Part15
421 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 01:56:29.51 ID:aGU7s5EF0
魔王「つまり… 正しき治世。その為の方法を、女神に乞いに来たという事か」
亡霊鎧『それもある。がーー
魔王「………?」
亡霊鎧『いや……その前に。我輩は武器である。この身、まずは知っていただきたい』
魔王「ほう…?」
シャラリ、と金属の擦れる音が響く
亡霊鎧の抜いた細身の長剣は、鏡にも劣らぬほどに磨き上げられていた
亡霊鎧は 剣を眼前に垂直に掲げ、その刀身に片手を添える
軸足を曲げ、利き足をずりさげると
そのままゆっくりと剣を水平に押し下げるようにし… 降ろした腰の高さで、構えた
亡霊鎧『受けよ。鳴らせ。我が魂ーー とくと味わっていただきたい』
魔王「…………」
422 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 01:56:57.64 ID:aGU7s5EF0
手首を捻り、刃を立てる
その剣、その構え、その形状……抉るような一突きを放つに違いない
恐らく、致命傷を与えるだけの一撃であろう
一点で刺しにくる攻撃を、防いで見せよというのだ
まるで生身が呼吸するかのように、
上半身がゆっくりと僅かに膨らむように揺れ…… 静止した、その瞬間
亡霊鎧『覇ッッ!!!』
剣の輝きが取り残されるほどの速度で、それは繰り出された
ビシッッ!!
魔王「…………」
亡霊鎧『…………』
亡霊鎧の繰り出した剣先が、僅かに魔王の服を裂いた
心臓の、真上だった
423 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 01:58:12.91 ID:aGU7s5EF0
亡霊鎧『我輩は充分な殺気を放ったはずだ。……何故、受けぬ』
魔王「………」
亡霊鎧『何故…… 我輩が刺さぬと、分かった?』
魔王「………」
亡霊鎧『ーー答えろ!!!』
亡霊鎧は激昂し
挑戦状のように その剣先を魔王の眼前に突きつけた
魔王「……まず、興味が無い」
亡霊鎧『何……?』
424 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 01:58:41.10 ID:aGU7s5EF0
魔王『それと。もしも俺を斬りにきたのであれば、その剣戟、受けてもよいとおもったかもしれぬ。だがーー』
亡霊鎧「……?」
魔王「お前は、『まずは、見てもらおう』といった。目的は勝負ではないはずだ」
亡霊鎧『……相違ない』
魔王「ならば、やはり俺が剣を抜くことは出来ぬ」
亡霊鎧『何故だ!?』
魔王「俺が剣を抜けば、お前はそのままただ消えるだけだからだ」
亡霊鎧『な… なんという自信過剰な。己の力を過信しているとーー』
魔王「過信? 冗談ではない」
魔王「俺が戦うのであれば、防御など不要。討たれるか、討つかのどちらかだ」
亡霊鎧『ーーーっ』
425 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 02:02:13.92 ID:aGU7s5EF0
魔王「さて。では、聞こうか」
亡霊鎧『何をーーー
魔王「今は、手に余るものを抱えていてな。少しでも吐き出したい気分なのだ……」
亡霊鎧『……手に余るもの?』
魔王「治世のアドバイスは出来ぬが、お前にもうひとつの目的があるのならば、確認して、与えてやろう」
亡霊鎧「な……! まさか、そのために我輩を斬らなかったというのか!?」
魔王「ああ」
亡霊鎧『例えこの身を屍にやつそうとも、侮辱は許さぬぞ! 施しは受けぬ!!』
亡霊鎧『ただ乞食の様に与えられるなどーー』
魔王「………ふむ。お前はいろいろと、勘違いをしているようだな」
亡霊鎧『っ』
426 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 02:05:00.12 ID:aGU7s5EF0
魔王「確かに、お前の剣戟を受けてやっても良いとはいった」
魔王「だが、お前の命など 俺は『要らぬ』。興味が無いとはそういう意味だ」
亡霊鎧『わ……我輩を、殺す価値すらないと言うか!?』
