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姫「置き去りにされた世界の中で」
Part13


280 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:50:03.48 ID:vaoyWf2b0
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ーーー

ー4th daysー
ーーー私が愚かでした
   繰り返される時の中で、またやり直せると信じて
   私が愚かでした
   愛する者を失っても、生き延びようとして
   私が愚かでした
   真実に気が付く事もしなかった
   
   私が愚かでした
   でも……
   それでも……幸せでしたーーー
男「……」
姫「酷い顔をしている……今語った事が全てだ」
こんなことがあっていい筈がない
彼女は国の為に尽くした、そして国を想い……死んでゆく筈だった
だが、彼女に下されたのは神の気紛れ
永遠の苦しみ……

281 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:50:44.62 ID:vaoyWf2b0
数刻前
まだ日も昇らない時間、俺は幻想玉を使い再びこの世界を訪れた
嫌な予感が的中した
丁度、魔法生物があの瓶を運んできていた
その傍らに、加工された何かを添えて
それを口に含もうとした矢先に俺が飛び掛かった
彼女は悲鳴を上げ、俺は魔法生物に思い切り殴り飛ばされる
剣士に暴力を奮われ、ここまで全力で走らされ、そしてこれである。なんて日だ

282 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:51:19.72 ID:vaoyWf2b0
だが怯んでもいられない
零れ落ちた湿った粉末の臭いを嗅ぐ
間違いない、いつも俺の脛目掛けて投げられる"アレ"だ
なんのつもりだ、と
そう言われても仕方がない。止めに来たのだと声を張る
彼女は怒りを顕にし俺の頬を引っ叩く
これも仕方がない。覚悟していた
オマケと言わんばかりに脛目掛けて果物を投げられる
それは想定していない

283 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:51:52.43 ID:vaoyWf2b0
落ち着いた頃に、ようやく口を利いてくれた
あの果物は、彼女が長い年月の中を苦痛なく過ごせるようにするために必要不可欠なものらしい
鎮静効果に目をつけ、それを加工し数日のうちに接種し続ける事で眠る時間を増やし
そして最後は冷たくなって死んでいく
彼女の母が使った毒薬を改良したものだ
それは改良と言っていいのか……定かではないが

284 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:52:26.75 ID:vaoyWf2b0
耐え切れなかった
いくら自殺をしたところで、またすぐに1日目が始まる
だったら眠ればいい
何も思わず、何も考えず。眠って一週間にも満たないこの時間を過ごせばいい
彼女はその考えに辿り着いた。全てを諦めたが故の苦肉の策だった
いつも1日目に薬の調合表を魔法生物に渡して作らせていたらしい
週に一度の作業だ
最低限の同じことを繰り返すだけで後は眠る……
彼女にとってはこの世界ので起こるすべての事は一通り体験した退屈な事なのだ
あまりにも……惨すぎる

285 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:52:58.87 ID:vaoyWf2b0
そして、強情にも引き下がる事をしない俺に諦めてか
過去に起きた出来事を全て話してくれた
姫「……それで、お前は何をしに来た。私が安らかに死ねる機会を潰して何がしたい」
男「俺は、お前を救いたい」
姫「笑わせるな。高々十数年生きただけのガキに何が出来るか」
言葉の重みが違う
既に可能な限りは挑戦してきただろう
そして、全て打ち砕かれてきただろう
そんな彼女を、俺は……それでも俺は救いたかった

286 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:53:26.39 ID:vaoyWf2b0
姫「偽善を私に押し付けるな、安っぽい感情だ。失せろ、私にその顔を二度と見せるな」
そういう訳にもいかない
俺は決心したんだ、もう見捨てたくはないと
姫「ああ、分かったぞ。私の身体が目当てか……まぁいい、一度くらいなら抱かれてやっても構わん。それで気が済むだろうて」
男「そんなつもりはッ!」
こちらの言葉など意に返さず、彼女は衣服を脱ぎ始める
美しいく白く、そして透き通る肌
穢れを知らぬその身体に、つい見惚れてしまう
そして……

