ヘルパー「はじめまして! 私、妖精ヘルパーと申します!」
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Part1
ヘルパー「はじめまして! 私、妖精ヘルパーと申します!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423905682/
1 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:21:22.44 ID:JQIR4aY80
書きながら投下していきます。ぶつ切り投下、ご容赦ください
今日中に終わらせます
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あれは四年前だった
街中で不運なことに絡まれた、不機嫌そうなチンピラの2人組
ほんの少し近道をしようと思った
大通りを避けて細道を歩いていたら、どうやらたまり場になってたらしい
通りがかっただけなのに、道を挟むように立っていたそいつらに因縁をふっかけられた
追い立てられるようにして、執拗に絡まれたんだ
俺はあまりガタイもよくないし、喧嘩なんてまともにしたコトも無い
売られた喧嘩に抵抗も出来ず、突き飛ばされて……勢い余って、車道にドン。
走行していた軽車両にあてられて、左足が不自由になった
それが、いまの俺だ
2 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:28:47.34 ID:JQIR4aY80
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俺「クッソさみい」
時期は一月。
雪道になれば松葉杖はかえって危ない
車の運転はできるが、雪道の運転はつかれるし、自然にひきこもりがちにもなる
俺「溜まってる本でも読むか…」
友人もいるが、脚が悪くなってからはあまり付き合いの頻度も下がった
俺の身体では、相手の負担になるのはわかってる
天気のいい昼に、街に出たりするのは避けていた
夜中の、なるべく人気の少ない時間に動いていた。
行き先だって、カラオケやファミレスばかり
俺(ま、そーゆートコなら他人に気遣われて、疲れたりしないし。人混みで邪魔臭そうにされるのはゴメンだね)
3 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:29:40.33 ID:JQIR4aY80
改めて外出をする気になれないことを確認した俺は、本を読み始める
読んでいるのは、流行りもののライトノベル
魔王が恋におちて平和をめざすような、割と最近では良く見かけるタイプ
あまり頭を使わずに読めていい
本を読みはじめて30分程もたった頃だった
ぴんっぽんっ♪
俺「あー、はーい!」
気の抜けたベルチャイムが鳴った
壁伝いに脚を引きずり玄関へ行く
4 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:31:08.25 ID:JQIR4aY80
ガチャリ。
俺「はい、どちらさまで……
玄関を開けると、小柄な女の子が立っていた
胸から提げた、明らかに手作りの名刺のようなネームカードを掲げ
ニコニコしながら元気すぎる大声で、こう言った
ヘルパー「はじめまして! 私、妖精ヘルパーと申します!今日からよろしくおねがいしますっ!」
俺「女の子……だと……?」
ちなみに俺は、脚を壊してからの4年間 1度も彼女などできたことがない
だからこの部屋に女の子が尋ねてくることだって1度も無かった
俺のこのときの動揺っぷりを、わかってもらえるだろうか
5 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:35:27.75 ID:JQIR4aY80
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俺「よくわかんないけど、手違いじゃないかな」
缶コーヒーを一本、テーブルに置きながらそう伝えた
その女の子は「ありがとうございます」と礼をいい
にっこりと笑い、両手で缶コーヒーを握り締めた
俺「ヘルパーとか申し込みしてないしさ」
俺「ってか、介護認定みたいなのもよくわかってないし。全部自分でやってるよ?」
ヘルパー「はい! 知ってますよ!」
俺「いや、知ってるならなんできたの?」
ヘルパー「えーっと……。あのですね。 私、妖精なんです」
俺「」
6 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:36:44.69 ID:JQIR4aY80
ヘルパー「困っている人の中から、選ばれた人を助けにいくんです!」
俺「まず、俺 困ってないけど……ってか、妖精って言ったよね?」
ヘルパー「はいっ!」ニッコリ
俺「100%人間だよね」
ヘルパー「ぐっ」
俺「………」
ヘルパー「………妖精ですよ」フイ
どうやら困った種類の子らしい
まだ若そうだし、なにかおかしな遊びを思いついてしまったのだろうか
俺「女の子がひとりで変な遊びしてたら危ないよ。それ、飲んだら帰りなね?」
ヘルパー「ゆ、夕方には帰ります!」
俺「今、まだ午前の11時だけど?」
ヘルパー「あ、お昼御飯つくりますね」
俺「うん、帰りな?」
7 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:39:26.45 ID:JQIR4aY80
女の子は、まったく話を聞く気はないらしい
