Part24
647 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 10:38:37.59 ID:JceRb9if0
魔王「教えるんだ! 少女!!」
少女「魔王……」
欲しいものを乞うなどと、したことはない
“おねだり”の仕方など、かんがえたこともない
不器用に求めるしかない
助けを求めて欲しいと、ただ必死になるしか できないからーーー
魔王「頼む……っ!」
少女「…………魔王…」
“思いを込めて” 言葉を、伝えた
少女「……えへへ。ありがと、魔王」ニコ
魔王「少女…!」
通じたと思った
願いを聞いてもらえたと思った
少女「でも。無理だよ」
聞いてもらっただけでは
叶えてくれるとは限らないのに
648 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 10:39:36.02 ID:JceRb9if0
魔王「俺にできない事など……!!」
少女「ううん。魔王でも… 難しいと思うの…」
少女「この1年以上… ずっと探し続けてるのに、見つからないの」
魔王「その恋人とは…… 行方不明者なのか!」
少女「………前は… 居場所だけは、わかったんだけど。今はもう、居ないの」
魔王「……っ 死んでいたとしても探してやろう。だから!」
少女「魔王。 ……言わせないで?」
魔王「何を……」
少女「あのおねえちゃんが見つからないなんて…。 きっと、もう無理なの」
少女「……『知らないままでいた方がイイ』事に、なってるんじゃないかな…」ポツリ
魔王「………?」
少女「きっとね。神様が、『知らない方がいいよ』って…… 気遣って、隠してくれてるんだよ」ニコ
魔王「な……」
649 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 10:40:04.60 ID:JceRb9if0
少女「だから魔王に探してもらうなんて、そんなことをしちゃいけないの」
魔王「何故だ!? できる努力をして何が悪い!? それで見つかるならばーー
少女「…違うよ。それは、私やおにいちゃんに出来る努力なんかじゃないよ」
魔王「何が違う!?」
少女「だって… 『魔王』って……」
少女「『魔王』って。現人神っていわれるくらい… すごいんでしょ?」
魔王「……何、を…」
少女「神様が… せっかく隠してくれたのに。それに対抗できるような、“神様みたいな人”に、お願いなんかしちゃいけないんだよ」
少女「神様だって、きっと困っちゃう」
少女「きっと、これは神様の気遣いで、好意なんだって思ってるから。だから、大丈夫」
少女「えへへ。自分達にできる努力をするよ。それで見つかれば、幸せだよ」
少女「見つからなくても… 神様が、そうしてくれてるんだって思えるよ」
少女「だから。大丈夫だよ、魔王」
魔王「ーーーつ!!」
650 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 10:40:36.62 ID:JceRb9if0
とりつくしまがない
この少女は、進む道がバッドエンドであることすらも 既に受け入れてしまっている
たくさんのものを諦めすぎてしまった少女
望んでも叶わないならと、美化することに慣れすぎてしまった少女
手に入らないことを、当然のように受け入れてしまっている少女ーー
尽きることの無い幸せの数は
叶うことの無い望みの数だったのだ
魔王「ーーーー…っ 俺は… 俺は」
少女「魔王?」
魔王「俺は……っ 神なんて、そんな手の届かないような“夢”の象徴じゃない!!」
少女「え?」
魔王「見ろ! つかめ!」グイッ
少女「っ!」
自分の腕に、少女の手を触れさせる
自分はここにいて、手の届く存在なのだと無理矢理に教える
651 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 10:41:07.97 ID:JceRb9if0
魔王「おまえの手の届く場所に、おまえが俺に触れられる関係のまま、俺はここにいるではないか!」
少女「ま、おう」
魔王「神の気遣いだと? ならば何故、こんな俺がお前と出逢った!?」
少女「え…」
魔王「隠しておいたほうが幸せなのに、それを見つける為の手段をちらつかせるのが お前の思う優しい神なのか!?」
少女「それはっ」
魔王「そんな神はいやしない!! 本当にいるなら、俺はお前と出逢ったりしない!!」
少女「魔王……」
魔王「答えろ!! 挑め! 結果が悪くとも、最後まで見届ける覚悟を持て!!」
魔王「それで傷つくのならば、癒しを与えよう! 俺が、必ず与えるから!!」
少女「魔王… だって」
652 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 10:41:35.05 ID:JceRb9if0
魔王「叶わぬ望みではない! 神などいやしない! おまえの思う神など、現実から目を逸らすための言い訳だ!!」
魔王「信仰をやめられないのならば、そのままでは叶わぬ望みを叶えるため、俺と出会ったと思え!!」
少女「だって……っ」
魔王「信じるならば、きちんと信じろ! 信じないのならば、現実を見ろ!!」
魔王「俺はここにいる! お前の手の届く場所に、俺はいる!」
魔王「叶えさせろ! お前の望みをーー アイツの望みを!」
魔王「答えろ! その恋人とは 何処の、何と言う者だ!!」
少女「……………」
悲しげな瞳が、寂しそうな微笑が
魔王の心を苦しめにかかってくる
それでも、怯んではならない
ここで、諦めてはならないのだ
もう強引でもいい。無理矢理でもいい。
俺は魔王だ。強欲に求めて何が悪いーー!
