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姫「置き去りにされた世界の中で」
Part1

姫「置き去りにされた世界の中で」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431788360/

1 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/16(土) 23:59:35.13 ID:sdrbyRyG0
ー1st daysー
ーーー始まりは何処か
   問うても問うても答えは無い
   夜空に浮かぶ月が淀む
   まるで、透明な砂に埋まるように
   偽物の空
   ああ……始まってしまった……ーーー
姫「……何者だ、お前は」
男「な、何者ったってなぁ……」
姫「どうやってここへ入ってきた?普通ならば入ってこれるはずがない」
男「俺だって知らねェ!気が付いたらここにいたんだ!」
姫「どういうことだ」
男「俺が聞きたいくらいだ!」
男(確か、あの宝玉をのぞき込んでから……クソッ!なんだってこんなことに……!)

3 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:01:17.42 ID:dxS7ozrO0
あ、注意書き忘れてた
地の文だらけでさらに長いので苦手な人は回避推奨

2 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:00:24.27 ID:dxS7ozrO0

ーーー
ーーーーーー
その出来事が起こる数日前の事
この乾燥した地域のど真ん中にある街の酒場で俺は一人の商人が目に入った
男「おい、そこの犬耳の女。変わった服着たお前だ」
商人「狼です。はいはーい、私ですかー?」
男「見たところ旅商人のようだが……ある道具の情報を知りたい」
商人「情報ですか?物によってはお金取りますけど……で、何でしょう?」
男「ああ、"幻想玉"という物を探している」
商人「へぇ……」

4 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:04:12.23 ID:dxS7ozrO0
男「なんだ、知っているのか」
商人「そりゃもう、この地方では有名な"神器"ですからね。色々伝説もありますし地元で知らない人はいないんじゃないですか」
男「そんな伝承で伝わったような情報何ていらん。俺が欲しいのは場所と方法だ」
商人「あなた、冒険者ですか。もしや手に入れる気でも?」
男「お前には関係ない、それを知っているか知っていないかだけでいい、教えろ」

5 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:04:58.93 ID:dxS7ozrO0
"その手"の業界であまりいい噂は聞かない有名な獣人の商人
腕のいい剣士と屈強な魔物、そして訳の分からん生物を従え各地を荒らして回っているとよく聞くが、顔を合わせてみればただの小娘だ
それに今は護衛もいない
ただ、そういう奴こそが有力な情報を持っていたりする。使えないのなら適当に切り上げればいい話だ
商人「ふーん、一商人にそんな事聞きますかねぇ普通」
男「目についたからだ、他に理由は無い。何を警戒している」
商人「そりゃ、"腕に袖からチラッと何か"が見えもすれば警戒もしますよ。結局のところ、どこかで私の噂でも嗅ぎ付けたりなんかしちゃって……」
男「……詮索はお互いの為にならんぞ」
商人「はいはい。ま、そこは何かの巡りあわせって事にして……」
商人「言ってしまえば"知っています"。ですが、生半可な腕では到底辿りつけませんよ。危険を伴います」
男「構うかよ、それを承知で探しに行くんだ」
商人「……わかりました、では私の知っている限りの情報を教えます」

6 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:05:47.48 ID:dxS7ozrO0
この町より北西へ進んだ先にあると言われる巨大な地下遺跡……いや、都市ともいえる広さか
数百年前に滅んだと言われる文明の跡地
誰の手も加えられずにそのままの形で残っているらしい
商人「その遺跡の中央部に存在する建物の最上階に今は安置されているそうです」
男「確証はあるのか?」
商人「確証かどうかの決定打にはなりませんけど。私、一度そこに足を踏み入れたんですよ」
男「何かあったのか?」

7 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:06:22.46 ID:dxS7ozrO0
曖昧な証言ならば必要ないのだが……
照れくさそうに。いや、バツが悪そうに商人は言葉を綴る
商人「えっとまぁなんというか……罠だらけでしてねぇ」
商人「進めば進むほど警告から徐々に警戒、そして殺意に変わっていった物でした」
男「それで引き返してきたって訳か」
商人「ええまぁ。私は最上階へは行けませんでしたが……おかげで仲間がちょっと体中に矢が刺さりまくりまして今治療を受けている最中なんですよ」
男「そいつ、それでよく死なないな……」
商人「死んでるのか生きてるのかよく分からない子なもので」

8 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:06:53.49 ID:dxS7ozrO0
男「お前もそいつを手に入れようって魂胆だったのか?」
商人「あわよくばそうしようとは思っていますが、何分私は観測の依頼を受けていましてねぇ。迂闊に盗ったりなんてしたら後で女神さまの天罰が下されますので」
男(こいつの訳のわからない話はどうでもいいのだが……)
商人「で、ここに遺跡を辿った時にザッと書いた見取り図があるのですが。そこそこ出来はいいと思うんですけど」
男「……なんだ?」