大きな、キルト布でできた鞄から エプロンと髪止めをとりだして身支度をはじめた
俺「え。ちょっとまって……話を」
後ろを向いて、後ろ手にエプロンの腰ひもを結う女の子
短い髪をひっつめに結び、ヘアピンで耳のまわりの毛を止めていく
ヘルパー「何かひーまひた?」モゴモゴ
二本、口にヘアピンをくわえたまま喋る
その様子が、妙に可愛らしく感じて 思わず止める気が失せてしまった
俺「えっと……なんかNPOとか福祉ボランティアとか。そういう活動をしてる学生かなんか?」
ヘルパー「あ…そんな手があっt……… いいえ! ですから私は妖精ですっ!!」
俺(頭は弱そうだな、うん。わかってた)
俺が溜め息を吐き出してあきれて見せると
その『妖精』は、憤慨した様子で台所へと逃げていった
8 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:42:26.14 ID:JQIR4aY80
俺(ま。特段に見られて困ることもないし。何か怪しければ見てれば気付くだろ)
昼食作りにかかる彼女の後ろ姿を
ぼんやりと観察することにした
腰ひものリボンが、すでにほどけている
リボンの輪が片方しかない
台所の脇にある小型の冷蔵庫、シンクをはさんで、コンロ……
右へ左へとペタペタあるきまわる彼女の後ろ姿
フリフリと揺れる、その垂れ下がった腰ひもは どう見ても……
俺「尻尾だ。……犬。いや、猫? むしろフェレット的な何かか」
ヘルパー「なにかいいましたー?」
俺「いや、別に」
鼻歌を歌いながら
冷蔵庫の中の食材を切ったり煮たり。料理の手際はよさそうだった
9 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:45:37.25 ID:JQIR4aY80
俺「………妖精さん」
ヘルパー「〜♪」
俺「妖精」
ヘルパー「〜〜♪」
俺「……」ガタ
ヘルパー「〜〜♪」
俺「あのさ、呼び慣れてないような名前なら、せめて普通に呼び方くらい聞いといていいかな」ポン
ヘルパー「うひゃぉっ!?」
俺が近寄ってきたことさえ
肩を叩くまで気付かなかったらしい
10 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:46:14.39 ID:JQIR4aY80
俺「呼び名。どうしたらいいの」
ヘルパー「よよよ、妖精でいいです!」
慌てた様子で振り向いた彼女は、俺を居間に手を引いて連れていく
料理を作る間、座っていろと言うことらしい
俺「…ま、いいけど」
俺「じゃあ とりあえず妖精の頭文字とって、ようちゃんって呼ぶから意識しておいて」
ヘルパー「ようちゃんですね! わかりました!」
俺「鍋、吹いてるよ」
ヘルパー「ぎゃは!?」
俺「火には、もっと意識しておいてね……」ハァ
結局、俺達は一緒に昼飯を食べた
11 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:48:04.86 ID:JQIR4aY80
そのあと彼女は、俺が本を読む横で掃除をしはじめた
ヘルパー「割と片付いてるんですね…」
俺「脚が悪くなってからは、なるべく物を増やしてないし」
俺「床に置きっぱなしにしたりも しなくなったからね」
ヘルパー「そうでしたか…。じゃあ あんまり、役にたたないですかね。私」シュン…
俺「………」
しょんぼりとした様子で部屋を眺める彼女
どうやら本当にヘルパーとしての仕事がしたかったようだ
俺「床とかさ、拭いたり掃いたりは苦手なんだ。やってくれるなら助かるよ」
ヘルパー「……っはい!」パァッ!
13 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:50:08.73 ID:JQIR4aY80
彼女が何を目的にうちに来たのかわからない
それでも小柄で笑顔がかわいくて、明るい彼女の雰囲気を見ているとなんとなく、追い出す気にはなれなかった
俺「困ったな、明らかに不審者なんだけどな」
ヘルパー「どうしましたかー?」
俺「いや。俺って自分が思ってた以上に、寂しいやつだったんだなって実感した」
ヘルパー「はい?」
掃除も、あっという間におわってしまった
そわそわと落ち着きなくする彼女は、まだ役にたつことを求めているらしい
俺(なにか特殊な事情でもあるんだろうか。どんな事情があればこうなるのか、予想もつかないけど)
コーヒーをいれてもらったり、音楽をつけてもらったり。
まるで小間づかいのような事を頼んでも、嬉しそうにする彼女
妖精でないことはわかっているが
妖精のきまぐれとしか言いようが無いくらい 不思議なヒトだと思う
それにしても……
14 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:52:13.54 ID:JQIR4aY80
俺「ヘルパーなんだよね…?」
ヘルパー「ヘルパーですっ!」
俺(きっと、洗面所にある洗濯物とかは気づいてないんだろうな)
とりあえず彼女の正体がヘルパーじゃないと確信できただけでも良しとしよう
下着とかもあるし、洗濯物については言わないでおく
夕方にはなるまで、彼女は用事を申し付けられるのを 近くで待ち続けていた
そして夕方になると、夕飯の支度をしてくれた。
そのあとは素直に、帰り支度をはじめる
玄関先で法外な代金でも請求してくるかと思ったが
どうやらそんなこともないらしい
俺「よくわからないけど、今日はありがとう」
ヘルパー「はいっ! それでは。おやすみなさい!」
俺「おやすみ、ええと ようちゃん」
ヘルパー「はーい!」フリフリ!
