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姫「置き去りにされた世界の中で」
Part3


54 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:38:37.11 ID:dxS7ozrO0
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一度道を覚えてしまえば楽なもので、帰りは数時間程度に街へと戻ることが出来た
知識がない分、探索前の場所はどうしても寄り道や行き止まりで時間を取られてしまう
冒険者なら誰だって経験することだろう
男「だが、戻って早々することと言えば……」
男「お、いたいた」
真っ先にしたことといえば、俺に吹っかけてきたあの商人を頼ることだった

55 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:39:16.34 ID:dxS7ozrO0
商人「おんや?あなたですか」
男「探していたんだ、話がしたい」
剣士「何だコイツは。ナンパか?斬るか」
商人「いやいやいや!?アンタ何でそんな喧嘩腰なんだよ!?」
男「……」
今回は護衛がついている
男手数人がかりでも物ともしない、魔剣を携える腕利きの女剣士
普段は落ち着いているが喧嘩っ早いとも聞く。妙な動きは見せない方がいい

56 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:40:48.24 ID:dxS7ozrO0
剣士「……」
ジッと俺を見つめるな。集中して話が出来ん
商人「はいはい、お小遣いあげますから。これで何か買って食べてきなさい」
剣士「ん」
僅かな金を手に取ると、剣士は近場の屋台へ赴いていく
随分と手慣れた扱いをしている
商人は呆れたようなこちらの態度を気にすることもなく話を切り出す
商人「それで、話とは何でしょう?」
男「あ、ああ。まずは礼が言いたくてな。ありがとな、正確な地図や情報を……」
商人「そーんな前置きはいいですよ。あなたは対価を支払って買ったんですから、この業界でそんな礼なんていりませんよ。本題本題!」
そこはプロと言うべきか、お道化て振る舞っていても上辺だけの言葉には耳を貸さない
客との距離は一定のままだ
随分と強かな一面を持っている

57 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:41:27.36 ID:dxS7ozrO0
男「それで、だ」
俺は遺跡を回ってきた事を話した
何を体験したかは言えるハズがない
何故なら……
商人「で、盗ったんですか?」
男(来ると思ったよその質問……)
今俺のカバンの中には遺跡の最上部にあったその"神器"が入っている
そう、つまり盗ったのだ

58 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:42:01.50 ID:dxS7ozrO0
男「残念ながらそれらしきもの自体がなかったよ。出来がいいこの地図も無意味なものに終わっちまったって話」
商人「あらあらそりゃ残念。それじゃあ私たちも仕事になりませんねぇ」
剣士「……おい」
商人「はい?なんでしょう?」
剣士「……いや、いい」
口に物を含んだままみっともない姿で再び現れた剣士
二人で何か話し込んでいるが……確か幻想玉の観測をすると言っていたか
存在するかどうかはコイツら自身が現物を見ていない以上、分かることもないだろう
俺が持っているということも誰にも知る由もない

59 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:43:26.68 ID:dxS7ozrO0
男「それでさ、このまま手ぶらで帰るってのも癪だからよ。あの地下遺跡について色々と調べることにしたんだ」
商人「おや?そっちにも興味おありで?」
男「まぁな」
幻想玉の情報はこれ以上聞いても無意味だろう
彼女達の中では"存在しない"のだから
逆に、ここで聞いたりなんてしたらまた盗ったのかどうかを疑われる
故にこう言った方がまだ好感がある
俺はあそこで見た夢か幻か分からない物の真実が知りたくなった
本当ならば、早いうちに手に入れた神器をギルドに収めておきたいが……それはいい、猶予はあるだろう
ただの好奇心
そう、たったそれだけだ

60 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:44:06.29 ID:dxS7ozrO0
男「知りえる限りの事でいい。文献なんかも持っていたら買おう、だから教えてくれ」
商人「ヌッフッフ、そこまで言うのなら……」
この後、俺は商人にこの地域の伝承や歴史を綴った本一式を言葉巧みに買わされることになる
それによって見えてきたことが多い……が
これは収穫というべきか、余計な出費というべきか……

61 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:44:42.54 ID:dxS7ozrO0
ーーー遥か昔、この砂が覆い尽くす不毛の地を切り拓いた者たちがいた
ーーーその者たちは神器である幻想玉を持ち、絶対的な権力を示し、次第に人が集まり一つの小さな国を作り上げた
ーーー僅か数年で王族となった彼らは、魔法を使い数々の産物を作り出し国は発展していく
男(その過程で生まれたのがあそこにいた魔法生物か)
宿で床に就いた俺は半ば強引に買わされた書物の山を読み耽っていた
男「何が好きでこんなもん読まなきゃいけないんだか」
そうは言いつつも次の頁を捲る