魔王「死にたいのならば、相応しき死に場所を与えてやろう。そこへ行け」
亡霊鎧『………だ、だが。我輩の剣を受けてもよいというのはどういう意味だ。防御も無く受ければ、死に至ることもわからぬのか!?』
魔王「無駄な問いだな」
亡霊鎧『無駄などではない!! それとも、自らの死の方が、我輩を討つよりも価値があると思っているのか!?』
魔王「……逆だな」
亡霊鎧『逆……?』
魔王「この生にこそ、価値は無い。価値無き物を無くすことなど、どうでもいいことだ」
亡霊鎧『……なんと…』
427 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 02:14:24.45 ID:aGU7s5EF0
亡霊鎧『……このような、哀れな生き物がいるとは』
魔王「哀れみなど要らぬ。その様なものしか手に入らぬのであれば 質問は終わりだ」
亡霊鎧『貴殿は…一体……?』
魔王「俺は、魔王だ。それ以下にもそれ以上にも、価値を見つけられぬ」
亡霊鎧『………魔王…。勇者と共に和平を導きし救世主ではなかったのか…?』
亡霊鎧『魔王とは、かくも寂しさを纏う生き物であったのか…?』
亡霊鎧『勇者と共に… 理想郷で、平和に生きる事を約束されたのではなかったのか…?』
魔王「つまらぬ。興味も無い。俺は俺でーー ただ、魔王であるだけだ」
亡霊鎧『だが、それでは勇者は……!!』
魔王「 『黙 れ』 」
亡霊鎧『ーーーッ!!』
魔王「……はじめよう。これは施しではない。交換取引だーー」
魔王「さぁ、望むがいいーーー 俺の持たぬものを、持つ者よ」
428 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 02:14:55.81 ID:aGU7s5EF0
ありあまる物を使って
必要なものを手にしよう
ありあまる物を使って
要らぬものを棄ててしまおう
そう
望むものだけを、望むままに手にしていればいいのだからーー
亡霊鎧を見つめる黒い瞳
その奥には
飢えた獣にも似た獰猛さが宿っていた
言葉を発せれば
その言葉ですらも獰猛な獣に喰らいつかれそうだった
それほどまでに荒れて血走るような想いが
魔王の瞳の中に宿っているように見えたのだった
388 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/04(水) 16:11:39.82 ID:vQaEX3XPo
魔王城で働くみんな意外と仲良くやってるな
429 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 02:27:34.93 ID:aGU7s5EF0
中断します
>>388
>>29の警備兵もそうでしたが、
基本的に城内で働く”普通の人々”は
『めちゃくちゃ怖いけど、やっぱうちの魔王さまってすげーぜ!」な感じです
敵に回せば最怖ですが、自分のところのTOPである以上は最強。
侍女や警備兵以上、役職持ちクラスになるにつれ
やはり城内でもそれぞれの思惑があり いろいろ感情も複雑になっているようです
434 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:19:23.88 ID:aGU7s5EF0
:::::::::::::::::::::::::::::::
亡霊鎧『待て…… 待ってくれ。考える時間を与えて欲しい』
魔王「………」
亡霊鎧は、そのまま黙り込んでしまったし
侍女長は資料を片付け始めた
魔王もまた ゆっくりと瞳を閉じて冷静さを取り戻そうとしていた
ガタ……ガタン!!! ガタンッ! ガタ、ガタンッ!
だからその物音は、静かな部屋で異様なほどによく響いた
侍女長「………お嬢様!?」
魔王「!」
435 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:19:56.03 ID:aGU7s5EF0
振り返り見ると、達磨がその短かな脚で椅子の上を跳ねている
まるで立ち上がろうとするかのように腰を浮かしては、力尽きて座面におちる
達磨娘「ヒューー!! ヒューーーーーッ!!!」ググ…!