287 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:53:57.97 ID:vaoyWf2b0
姫「……」
男「その背中は……」
偽物の月が照らす光の下
映し出されたのは黒く濁った模様だ
姫「罪人としての刻印だ。本来ならば……生きる事も許されん」
彼女が見せたその背の証は
痛々しく刻まれたそれは、俺の腕のものと類似していた
そう、忘れてはならない
彼女は救済と同時に、贖罪を求めているのだ
姫「私一人が救われようなどと、誰が許してくれようか」
決して己を許すことが出来ず、ただ存在し続けた
生きる事も死ぬ事も出来ない罰をその背に刻み
彼女はここに在った

288 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:54:24.44 ID:vaoyWf2b0
姫「おい、その気がないなら服を着るぞ。寒い」
男「え?」
姫「え?じゃない……まったく、からかい甲斐の無い奴だ」
急ぐようにまた服を着る
残念だ、もう少し見ていたかったのだが
だが、そうも冗談は言ってはいられない
考えろ、何かあるはずだ。彼女を解き放つ手段が

289 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:54:55.48 ID:vaoyWf2b0
姫「無駄だ、既に一通り考え付く事はした」
国から出ようとしてもダメだった
その先が無かった、ただ真っ白な砂漠を歩き続けるだけだった
そして振り返ると、いつもそこに国があった
どんな死に方をしてもダメだった
飛び降りても、頭を潰しても
股から頭の天辺まで無残に切り裂いても
1日目に戻るだけだった
その元凶となった神器の破壊もダメだった
この世界には神器を破壊できるだけの技術も力も無い
姫「……もう帰れ、お前は退屈しのぎが出来たと思えばそれでいいだろう。私もお前を記憶に留めておこう、それでいいじゃないか」
あちらさんはどうも追い払いたいようだが……

290 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:55:25.84 ID:vaoyWf2b0
姫「情を移すなよ偽善者。私は普段の生活に戻るだけなのだ」
諦めてしまっている彼女を立ち直らせ無い限りは進展しないだろう
だったら、こちらにも考えがある
男「いいだろう、出て行こう」
姫「……ああ、そうだ、それでいいんだ」
いくら顔を逸らしても声から分かる
お前は助けを求めている
俺はここから出ていく
だが、ただ出ていくわけじゃない
姫「……おい、待て!まやかし玉を置いてどこへ行く気だ!」
そんなものは必要ない
彼女に幻想玉を手渡し、部屋から出ていく

291 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:56:00.02 ID:vaoyWf2b0
男「悪い、スケルマター。外まで安全に出られる方法を教えてくれ」
ジッと彼女の隣に立っていた魔法生物は、拒むわけでもなく素直にその言葉に従った
姫「待てスケルマター!そんな事は許可しない!お前はお前で何を考えている!元の世界に帰れと私は言ったのだ!」
姫「深夜は警備が厳しい、無謀にも程があるぞ!!」
そんな事を言われても、一度決めたのだからもう曲げはしない
だが、彼女は言っても聞かないだろう、だから
男「賭けをしよう」
姫「なんだと?」

292 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:56:45.31 ID:vaoyWf2b0
男「俺がこの世界に残って解決方法を見つけられるかどうかだ。当然、お前は俺が見つけられない方に賭けるな?俺は逆だ」
姫「この期に及んで何をッ!」
男「何年、何十年、何百年かかるか分からんが……お前をここから出して見せる」
男「賭けの品は……そうだな、俺が勝ったときに貰うとしよう」
自分でも頭の悪いことを言い出したと思った
久しく彼女との賭けをしていなかったことを思い出し、そして啖呵を切った
何百年と言ったが、例外的に俺の時も進まなくなるとは限らない
だが、命の続く限り
この命を
幼く、気高い、健気な、そして
美しい彼女の為に捧げよう
これは自己満足だ
彼女を解放する……
偽善者と言われても、その通りだ
だが、俺は
もう後悔したくはない……!

