Part6
162 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/21(水) 17:49:10.75 ID:WWLfwMQc0
少女「……?」
魔王「……ハァ。人の子がするように、撫でようとしている」ナッデー
少女「撫でてくれてたの? …………ぎこちないね?」
魔王「力加減と速さのバランスを思案していた」
少女「ぷっ」
魔王「何故笑う」
少女「あははは! 撫でるやりかたを知らないなんて、魔王は私よりも公私を覚えるのが大変そうだね!」
魔王「俺にできぬ事など無い」
少女「じゃぁ、ちゃんと撫でてー!」
魔王「…………」グニグニグニ
少女(く、首がもげる…っ)
163 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/21(水) 17:52:43.14 ID:WWLfwMQc0
魔王「………どうだろうか…?」
少女「……えへへ。ありがとう、おにいちゃん」ニコ
優しく微笑んでくれる少女に、達成感を覚えた
その達成感が確かなものであるか確認したくて、口が勝手に動き出す
魔王「満足したか?」
少女「これから一緒に、がんばろうね!!」
魔王「」
少女「?」
遠まわしに物事を伝えられる事はよくあったが
そうして伝えられる事象の中で、一番ショックだったような気がした
魔王(余計なことを聞かなければよかった)ハァ
少女はそんな気も知らず、頭に載せられた俺の掌に 自ら頭を撫で付けた
うっかり潰してしまわぬように、そのままにしてやらせておくと
おもしろがって俺の腕の下をくぐったり、指を折り曲げたりしはじめる
少しためらったが、腕を曲げて軽く少女の首元に絡むようにしてやった
くすぐったそうに首を縮め、今度こそ少女は満足そうに笑った
164 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/21(水) 17:53:14.64 ID:WWLfwMQc0
間違って首を絞めてしまわぬように気をつけていると
少女がその体重を預けてよりかかってくる
そうしたいのならば、と、されるがままに体重を受け止めた
暖かい。そして心地よい、重みだった
少女「えへへ……あったかい」ニコ
魔王「………ああ」
何かが、心を満たした
衝動的な何かも同時に生まれたが、それが何かはわからない
俺が今手に入れたこの思いはなんだろうか
何を差し出して、これを得ることが出来たのだろうか
魔王(できることならば この感情を いつまでもーー)
この日、ようやく二人は足並みを揃える事が出来た
『これから共に頑張っていく』
少女の心にも、魔王の心にも そんな希望の光が灯った夜だった
165 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/21(水) 17:53:56.02 ID:WWLfwMQc0
『魔王』ーー古来は災厄の根源
諸悪の起源として、忌み嫌われ打倒された存在
そんな彼が、希望を持つ事など 許されないのだろうか
何を間違ったというのだろう
何の罪があるというのだろう
幸福を願ってはならない者が 居るとでもいうのだろうか
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/21(水) 19:24:19.20 ID:+MzjDPZX0
乙
心一つで世界って変わるんだよなぁ…当たり前の恐ろしさを再実感したよ。
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/21(水) 19:58:45.93 ID:ARUKKFkSo
乙
二人の関係に悶えるわ!
