Part7
205 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:42:29.66 ID:QdF34VfG0
少女「それに、このままやっぱり見捨てるなんてしないもん。おにいちゃんが止めても、ちゃんと助けてあげるつもりだよ」
魔王「……する必要が無いと知っていても、そうすると言うのか。何故だ」
少女「必要が無くても、この子がそうすれば生きていけるから…かな??」
屈託無く笑う少女
与えたつもりで誇らしく思っていたものの、それを否定された気分だった
魔王は知らず知らずの内に、子リスを疎ましく思ってしまった
魔王「ふん、これだけ運の悪い子リスだ。生き永らえたところで近いうちに…」
少女「でも、ちゃんと助けてあげられたなら…それって、3回も生き永らえたって事になるんじゃないかな」
魔王「生き永らえた……?」
少女「うん… うん、そう! だから、この子リスは運が悪いんじゃなくて。“生”に恵まれてるの!」
魔王「“生”に?」
少女「それってきっと、すっごーーく運のいい子リスちゃんだよ! 生に恵まれるなんて、すごく素敵なことだもん!」
206 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:44:06.60 ID:QdF34VfG0
確かに、3度も死に掛けたのは確かだ
この少女が俺の言うことを聞き、このリスに手を出さずにいれば
このリスは3度目の死の淵を味わい、その次こそは死ぬ
だがこの少女が『する必要が無くても』『止められても』助けるのならば…
確かに、この子リスは3度も生き永らえてみせた事になる
それまで強固に意志を貫いた事の無い魔王にとって
貫くことで真逆に変わってしまうものがあるという事実は衝撃的だった
魔王(……そうか。この子リスは少女によって 『“生”に恵まれるという素敵な事』を手に入れるのだな…)
魔王はこれまで、生というものに価値など無いと思っていた
それどころか、自分が生きる意味などない… 生きる必要が無いとすら思っていた
魔王(生きたいという意思を持ち、貫くつもりであれば… 俺の“生”の価値も真逆になるのであろうか)
魔王(生きることに、価値が生まれるのであろうか)
207 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:44:41.63 ID:QdF34VfG0
少女「おにいちゃん? 難しい顔をして、どうしたの?」キョトン
生きることの価値など知らない。わからない
そこまでして得るべきものなのかどうかさえ疑わしい
少女「おにいちゃん?」
魔王「………」ジッ
少女「?? 私、顔になんかついてる…?」
そうだ、この少女は生きたいといっていた
それは生きる価値を知っているからこそなのではないだろうか
俺が彼女を気に留めた理由は まさにそれだったのだ。ならばーー
魔王(俺が真に欲しいのは… 『生きる価値』なのではないだろうか)
208 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:45:42.00 ID:QdF34VfG0
少女「うぅー。おにいちゃんも返事してくれないし… どうしよう、お城に連れ帰って飼うとか…は、あんま良くないのかなぁ」
少女「普段の生活とか、リスちゃんの他の家族とか 知らないもんね」
少女「お母さんリスさんと離れるのは寂しいだろうし…。だからってお母さんリスさんを連れてって もし他の兄弟が居たら大変!」
少女「やっぱり、自分のおうちに戻してあげる方法が一番だよねぇ」
魔王が自らの望みに結論を出した頃
少女はリスにそんな風に話しかけていた
どうやっても助けるつもりらしい。それも、最善の方法で
このリスは少女によって、その『運の価値』を逆転させた
少女は何かを与えると他のものに引き換えるだけではなく、そんな事も出来てしまう
彼女に変えられるというならば 俺も変えてもらおう
棄ててもよいと思える程度の生きる価値を
尽きるほど無く幸福が湧き出るという、そんな価値あるものへーー
209 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:47:03.28 ID:QdF34VfG0
魔王はどうしたら変えてもらえるのかわからなかった
だから聞いてみることにした
魔王「おい、そこの子リス」
少女「え? えーと… お兄ちゃん、もしかしてこの仔に話しかけているの?」
魔王「名がわからぬので子リスとしか呼びようがないが、そうだ」
少女「………」
魔王「お前は今、生きるための手段が尽きようとしている」
魔王「俺が、生きるための手を貸してやろう。そのかわりに、教えて欲しい事がある」
少女「それは無理だよ、喋れないもん」
魔王「」
至極当然のことだったが、魔王は必死になりすぎてそれすら気付けなかった
210 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:48:08.21 ID:QdF34VfG0
少女「あはは! よかったね、子リス」
魔王「何がよかったというのだ…」ハァ
少女「おにいちゃん、手をかしてくれるんでしょ? この子リスに」
魔王「それは、どうやってお前が少女をその気にさせたのかという教えと引き換えにーー」
子リス「チ……」
少女「あ、鳴いた!」
魔王「……しまった」
少女「…おにーちゃん? どうしたの?」
魔王「……リスの言葉は、わからないのだと言ったであろう」
少女「うん、それは私だってわからないけど、それがーー
