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魔王「ならば、我が后となれ」 少女「私が…?」
Part8


226 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:05:43.58 ID:QdF34VfG0
魔王「………これは、受け取って良いということだろうか」
少女「うん。きっと、そうだよ」ニコ
これをもっていれば 
いつかはその気持ちとやらを確認できるかもしれない
だがいつになれば確認できるようになるのかなど、わからない
いつまでも確認できない可能性もあるし
確認できたとしても時間がかかるものかもしれない
それでも、持っていようと思えたのは 何故だろう
魔王「…む? だがしかし、長く置いておいたら芽などが出てしまうかもしれない」
少女「え?」
魔王「どんぐりが木になってしまったら、その気持ちとやらは無くなってしまうのか? 芽の出ないよう、工夫して保管しないとならないだろうか」
少女に尋ねてみる
すると少女はまた、心底おかしそうに腹を抱えて笑い出した

227 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:06:25.87 ID:QdF34VfG0
リスは、少女が笑い出したのを見て驚いたのか
チチッと一声鳴いて、巣穴にもどっていた
魔王「何故笑う?」
少女「あ、あははははは!!」
魔王「質問には答えてくれぬのか」
少女「あ、あはは!! ううん、木になったら きっと素敵だよ!」
魔王「ほう。また『素敵』、か。しかし本当にそうなのか?」
少女「うん! あはははは! このどんぐりが 大きな大きな木になればいいと思うよ!」
魔王「大きな木になると、このどんぐりが持つ気持ちとやらの価値も高くなるのか?」
少女「ううん! そうじゃないよ…… でも、想像してみて?」
魔王「想像……?」
少女「そう! このどんぐりがね、芽を出して…

228 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:06:56.67 ID:QdF34VfG0
魔王は少女の言う通りにしてみることにした
目を閉じ、どんぐりから芽が出る様子を想像する
少女「大きな木になって、すごくすごく おーーーーっきい木になって…… たくさんたくさん実をつけるの!」
脳内で彩られる、秋の季節
赤や黄色に色を変えた木の葉。 実り、大量におちて転がるどんぐり
少女「魔王と私でどんぐり拾いとかするんだよ! そしたらそこに、リスさんがどんぐりを拾いに集まってくるの。 大きく育った子リスも一緒かもしれない!」
なんだろうか
なんとなく、なんとなく 少女の次の言葉が待ち遠しくなっていく
そうなったら どうだと言うのだろうか
だが なんだかそれは、うまく言えないが、とても……
心の中が、満ちていきそうな気がする

229 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:07:53.77 ID:QdF34VfG0
少女「でね、そうしたら……!!
「少女!!」
少女「!」ビクッ
突然の、全てを打ち破るような怒声
目を開けてみると 一人の青年が立っていた
敷地内の侵入者に対し、少女を背後に寄せて警戒の姿勢をとる魔王
「やっと、見つけた」
魔王「……知り合いか。あれは何者だ」ヒソ
少女「……あの人は…」
少女「私の、お兄ちゃん……だよ」
魔王「……兄…?」

230 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:08:52.88 ID:QdF34VfG0
青年「お前! こんなところで何をしているんだ!?」
少女「お兄ちゃん! あのね、私……!」
青年「いい加減にしろ!! はやく家に帰れ!!」
少女「ご、ごめんなさいっ!!」ビクッ
少女「あ……でも」チラ
魔王「……兄、なのか」
少女「…うん」
魔王「…………そうか」
親はいない孤児だと聞いていたが
言われてみれば『兄弟』がいてもおかしくはない
ましてや俺を兄に見立てて慕っていたのだ
実際に兄がいると考えなかった方がおかしいのかもしれない

231 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:09:24.17 ID:QdF34VfG0
魔王「………」
どうすべきか、と思った時
少女がリスに話しかけていた様子を急に思い出した
**************
少女「どうしよう、お城に連れ帰って飼うとか…は、あんま良くないのかなぁ」
少女「普段の生活とか、リスちゃんの他の家族とか 知らないもんね」
少女「お母さんリスさんと離れるのは寂しいだろうし…。だからってお母さんリスさんを連れてって もし他の兄弟が居たら大変!」
少女「やっぱり、自分のおうちに戻してあげる方法が一番だよねぇ」
**************
少女の言葉は、後になって考えると いつも正しかったように思う
それに家族がいるというのならば
まだ15の子供にとっては家族の元に居るのが“いい”のだろうとも思える
どう、“いい”のかはわからないが…
あの子リスが、自分の巣穴が一番なように 
少女にとっても、自分の家が一番いいのだろう

232 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:10:13.24 ID:QdF34VfG0
魔王「帰るといい。俺のことは気にせずともよい」
少女「……っ」ズキ
魔王「………帰るといい」
少女「おにいちゃん…… ごめんなさい…」
魔王「お前の兄は… 『おにいちゃん』は、あの男だ」
少女「……っ」
青年「おい!! 早くしろ!」
少女「っ!」ビクゥッ!
振り返りながら、赤い目をして少女はその兄へと駆け寄る
これでいいのだろう
きっといつかは、正しかったと思えるはずだ

