Part28
758 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:14:44.79 ID:WNi40XMG0
::::::::::::::::::::::::::::::::
エピローグ
魔王「お前の国を、貰おう」
隣国王「ひ……」
魔王は凍てつくほどの冷酷さを持って
目の前にいる貧弱な王に、そう宣言した
魔王「安心しろ… 命までは取らないさ」
隣国王は青ざめた表情のまま、頷くこともできない
ただその場に、凍りついていた
魔王「俺が貰うのは、国だ。城もそのまま残してやるし、財も奪わない」
魔王「お前はそこでーー……
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
759 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:15:13.75 ID:WNi40XMG0
::::::::::::::::::::::::::::::
一年前、魔王城
青年「うぁー!! 俺も、強くなりたいなぁ!」
魔王城の一室で、青年が叫んでいた
彼は現在、郵便配達の仕事をしている
郵便配達と言っても、魔国の境にある小さな建物で魔王城に届く荷物を預かり
中身に危険物が無いか検閲し、それを魔王城に届ける仕事だ
逐一、各国の使者を魔王城に呼び入れていると雑務が耐えない
代行受付人、といった所だろうか
受け付ける手紙も、あくまで各国からの陳述書や要望書の類に限定される
魔王城にまでとどけるプレッシャーがない分、手紙の量は以前より増えた
だが、そのおかげであまりにくだらない謁見の数は減り、
魔王と少女ーー… 后は 二人の時間をゆっくりと味わうことができるようになった
妹や町娘のためにできる何かをしたい、という青年の要求に
侍女長が考案した新しい仕事。それが今の“郵便配達”という仕事だ
760 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:15:42.57 ID:WNi40XMG0
亡霊兜『剣術を学びたいならば、我輩が指南してさしあげますぞ』
側仕(町娘)「ふふ。亡霊兜さんが指南してくれるのでしたら、青年さん、きっと強くなりますね」
青年「げ。やだよ、俺… なんかしんないけど、こいつ俺にはすっげー敵意かんじる」
亡霊兜『敵意? まさか、そんな。悪意との区別もつかぬようでは修行が足りませぬな』
青年「いやがらせだったの!?」
側仕「ふふ。気付かなかったんですか?」
青年「 」
賑やかな室内の様子に、小さな后が魔王の横でくすくすと笑っている
魔王はそんな后のために、扇を手渡す
魔王「人のことを笑えまい。また叱られて落ち込むハメになる」
少女「あ…。うぅ〜。お部屋の中でくらい、口を隠さなくたっていいよぉ」
魔王「習慣のようなものだからな、慣れぬうちは常時意識しておいたほうが覚えも早い」
少女「えへへ。ねぇねぇ、魔王 みてみて!」
少女はふわりと香のただよう扇をひろげ、口元を隠す
美しく伸ばされた指先が扇に這い、その手に絡みつくような房が揺れて流れた
顔半分しか見えない
だが、扇の縁飾りの上から覗き見える瞳は 柔らかく可愛らしい
あどけなさを残しながらも、どこかいたずらそうに笑う瞳は……
761 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:16:19.02 ID:WNi40XMG0
魔王「……」
后「えへへ。どう? ちゃんとお姫様っぽい?」
魔王「ああ。………だが、やはり扇は要らぬ」
魔王は后の手から扇を取り上げ、パチンと閉じた
后「え、ええ!? いきなり前言撤回!?」
魔王「愛らしいものを、わざわざ俺の前から隠す必要もあるまい」
后「ぁぅ//」
魔王はまだ、若干おかしかった
不服そうな后の後ろでは、いまだ青年と亡霊兜がやりとりを繰り返している
亡霊鎧『ふむ。町娘殿にふさわしき男となるまで、彼女を抱くことは叶わぬと思うがよいぞ』
青年「な゛!? んなこと、おまえには関係ないだろう!」
青年が叫んだ直後、側仕の腕が動き 腰から抜いた剣を一直線に青年に投げつける
そしてその脚は……
げしっ、サク
762 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:17:00.29 ID:WNi40XMG0