9 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:07:21.00 ID:dxS7ozrO0
商人「ヌッフッフ、なーんてことはありませんよ!ご購入いただければ情報料の方は値引きさせていただきますので!」
男「大した情報でも無かった癖に抱き合わせまでしてくるか……チッ、いくらだ」
商人「まいどありー」
足元を見られた気もするが。これを余計な出費と取るか、それとも投資と取るか
この先向かう地下遺跡でハッキリさせるとしようか

10 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:07:58.06 ID:dxS7ozrO0
ーーーーーー
ーーー

男「……」
男「油断した」
数日かけて探索をしていた
何てことはない、聞かされた通りの話だっただけだ
広い
とにかく広い
膨張でも何でもない、ありのままのこと
まさしく都市に匹敵するその広さに眩暈さえ感じた

11 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:08:37.63 ID:dxS7ozrO0
そもそも、本来国を上げ、立ち入ることを禁止されている場所
誰も知らない抜け道から、ほぼ知識が皆無な状態で歩き続けなければならない為精神的疲労も積み重なっていく
それを知っているあの商人は、やはり只者では無かったか
男「一応、万端の準備はしてきたが……探索は骨が折れるな」
俺が目的とする"幻想玉"はこの遺跡の中心部に存在する建物の最長部の部屋にある……らしい
が、これでもこの業界は長い。隈なく捜索してくつもりではあるが
男「やっぱり先に確かめておくべきか」
風化した街並み
多くの人々が生活していたであろう跡が今でも残っている
既にこの数日でいくつかの場所は調べた
まだここに築かれている多くのものには興味がある、価値がありそうなものを拝借していきたいところだが
やはり優先すべきは"幻想玉"
早々に目的地へ向かうことにした

12 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:09:13.48 ID:dxS7ozrO0
それにしても、驚くべきことにあの商人から買い取った見取り図は非常に正確なものだった
高めに"ぼられた"気もするが、そこは流石に商売人というべきか。十分に値段に釣り合うものだ
男「ここか……」
目の前にそびえるは巨大な建造物
現在の物と比べて至ってシンプルだが
所々小洒落た模様、時代を感じさせるものが描かれている
その辺りに、時の流れによる文化の違いが見て伺える

13 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:10:01.71 ID:dxS7ozrO0
男「罠らしいものはここまでなかったみたいだが。要はここからが本番ってところか」
そう、順調にここまで来れたがまだ問題は残っている
枝分かれした安全な道を、正確に記された地図を頼りに進む
しかし、これが案外すんなりと通れるものだ
いくつか他のルートは自分でも確認できたが、今は地図に示された安全な場所を通っている
商人一行が引っかかったであろう罠はこことは違う道に集中しているようだ
気を付けるべきは穴くらいか
罠とは決して呼べない物
一度空いたら空きっぱなし、長い年月を経ているのか抜けてしまった床が多数

14 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:10:28.11 ID:dxS7ozrO0
男「もうすぐ最上階か。このまま楽に進めるといいが」
……だが、おかしい話だ
ここまでいくつものルートを確認し、罠を起動させて進んできたのならこの地図を描いたあの商人はここまで来たのは当然だろう
ならばなぜ、あともう少しというところで引き返した
仲間が負傷したからといえばそうだろう
だがあの様子を見た限りでは命に別状があったわけでもない
仲間に対して情がないというのならば話は別だが……

15 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:10:56.67 ID:dxS7ozrO0
ならば、既に持ち出されている……?
そう考えれば納得がいく
本人は観測と言っていたが持ち出したいとも言っていた
仮にすでに持ち出したのなら俺に吹っかけて用済みになったこの地図を売りつけたのか
思えばこれはあの商人が描いたという保証もない
勿論、俺に本当の事を話す理由も無い
男「くそ……ッ!まさか図られたか?」
美味い話には裏がある。よくあることだ
こんな簡単な手段に引っかかる辺り、気取っているだけの冒険者だと自分でも思う

16 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:11:27.73 ID:dxS7ozrO0
しかし、幸いというべきかなんというべきか
目的である場所につくと、その考えは空回りしているだけだと知る
男「……あった!」
暫定本物
確かにそこに"幻想玉"と呼ばれる神器らしきものが存在した
男「これだこれ!あー心配して損した!」

17 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:11:54.69 ID:dxS7ozrO0
この地上に存在しない素材で作られている"神器"
神の使う道具として作られたそれは時に人々を救い、時に人々を苦しめることもある
しかし、そういった作用を持たない便利なものや意味の無いものもある
幻想玉と呼ばれるこれは意味のない部類に入るのだが
男「かつてこれ一つで数多の戦争が起こったと言われるほどの逸品だ」
男「その宝玉を覗けば七色に輝く美しい幻想が見られると伝えられているが……」
男「だが、昔の連中も馬鹿だね。美しいというだけで奪い合い殺しあってきたんだからよ」
それは国の力を示すこととしては十分
天界からの神の落とし物である神器を持つということは、国としての地位を上げるのに一躍買っていたのだから
その時代に置いては……の話だが