62 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:45:29.04 ID:dxS7ozrO0
ーーーだが、その発展も時を経るごとに弱くなっていく
ーーー幻想玉を巡る戦いで国は疲弊し、次第に国力をも失っていった
ーーーこの時代、魔法は魔族のみが使う禁忌のものとされており、王族は他国の者達から忌み嫌われた
ーーー繰り返される戦いの中、その重圧と国民からの不満の声に耐えきれず、隠居
ーーーそしていつしか幻想玉は失われ、行方知れず
ーーー国は形を成すことが出来なくなり、他国の進行と共に自然と人々は離れ、そして消えていった

63 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:46:09.68 ID:dxS7ozrO0
男「……」
男「伝承ってのはどこまでが真実か史実か、嘘か想像か分からないところがあるな」
丁寧に書き綴られた本を捲っていく手はいつの間にか止まっていた
幻想玉は失われることなくそこにあった
戦争を経験したその国は疲弊していたどころか確かに栄えていた
夢か幻か……
いずれにせよ、気にはなる

64 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:46:35.51 ID:dxS7ozrO0
男「明日、また遺跡へ行って調べてみるべきか……」
興味を惹かれると、まるで麻薬を打って気が違ったかのように求めてしまう
あの宝玉が見せた景色はそれほどまでに俺の心を射止めた
これもまた神器であるが故の魅力……魔力か
当初の目的を忘れ、どこか心を躍らせる自分に気が付かぬまま布団を被る
明日は早い。また違った発見をする為に旅に出よう
幻想玉に導かれたあの瞬間のように、俺は静かに目を閉じた

65 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:47:14.33 ID:dxS7ozrO0
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ー2nd daysー
ーーー沈んだ日はまた昇る
   光と影を交えたままに
   決して変わらぬその結末に
   私は何を待つのだろう
   心は何を待つのだろう……ーーー
姫「……驚いた、というより呆れたな。またこうして私の前に顔を出すとは」
男「ハハ……」
開口一番でこれだ
正しい幻想玉の使い方が分からない以上、違う場所で違うことをするのは大きなリスクを背負うこととなる
だったら同じ場所で同じことをすれば……
実験は見ての通り成功した。俺が昨日と同じ場所に出るという結果を出して

66 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:47:55.90 ID:dxS7ozrO0
姫「私に気でもあるのか?悪いが求婚は全て断っている。これでも相手は選びたいからな」
男「お前みたいな子供に興味なんて無い。興味があるのはこの玉だけだ」
姫「ふぅん……」
何を諦めたのか、彼女は昨日のように手に取られたその宝玉を取り返そうとはしなかった
男「どうした?もうコイツには執着しないのか?」
姫「取り返したところで無駄なようだからな。昨日、お前が消えたあとまやかし玉がそこに転げ落ちた。結果的にはまた返ってくる、だから今は預けておいてやる」
男「預けるねぇ……」
この神器の仕組み自体はよく分からない。が、こちらとしてはありがたい話だ

67 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:48:58.19 ID:dxS7ozrO0
一息ついて沈黙が続く中、不機嫌そうに振る舞いながらもこちらへの興味を隠せないのか、横目で何度も様子を伺っている
構ってほしいのか?そんな事をふざけて言ったものなら、脛に目掛けて手に持っていた果物を投げつけられる
男「ず……随分と酷いことをするな」
姫「大の大人がその程度でうずくまるな」
弾けたその果物からは甘い香りが漂う。ただし、また靴を果汁で濡らして……
見た事のないような硬い果物を全力で投げつけられれば誰だって痛いだろう
姫「で、今日は何の用だ?」
男「用って言ってもな……」
実験で来た、なんて本当の事は言っても信じてくれはしないだろうし、信じてもまた果物が飛んできそうだ

68 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:49:35.11 ID:dxS7ozrO0
男「お前に会いに来た……なんて言ったらロマンチックか?」
姫「冗談は軽々しく言えるんだな。もう一発行くか?」
男「悪い、勘弁してくれ」
その手に握られた色鮮やかなものは今投げつけられたものと同じ
あんな硬いものをまた当てられたらたまったものでは無い
姫「だったら真剣に答えろ。私は真剣に聞いているんだ」
男「ハァ、分かったよ。言うよ、特に理由はない。移動しようとした先が偶然ここだったって話だ」
男「昨日と同じ、何も理由はない」
姫「……悪意はないようだ、まぁ信じよう」
本当の事ではないが嘘でもない
信じてくれるのならそれに越した事はないだろう

69 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:50:26.33 ID:dxS7ozrO0
姫「さて、それでは今日は何をして遊ぶか」
男(まさか俺を使って昨日みたいに遊ぶ気か)
姫「そんな顔をするな、2度目となると同じものでは笑いはとれん。直接遊ぶだけではなく、見て楽しむ事もしてみよう」
分かりやすい顔をしていたのか
そんな俺の表情から言いたいことを察した彼女が付け加える
姫「ほれ、今日は外で面白いものが見える。どうだ、お前もこっちに来て見てみろ」
ベッドを叩いてこちらに来いと催促をする
男「昨日の警戒心はどこへ行ったんだ?」
姫「今日はスケルマターが早めにくる日だ。お前が変な気を起こしてもまぁなんとかなるさ」
随分と無警戒……あるいは魔法生物への信頼が大きいのか