青年「ひぃっ!? 町娘!? なんで俺に蹴りとレイピアを!?」
青年はどうにか、腹部めがけて飛んできた銀色の脚を掴んで防ぐ
その真横に 深々とソファに突き立てられたレイピアが光り輝いている
魔王「……」
后「こ、こわいっ!?」
側仕娘「あら? 腕と足が勝手に…… おやめくださいませ、亡霊鎧さま」クスクス
亡霊鎧『軟弱者への、軽い牽制である』
青年「〜〜〜〜っなんでお前がそんなことすんだよ!!」
亡霊兜『何、よくぞ防いだ。すこしは見込みもありましょうぞ。はっはっは』
青年「こんちくしょう!! 仕事の次いでとはいえ、堂々と町娘に会いにこれるのに!!」
亡霊兜『死後tのついでに想い人への逢引? そのようなふしだらな考え、男児たるもの……
青年「俺は現代人だから!! そんなもんいいんだよ! 会いたいときに会えるなら会うんだ!!」
側仕「お仕事をきっちりしないのでしたら、こちらまでの入室は許可できませんよ? 青年さん」クス
青年「 」
763 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:17:27.00 ID:WNi40XMG0
亡霊鎧『そしてプライベートな時間で町娘殿といちゃつきたくば、我輩を抑えてからにするのだな!』
青年「だから!! おまえを抑えてイチャついたら、構図的に俺はただの暴漢になるんだよ!!
亡霊鎧『暴漢!? 不貞の輩目め、討ち取ってやろうぞ!!』チャキン!
青年「ぎゃーーーー!!! 町娘に刺し殺される!!」
側仕「亡霊鎧様。手足をお返ししますので、私を巻き込まないでやってくださいますか?」ハァ
魔王が溜息をついて頭を抱えた
その様子を見て、后は魔王の頭を撫でながら励ます
いつのころよりか、后はこうして時々魔王の頭を撫でるようになった
本人いわく、「これも愛情のカタチなの!」だそうだ
后「あはは。賑やかだね」
魔王「ああ。……うるさいのはごめんだがな」
后「いや?」
魔王「お前が楽しそうならば、良い」
后「えへへ… うん! みんな一緒なのって、すごく楽しい!!」
魔王「そうか」
764 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:18:37.67 ID:WNi40XMG0
魔王が少女を連れ帰った後、
長い日を置かず、正式に婚姻の儀が結ばれた
魔王が少女を迎えに行く前の準備期間に
侍女長が下準備を整えていたおかげだ
少女を連れ帰って2日後、婚姻の為の書類に一斉に手がつけられ
丁度一月の後、盛大な式が挙げられた
少女との婚儀を快く思わない者達も
これには嫌がらせを挟む間もなくーー 無事に、婚儀が成立した
正式に后となった少女は、もはや嫌がらせも嘲笑も浴びる事は無い
もしもそのような事をして見つかれば罪に問われるだけ
だが少女の明るく物怖じしない性格は、警備兵や侍女など下位の人間に好まれた
一部の臣下にはいまだ手厳しい意見を持つものもいるが、
それに対抗するためにも 少女は礼儀作法の練習中なのである
また侍女長と町娘は、今や師弟関係のようになっている
侍女長の一番のお気に入りである町娘ーー 側仕も
丁寧ではっきりとした態度で仕事に臨んでおり、城内では信頼を集めるようになった
765 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:19:05.46 ID:WNi40XMG0
后「ねぇ魔王? これからどうするの?」
魔王「うむ…」
魔王は立ち上がり
机の上に置かれた書類を手に取った
魔王「魔国王として、手に持っているものくらい整頓しようと思う」
后「? 整頓?」
魔王「統治も悪くない。使うだけではなく、守っていくことすらお前がいれば可能な気がする」
后「守る?」
魔王「ただの森。それはお前と出会い、想いを募らせ、初めて笑顔を見た、幸運の森になった」
魔王「この城も、ただの居場所にすぎなかったが。お前と過ごすうちに…お前をそばに置くうちに安住の城となった」
魔王「つまらぬものであろうと その全て、おまえがいれば何もかもを変えていける気がする」
魔王「だから…… 様々なものの価値を見直すためにも、一度きちんと整頓しておこうと思ってな」
后「……うん! 素敵だとおもう!!」
766 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:19:35.20 ID:WNi40XMG0
