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魔王「ならば、我が后となれ」 少女「私が…?」
Part13


375 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 04:27:09.08 ID:exdKBLna0
侍女長「魔王様!」
魔王「?」
侍女長「ご協力くださいませ。私一人では難しゅうございます」
魔王「……椅子作りが、か?」
侍女長「いいえ…」
侍女長「魔王様は、お望みなのでしょう?」
侍女長「この、生をもたぬかのような瞳のお嬢様を…… 生きた瞳にかえてしまいたいのではないかと思いまして……」
魔王「生きた瞳……?」
侍女長「ええ。魔王様はお嬢様をーーー
イかしたいのでしょう?
艶めかしい瞳が、魔王を挑発していた
「生かしたいのならば、生かせばいいのだ」ーー と

376 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 04:28:36.72 ID:exdKBLna0
張り切る侍女長に押される様にして、魔王は椅子作りにアドバイスをした
何を言うわけでもない
思ったことを言うだけの単純な行動だった
身体の構造は触れて確かめた
思いつく動き、支えねばいけない身体の場所
そういったものを、魔王は侍女長に伝えていく
出来上がったのは、揺り椅子
座面にカーブがあり、傾いても尻がずれにくい
背もたれは長いが、羽のように後ろに反り返している
頭を上げても、つかえてしまうことがない
大きな重い腹が負担にならぬよう
初期位置で少し上向きに傾いている
そんな椅子だった
その後、自らの意思で揺れ動く視界を手に入れた達磨は
時折、椅子の上で揺れ動くようになった
焦点を合わせない事も多かったが
それでも、上を向いているようになったのだった

378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/04(水) 05:30:34.38 ID:JdbVhEnyO
>>1 乙です

379 :>>378 Thx! ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 15:51:22.98 ID:exdKBLna0
::::::::::::::::::::::::::::::
侍女長「魔王様、今日の分は先ほどの2名だけのようです」
魔王「そうか」
侍女長「……やはり、難しいですね」
魔王「………」
魔王は自室で、ゆらゆらと揺れる椅子を見ながら沈黙した
探させているのは機械技師
肩口近くまで失くした腕、股のわずか下で消えた脚
それに代わる物を作れる、技師だった
侍女長「……精巧な腕の形であれば、作れるものがおります」
魔王「肩からぶら下げるだけの腕に、なんの意味がある」
侍女長「身体を持ち上げ、支えるための脚ならば作れます」
魔王「長脚の道化のように歩き、転んだなら立ち上がれないなど惨めなだけだ」
侍女長「……せめて、神経が生きてさえいれば治癒者と機械師が接合も出来ましたのに」
魔王「無い物を嘆くことにこそ、意味は無い」

380 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 15:52:17.57 ID:exdKBLna0
送れる限りの場所に、お触れを出した
身分を問わず、有能な機械技師を集めるつもりであった
義手、義足
もちろんその様な物は魔国にも存在する
病気や戦争により手足を失った者はそれを利用していたし
金さえ支払えば、機械仕掛けの 関節が曲げ伸ばし出来る物も手に入る
だが、達磨の場合はそれが利用できなかった
その腕は 肩近くより壊死し、切り落とされ、さらに焼かれている
接合しようにも、肩から真横に生えるような腕になってしまう
下向きに手を下ろそうとすれば、ぶら下げるだけの模型しか作れない
その脚も同様に短すぎた
充分に身体を支えるためには「腰から嵌める長脚の台」にしかならないだろう
無理に脚にはめ込んだところで、スティルトほどにも固定できない
魔王「……」
やはり、ここまでいけば無理なのであろうか
どのような技師を呼んでも 同じような返答しか帰ってこない
奇抜なアイデアといえば、魔王の魔力を用いて 他の生物の手足との“合成”を持ちかけたものが居た位でーー