侍女長「お嬢様! どうなさいました、大丈夫ですか!?」
侍女長は達磨娘へと駆け寄り、その身を支えた
揺り椅子がしっかりと安定した作りになっていなかったら
達磨は今頃 とっくに椅子から転げ落ちていただろう
亡霊鎧『あ… い、いかがなされたのだ。あちらの娘御は…』
魔王「侍女長、何か分かるか」
侍女長「これは……。 衣服が… ぬれています」
魔王「粗相か…? しばらく手を離していたからな」
亡霊鎧『おっと、これは失礼。…手足が無いとは不便なことですな。娘御には厳しいであろうに……』
魔王「しかし、世話が足りず抗議をするだけの意思を持っていたとは。それは良ーー
侍女長「ーーーこれはッ! 違います!」
魔王・亡霊鎧「『??』」
436 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:20:31.43 ID:aGU7s5EF0
侍女長「魔王様! 申し訳ありませんが、ベルを鳴らしてくださいませ! 至急に医術者を呼びます!!」
亡霊鎧『ベルとはこちらであろう。我輩が呼ぶ』
亡霊鎧はそういいながら机に駆けてベルを押し
そのまま止まることなく魔王の私室のドアを開け放った
廊下に向かって大声で人を呼ぶ亡霊鎧
あたりに人気が無いのを知るや否や、部屋を駆け出していってしまった
魔王「…何があった?」
侍女長「破水です。ーー恐らく、陣痛の痛みがあると思われます」
魔王「何……?」
侍女長「今、敷物を用意致します。 お嬢様を横にしてさしあげなくては…!」
魔王「俺のベッドで構わぬ」
437 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:21:09.47 ID:aGU7s5EF0
達磨娘を支えていた侍女長を退かすと
魔王はその役を代わり、そのまま椅子から持ち上げて横抱きにした
達磨娘は腰に力を入れて足を突っ張り
口に開いた穴からは苦しげな呼気を漏らしている
侍女長「ですがひどく汚れてーー…!
魔王「構わぬ。使えなくなるようならば全て新調すればよいだけの話」
侍女長「ーーーありがとうございます!」
達磨の顔をよく見れば、瞳を閉じているだけではなく、眉を僅かにしかめていた
一目瞭然に…… 堪える表情をしていた
魔王(……ちっ。椅子の動きばかりに目をやっていた)
ベッドに横たわらせても、いまだその腰を突っ張ったり曲げたりを繰り返している達磨娘
まるで、芋虫がしゃくとるかのようにも見え…… 魔王は目を逸らした
438 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:22:00.17 ID:aGU7s5EF0
侍女長「申し訳ありません…! 様子の変化に気付くのが遅れました!」
魔王「……そういえば、さきほどから一定のリズムで椅子を揺らすのを繰り返していた」
侍女長「!! 陣痛には波がございます…! 魔王様、揺れの間隔を覚えていらっしゃいますか!?」
魔王「間隔……? 体感程度ならば」
侍女長「どれほどでしたか!?」
魔王「つい先ほどまでは、3〜4分おきに 2分程度のゆれを繰り返していた」
侍女長「………!!」
魔王「その前はしばらく見ていなかったが、俺が部屋に戻った頃から一定間隔で揺れていたように思う」
侍女長「そんなに、前から……」
魔王「……異常なことなのか?」
侍女長「ーーっ 完全に産気づいています! 魔王様、失礼致します!」
439 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:22:30.88 ID:aGU7s5EF0
侍女長はベッドの上の達磨の衣服を剥ぎ取っていく
ドレスの足元は惜しげもなく斬り破られた
それから慌しげに給湯用の小さな水場でその手を洗うと、
達磨の下半身を晒しーー おもむろに、その指を達磨の膣に差し入れた
魔王「何を……」
侍女長「私は、淫魔の血を引く魔族でございますゆえ!」
魔王「……?」
侍女長「医療技術は持ち合わせなくとも、こちらは御家芸のようなもの! どうかご安心ください…!」
魔王「………なるほど」
侍女長「……っ 子宮口を確認いたしました」
魔王「……?」
侍女長「指先では…はっきりとわかりかねますが…っ 開口、およそ11cm!」
侍女長「つまり………… いつ、子が降りてきてもおかしくありません!!」
魔王「なっ」
440 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:22:58.38 ID:aGU7s5EF0