70 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:50:53.88 ID:dxS7ozrO0
男「それで?何が見えるって?」
このまま遠くで立ちっぱなしというのも何だ
遠慮せず彼女の隣へ座りこむ
姫「ああ、見ていればわかるさ」
窓の外には太陽が燦々と照らす町並みが見える
砂漠の真ん中に存在する都市。石で造られた建造物、簡素な出店が立ち並ぶ
人々は物を売り、また買いながらその営みを繰り返している
姫「どうだ?我が国は。随分と栄えてるだろう?」
男「へぇ……見下ろすとこんな感じなのか」

71 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:51:31.74 ID:dxS7ozrO0
素直に感心する
まだ過程の域を出ないが、ここは俺がいた世界よりもずっと過去
あの廃墟と化し地中に埋没した景色が今、目の前でこうして息をしている
長い歴史の中で消えていった都市の本当の姿。そう思えば感慨深いものがある
姫「もうすぐ始まるぞ」
男「始まる?何が」
姫「旅芸人の出し物だ。あそこを見ろ」
指さされたその場所は、中央に位置するこの場所から離れた大きな広場で開かれた舞台
その場に似合わない風貌の男女達が小道具を広げている
辺りには今か今かと待ちわびる大勢の人、ひと、ヒト……

72 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:52:11.13 ID:dxS7ozrO0
姫「国から国へと旅をしている者達だそうだ。世界中で人気らしくてな、我が国へ来ると知って皆大はしゃぎ」
姫「フフ……見てみろ、あそこの子供なんて近くで見ようと必死に人ごみをかき分けて行ったぞ」
男「よく見えるなそんなの……」
ここからかなりの距離があるがよく見えているようで……
彼女は語りだしたら止まらない、喋りたがりのようだ。その場のどうでもいい事さえ話題にしてしまう
姫「さぁ始まるぞ。旅芸人たちの一喜一憂、笑いと驚きの大舞台」
男「何だよそれは」
姫「あの芸人たちの売り文句だそうだ」

73 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:52:49.48 ID:dxS7ozrO0
見ろとは言われたものの、どうもここからではよく見えない
だというのに、彼女は楽しそうに一芸一芸説明してくる
そのペースが続きに続き、こちらも聞き入ることしか出来ない
魔物を使った一芸
獰猛な野獣に火の輪を潜らせ得意げにする獣使い
ポールを使ったアクロバット
次から次へと飛び移り、無茶な格好を決めながら組体操
失敗したらご愛嬌、そこはアドリブで補う事で
男「よく見えないから正直お前の説明がないと分からん」
姫「私は何度も見ているからな、次に何をするかは見てわかる」
流石は一国のお姫様
超人気と謳われる旅芸人の芸を何度も見ているとは

74 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:53:17.26 ID:dxS7ozrO0
舞台も中盤に差し掛かったころ、彼女の口から一つの提案がこぼれる
姫「なぁ、賭けをしよう」
男「またかよ、今度は何だ?」
渋りつつも、興味もないものをずっと見せつけられ聞かされていた俺にとってはマシな話だ
姫「次の芸……綱渡りとやらが始まるのだが」
男「まさか落ちるか落ちないか……とか言い出す気か?」
姫「その通りだ。どちらに賭ける?」
男「正気か?」

75 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:54:02.11 ID:dxS7ozrO0
余りにも幼稚、あるいは単純な事だ
今までの言動からも読めていたことだが、やはりまだ子供と言ったところか
「何かあるのか?」と、不審に思いながらもその賭けを承諾し話を進める
男「で、何を賭けるんだ?」
姫「そうだな……お前が勝ったらこの果物をくれてやる。負けたら……まぁそれはいい。私が楽しみたいだけだからな」
対等だから成立する賭けだというのに、それは無いだろう……
手に握られたのは先ほど投げつけられた硬い"アレ"
男「頭に一発お見舞い……なんてことはないだろうな?」
姫「自分から掲示しておいてそんなことはしない。さぁ、落ちる落ちない、どっちだ?」

76 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:54:31.92 ID:dxS7ozrO0
芸人たちにしてみればいつもやっている事
こちらをハラハラさせながらも、終わるころには何事もなくやってのけるのが芸というものだ
当然選ぶのは"落ちない"だが……
男「"落ちる"、だな。ここは」
姫「ほう……どうしてそれを選んだ?」
男「誰もが選ぶ方を選択しても面白味が無いだろ?安全牌を切ったところで賭けという形は意味を成さなくなる」
姫「捻くれ者め。だからあえて逆の考えをしたということか……ああ、そういうのは嫌いではない」
捻くれているのならそちらも相当……
言いかけた所で強く睨まれたためすぐに口を閉ざす
お転婆なのは困ったものだ