653 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 10:42:40.73 ID:JceRb9if0
少女「……ねぇ、魔王…?」ポツリ
もう、手放してはならない
掴んだものを、逃す気は無い
この、涙にうるみながらも諦めに満ちた
切ない少女の視線ですら… 逃しは、しない
魔王「……なんだ!」
少女「…………」
魔王「……………っ」
焦れる
それでも、諦めない
決して、やめてはならない
そうすれば、きっとーー
少女「…魔王……… 『達磨』って 知ってる……?」
答えは見つかるから。
魔王は少女を抱えて、人目もはばからず 町へと駆け戻った
656 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/23(月) 11:11:05.32 ID:ssW/63L0o
クライマックスだ乙乙
657 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/23(月) 11:11:17.12 ID:EgQDw2RIO
なるほど、そう繋がっていくのか
658 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/23(月) 11:16:18.16 ID:u/WcHXd4o
アツいぜ…!
659 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/23(月) 11:53:54.13 ID:VwxGuwyTO
結末が…繋がってしまったから泣いてしまうんだ
この涙はなんだって?言わせるなよちくしょう
660 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/23(月) 12:10:02.55 ID:t09ZavRs0
あなたが魔王か
661 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/23(月) 12:21:24.54 ID:8gE1vQ4WO
ただただ圧倒されてしまうな
続きが待ち遠しい
666 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:47:40.75 ID:JceRb9if0
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少女「ただいま……」
家の戸を少女があける
青年は家に帰宅していた
安酒なのだろう
ひどく濁った酒を片手に飲みながらも、片手で頭を抑えているのが見える
少女「おにいちゃん…… 大丈夫?」
少女は兄に駆け寄り、その背を抱く
どれほどの勢いで飲んだのだろうか、顔がやや赤らみ始めている
青年「あ? ……あぁ。少女か… ちっ…。水は汲んで来たか」
少女「あ… うん、こっちの瓶に…。 そ、それより! あのね、魔王が……!」
青年「マオウ?」
魔王「俺だ」
667 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:48:09.93 ID:JceRb9if0
少女の後に続き、入室する
地面の上に、直接壁を立てたような家だった
ちいさなゴザが敷かれ、その上に青年は座っている
物珍しさに、その小さな部屋を眺める
麻布が部屋の端に置かれている
きっと、あれが布団。布団の役割を押し付けられた、道化師
その横にそっと置かれているのは、片目ほどしか写らないような小さすぎる手鏡
きっと、あれはひび割れていて、8つ目の少女を映し出す
少女の住んでいた世界は、魔王が思っていたよりもさらに狭かった
それなのに、何故か楽しげに感じる
寂しく、貧しい、夢も望みも抱けない生活
その中で見付ける ささやかな幸福の価値は、どれだけのものなのだろうか
そんな思いを抱いたところに、声がかかった
青年「……はっ。ただの誘拐犯が、魔王? 次はどういう作戦なんだよ?」
魔王「作戦?」
668 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:48:50.09 ID:JceRb9if0
青年「エライ名前だしゃー、従うとでも思ってんのか? ふざけてんなよクソ!」