381 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 15:52:53.42 ID:exdKBLna0
侍女長「……魔王様。やはり、私の手足でしたらお使いになってもよいのですよ」
魔王「要らぬ」
侍女長「……」
侍女長の手足を繋げて動く達磨など、想像するにも耐え難い
あの優しき少女の面影が、嘆く様しか思い浮かばない
侍女長「……あ。そういえば、魔王様… 妙な書簡が届いておりました」
魔王「書簡だと? 俺にか」
侍女長「はい。以前に謁見された方より、お礼状のようです」
魔王「律義者だが、そのようなものに興味はーー
侍女長「いえ。再度の謁見を希望されるそうです。次は、代理人に謁見をお許しいただきたい、と」

382 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 15:53:27.78 ID:exdKBLna0
魔王「ほう。ずいぶんと諦めが悪い。しかしそれがさほどに妙か」
侍女長「それが…言葉が、妙なのです」
魔王「言葉が?」
侍女長「はい。『彼を郵送するので、謁見の許可が下りるまで 城の外にでも置いてください』、と……」
魔王「…………は?」
侍女長「どうなさいますか? どうやら、書き方からして“郵送”済みのようです」
魔王「待て… 謁見するのは 代理人、ではないのか?」
侍女長「はぁ… そのように書いてはあります。何しろまだ荷物が届かないので分かりかねます」
魔王「荷物…」
侍女長「郵送されてくるのならば、ヒトであろうと荷物でございましょう?」
魔王「死体などでなければよいが」
侍女長「それは恐ろしげですね。魔王様は随分な恨みを買っていらっしゃいますこと」クスクス

383 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 15:54:26.23 ID:exdKBLna0
::::::::::::::::::::::::::::::::
それより四日後
棺桶程の大きさをした木箱が、魔王城に届いた
侍女長「……ひっ」
侍女A「じ、侍女長様…! こ、これはやはり…」
警備兵「おいおい… 届け先は砂漠の国にほど近い街だぞ…?」
侍女A「え? ……え?」
警備兵「そ、そこから7日以上も運ばれて来たのだとしたら…中身は…かなり…」
侍女長「……ッ!」
侍女A「こ、これは。本当に開封するかどうか、魔王様にお伺いをするわけにはいかないのですか……!?」
侍女長「で、ですが。 このような事で魔王様を煩わせるなど…」
警備兵「ま、待てよ。魔王様宛の荷物なんだろ…? 開封していいかどうかぐらい確認したって…」
侍女長「……き、危険物だったらどうするのです。やはりこちらで…」
侍女B「侍女長様。お嬢様用のスープができたと、厨房から連絡が…… ヒッ!? なんですか、それは!?」

384 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 15:55:24.78 ID:exdKBLna0
そうこうする内に、他の侍女が達磨の食事を運ぶことになった
それを不審に思った魔王が侍女長の元に赴くと…
魔王「……何をしているのだ」
侍女長「……………魔王様ぁ…」グス
木箱に杭を差込み、こじあけようとしたまま固まっていた侍女長がいた
魔王の顔を見た途端、泣き出しそうになっている
そして
魔王「ああ…それはもしや、件の“郵送物“か」
侍女長「は、はい…。申し訳ありません。その、封を開けるのに手間取りまして…」
魔王「………ふむ。この棺桶からは、かなり強い鉄錆の匂いがするな。やはり死体か」
侍女長・侍女「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?!?!」 
警備兵「あ、ああああ 開けるな! 絶対あけるなよ!?!?」

385 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 15:55:53.79 ID:exdKBLna0
魔王「………」
魔王「死体相手に、何を遠慮する?」
侍女長「え?」
ドガッ!!!
侍女長「」
魔王が木箱を足蹴にすると バキャッ、っという小気味良い音が響いた
木箱に大穴が開き、中身があらわになる
魔王「……これは」
銀色の、美しい全身甲冑だった
ヘルムのヴァイザーは上げられており、中身は空
胸上で手を組むようにして、細身の長剣を構えた姿で横たわっている

