Part1
女勇者「……『星空魔王』?」
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1 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 09:59:23.61 ID:m25dPKqi0
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ある夜 民家
少女「zzz」
女神「…おきなさい」
少女「zzzzz」
女神「おきなさい、少女よ」
少女「zzzzzzzzzz」
女神「蹴っちゃいますよ?」
ドガッ
少女「いったぃ!?」ヒリヒリ
女神「目覚めましたか、少女よ」
2 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 10:00:35.37 ID:m25dPKqi0
少女「うぇ!? 何、誰なのあんた… まぶしっ、光源落として!」
女神「コホン…。 私は女神…神の使いとして啓示と力を与えるものです…」
少女「へ…? め、女神!?」
女神「少女。あなたは、女勇者に選ばれました…」
少女「え…女勇者って… なにそれ… 何するの?」
女神「あなたに、神の加護を授けましょう。そして…魔王の元へ、行くのです!」
女勇者「な……!」
女神「驚くのも無理はありません…ですが、これは神より与えられた運命…あなたは
女勇者「うそでしょ!? 魔王とか本当にいるの!?」
女神「そこに驚いてたんですか!? 何千年も代々途切れることなくいますよ!?」
女勇者「何その都市伝説!?」
女神「伝説とかじゃないですー! むしろ女勇者のほうが伝説です!!」
3 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 10:01:21.36 ID:m25dPKqi0
女勇者「え、だって… 魔王っていったらアレでしょ?」
女神「コホン…なんでしょうか」
女勇者「魔物の群れを引き連れてて、四天王とかを据え置いて、玉座で偉そうにして、世界征服」
女神「そう…ですね。大体において、魔王のイメージとしては正しいと思います」
女勇者「魔物とか、見たこと無いけど?」
女神「ええ、居ませんから」
女勇者「………居ないの?」
女神「居ないですよ?」
女勇者「スライムくらいは
女神「居ないですねー」
女勇者「……」
女勇者「寝る」
バサッ モゾモゾ
女神「まってまって、言いたいことはわかりますけど! 魔王は本当に居るんですー!」
女勇者「えー…」チラ
4 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 10:02:03.40 ID:m25dPKqi0
女神「コホン。魔王の元へ向かって欲しいのは確かなのです」
女勇者「だって…いきなりそんなこと言われても。あ、もしかしてアレ?」
女神「なんでしょう」
女勇者「世界征服をもくろみ、来るときに備えて力を温存していて…『今がその時だ!』みたいな?」
女神「いいえ。世界征服どころか、魔王城に一人で穏やかに過ごしています」
女勇者「それはもう、ほっといてあげようよ」
女神「ほっとけないんです」
女勇者「どうして?」
女神「…なんだかあまりに魔王が可哀相な気がして…見ていられないのです」
女勇者「可哀相?」
女神「ええ」
女神「ですので、少女… いいえ、女勇者。あなたに、魔王の元へ向かって欲しいのです」
5 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 10:03:46.94 ID:m25dPKqi0
女勇者「ちょ、ちょっと待って? 展開が見えないんだけど…私に、魔王のところに行って何をしろっていうの?」
女神「することは、ただひとつ」
女勇者「倒せとかいわれても無理だよ!? 私、いわゆるただのカジテツ姫だからね!?」
女神「姫なのですか?」
女勇者「ううん、すっごく平均的な中流家庭の一般的な一人娘。家事手伝いという名の不良債権候補」
女神「それで、十分だと思います」
女勇者「いやいや、パンピーの女の子が魔王のとこ行ってどうすんの? 生贄なの?」
女神「魔王を… 救ってあげてください」
女勇者「余計に意味がわからない」
女神「勇者にしかできぬことなのです。万物を救いに導くのは、勇者の運命。あの魔王ですらも救ってみせてほしいのです」
女勇者「……あのさ、魔王っていわれても… はじめて聞いたヒトだし…怖そうだしさぁ」
女神「魔王は… 魔王を知るものからはこう呼ばれています」
女神「そう。『星空魔王』、と」
女勇者「……『星空魔王』?」
6 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:20:34.99 ID:m25dPKqi0
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魔王城 城門前
女勇者「で…」
女神「到着です」
女勇者「多分、どんなクソゲーでも 魔王城まで女神に送り届けられる勇者って居ないと思うの」
女神「……私も、ここに来るのは久しぶりです」
女勇者「え? 来たことはあるの?」
女神「以前は、よく来ていました」
女勇者「知り合い?」
女神「……そう、ですね… それくらいには思われているかもしれません」
7 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:21:22.22 ID:m25dPKqi0
女勇者「じゃあ、女神様が魔王を助けてあげればいいじゃない?」
女神「……救ってあげたかったのですが…拒まれているんです」
女勇者「あー… まあ、そっか。魔王と女神だもんね… なんか、属性とか? そーゆーので苦手とかあるのかもね」
ピンポーン
女神「こんにちはー 書留でーす」イマセンカー?