233 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:11:00.12 ID:QdF34VfG0
青年「……おい。少女、その服はどうしたんだ… まさか、俺が留守をしてる間に買ったんじゃ…!」
少女「ち、違うよ…お金なんか使ってないよ! それに、ちゃんとパンを買って余ったお金だって、いつもの場所に入れて…」
青年「じゃあ、その服はどうしたんだ」
少女「私にって、用意してくれたんだよ。……えへへ、お姫様みたいでしょ? 似合ってる? あのね、実は私……」
青年「……その服なら、高く売れそうだな」ボソ
少女「!」
青年「さあ帰るぞ。お前が働かないと、食う飯も無いんだ」
少女「……うん。そう、だよね」
少女は、先を歩く青年の後ろを歩いて町へと帰っていく
その途中、一度だけ振り返った
少女のその視線を受けとめた時、胸が苦しかった
まるで締め付けられるようだと思った
これも、何かの変わりに 少女から与えられたものなのだろうか

234 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:11:45.83 ID:QdF34VfG0
まるで、穴が開いたようだ
その穴の中に、真っ黒い暗雲が詰め込まれたようだ
あの視線が
あの少女の表情が
………強く胸に押し付けられた鏝のように いつまでも焼きついて離れない
離す事も出来ない、焦げ付く痛み
魔王はそれをどうする術も持たないまま…… 
長い月日を、ただ過ごすしかなかった
少女がいなくなった事を 内心で喜ぶ者達に、囲まれながら。

237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 07:42:12.75 ID:w8EnKQ5UO
乙です
もっと直球なのが来るかと思ったら、結構な変化球が飛んできた
続きに期待

238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 07:55:44.26 ID:Dgjh/sFJ0
なるほどそう来たか

239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 09:08:14.18 ID:hw2hQnFBO
ええ…悲しいなぁ


240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 10:19:31.60 ID:os3tEVOdo
魔王の足りなさが歯痒い

241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 12:15:08.63 ID:hDUGnEftO
なん・・・だと・・・
今後の展開を思うと胸の内が辛いぜ…。

247 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 22:58:11.90 ID:NeK/HLg90
:::::::::::::::::::::::::::::::
少女とその兄の青年を、見送った後
魔王はしばらくの間、そこを動く事が出来なかった
一歩でも下がり、少女が去ったその先から目を離したら
それで終わってしまう気がした
空は 真赤に染め上がり
日は 沈み込んで隠れて消える
夜が 始まる
全てが闇に閉ざされた時に、ようやく魔王は瞳を閉じる事が出来た
目を開けていても、閉じていても 変わらずそこにあるのは 闇だと知っているから
そんな事で、ようやく目を閉じる事が出来た。閉じてもいい気がした
そのまま 日が昇るまで魔王はそこに立ち続けた
日の光を瞼に感じ、目を開ける

248 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 22:59:36.07 ID:NeK/HLg90
魔王(……何も、変わらない……)
朝になってなお、少女の視線と表情がまだ胸に焼き付いていた
変わらず、痛みを伴ったままで
だから まだ、終わっていないと思えた
魔王(終わらない……)
終わらない
痛みは、この胸にある
終わらない
終わらないのならば、安心して戻ってもいい気がする
目を離しても
背を向けても
終わる事などないのならばーーー もう、いいではないか
魔王は、後ろを向いて歩き出した

249 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 23:00:06.12 ID:NeK/HLg90
魔王(…なんと……長い、1日なのだろう)
焦げ付き続ける胸の痛みが
少女と過ごした“今日”を、しっかりと記憶に残してくれていると実感した
魔王(今日は…いろいろな事があった)
“今日”という日で、時を止めてくれたような この胸の痛みさえあれば
鮮やかなまま、この記憶や感覚を残しておけるだろう
今までに受け取ってきた様々な感情も
二度と受け取る事が出来ないかもしれない『幸福の余韻』ですらも
ーーーーいつまでも 失わずにいられるだろう

250 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 23:01:09.70 ID:NeK/HLg90
魔王の長い1日は、こうして 続いていくことになった
終わらないものは、「少女と過ごした、最後の日」だろうか
終わらないものは、「少女を想う、魔王の心」だろうか
今となってはそんなことはどうでもいいーー 
そんな事には、関心が無い

251 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 23:02:46.36 ID:NeK/HLg90
:::::::::::::::::::::::::::::::
「魔王様、おかえりなさいませ。朝食をお召し上がりになりますかーー」
“終わらない日”に、時間だけが積み重なっていった
「ここ数日、后様をお連れではないのですね。飽きたのでしたら、ひとつ遊戯などに興じられるのもーー」
要らないものばかり与えようとする者の為だけに、月日は過ぎていく
「魔王様、代わりの娘を見繕いました。よろしければこの中からーー」
そんなものでは、この美しい記憶を穢させまいと 必死に痛みにしがみついた 
「この娘、少女様にそっくりでしょう。辺境村の村長より、是非とも魔王様の夜伽係にとーー」
時にその痛みに誘われ、終わりに飲みこまれそうになっても
魔王「『要らぬ』」
これだけは、譲れなかった