293 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:57:16.98 ID:vaoyWf2b0
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ーーー

姫「……出て行ったか」
姫「何故……お前は」
姫「そこまで……」
「……」
姫「帰ってきたか……スケルマター」
姫「……いい。もう下がれ」
「……」

294 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:57:50.85 ID:vaoyWf2b0
「……」
姫「何をしている、下がれと言ったハズ……ッ!」
姫「お前……その手に持っているものは……何だ!?」
姫「ああ……」
姫「どこで拾ったんだ……」
姫「どこで……」
「……」

295 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 01:58:51.70 ID:vaoyWf2b0
ー5th daysー
ーーーもういい
男(まずは手当たり次第に調べろ、話はそれからだ!)
ー6th daysー
ーーーやめろ
男「時間切れ……ッ!クソッ!視界が歪む……吐き気がする……アイツ……自分で死なないとこんなにも……苦痛を……!!」
ー1st daysー
ーーーやめろ!!
男「はは……まさかこの世界から追い出されるとはな……結局、幻想玉経由しなきゃここに来れないから、週に一回はアイツの顔を見ることになるんだな。それが救いか」
ー3rd daysー 
ーーーやめてくれ……
男「国の全容は分かった、まずはコイツら全員に何があるかを……」
ー6th daysー
ーーー頼む……
男「ハズレか……!!クソッ!!」
ー2nd daysー
ーーーこれ以上……
男「あの旅芸人達……間違いない、ジスト王国の密偵だったか。もしかしたら原因はアイツら……?」
ー3rd daysー
ーーーこれ以上私に……
男「畜生ーーーーーー!!図星だったのかよ!!アイツらまだ追って来やがる!!何ループしたかは分からんがこんなの初めてだぞ!!」
ー6th daysー
ーーー希望を与えるな!!

296 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 02:00:05.45 ID:vaoyWf2b0
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ー1st daysー
ーーー夢であってほしいと願った
   だが、それは現実
   私にとっての現実
   彼にとっての幻
   週に一度、彼の顔を見て安心する自分がいる
   
   もう、こんなことに付き合う必要は無い
   もう私は満足した、私の為に尽くしてくれた貴方に
   だからもう……私の事は忘れてください……ーーー
姫「……」
男「なんて顔してるんだよ」
姫「43回目だ……あの日から私に会った回数は」
単純計算で258日か、まだまだ
お前が歩んで来た道よりずっと短い
まだやれる、まだ大丈夫

297 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 02:00:47.09 ID:vaoyWf2b0
姫「大丈夫なものか!!繰り返す日々の中、駆けずり回って!時に追われて!!」
姫「何故そうも私の為に動く!!どうして放っておいてくれない!!」
姫「余計に……苦しくなるだけだ……お前が居なくなった後の事を考えると……また私は一人に……」
震える少女を抱きしめる
ああ、彼女から生を感じる。生きている事を実感できる
これが分かったらまた頑張れる
彼女はまた希望を持てた
だから、もうあの日から自分で自分を殺すという事を行っていない
きっちり6日で世界が終る。それが全てを物語っている
……行こう

298 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 02:01:25.18 ID:vaoyWf2b0
姫「待て!」
逃がすまいと彼女は袖をつかむ
そんな涙を一杯に溜めないでくれ
姫「教えてくれ……」
姫「お前の……事を。お前の過去を」
男「……」
その時
初めて彼女が俺の過去を聞いた
やっと、聞いてくれた
ああ、やっとこの苦しみを
誰かに話すことが出来る……

299 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 02:02:05.32 ID:vaoyWf2b0

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名も無き集落に、俺は辿り着いていた
冒険者になって一旗あげようと実家を飛び出したはいいものの
田舎者の俺にそんな成果を上げられる事も出来ず、こんな辺鄙な場所に辿り着いていた

300 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/18(月) 02:02:40.79 ID:vaoyWf2b0
ここは居心地が良かった
人々は俺を温かく迎え入れてくれた
あろうことか仕事までくれた
生きる術を教えてくれた
とても掛け替えのない……家族になった