魔王「こいつは条件通り、回答していた可能性がある… それを俺が理解できないだけなのだとしたら、条件を出してしまった以上 助けるべきであろうか」
少女「」
211 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:48:54.85 ID:QdF34VfG0
魔王「どうした」
少女「え? あ、だって リスの言葉なんてわかるわけないよ! 真面目な顔でおにーちゃんが冗談言うのなんて、初めてだったからびっくりしちゃった」
魔王「冗談?」
少女「……え? 本気だったの?」
魔王「狼人であれば狼の言葉を理解する。狼たちにも意思がありそれぞれ独自の言語を持っているのを知っている」
魔王「俺自身、力の強い狼であれば多少の言語を汲み取ることも可能だ。まぁそれほどに力を持ったものは元々狼人の血をーー
少女「狼さん… 喋るんだぁ」
少女はどうやら既に興味が逸れたようで、話が耳に入っていないようだった
魔王「……まあ、リスもそうであったとして不思議ではないと思ってな」
少女「ふぁぁ… すごいんだなぁ…『魔王』って…」
212 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:51:04.55 ID:QdF34VfG0
少女は感心していたが リスはリスだ
魔王の創りだした狼人の血が混じった狼のような特別なリスではないし、リス人など創った覚えもない
だからリスはただ鳴いただけだ
もちろんリス同士であれば意図のある鳴き声だとしても、魔王に答えた訳ではないーー考えればわかることだ
魔王は、目に見えないあやふやなものについて難しく考えすぎて
正常な判断力を失っていただけだった。普段ならば、やはり捨て置いただろう
魔王「どうしたものか…」
少女「……もしも答えてくれてたのかもしれないって思うなら、助けてあげればいいとおもうの」
魔王「しかし」
少女「あのね? おにいちゃん。んー……情けは人のためならず!、だよ!」
魔王「……?」
213 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:51:59.70 ID:QdF34VfG0
少女「コトワザ、知らない?」
魔王「いや、その諺は聞いた事がある……うろ覚えだが」
少女「じゃあ、そういうことだよ!!」
魔王「なんと。俺は助けないほうがいいのか」
少女「えええ? どうしてそうなるの!?」
魔王「? 情けは人のためならず、なのだろう?」
少女「う、うん だから……
魔王「『情けをかけても、その人の為にならない。時には厳しくする事が必要だ』……という意味では…なかったろうか…?」
あまり自信がない
目にした事はあるが、有用な諺だとは思えなかった、という記憶があるのみだ
少女「え……そうなの? むぅ。せっかく、難しいコトバをめずらしく使えたと思ったのに 間違えちゃったかな」
214 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:53:17.28 ID:QdF34VfG0
魔王「どう間違えたのだ?」
少女「情けをかけるのは、相手のためじゃなくって。いつか、めぐりめぐって、自分のためになるものだから かけてあげるといいよっていう意味だった気がして」
魔王「なんと。それでは俺の思っていたものと、意味が真逆ではないか」
少女「あはは! ほんとだね?」
魔王「だが結局それでは、どうするべきかわからないがな」
少女「むぅ… いい。間違ってても合っててもいい! 情けは人のためならず、だよ!!」
魔王「どちらの意味なのだ…」
少女「えへへ。かけてあげるといいよって方! だって、そのほうが素敵だもん!!」ニコ
魔王「素敵……」
少女「うん!! そのほうが、ずーーっと、素敵!! えへへ!」
魔王「素敵といわれても、何がどう素敵なのか分からない…」
少女「えー?」
215 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:54:10.21 ID:QdF34VfG0
魔王「そういえば少女は、先ほども『“生”に恵まれるのは素敵な事』だと言っていたな」
少女「え? あ、うん。言ったね。それがどうしたの?」
魔王「目に見えない物ばかり、よくそれほどに価値を見出しては次々取り扱うものだと思った。いつかその技術も手に入れたいものだ」ウム
少女「ほぇ?」
『生に恵まれるのは素敵なこと』
改めて考えてみれば、そうなのかもしれない
生きることの価値を知っている者にとっては、
きっと生というのはとても重要なものなのだろうから
だから、そういう者にとっては『生に恵まれているのは素敵』なのだろう
今の俺に、それがわからないのも無理はない
魔王「よし、まずは その素敵とやらを確保しておこう」
少女「へ?」
魔王「するべき事が、今日だけで増えすぎて収拾がつかない。情けをかけることが良いか悪いかなど、もはやどうでもいい気分だ」
少女「え」
魔王「少女。協力して欲しい」
少女「へ? へ?」
216 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:55:22.46 ID:QdF34VfG0
少女の身体を抱え上げ、持ち上げる
そのまま掌に少女の足裏を乗せ、さらに頭上へーー
少女「う、うわわわ!?!?」グラグラッ
魔王「すまない。俺自身でそのような小さな生き物を掴んでは、潰して殺しかねない」
少女「な、なに!? ひゃっ、ちょっ、た、高い!」ワタタッ!