15 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:57:47.62 ID:JQIR4aY80
夜になり、静かな部屋でベッドに潜る
あまりにも不可思議だった今日一日を思い返す
俺(ヘルパーというか… 介助犬とかじゃないかな、あの子)
どこかで介助犬の窮地を救った過去でもあっただろうかと思い返してみる
もちろん、そんな恩返しをされる覚えはなかった
俺(ま、いいか。不審者だろうとなんだろうと、そんな悪い気にならなかったし)
むしろ、なんだか癒された気がした
本当に妖精だったりするのだろうか
俺(もしくは、なんかの童話にあった“寝ている間に仕事を片付けておいてくれる妖精”がきていたりして。俺はうすぼんやりとそれを夢に見ていて……)
そんな妄想をしているうちに、気がつけば眠りに落ちていた
16 :
一回中断 やっぱり少し書き溜める ◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 18:58:20.37 ID:JQIR4aY80
翌朝
洗濯物を干し終えた頃になって 気の抜けたベルチャイムがなった
ヘルパー「こんにちは! 私、妖精ヘルパーと申します!」
俺「……」
とりあえず 夢ではなかったらしい
俺はもう一度、どこかで犬を助けたりしなかったか考えはじめた
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/14(土) 19:08:48.43 ID:KW2Os1hn0
期待!
存分に介護されるといいと思うよ!
18 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 22:45:21.24 ID:JQIR4aY80
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それから、週に俺2回 彼女はうちに通ってくるようになった
彼女がうちを訪れる月曜と木曜日が楽しみになっていった
彼女は相変わらず、気の抜けたベルチャイムを一回だけおして 同じようにうちにくる
ヘルパー「こんにちは!妖精ヘルパーです!」
俺「いらっしゃい、ようちゃん」
月曜日と木曜日は仕事が休みだ
平日に二回、土日と祝日の仕事がある
そんな勤務日は、不便じゃないかとみんなに言われていた
だが、脚が悪いのだから仕方ない。選ぶ範囲が狭まるのは当然だ
希望の職種ではなかったせいもあって、それまであまり仕事熱心でもなかったけれど…
『昨日はお仕事だったんですよね? おつかれさまです!』
『明日は忙しいんですか? じゃあ、夕飯は精のつくものにしましょうか!』
なんとなく、仕事にいくのも楽しくなってきた
19 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 22:46:50.14 ID:JQIR4aY80
俺「なにもかも、悪くないな」
同僚「どうした?」
俺「あ、いえ。すいません、独り言です、あはは」
同僚「……お前、最近なんとなく明るくなったよな」
俺「そうですか?」
同僚「女でもできたか?」
俺「そんなんじゃないんですけど」
同僚「けど?」
俺「ヘルパーさんがついてくれて、すごく楽になりました」
同僚「へぇ。普通そうにしてたけど、やっぱ不自由もあったんだな」
俺「俺も、自分が何に不自由してたかなんて気づきませんでしたよ」
同僚「ははは、ヘルパーってのはすげぇな」
俺「ええ。……すごいですよね」
20 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 22:48:30.30 ID:JQIR4aY80
暖かな笑顔
気遣われて申し訳なく思ってしまう疲労感
気付かぬうちに根付いていた、自分の中にある卑屈さ
『…その足のおかげで、今の私がここにいるんですよ』
そう聞いたときは、とんだ自惚れた台詞だと思ったけど
愛しげに俺の足をマッサージしながらそう呟いた彼女には
言い表せない気持ちを抱いた
つまらないことで壊してしまった脚は
本当につまらないものにしか見えなかった
俺自身も、そんな脚と同じ、つまらないものにしか感じなくなってたから…
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
21 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 22:50:07.27 ID:JQIR4aY80
ヘルパー「動かしにくいからって、動かさないのはよくないんですよー」
ヘルパー「マッサージしたり、曲げ伸ばししたり」
ヘルパー「うわー。筋肉よわってるせいで、ふにふにしてる」
ヘルパー「いいなぁー…なんかきれいな脚ー。ほそーい」
ヘルパー「あ、ほら。指先まで、くにくにーって。あはは」
俺「……脚で遊んでるようにしか見えないんだけど…」
ヘルパー「りりり、立派な介護業務ですからね!!」
俺(動揺しながら言われてもなぁ…)
22 :
◆OkIOr5cb.o :2015/02/14(土) 22:51:12.47 ID:JQIR4aY80
そうやって、彼女はいつも楽しそうに嬉しそうにしてくれていた
まるで愛しいかのようにしてもらっているうちに、俺は段々と……
俺「……ありがとな」ナデナデ
ヘルパー「…えへへ。はずかしーじゃないですか、もう!」
妖精の魔法みたいなものに、掛かってしまったらしい。
こんな、本名も正体も知らない不審者を、好きになるなんて
きっと魔法なんて、溶けてしまうんだろう
それとも手品みたいに、種明かしをしてみたらつまらないものなのかな
それでもしばらくは、魅せられていたいんだ