386 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 15:56:27.82 ID:exdKBLna0
警備兵「……甲冑……?」
侍女「西洋鎧…でしょうか。なんと美しい…」
侍女長「こ、こんなものに怯えていたとは……」
警備兵「はは。こりゃいいですね。死体と思いきや、ただの“抜け殻”だったなんて」
ポン、と警備兵の一人が鎧に触れると…
その手を、鎧が握り返した
警備兵「ヒッ!?」
鎧『あまり手荒にしてくれるなーー 我輩に、傷がつく』
鎧が動き出し、身を起こしていく
魔王は即時に身構え、対峙すると同時ーー

387 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/04(水) 16:02:24.35 ID:exdKBLna0
侍女・侍女長「き……
鎧『……“き”?』
侍女・侍女長「「きゃああああああああああああああ!!!! おばけえええええええええええ!!!!」」
鎧『』
魔王「」
甲高い悲鳴が、城中に響いた
魔王城で魔王に仕える者が
腐乱死体を恐れ、血の香に怯え、『おばけ』だなどとーー
これに呆れたのは魔王。鎧の方は驚いた様子だった
ともかく、対峙し 争う様子が無いのを確認すると
魔王は場を後にすることにした
背後では、叫び声を聞いて駆けつけた臣下Bに 侍女と侍女長が叱りを受けている
それよりもすぐ後ろには、なぜか鎧がついて歩いてくる
魔王の後ろを歩く“空の鎧”を見た者によって 城内は久しぶりにざわめきだっていき……
部屋につく頃には、すっかり魔王は気分を害していた

388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/04(水) 16:11:39.82 ID:vQaEX3XPo
魔王城で働くみんな意外と仲良くやってるな

389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/04(水) 17:00:33.55 ID:JdbVhEnyO
あの魔王さまが気分を害するって余程の事じゃないな

390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/04(水) 17:00:43.08 ID:ShYBvb/4O
魔王がいるのに動く鎧は怖いのか…(困惑)

391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/04(水) 18:40:35.42 ID:DlXYZAwy0
魔王が随分と感情豊かになってきたな

392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/04(水) 23:37:32.48 ID:ro3s8LPgO


393 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/05(木) 12:50:52.51 ID:CH3AMdn90
:::::::::::::::::::::::::::::::::::
魔王の自室前……
魔王「おい」
鎧『うむ。何か御用かね』
魔王「こちらの台詞だ」
鎧『はっはっは。手紙は受け取っていないのかね? 我輩は謁見希望者である』
侍女D「魔王様、財政管理の書類をお届けに…」
侍女E「……っきゃ!? か、甲冑?」
鎧『御機嫌よう、お嬢様方!』スチャッ!
侍女D「ひっ!? 中身が…… 空!?」
侍女D・E「きゃあああああああああああああああああああ!!!」バタバタバタ…!
鎧『ははは。これはなんと初々しい。ああ、足元には気をつけなさい!!』カパパ
魔王「……」

394 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/05(木) 12:52:24.39 ID:CH3AMdn90
ヘルムのヴァイザーを上下させ、まるでそれが口であるかのように振舞う鎧
先ほどからずっと、侍女や兵に出逢うそばからこれを繰り返してきた
魔王を見かけ、通路の端に下がって頭を垂れて礼を取る家臣たち
普段ならば、その前を無言で通り過ぎるだけの魔王であったが
そのすぐ後ろで悲鳴があがるのは何度目だったか
まるで凱旋の勇者のように片手を挙げ、ありもしない愛想をふりまく鎧
時折、そのヘルムを胴体から外して 帽子でするような会釈までする始末
魔王(この世界に、いまだこのような稀有な物が残っていたとはな)
過去にはデュラハンという『首なし騎士』の魔物もいたというが
この時代には、もはやそのような姿の魔物など存在はしない
翼を持ったとされるハーピーも、時と共にその歌声のみを残して翼は退化した
夢の中にまで入り込んだといわれる淫魔ですらも、その神出鬼没さを失った
エルフは長寿種として、ドワーフは低身長という特徴を残し、唯のヒトと変わらない
かつては動いたとされるゴーレムも、いまやその伝説と共に石像として残るのみだ
獣の魔物の多くは、獣の生業を強く残して生きている
ワイバーンは怪鳥として、クラーケンは巨大イカとして。
マタンゴですら今は繁殖力が異常なだけの毒キノコだ