魔王「俺の代わりにその子リスを巣穴にもどしてやってくれ。これならば巣穴に届くでだろう」
少女「あ………… うん!!」
少女が手を伸ばし、巣穴の中に子リスを入れる
それを確認してから、ゆっくりと少女を降ろした
217 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:56:06.71 ID:QdF34VfG0
魔王「おかげで手っ取り早く片付いた。助かったと礼を言おう」
少女「ふふふ。助かったのは、リスのほうだよ?」
魔王「条件を果たしたかどうか確認する時間が惜しかっただけだ。確認手段がない以上、いっそ“情け”をかけてみてもいいかと思った」
少女「えへへ。そうだとしても、今のおにいちゃん 素敵だよ!!」
魔王「……なんと?」
少女「え? だから、素敵だねって」
魔王「何処だ」
少女「え?」
魔王「素敵だといったではないか。俺は素敵を手にしたのか? なんの実感もないが」
少女「? おにいちゃんは、素敵だよ?」
魔王「俺が『素敵』に変わったのか? どこらへんが素敵になっているのだ?」キョロキョロ
少女(どうしよう。『魔王モード』じゃないおにいちゃんは、すごく変かもしれない)
218 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:57:29.88 ID:QdF34VfG0
魔王「俺が『素敵』に変わってとしても、俺の目には見えないのか…?」
少女「ぷ…… あは、あはは!! 『魔王』じゃないおにいちゃんって、おもしろいんだね!」
魔王「!? 俺は『素敵』になって、『魔王』ではなくなったのか!? なんてことだ!」
少女「あはははははははは! もうだめ、あははははは!! やめてえ! あははは!!」
魔王は至って真剣だったが
魔王の思考など知らぬ少女にとっては本当に愉快そうに笑い転げていた
『素敵』の正体について、結局 最後まで魔王はよくわからなかった
だが、どうやら少女は正しかったらしい
事情はともあれ、リスに情けをかけた魔王
紆余曲折あったが、結果 少女は今 とても楽しそうに笑い転げているのだ
少女が笑っていると幸せを手にする事が出来る
魔王(なるほど、情けをかけるのも悪くない…。 情けか、存外馬鹿にもできぬものだ……)フム
少女「あははは! 待って、今かっこいいポーズは禁止ぃ! それはズルいよぉ、あはははは!」
魔王「は?」
少女「だいじょうぶだよ! おにいちゃんは素敵になったわけじゃないけど、そのままで素敵なんだからぁ」アハハハ
魔王(……これ以上聞いていると、余計にわからなくなりそうだ…)ハァ
219 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:58:12.90 ID:QdF34VfG0
涙をながすほどに笑い続ける少女
「笑い疲れたぁ!」と 満足気な吐息をついて魔王にポテリと寄りかかってきたのは、しばらく後のことだった
腰を降ろして休憩を取ることにしたが、その間も少女は思い出しては口元を緩めている
諌めるつもりで頭を撫でてやると、小さく笑いながら頭を擦りよせて甘えてきた
少女「なんだか、疲れちゃったのに すごく気持ちいいー…」
魔王「そうか。……よかったな」ナデ
少女「えへへ。ずっとこうしてたいなぁ…」スリ・・・
魔王「……」ナデナデ
少女「おにーちゃん…… えへへ。こんなに幸せなんて、本当に夢みたい」
そんな少女を見て、抑えられないほどこみあげてくる何かがあった
いつまでもこの感情をと願った、それだった
魔王(この感情を、また手に入れることができた……。いや、できたどころか…)
魔王(この感情は…… 本当に、尽きることなく湧き出してくるようだな…)
魔王はまだ、それが何であるかなど わからない
ただ、尽きることなく湧き出るままに この少女に与えられたらいいのにと思っただけだった
220 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:00:12.32 ID:QdF34VfG0
しばらくして、だんだんと眠気すらも覚えてきた頃
リスの鳴き声が聞こえてきた。二人揃って、樹を見上げる
母リス「チチ…キィッ!」
少女「? あ、さっきのお母さんリスさん?」
子リスを巣穴に戻したと同時、あとを追いかけて巣穴にもどっていた母リスが、巣穴から顔をのぞかせている
母リスはふたりを確認するかのようにしたあと、巣穴から まんまるいドングリをひとつ抱えて出てきた
少女「あはは。おにいちゃんに、くれるって。可愛いね」
魔王「おまえはリスの言葉がわかるのか? ならば先ほど通訳を依頼するべきだったな」
少女「わかんないってば! んー…でも、言葉はわからなくても、わかるんだよ」