だが、先が恐ろしく不安だ
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/22(木) 19:10:27.48 ID:e4QO0hGro
久しぶりに心をほんわかさせてくれるSS
更新のたび期待を裏切らないクオリティだ
186 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/23(金) 22:12:50.71 ID:te8QySvI0
::::::::::::::::::::::::::::
それ以降、少女は魔王の横に物怖じせず立つようになった
辛いと感じた時でも、すぐ隣にいれば こっそりと魔王だけに接する事が出来る
そうすれば『私事』の魔王がこっそりと少女の名を呼んで、甘えさせてくれる
その安心感が、少女を余裕のある振る舞いに変えていたのだ
そして少女の落ち着いた振る舞いは、魔王の『后』であるという事を皆に印象付けた
目に見えたり耳に聞こえたりする嘲笑や侮蔑を押し黙らせる事が出来たのが
二人が重ねた努力のもたらした、一番の結果だろう
もちろん、皆の心の底にある物までは計り知れないが
::::::::::::::::::::::::::::::
187 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/23(金) 22:22:15.75 ID:te8QySvI0
少女の振る舞いが変わり、数日ーー
謁見は相変わらず連日行われているが、次第にその様相は変わっていった
その日の謁見の最中
少女はすっかりお決まりになった姿勢で同席していた
玉座の横に立ち、魔王が頬杖をつく肘掛に軽く両手を沿え、心持ち身を寄せている
そして時折 魔王の様子をみては、微笑みながらそっと耳元で言葉をかけた
そんな少女に対して、同じように魔王も耳打ちで答えた
魔王は少女の言葉を聞きながら、謁見者に視線を飛ばすようになっていた
魔王の顔は、相変わらず無表情
だがそれでも、今までのような 何を考えているかわからない空虚さは消えていた
代わりに宿ったのは 『明確な意思を持った眼差し』
魔王の発言に人生を左右されかねない者達は
その“意思”がどこに向いているのか探ろうと 彼らの様子を必死に盗み見るようになっていた
188 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/23(金) 22:39:58.03 ID:te8QySvI0
だが、彼らが何を話しているのか 他の者には決して聞こえないーー
いままで侮蔑の言葉や視線をわざとらしく少女に浴びせていた者にとって、それは恐怖だった
(愉快そうに微笑を漏らす少女は、魔王に何を言っているのだろう)
(聞いた魔王が、今 自分をちらりと見やったのはどういう意図なのだろうかーー)
横柄な、悠々とした態度で高い場所から見下してくる『意思のある視線』
心に疚しい所がある者にとって、その視線は 断罪の宣告と同じ恐怖をもたらした
少女「(ねぇ、おにいちゃん… すごい事に気がついちゃった)」ヒソ…
魔王「(なんだ?)」コソ
189 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/23(金) 22:40:42.66 ID:te8QySvI0
少女「(あの、なんか一生懸命な顔でお話してるオジさん…)」
魔王「(……?)」チラ
謁見希望者「ーーっ!」ビクッ! ……ガクガク
少女「(……チャック、開いてて お花のパンツが見えてるの。ちょっと可愛いの)」ニコ
魔王(……顔面蒼白のあの中年が、お花のパンツ……だと……)
少女「(でもやっぱり、教えてあげた方がいいよね?)」
魔王「……」チラ
謁見希望者「ヒッ…!」
魔王「(……やめてやれ)」
少女「(そう?)」
魔王(……これほどの『哀れみ』の感情を、俺は一体何と引き換えたのだろうか…)
少女(あとで侍女さんか誰かに伝言して、教えてあげよーっと)
190 :
急用につき一時中断します ◆OkIOr5cb.o :2015/01/23(金) 22:45:36.57 ID:te8QySvI0
またその一方
二人のその様子に見蕩れる者も居た
一人は旅の敬虔な宗教家で、一人はある王侯が供にした幼い姫
もう一人は田舎の貧しい町長だった
彼らは多少の差異こそあれど、魔王と少女を見て似たような事を思った
『地に堕ち救いを求める者の小さな囁きを、暖かな眼差しで聞き届ける天使』ーーその絵画のようだ、と
少女はそれを知ってか知らずか、目が合った時に にこりと微笑んだだけ
そして、魔王は相変わらず「要らぬ」というだけ
魔王が新王に座して以来、謁見を終え退城する者は
暗い顔で溜息をつくか、顔を赤くして苛立つ者ばかりだった
初めてその三人だけが
満足気な表情でゆったりと帰路につく事が出来たのである
少女「(えへへ…今のちっちゃいお姫様、かわいかったね!)」
魔王(少女も、『ちっちゃいお姫様』ではないだろうか…?)