395 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/05(木) 12:54:17.48 ID:CH3AMdn90
人間も魔族もほぼ大きな違いは無い
まるで国民性や県民性の差でいわれるような特徴しか残されてはいない
確かにいまだ、魔族の中には 狼人のように“獣とヒトの両容姿”を持つものもいるが
おそらく百年のうちに、彼らもどちらかの姿に定まっていくのだろう
この世界は、千年もの昔に生まれ変わった
魔王と勇者の和平によって、新世界に生きると決めた者だけが残された世界
和平、平等
生物としての劣性・優性の排除、魔術行使の委棄ーー
魔王と勇者の2者によって、この世界から“幻想”は棄てられた
夢物語のような魔法など、一般にはほとんど存在しない
魔術は解明されて、その元素や論理は再構築され
皆平等に学ぶことが可能なものに落とされーー 化学として、学問になった
そうするうちに複雑な魔術は廃れていった世界
そういった物を使う者がいれば、この世界での異端として排除された世界
今や 人も魔族も機械文明と化学によって生かされている
この世界の全てが、平等に平和に生きていく夢物語を描いていくために……
夢物語を現実にかなえるために
夢のような“幻想”は、棄てられた世界なのだ

396 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/05(木) 12:54:53.85 ID:CH3AMdn90
勇者ですら、今はヒトの世にまぎれて居ない
勇者は、元々“普通の人間”だったから…
今頃はその末裔達も“少し強い、少し優しい”などの特徴だけを残して生きているのだろう
この世界に残された幻想は、ただひとつ
それは、この世界を作り出すために魔術を委棄せず
他と交わらずに生きていく特徴を残した“魔王”という存在のみーー
の、はずであったのに
鎧『おや、素敵な長剣だね。我輩と一戦いかがかな、剣士殿』パカパカ
警備兵「ぎゃぁぁぁぁ!!」
鎧の友好的で紳士的な振る舞いとは裏腹に
歩く側から悲鳴が上がり、ヒトの気配が消えていく
自分は魔王であるのだから、その軌跡には草も残さぬというならばそれでよい
だがそれ以外が、そうするなどとは想像に難い

397 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/05(木) 12:56:11.06 ID:CH3AMdn90
唯一であったはずなのだ
そのような異端は、自分だけであったはずなのだ
それに苦しみ、悩んで、自害すらした魔王が過去に何人いたであろうか
強さや権力で孤高に立つ事で、異端である事実を“理由の一部”にすりかえて生きてきた
いまでは魔王とは現人神と変わらない扱いをうけている
全てを持ち、全てが与えられ、全てを望まれる奇跡の存在として存在している
それでいて、羨望されるわけではない
あくまで『魔王』ーー 畏怖の対象であることだけは、拭いきれない
それなのに
それなのに、同じように異端である者がすぐ後ろにいて
孤独を恐れず、異端のままに陽気に振舞うだなどとーー
“魔王”という存在を、全否定されている気にしかなれなかった

398 : ◆OkIOr5cb.o :2015/02/05(木) 12:58:53.92 ID:CH3AMdn90
魔王「不快だ」
鎧『……こちらの気候は、我輩の居たところよりも乾燥しておられる。我輩には快適ですな』
魔王「不快指数の話ではない」
鎧『ほう。他には何も無いのにご不快とは。魔王殿は短気であらせられる』
魔王「貴様。城内の騒乱が目的か」
鎧『目的は謁見希望に他なりませぬぞ』
魔王「……」
鎧『それにしても魔王殿。自室を前にして立ち話とは、変わった趣味をお持ちですな』
噛み合わない
思考も、会話も、存在も、何もかも
苛立ちが抑えられない