女勇者「うん、まず私が女神のこと苦手だわ」
カチッ、ザザザ…
インターホン<はい、今でます。少し待ってください
女神「はーい」
プツッ…
女勇者「ねえ、確かにすごく荘厳なお城だけど。お城だけどさ、本当に魔王城なのココ?」
8 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:22:10.02 ID:m25dPKqi0
女神「今の声… よかった。魔王、生きてるみたい」ホッ
女勇者「えっ、今の魔王本人だったの!? ってことはもういきなり魔王出てくるの!?」
女神「ふふ、緊張しますか?」
女勇者「う、うん。ふざけてるなとは思うけど、流石にちょっと…」
女勇者「女神の移動魔法とかは本物だったし、ここも本当に城だし…なら魔王も本物なのかなって気はするし…」
女神「普段どおりで大丈夫ですよ。さ、肩の力を抜いて?」
女勇者「普通は『気合を入れていこう!』とかだと思うけど、もう全部おかしいからいいや」
カチャ
魔王「お待たせしまし…
女神「こんにちは、魔王」ニコッ
魔王「」
パタン
女神「ま、魔王! まって、開けて?」ドア トントン
女勇者(なんとなく今の反応、分かる気はする)
9 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:22:53.90 ID:m25dPKqi0
女神「ま、魔王〜」
トントン、トントン
女神「魔王ー…」
トントン…
女神「う… 魔王……」
トン…
女勇者「……女神様、あの… 流石に泣かないでくださいね?」
女神「ですが……」グス
カチャ
魔王「……」ハァ
女神「魔王!」
魔王「……入るといい。用件だけは聞こう」
女神「はいっ」
女勇者(魔王も女神も、見た目はそれっぽいけど。本当は中のヒトがいるんじゃないかな。普通の人が)
10 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:23:34.25 ID:m25dPKqi0
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魔王城 来賓室
魔王「……」
スッ
女神「ありがとうございます。…とてもいい匂い」
女勇者「すごい、魔王が自分で紅茶を淹れてた。しかもなんか慣れてた」
女神「……」キョロキョロ
女勇者「女神様、どうしたの?」
魔王「すまない、ミルクを探しているなら無い。切らしている。急な来訪だった」
女神「あっ、いえ こちらこそ…」
魔王「砂糖を使え」
女神「ありがとう、魔王」ニコ
11 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:24:51.48 ID:m25dPKqi0
女勇者「ミルクティー派なんだね、女神様」
女神「ええ、甘いものは好きですね。供物もお菓子が多いし、いつの間にか甘党に」
女勇者「私もミルクティー好きだしわかるけど、供物ってのはわからないかな」
魔王「……それで、用件は」
女神「魔王… 相変わらず、この城に一人で住んでいるのですか?」
魔王「ああ」
女神「せめて、所用をまかせるような魔物を創ればいいのに…」
魔王「いらない。……一人でいい」
女神「……そう、ですか」
魔王「そんな小言を言いにきたのか」
女神「いいえ… 今日は実力行使にきたのです」
魔王「何?」
12 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:25:48.02 ID:m25dPKqi0
女神「さあ、女勇者! 立ち上がりなさい!」
女勇者「え、ええ!? な、何!?」
女神「早く!」
女勇者「は、はいっ」スクッ
魔王「…何のつもりだ」
女神「魔王…… こうなっては、しかたありません。この者をあなたにけしかけにきたのです」
魔王「…女勇者、と言っていたか。そうか、ついに俺を殺しに来たか?」
女神「いいえ…」
女神「今日からはこの女勇者が 魔王の身の回りのお手伝いをします! さあ女勇者、御挨拶を!」
魔王・女勇者「それは予想外」
13 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:26:52.78 ID:m25dPKqi0
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魔王城 来賓室
女勇者「で、本当に置いていかれちゃったよ魔王城に…」
『見たでしょう? 紅茶淹れる手際のいい魔王って切なくなりません?』
『この広い城を掃除とかもするのかなあとか考えちゃうじゃないですか』
『自分で従者を用意するつもりがないのなら、こちらで用意するくらいしか思いつかないですよ』
『だからね、女勇者には とりあえず魔王の身の回りのお手伝いをしてあげて欲しいんです!』
『〜〜ああ、もうこんな時間! 神様はどうしてゆっくりお話する時間をくれないのかしら!』
『魔王、また来てもいいですか?』
『女勇者、がんばって魔王をお助けしてあげてくださいね』
『で、では!』
女勇者「あまりのことに、ろくな反論もできないまま消えられてしまった」