残念ながら、彼らを正しく見つめる事ができた者は皆無だったが
穏かで平和な日々が しばらくの間 ふたりを包んでいたのは確かだった
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/23(金) 23:44:25.63 ID:+gPClt+Do
このまま平和で終わってくれよ…
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 01:05:47.07 ID:XOVnAhZUO
乙
二人の穏かで平和な日々が続きますように
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 01:08:03.82 ID:TkjiMJdj0
最後はハッピーエンドと信じとるで
196 :
再開します ◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:33:11.05 ID:QdF34VfG0
::::::::::::::::::::::::::::
ある謁見のない休息の日ーー
少女「ねえねえおにいちゃん! 今日は、お外に行こうよ!」
魔王「……外…?」
少女「うん! 森に行こう!」
少女は朝起きると同時に、そんな提案で眠る魔王を起こした
少し上手くなった撫で方で興奮気味の少女を宥め、身を起こす魔王
魔王「森などへ、何をしにいくのだ?」
少女「森が落ち着くかなって。誰もいないし… えへへ。初めて会った場所だし!」
魔王「落ち着く人気のない場所ならば、自室でもいいだろう」
少女「あのね。お城にいると、やっぱり お兄ちゃんは『魔王ー』って感じがするでしょ?」
魔王「……ふむ。兄らしく振舞えていたのではと、少々自惚れていたようだ」
少女「? おにーちゃんっぽいよ?」
魔王「少女が否定したのではないか…」ハァ
197 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:34:54.71 ID:QdF34VfG0
少女「え? あ、違うよぉ。私から見てって話じゃなくて… おにいちゃんから見てってコト!」
魔王「俺が俺を魔王だと感じるのは当然だ。魔王なのだから」
少女「でも、外にいれば 『魔王』だって魔王じゃなく居られるんじゃない??」
魔王(…………わからない。魔王が、魔王じゃなく居られる感覚…?)
わからないが、この少女は俺の持たないものをたくさん持っている
もしかしたら、少女の言ったその感覚は 俺の持たないものなのかもしれない
それならばーー
魔王「行ってみよう」
少女「わぁいっ♪ 厨房の人に、お昼のお弁当つくってもらってくるー!!」
二人にとって初めての 『休日らしい休日』
長い1日が、はじまる
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
198 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:35:21.22 ID:QdF34VfG0
森の中を少女と歩いていく
まだ太陽の登りきらない時間、森の中にはまだ冷たい空気が残っている
少女「んー……」
魔王「? 少女、どうしーー」
ギュ
魔王「……」
小さな手が魔王の指を掴む
『手を繋いでいる』とは言いがたい。『手に掴まっている』状態だ
少女「えへへ… こうすると、ちょびっとあったかい」
魔王「……ああ。そうだな」
手を握るという行為を知らなかったわけではない
ただ、その幼く小さな手を握ったならば、潰してしまいそうだと思っただけだ
だから魔王は、4本の指を握り締めるその小さな指に 自分の親指を沿わせるだけにした
それでも二人は充分に温まる気がしていた
199 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:35:58.10 ID:QdF34VfG0
他愛もない会話を続けながら森の中を行くと
どこからか突然 『チィチィ、キィキィ』と、動物の鳴き声が聞こえてきた
少女「……? この声、なんだろう」
声のするほうに少女が歩いていく
すぐ近くの枝を掻き分けた先には少し開けた場所があり、一本の木があった
そしてその根元から動物の鳴き声が聞こえている
少女「こ、これ なに?」
魔王より先に木に近づき、正体を確認したはずの少女はそう呟いた
それを後ろから覗きこみ 魔王が答える
魔王「うむ。リスだな」
少女「リスはわかるけど… リスってネズミを食べるの?」
魔王「? リスはネズミの一種だ。まあ仲間を食することもあるかもしれぬが…何故そんなことを聞く」
少女「だ、だって リスがネズミを捕ってるところなんて、初めて見たから…」
魔王「………?」
少女「…うぅ、なんかなぁ…」ハァ
200 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:36:30.49 ID:QdF34VfG0