ひび割れ、やっつに顔が写る鏡が机上においてある
少女が城に正式に嫁ぐ際にもってきたのは、それだけだった
手に取り、すこしずらすと、背後の亡霊鎧と言い争う青年の姿がやっつうつる……
そしてさらにずらすと、隣に歩いてくる后の姿を、やっつうつしだした
后「えへへ。この世界が魔王にとってつまらないものじゃなくなったなら 私は嬉しい!」
魔王「ああ。ゴミとおもっていたものでさえ… お前は変えてくれるからな」
后「こ、この世界はゴミだったの??」
魔王「俺にとっては、ゴミであろうとなかろうと どうでもよかった」
鏡に映る后は、どこか困ったような顔をしている
魔王の抱いていたこの世界への評価に対し、どうコメントしていいか悩んでいるのだろう
しばらく様子を見ていると、后は微笑みながらつぶやいた
后「たくさん、つらいことばっかりあったから。そんなのばっかり見てたら…いやになっちゃうことも、あるもんね」
魔王「……ああ」
767 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:20:00.44 ID:WNi40XMG0
魔王の生きてきた世界は、無感動でくだらない、政治まみれの世界だった
少女の生きてきた世界は、最底辺で望みの無い、虐げられて当然の世界だった
侍女長も、町娘も、亡霊鎧も、青年もーー
それぞれが生きてきた世界は、それほど輝かしいものではなかっただろう
それでも、こうして魔王の部屋に集まる皆の姿は楽しそうだ
自分の元にあつまった者が、穏かな日を過ごす様子を見届けのは安心する
だがその手元を見ると…
鏡の中に、ひび割れた少女が写っている
魔王「……やっつの少女、か」
后「? どうしたの、魔王」
魔王「………」
后「魔王?」
魔王「……ただ自国を統治するだけでは足りないかもしれないな」
后「え?」
768 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:20:27.98 ID:WNi40XMG0
魔王「もしも… 手の届かない場所にいってしまったら。繰り返しになるのだろうか」
后「何が?」
魔王「欲しいものをくれと、ねだったその相手が 敵だとしたらくれるはずがない」
后「あ…… もしかして、亡霊兜さんとおにいちゃんのこと??」
后「あはは。亡霊鎧さんはおねえちゃんのこと気に入ってるもんね。おにいちゃんに、おねえちゃんをくれないかもー!」
魔王「……亡霊兜の事ではない。だが、あいつのように、“守るため”に手放さないということもあるだろう」
后「?」
魔王「守るためではなく……。いつぞやのあの商人が側仕にしたようなことも いまの世では万人にありえる」
后「…うん。酷い目にあわせるために、手放さないひともいるね……」
魔王「売ってくれと言おうと、何をしようと…… 手に入らぬまま」
魔王「虐げられて、傷つけられて 無力なまま何もできなかったとしたら?」
后「魔王……? なんの話をしているの?」
769 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:20:54.95 ID:WNi40XMG0
魔王「もちろんどのような方法でも必ず手には入れて見せよう」
魔王「だが 相手の手中にあるうちは…何をされるかわからぬなど。気が気ではない」
后「うん…?」
魔王「ならば はじめから。全てを手中に収めておくのも、悪くないだろう」
后「??? それって、どういうこと?」
魔王「わからぬか」
魔王「お前は人間。そして俺は魔族。その生涯の長さには違いがあろう?」
后「えっと。私のほうが、ずっと先に死んじゃうんだよね」
魔王「ああ」
魔王「きっと、お前が年老いて死んで、また新たに生まれて年老いて死ぬまでのその間くらい 俺は生きてしまう」
魔王「俺の生涯。お前がどうがんばっても お前は俺の半分ほどしか生きられない」
后「……半分、かぁ」
魔王「俺は このままでは人生の半分しか、おまえとすごせないのだ」
770 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:21:20.93 ID:WNi40XMG0
后「………でも、それは… どうしようも…」
魔王「うむ。もちろん抗いようも無いだろう。百も承知だ」
魔王「……だが、この命は 生涯 お前の為にできる全てのことをやってみたいと思うのも確か」