14 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:27:35.11 ID:m25dPKqi0
魔王「…同情くらいはしてやろう」
女勇者「あ、はい。ありがとうございます」
魔王「……」
女勇者「……」
魔王「……」
女勇者「えっと。とりあえず…頂いたお茶のカップ、下げますね」
魔王「あ、いや。置いておいていい。俺がやろう」
女勇者「……そう、ですか」
魔王「ああ。どうせ突然のことなのだろう? くつろいでいても構わない」
カチャカチャ… テクテク
女勇者「……」
15 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:28:53.17 ID:m25dPKqi0
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魔王城 厨房
魔王「……」
カチャカチャ… ジャー…
魔王「……」
魔王「それで身を潜めているつもりか。出てくればいいだろう」
女勇者「あ… えへへ。えっと、バレてた?」
魔王「これでも一応は魔王だ。誰がドコにどれくらいいるのか…その気配くらいはわかるさ」
女勇者「そうなんだ…」
魔王「何故ついてきた? くつろいでいていいと言った筈だ」
女勇者「何故っていわれても… なんとなく、としか」
魔王「そうか。……ならば好きにしろ」
16 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:29:33.72 ID:m25dPKqi0
ジャー…
カチャカチャ キュキュッ
女勇者(立派な角、尖った耳、鋭い目、低く恐ろしげな声音)
女勇者(でも、それ以外は…長身だし普通に黒髪だし、顔だって人間と変わらない造りだし。ううん、むしろ整っているくらい)
女勇者(ただ……なんだろうなぁ)
魔王「……」
ゴシゴシ、フキフキ
女勇者(予想される魔王本来のオーラ以上に、明らかに暗い。っていうかもうコレ哀愁が漂ってる)
女勇者(食器洗いをする魔王の背中とか、確かに見てて いたたまれない…!)
17 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:30:32.09 ID:m25dPKqi0
魔王「……なあ」
女勇者「え? あ はい」
魔王「帰っていいのだぞ」
女勇者「え」
魔王「俺に手伝いなど必要ない」
女勇者「あー…」
魔王「帰り方がわからないというのなら、近くまで送ってやろう」
女勇者「うん…」
魔王「……町の名は?」
女勇者「はじまりの町…」
魔王「そうか。こちらも片付いた。では、行こう」
18 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:31:22.99 ID:m25dPKqi0
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はじまりの町 ちかくの街道
ヒュン… シュタッ
魔王「ここでいいか」
女勇者「うん、十分だよ。ありがとう」
魔王「そうか。では」
女勇者「うん」
魔王「……すまなかったな」
女勇者「え?」
19 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:33:05.78 ID:m25dPKqi0
魔王「女神が余計な心配をするせいで。迷惑をかけた」
女勇者「あ、いや・・・ 実際、1日つぶれたくらいだし。むしろ美味しいお茶頂いたくらいだし」
魔王「そうか」
魔王「俺は魔王だが、特に何かをするつもりもない。勇者であることは忘れて静かに暮らすといい」
女勇者「うん・・・」
魔王「では」
女勇者「……」
魔王「転…
女勇者「やっぱ待って!!!」ダッ
魔王「移…っ!?」
20 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:33:59.50 ID:m25dPKqi0
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魔王城
ヒュンッ!
シュタッ ドサァッ!
魔王「……」
女勇者「……こっ、こっ、こわ、こわかったぁぁ!!」ハァハァ
魔王「術の導入中に割り入ってくるなど…無謀な」
女勇者「だ、だって」
魔王「せっかく送り届けたのに、一緒に戻ってきてどうする」
女勇者「うん、やっぱりそう思う?」
魔王「ああ」
21 :
◆OkIOr5cb.o :2014/12/22(月) 12:35:04.48 ID:m25dPKqi0
女勇者「……女神様も、せっかく魔王城まで私を送り届けてくれたんだよね」
魔王「……」
女勇者「それなのに何もしないまま帰ってどうすんだろうって思っちゃって」
魔王「詭弁だ。それともそれが勇者論なのか」
女勇者「勇者とか実感ないよ、でも人間としてね」
魔王「……」
『魔王……』グスッ
女勇者「…ここに来たときの女神様、泣き出しそうだったし。馬鹿馬鹿しいけど、本気なんだろうなって思うし」
魔王「……」
女勇者(それに…なんとなく。この魔王を放っておけないっていう女神様の気持ち、わかる気もするんだよね)