侍女長「ああ、医術者はまだなのでしょうか! 私ではお産の補助とケアまでは…!!」
亡霊鎧『お待たせ申した! 医術者とやらを連れて来ましたぞ!!』
開け放たれたままの扉から、亡霊鎧が飛び込んできた
その肩に白衣を纏った医術者をかついでいる
侍女長「亡霊鎧様…! ありがとうございます!!」
達磨娘「〜〜〜〜〜〜〜ヒュゥっ!!! 〜〜〜〜ヒュゥゥゥッ!!!!!!!」
侍女長「お嬢様!!」
医術者「これは…! 陣痛ですね!?」
侍女長「先ほど、私が子宮口を確認いたしましたところ………ーー
遅れて、数名の侍女たちが それぞれに様々な物を抱えて部屋にはいってきた
律儀に魔王への辞儀をとる侍女達に、辞儀は要らぬと伝えて部屋に通す
あっという間に部屋は慌しく動く者達に占拠された
魔王はベッドの上で身悶える達磨を見て、やはり目を逸らすしかできない
441 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:23:27.06 ID:aGU7s5EF0
亡霊鎧『このような場に、我らのような者は不似合い。外へでていましょうぞ』
魔王「……ああ」
部屋の戸は開け放したまま、廊下に出た
どこへ行くともなく、そのまま歩みだそうとして 亡霊鎧に止められる
亡霊鎧『どこまで行かれる。お産は、女性の戦場とも聞きますぞ?』
魔王「……出ていようと言ったのはお前ではないか」
亡霊鎧『相違ない。だが放っておくとも申してはおらぬ』
亡霊鎧『我らが戦地に赴くときに、女性達がそうしてくれるように……』
亡霊鎧『我らもまた、祈りを捧げ、じっと控えて待つのが良いかと』
魔王「………」
部屋の出入り口からさほど離れない場所に
採光とデザイン性のため、出窓のように外へとつきだした窪地があった
亡霊鎧の意見でそこに連れられていき
飾り台と花瓶の置かれた窪地の両脇に立って待つことになった
442 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:24:27.88 ID:aGU7s5EF0
亡霊鎧は、部屋から侍女が駆け出してくるのを見ると
その者を抱えて 行き先へと駆けて届ける、というのを繰り返す
侍女を腕に抱いて駆けるその姿は
戦地で逃げ遅れた者を助けに奔走する『勇者』の姿を彷彿とさせた
魔王はそれを見ながらも、自らはどうすることもなく
窓から外を眺め、自室から聞こえてくる声をずっと聞いているのみ
空気をつんざくような、笛のような声が時折、響く
達磨娘が、その開かない口で叫んでいるのであろう
魔王(……………っ)
揺らめく椅子は、陣痛を耐えていたのか
あれは、彼女なりの必死の呼び声だったというのか
見ていたし、知ってもいたのに“気付けなかった”
まるで音楽のようだとすら思って、癒されもしていた
苛立ち紛れに蹴り飛ばしそうにもなったし
そうしてしまうのを恐れて目すら逸らした
443 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:24:56.17 ID:aGU7s5EF0
声も脚も腕も無い彼女は
助けを求めることもできず、空想にひたって痛みを逃がしていたというのに
肝心なときには何も見ないふりーーー
『望むものを望むとおりに与える』
それは、どれほどに難しいものなのだろう
魔王(……何故、俺にはできないのだろうか)
少女からもらった優しさや幸福感を、あの達磨に渡してやるつもりだった
あの達磨のもつ暗鬱とした気配を、それで消し去ってしまいたかった
少女が魔王にしてくれたような、優しい行いを真似したはずだ
少女が喜んでくれた事と、同じ行いをしてみせたはずだ
それなのに、優しさも喜びも うまく与えられなかった気がしてくる
何故、少女があんなにも簡単に俺に渡して見せるものを
俺は与えてやる事が出来ないのだろう
444 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/06(金) 23:25:32.03 ID:aGU7s5EF0
消してしまいたいのに
あんなにも惨めで哀れで救いようの無いものーー 消してしまいたいのに
だって、そうだろう
まるで、少女にもそんな未来があると言わんばかりではないか
あの達磨の暗鬱さは、そんな不吉さを匂わせるではないか
なら、消してしまいたいだろう
あの達磨に、幸福や喜びや満足感を与えて満たしてやることができれば…
少女にだって、何があっても幸せでいられる未来があると 信じられそうではないか
魔王(……そう、信じていたいじゃないか…………)
亡霊鎧『……ーーー魔王殿!!!』
魔王「!」