魔王「ふむ。実際、皆が俺に従うがな。お前は違うのか」
青年「バーカ。城が近くにあったって、そんなやつがこんな街なんかに降りてくるわけ……
魔王「ああ…」
魔王「なるほど、疑っていたのか。俺は魔王だ」
魔王「それ以上に疑うのならば、魔国へ来い。背信行為と不敬罪でひったててやろう」
青年「……は? フケイ…? なんだって?」
魔王「……あまり俺の言葉を馬鹿にするならば、相応の罪に問うが」
青年「は…? なんなんだよ、本当に… さっきから、お前は誰なんだよ?」
魔王「先ほどから、繰り返しているのだがな…」ハァ
「魔国第一継承者、第39代魔国王。それがこの方の名。ーー『魔王様』ですよ」
戸の外から、声が掛けられた
669 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:49:17.15 ID:JceRb9if0
魔王「……ああ。俺の言葉ではなく、こいつの言葉なら信じられるだろうか」
青年「はぁ?」
魔王「入ってこい」
家の手前で、立ち尽くしている者へ声をかける
僅かな間のあとで 静かに、戸をくぐりはいってきた
控えるというよりは、戸惑っているような態度だった
町娘「……そちらにいらっしゃるのは、魔国の魔王様です」
青年「っだから! んなこ…と… 言われ、ても……ーーー ぁ… え…?」
青年「ぁ… う、そだろ… え…?」
魔王「ふむ。ようやく信じたか。それならば不敬については不問でいいだろう」
魔王「こいつもまた俺の物。こいつの口は、俺の口。ならば俺の言葉を信じた事になろうからな」
少女「え? え? おねーちゃんが… 魔王の??」
670 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:49:43.31 ID:JceRb9if0
町娘はゆっくりと、一歩づつ青年に近づく
怯えるような仕草の理由は、自らのこれまでの境遇を思い
拒絶される可能性があると考えてのものだろう
町娘「青年さん、私です…… 町娘、です」
青年「な…… 町娘……?」
町娘「はい…… 私、ですっ…!」ポロポロ…!
青年「な…… なん、で? え… だって… お前は、だって…」
町娘「……魔王様に、救っていただきました……っ」
町娘「この腕は、とある騎士甲冑の鎧の腕…。この脚もです」
町娘「お借りしている義手に、義足です。お腹に子も居ましたが、死産でした…」
町娘「こんな私だけど… 私なんです、青年さん…っ!」
町娘は、両手で顔を抑えて泣き出した
こらえきれずにその場にへたりこむ
671 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:50:24.09 ID:JceRb9if0
青年「え…… 義手? 義足? だ、だって。籠手しか見えないとはいえ、どう見ても普通の手のように……」
青年「そ、そうだ! それに、口だって!」
町娘「……“達磨”だったことのこと… やはり知ってたんですね。青年さん」
青年「ーーーっ」
町娘「見ました…か? 見世物小屋で、惨めに飾られていた私を」
青年「それ、は…… そんなもん… 見るわけ…」
町娘「……ふふ。そうですよね。とても見られたものじゃ、なかったです」
青年「町娘……」
町娘「見られてなくて… よかった」
魔王「……今も、手足は無いままだ。その甲冑を外せばまるで芋虫のそれ」
青年「っ てめぇ!」
魔王「だが、子の出産に関しては全力を尽くして母体を生かした」
青年「!」
672 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:50:52.58 ID:JceRb9if0
魔王「口も、間違いなく世界最高峰のその頂点に立つ医師の手によって再形成させた」
青年「あん…たが…?」
魔王「甲冑の手足の他は、ずいぶんと見られるものになったとおもうがな」
町娘「……はい」
町娘「服も、与えてもらいました 髪も梳いてもらいました。 魔王城の皆様に、心の中の傷までも癒していただきました」
町娘「この腕も脚も、借り物です。ですが 私の信じるように、思う通りに動いてくれます」
町娘「魔王様達は 何も出来なかった私を、充分すぎるほどに生きていけるようにしてくださいました」
少女「ま、魔王って…… ほんっとにすごいんだね…!? 」ヒソヒソ
魔王「当たり前だ。目に見えるものであれば、俺に手に入れられぬものはない」