后「??」
魔王「……おまえの来世の幸せまでもを、今のうちに整えておこうと思ってな」
后「ふぇ?」
魔王「周辺諸国を、全て抑える」
后「うぇっ!?」
魔王「もう二度と、無欲の魔王などとは呼ばせまい。今日からは 強欲の魔王として…」
魔王「この世のすべてを手中にいれる」
771 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:21:49.02 ID:WNi40XMG0
后「ちょっ、魔王!?」
魔王「なんだ」
后「なんでそうなるの!?」
魔王「そうしておけば、『いつか生まれ変わるお前』をも手にすることになろう」
魔王「ふ。なにしろ世界にある全てが、俺のものになるのだからな」
后「そ、そんなトンデモ理論…… 無茶苦茶だよ!?」
魔王「大丈夫。おまえさえいれば おまえの生きるこの世界 全て愛せるだろう」
魔王「その隅々にまで幸福を行き渡らせ満たすことすらできそうだ」
后「魔王……… 相変わらず、暴走モード??」
魔王「気にするな。あまりもてあましても困るだけの事」
后「うー…」
魔王「その生涯、来世までも 安心して全て身をゆだねるがいい」
魔王「俺たちの理想郷を、手に入れよう」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
772 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:22:18.39 ID:WNi40XMG0
そして現在、周辺諸国の実権を得るため
弱小国から順に魔王の元へ 各国の頂点が呼ばれている
“王”であろうと、魔王の地位には届かない
呼び出しに応じなければ、更なるデメリットが予想される
魔王は相応の準備と接待をもって、丁寧に王たちを出迎える
その手厚いもてなしを魔王城で受けた王たちは、皆 何かの朗報を期待した
だが、実際に目の前に座る魔王が口にするのは……
魔王「……他の御三方も聞いていただろう」
魔王「諸君らをお呼びしたのは他でもない。隣国王と同様だ」
魔王「諸君らの国を、頂こうと思ってな」
一方的な、征服宣言だった
773 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:22:47.24 ID:WNi40XMG0
武力行使も、アピールすらも必要がない
魔王のその言葉には、同等の重みがある
何しろ… 魔王は、魔王自身が 世界最強の武力なのだから。
この世界では既に失われた幻想の力、“魔力”
過去に魔力が溢れていた時代ですら、魔王はその頂点に立ち操ったとされる
想像もつかない恐怖は、想像の限界にある“災厄”を彼らに予想させる
これまでの魔王は無気力で、その瞳には何も宿さないような存在だった
敵も味方もつくらない。全てに対し“平等に”沈黙する
だからこそ、魔王がかつて勇者と共に“平等な平和な世界をつくった”事を実感させていた
既に、彼は伝説の“災厄”ではないのだと。
想像の世界で恐怖を具現化しただけの“魔王”ではないのだとーー…思えていた
だが、今目の前にいる“魔王”は その目に穏かならざらぬ生気を宿している
その姿を見れば 誰もが、『魔王の復活』と 恐れおののくほどだった
今日、魔王の元に呼ばれているのは4カ国の代表者
勿体無いほどの幅がとられた大きな円卓を囲み、それぞれが立派な座席に座っている
彼らをひとりづつ視線で捉えると
魔王はその漆黒の瞳を細め、言葉を続けた
774 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/25(水) 02:23:12.94 ID:WNi40XMG0
魔王「確認しておこう。諸君らは、王であるか」
東国王「……いかにも、東国の王である」
北国王「ち、ちがう! わしは、わしは王なんかじゃ… ひっ!? わ、わしはなにも…」
南国王「……で、あれば どうだというのだ」
それぞれ三者三様の態度と反応で、魔王の言葉に応えていく
魔王「王であるならば、王に問おうーー 我が最愛の后の為に」
魔王「王よ。貴殿は、自らの命をかけて自らの国を守るか」
魔王「それとも、国を俺にゆだねて自らの安寧を得るか」
魔王「さあ。どちらをえらぶ……?」ニヤ
北国王「わ、わしは命をとる!」
腰を抜かしたように背もたれに倒れた、一人の王が叫んだ