252 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 23:04:24.38 ID:NeK/HLg90
::::::::::::::::::::::::::
「……では…」
「…ああ、以前と変わらぬよ…」
その後、魔王は
誰になんと言われようと、関心などもたないと決めた
「…ようやく、アレをお捨てになったとおもったのだが…」
「…まあ、無いに越した事は無いさ。僅かな望みを邪魔されてもな…」
うっかり要らぬものを受け取って
この痛みと引き換えられてはたまらない
本気で、そんな心配をしていた
「…やはり、『無欲の魔王』は 無欲のままであったか……」

253 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 23:05:45.97 ID:NeK/HLg90
何と言われようと、この痛みだけはもう無くさせはしないーー
ただそれだけが、魔王をそれまで通りの『魔王』らしく振舞わせていた
もう これだけは手放したくない。損ないたくない
終わらない今日を 終わらせたくないーー
抱えきれないほどの財宝も、武力も権力も、自由すらも持ち
望んで手に入らぬものなどない魔王が望んだのは ただそれだけだった
それなのに
無為な時間が増える代わりに、“今日の価値”が磨り減らされる気がする
あの幸せな時間が、つまらぬ時間にどんどんと薄められていく感覚
残酷なまでの、時の流れ
“今日”が終わらなかったとしても、時間は流れていくのだと思い知らされる

254 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 23:09:19.50 ID:NeK/HLg90
このままではいつか 確かにあったはずの幸せな日は 薄れゆくのだろうか
“何も無かった日”へと変わって行ってしまうのではないか
薄れて、消えていくのすら 『怖い』と思った
手放さなくとも、持っていても 消えていってしまう
だから、魔王は
いつまでもいつまでも 鮮やかなままで残していけるように
いつだって焦げ付く痛みに触れ、その痛みを味わった
そんなことでしか
少女と過ごした“今日”の価値を失わずに済む方法が見つからない
その他には 『少女』を失わずに済む方法が、見つからなかったのだ
子が、家族の元に居るのが“いい”のだろうとも思えてしまったから
なにがどう、“いい”のかはわからないままだったから
魔王は、奪うことも、望むことすらも出来なくなってしまっていた

255 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 23:10:29.31 ID:NeK/HLg90
:::::::::::::::::::::::::::::::::
ある朝…
魔王「…………くそ」
あまり眠れない日がここのところ続いていた
夜、夢見が“悪い”と 起きてから安心することができた
夜、夢見が“良い”と 起きてから不安になり 痛みに触れていなければ気が済まない
その日は、数日振りに 夢見が“良かった”
少女を探し求めて歩き、森で見つけ。話し相手にさせて、花を与えて喜ばせた
初めて『楽しい』『嬉しい』という感覚を知った、あの日の夢だった
魔王(……ひまわりの花、か)
寝起きに、ぼんやりとその余韻に浸りそうになる

256 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 23:12:52.30 ID:NeK/HLg90
離別も痛みも、喜びすらも知らなかった自分を思い返す
もっと出来た事があったのではないかと悩むうちに憔悴してしまう
この寝起きの憂鬱さを思えば、悪夢の方がマシだった
あの時、ああして会っていなければ 知らないままでいれた想いがあるのに、と
疲れきって投げ出すように、そう思ってしまう自分に嫌悪する
今となっては何よりも大切なものなのに
まるで本心ではそれを望んでいないようで……
魔王「…………離別してしまえば… そんなものだと言うことなのか……」 
魔王は、もう疲れきっていた
寝起きだというのに動く気力も無く、ベッドの上で身を起こした状態のままでいた
しばらくすると
なかなか現れない魔王を呼びに来る者の声が 扉の向こうから聞こえた
そいつを供に廊下を歩き、謁見室の玉座に座る

257 : ◆OkIOr5cb.o :2015/01/26(月) 23:13:45.52 ID:NeK/HLg90
少女『やっぱり、自分のおうちに戻してあげる方法が一番だよねぇ』
魔王「……ああ。お前が言うならば、そうなのだろうな…」
覗き見るように触れた痛みの中
愛しげに語りかけてきた少女に返答する
臣下B「何か仰られましたか?」
横に控えていた臣下は、今日の謁見希望者のリストに目を通していた
魔王の呟きを聞き漏らし、声をかけてくる
魔王「………」
口に出てしまうなどと、やはり疲労しているのだろう
限界なのだろうか
臣下B「……失礼致しました。では、本日一組目の謁見者を通します…」
そいつの謁見があったのは
丁度、魔王が少女と過ごした月日よりも 長い月日が過ぎた頃だった