構。暇を持て余している以上はどんな手段を使っても解消したいからな」

117 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:23:30.01 ID:dxS7ozrO0
男「なら、もっと他に方法はあるんじゃないか?例えば……」
姫「例えば?」
男「外に出てみるとか」
姫「……」
表情が変わった
戸惑い、呆れ、諦め……
どうとも取れる複雑なもの、彼女にとっては難しい事なのだろうか

118 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:23:59.06 ID:dxS7ozrO0
姫「それは……叶わん事だ」
男「何故?」
姫「だから、余り人の事情に踏み込みすぎると……ふん、何度も言わせるな」
姫「しかし、だ。何故そんなことを突然言い出した。我が国の市場はそんなに楽しかったか?」
こんなところに閉じこもっていては勿体ないだろう
街の人達と比べたら彼女はそもそも色白すぎる、あまり健康そうには見えない、と付け加える
鬱陶しがるように彼女は手を払いその言葉を聞き流す
姫「あのな、私は一国の姫だ。そう易々と民と同じ場所を歩くことなど出来ない。余計なお世話だ」
男「つってもだな……」
姫「お前はそんなに私を外に出したいのか。他に何か理由でもあるのか?」

119 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:24:34.39 ID:dxS7ozrO0
違う、ただ一つ考えてしまったことがあっただけだ
男「お前がまるでこの場所に……鳥籠の中に閉じ込められている鳥みたいに思えてな」
姫「……」
自分から望んでここにいる訳ではない。この数日の彼女を見ていて感じた
かといって自ら出ようともしていない。出る事を躊躇っている
簡単に出る事が出来ないのもそうだろう、そこは当たり前だ。だが……
まるで、この場所ですべてを、何かを待っているかのように
こんなことを言い出したのも、単純な話がお節介のようなものだ
可哀想な悲劇のヒロインを見るような目で彼女を見ている
幻想玉を手に入れてから興味だけで動いている俺は、彼女の変化を眺めていたいと思い始めていた

120 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:25:01.50 ID:dxS7ozrO0
姫「それは果たして美しき鳥籠なのか、それとも無限の牢獄か……」
男「?」
力なくうなだれるその重い頭を上げ、彼女はこちらに向き直す
横目でこちらを見たと思ったらまた目を伏せる
姫「……しかし鳥籠に例えるとは、とんだ詩人だなお前は。そういう事を口に出して恥ずかしくないか?」
男「う、うるせぇな……」
今の一連の行動が嘘かのように、人をたしなめるような生意気な顔に戻る
彼女の考えていることはいまいち分かりにくい

121 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:25:37.47 ID:dxS7ozrO0
姫「それはどうでもいいとしよう。出せ」
出せ?
何を出せというのだろうか。彼女は差し出した手をこちらに向ける
姫「やけに大荷物を抱えていたらしいじゃないか。一つ二つ私に手土産でも買ってくれたんだろう?」
それを出せとは、何とも図々しい
男「残念ながらそんなものは無いね。置いてきた」
姫「ハァ!?」

122 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:26:11.84 ID:dxS7ozrO0
どうも今日はそれで俺を弄り倒そうと考えていたらしく、落胆してしまった
あんな無価値と言われてしまったものをそう持ち歩きはしない
元々土産にする気も無かったが……
姫「ふん……私に媚を売ってどうにかしようとしてきた連中は多々居たが、お前のように何も持たずに私の下へ訪れる無礼な奴は初めてだ」
初めて会ってから4日も経っているのに今更だろう
男「……分かったよ」
姫「ん?」

123 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 01:26:40.01 ID:dxS7ozrO0
とはいえ、せっかく買ってしまったものだ。渡してしまってもいいだろう、暇つぶしと話題の種にはなる
ポケットにしまい込んだ水時計を彼女に見せる
種は明かさないように横に向けて
姫「これは……砂時計か?いや、水……?」
男「ああ、その通りだ」
「……」
興味を持ったのか、ベッドから上半身を乗りだし食い入るように見つめる
となりに居た魔法生物も心なしかこちらを見つめているように思えるが……