18 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:12:42.85 ID:dxS7ozrO0
男「厳重に管理されていると思っていたがそうでもなかったな」
まだ本物かどうかはわからない
たとえ宝箱の中に入っていようが野ざらしにされていようが重要なのはそこだ
男「だが……ッ!?」
一瞬、何か物音が聞こえた
壁を背にし、注意深く辺りを見渡す
しかし何も見えてはこない
男(気のせい……か)
明らかな老朽化で建物自体が脆くなっている
きっとその影響だろうか、背にした壁も少し触れただけで石が剥がれ落ちてきた
男「この音か……こんな簡単に崩れるなんて、危ないな」

19 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:13:19.31 ID:dxS7ozrO0
辺りに崩れやすくなっている場所は無いか、慎重に調べ終え改めて探索を続ける
男「この部屋も最長部の一室でしかないみたいだ。狭いし暗いし……窓はあるな」
遥か昔の遺跡の建造物にガラスというものなど存在せず、吹き抜けになった窓からこの地下遺跡が一望できる
とはいえ、空は真っ暗
ここは地面の中に埋まった遺跡、当然といえば当然だ
男「しかし高いところから見るとこうもわかりやすいか……広すぎるだろう」
今一度、自分が歩いてきたであろう街並みを見て改めて驚く
外の確認を済ませ、部屋の中を見渡す

20 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:13:47.66 ID:dxS7ozrO0
見たところこの部屋はお世辞にもいい部屋とは言えない
収納棚と思われるものや石造りのベッドなどが置かれているが他には何もない
ここにはどんな人物が暮らしていたのだろうか……
男「ま、いいか。そんなことよりも今はだな」
この宝玉が本物かどうか確かめるべきだ
目を凝らして見ればわかるだろう

21 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:14:29.56 ID:dxS7ozrO0
色無く輝くその光は、幻想を映し出す
今過去未来、夢現実。その所有者が望むビジョンを映し出す
それは夢
それとも幻
光の中に捉えられたその景色は
やがて辺りを照らし数多もの欠片となる
安らぎに近い、とても暖かな物を感じ
静かに目を閉じた
「……」

22 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:15:00.94 ID:dxS7ozrO0
ーーーーーー
ーーー

そして今に至るということになるが
姫「……人を呼ぶぞ」
男「待て!どうなっていやがる!?俺はさっきまで遺跡の中でこの宝玉を……」
姫「宝玉だと?」
男「あ、ああ。こいつだ」

23 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:15:37.56 ID:dxS7ozrO0
本来ならば手に入れたお宝を見せるようなことはしない方がいいだろう
気が動転していたのか、目の前にいる少女に光り輝くその玉を見せてしまった
姫「ッ!?貴様、いつの間に私から"まやかし玉"を奪った!?」
男「まやかし……?この"幻想玉"のことか?」
姫「ええい!そんなものどうでもいい!返せ!!」

24 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:16:08.75 ID:dxS7ozrO0
我が物と言わんばかりに、乱暴に幻想玉はこの手から引きはがされた
男「なっ!そいつは俺が見つけた宝だぞ!お前が奪っていい道理などあるか!」
姫「これの所有者は私だ、お前のようなどこの馬の骨だかわからん者に持たせる訳にはいかん」
白い肌、まだ幼さが残る少女
しかしその威圧感はどこか高貴なものに感じた
物怖じする俺に少女は続ける
姫「……で、お前。どこからここに入ってきた」
男「どこからって……俺が知りたいくらいだって言ってんだろ」

25 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:16:39.82 ID:dxS7ozrO0
姫「ふぅん……なるほどな」
まじまじと、俺の姿を頭の天辺からつま先まで見る
怪訝に、不思議に。恐怖よりも興味が勝ったのか、少女は石造りのベッドに腰掛けたまま指さす
姫「まぁいい、お前もどうやら訳が分かっていないようだしな。実際私にもわからないけれど」
姫「お前が突然現れたのは……思い当たる節はあるが確証はない、しかし……」
男「……?」
姫「ん?どうした?」

26 : ◆cZ/h8axXSU :2015/05/17(日) 00:17:12.28 ID:dxS7ozrO0
男「そのベッド……」
姫「別に、珍しいものでもないだろう。適当な大きさに斬られた石に布を何重にも敷いただけのものだ」
いや、俺が注目したのはそこじゃない
この部屋の間取り
部屋に取り付けられた棚
適当な大きさのベッド
そしてそのすぐ後ろには大きく空いた横長の窓
ここからではよく見えないが、人々の活気を感じられる
これは……