魔王(眼に見えないものだけでなく、耳では聞こえないものまでも取り扱うのか…。もしやこの少女、ただの貧しい花売りではなく大魔術師か何かの才能を……)
母リス「チチッ! キィッ!」
少女「ほら、お兄ちゃん。 リスさんが、受け取ってほしくて待ってるよ?」
221 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:01:03.02 ID:QdF34VfG0
リスをみやると、確かに待っているようだった
どんぐり。どんぐり…… どんぐりなど貰ったところでどうするのか
確かにどんぐりの実など持っていない。だがーー
魔王「そのようなもの、要らぬ」
少女「……おにいちゃん」
魔王「む。必要がないからと突っ張ねるべきではないか。ならば、必要があった際に収穫しよう。今は要らぬ」
少女「おにいちゃん、あのね」
少女は 寂しがるような目をしながら、声を潜めた
少女「……こういう時は、いらないって、言ったらだめなの」
222 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:02:12.50 ID:QdF34VfG0
魔王「…何故だ?」
少女「おにいちゃんが要らないのは、このどんぐりだよね?」
魔王「ああ」
少女「でもね。このリスさんにとっては 大事なものなんだとおもうんだ」
魔王「食料だろうな。体格を考えれば、まあ相当量かもしれぬ。特に哺乳中だろうし…」
少女「そう。きっとこのリスさんにとって大事なもの。でも、一番大事なのは、きもちだよ」
魔王「きもち?」
少女「リスさんがおにいちゃんにあげたいのは、どんぐりじゃないの」
魔王「……どういう事だ。こいつは確かに 『どんぐり』を渡そうとしている」
少女「うん。大事な大事などんぐりを、いっぱいの ありがとうの気持ちをこめて、おにいちゃんにあげようとしてるんだよ」
魔王「…………気持ちを… どんぐりに 込めて…?」
223 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:02:44.11 ID:QdF34VfG0
魔王は知らない。気持ちのこもった贈り物なんて、知らなかった
持ちきれないほど多くを与えられた。財宝も権力も何もかも…
だが、その中にはひとつだって 魔王への想いをこめた物などはなかった
魔王にとって、どんぐりはどんぐりで 金塊は金塊なのだ
そこにある実物以上には、他にはなんの価値もつかない“物”にすぎない
与えたり、与えられたりする物の中に
そんな想いがこめられている事があるだなど…思いつきもしなかった
少女「もしもおにいちゃんが、『そんなのいらない』って言ったらね。それは、どんぐりがいらないっていうだけじゃなくて…」
少女「そのリスさんの想いや… あの子リスの命までも、全部。『価値がないから、いらない』って言うのと 同じなんだよ」ニコ
魔王「……そうなのか」
少女「うん」
224 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:03:14.76 ID:QdF34VfG0
価値があるものだとわかっていても
それを見る目のない誰かに“価値がない”と言われたら不快だ
魔王「……」チラ
少女「……?」
魔王(そうだ。評価されないとはいえ、自分が価値あると信じた者を侮辱されるのは不快だった)
魔王(そうするヤツは、『愚かで要らぬ者』だと思ったはずなのに… 気付かずに俺自身も同じ事をしていたのか…)
生きる価値が欲しいのに
自らで『要らぬ者』にはなるわけには、いかない
225 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 05:04:10.68 ID:QdF34VfG0
魔王「…俺は、どうすればいい」
少女「もらってあげて? そのどんぐりはね、リスさんの気持ちなの」
魔王「ただ、貰えばいいのか?」
少女「気持ちは カタチにできないけど、カタチのある物の中には 気持ちが入ってることがあるんだよ。その気持ちを、貰ってあげて」
難しいことを言う
少女は時に理解できないことを言うが、今日はさらに難しい
リスのもっているどんぐりは、なんの変哲もないクヌギの木の実だ
だが、これに“気持ち”というものがはいっているらしい
俺にはそれが見えないしわからない。それなのに、それを貰えという
魔王「………」
目に見えない、物の『価値』
少女のように 俺も『生きる価値』を持ったときには、わかるようになるのだろうか
少女「おにいちゃん……」
魔王「……済まない。今の俺にはそのどんぐりの価値がわからない。それでも、受け取ってよいだろうか」
問いながらリスに手を差し出すと
ポトリ、と 掌にどんぐりを落とされた