少女「すごい! 魔王が、本当に『魔王』に見えるよ! 神様っていわれちゃうのもわかるよ!」
魔王(……わかっているとは、とても思えない態度なのだが…)
これが少女の発言でなければ
3回くらい処刑されても文句は言えないだろうと思う
673 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:51:28.69 ID:JceRb9if0
青年「は……はは」
町娘「青年さん……?」
青年「あー… なんだ? 夜盗につかまえられて、商人に見世物にされて、その次は魔王の嫁さんか?」
青年「参ったね… はは」
青年「……どんだけ追いかけようと…、どこまでも、手に入れられないようになってんのかよ……。クソか、畜生」
魔王「嫁?」
町娘「え? あ、あの! 違います! 私は魔王様の后様ではありませんよ!?」
青年「……え?」
青年「…なんだと? 后じゃない?」
魔王「ああ。それは事実だ」
青年「ちょ… じゃぁ。なんでそこまでして、町娘を助けたんだ!?」
魔王「ふむ」
魔王「……おまえと、同じ理由なのだろうな」
674 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:52:05.05 ID:JceRb9if0
青年「俺と……?」
青年「どういう意味だ? お前の言葉は、ほんとに、わけがわかんねぇ」
魔王「要らぬ物を手放すための代価を、この娘に払おうとしていた。それだけだ」
青年「あー…… つまり、こいつを助けてあげる代わりに、なんかしてもらったってコトか…?」
魔王「む? “助ける”つもりでははなかったので、そうなると動機としては些かーー」
少女「魔王! 細かい話は難しくてわかんないから、もういいよ!」ビシッ
魔王「 」
少女「それで…」
少女「魔王は、おねえちゃんに何してもらったの?」
魔王「……何も。胸にうずまくもやを手放し、打ち払うために。打ち消すために、あるもの全て支払ってコイツを変えようとしただけだ」
青年・少女「「……胸のもや? 何それ?」」
魔王「……それはいい。実際は、特段こいつになにかをしてやったつもりも、してもらったつもりもない」
675 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:52:30.51 ID:JceRb9if0
魔王「いや…… 強いて言うのなら、問いに答えてもらい、僅かな癒しをもらっていた」
青年・少女「「癒し?? 手当てをされたのは魔王ってこと??」」
魔王「…………」ハァ
魔王「この娘の境遇が、少女のものでなくてよかったと思うたびに、ひしめくのだ」
魔王「この娘の境遇が、少女であったかもしれぬと思うたびに痛むのだ」
魔王「だから、財を支払い、そのような連想させる“姿”を変えようと努めた。そうしてそのモヤを手放していた」
魔王「こいつがすこしづつ姿を取り戻し、生気を取り戻していく様子を少女に重ねて、癒されていた」
魔王「それだけだ」
少女「私が達磨になるの?」
青年「あ、わかった。町娘と少女を見間違えて、療養させたんだろ? 馬鹿だな」
魔王(ええい、馬鹿はお前だ!!)
676 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/23(月) 18:53:08.26 ID:JceRb9if0
町娘「……魔王様には感謝してます。こうして、この街にも連れ出していただきました」
魔王「同じ場所に用があっただけだ」
町娘「はい。ありがとうございます」
青年「えっと。その、つまりどういうこと……だ?」
町娘「今は… 魔王様に従えさせていただき、身の回りのお世話などをすることに決まりました」
青年「さ、さっき。魔王が『コイツは俺のもの』とかいってなかったか?」
魔王「俺の物だ。こいつは通行証書と引き換えに買ったものだ」
青年「『コイツの口は俺の口』ってのは……その、つまり…夜の奉仕をさせている的な何かっていう
町娘「!? し、していません!! もちろん僅かな口付けなどもありません!!」
魔王「今後 面倒な謁見などで、俺の代理として謁見者に口頭返事をさせることにした」
魔王「こいつの発言は俺の発言と同義だという意味だが……、何か問題があるのか?」
少女・青年((小難しいコト言うくせに、肝心の言葉は足りないんだ…))