魔王「…少女。もしやこの小さい方のヤツのことを、ネズミと言っているのか」
少女「うん、そうだけど…?」
魔王「これは、リスの赤子だ」
少女「えええ!?」
魔王「生まれて間もないのだろう」
そこにいたのは2匹のリスだった
その内の一匹は、まだ地肌がほとんど見えるほどに幼い
少女「ふさふさで可愛いリスさんも、赤ちゃんって毛がないんだぁ…」
魔王「ふむ。おそらく、何かの間違いで巣からおちたのだろう。この大きいほうは、母リスかもしれぬな」
少女「ええ!? 大変じゃない!」
魔王「何がだ?」
少女「そうだとしたら、このお母さんリスは きっとこの子を助けようとしてるんだよ!」
魔王「ああ、そうだろうな。だがーー」
少女「早く助けてあげよう!」
201 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:37:48.85 ID:QdF34VfG0
慌てるように決心を決めた少女に対し
魔王は冷静に言葉を返した
魔王「必要ない。それが自然の摂理だろう」
少女「セツリ…?」
魔王「ふむ。摂理とは…」
言葉の意味を説明しようとして、止める。意味などは後で辞書を引けばいい
少女が理解できずに居る事は、あくまで『助ける必要が無い理由』ーー
魔王(やらずともよい事があると知れば、生きる上で面倒事も減る。その為の知識を、ひとつ与える事が出来るな)
魔王は言葉を改めて、話を続けた
魔王「……この子リスがここで死ねば、それを食べて生き永らえる動物がいる。この子リスが死んだとしても、それは無駄にはならないという事だ」
そう説明した後、魔王はどこか誇らしさを感じていた
自分には、まだこの少女に与える物があるのだと。与える事が出来るのだと
だが
202 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:39:05.68 ID:QdF34VfG0
少女「…それは、そうかも、しれないけど……」
母リス「チィチィ… チチチッ」
少女は子リスをそっと掌に乗せ、木の高い場所を見上げると
それきり黙り込んでしまっただけだった
魔王「……どうした?」
少女「あの穴が、おうちなのかな。……高い所にあるんだね」
魔王が少女の視線を追ってみると、樹上に小さな穴が開いている
子リスが落ちたとするならば、今 生きているのが不思議な高さだった
魔王「イタチや鳥のようなものに連れ出されたのだろうな。その後、取り落としたか何かして、ここに残されたと考えるべきだろう」
少女「……そっか」
魔王「こうして未だ食われずに生きているあたり、つい先程の事かもしれぬ」
少女「ついさっき…。それで、急にお母さんリスさんが鳴きだしたんだね」
魔王「ふむ、ありえるな。ヒトの気配に驚き、捕獲途中で逃げ出したか」
203 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:40:12.44 ID:QdF34VfG0
少女はそんな話をしている間中、忙しなくあたりを見回していた
掌の上の子リスを気遣っては、小さく困り果てた溜息をつく
少女「うー。 木に、登るようなひっかかりもないし…どうしようかなぁ」
魔王「……何があったかは知らぬが、この子リスはどうやら相当に運がわるいな」
少女「急に、どうしたの?」
魔王「少女はそれが摂理であると説明したのに関わらず、この子リスを助けようとしているのだと気付いた」
少女「う、だって。 …っていうか、どういう意味??」
魔王「摂理に逆らってまで救う必要はない。それがこの子リスの運命だったのだ。むしろ逆らうことでその運すらも悪くしているのではーーと、言いたかった」
少女「え?」
魔王は樹上の穴を指差し、続けて言葉にあわせ 順に指差しながら数え上げていく
魔王「巣からおちるような何かがあった時点で、一回。実際におちて母リスですら助けられない時点で、二回」
魔王「さらに、人に拾われても助けられずに困っている現在……この時点で三回だ」
204 :
◆OkIOr5cb.o :2015/01/24(土) 04:41:09.41 ID:QdF34VfG0
少女「それ… 何の数?」
魔王「この子リス、三回も死の淵にたたされている」
少女「……………」
黙り込んでしまった少女をみて、魔王は呵責を感じた
『助ける必要は無い』と教えたいだけだったのに
助けようとする少女を責めていると、思われたかもしれない
魔王「……だが死の淵を味わうだなどと、2回でも充分だ。コイツは元々、よほど運が悪いのだろう。だから救おうとなどせずともーー」
弁解交じりに説明を続けようとすると、少女は魔王をじっと見つめた後でにっこりと笑った
そうして掌の小さな命を愛しげに見つめ、口を開く
少女「そんなこと、ないよ」
魔王「………俺が間違っていると?」
少女「うん。だって、3回も死に掛けたのに、今 まだ生きて…私の掌にのっている」