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僧侶「リア充呪われろ」
Part5


104 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:15:01 ID:kF4YZqcE
―――【魔王城の目前】―――
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105 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:15:26 ID:kF4YZqcE
―――思―――
あれからは、いつも通りに、旅は進んできた。
変わったのは夜眠れなくなったことくらいか。
寝ようとしても寝付けない。やっと眠れたかと思うと、血だまりに沈む悪夢に魘される。
加えて毎晩のように響く隣室からの騒音にも耐えかね、酒場で朝まで安酒を呷る事が多くなった。
――いくら酒に溺れようとも、目を閉じればあの光景が蘇る。日毎に酷くなる一方だ。
少しずつ体が蝕まれていく。
そんな自分の様子を初めのうちこそ咎められもしたが、無視を決め込んでいるうちにそれも無くなった。
それでも旅にさしたる影響はでなかった。勇者は規格外の力を更に伸ばし、女戦士、女魔法使いも腕に磨きをかけている。
早く、この旅が終わって欲しい。
それだけを願うようになっていた。
―――考―――

106 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:15:59 ID:kF4YZqcE
険しく切り立った山嶺に囲まれた窪地。その中心に、城は築かれていた。
記録によると、かつては周辺一帯を統治する巨大な国の本拠であったらしい。
進んだ技術と強大な軍事力を持ちながら、一夜にして滅んだとされる曰くめいた伝説付き。
厳しい自然の城壁と、その周囲に配置された魔物の拠点。ここにいる、と言わんばかりの環境だ。
勇者「いよいよ、だな」
勇者が呟く。
女戦士「うー、ちょっと緊張してきた」
言葉とは裏腹に、その顔は気力で満ちていた。
女魔法使い「ついにここまで来たのね…長かったわ」
じっと城の方を見つめながら言う。
勇者「できるかぎりの準備はしてきたんだ。後は、全力を尽くして――」
  「魔王を、必ず倒す」

107 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:16:43 ID:kF4YZqcE
僧侶「…。」
決意を固めなおす三人を尻目に、どこか空々しい気分で城を見つめる。
伝説とされる装備を数々手にしてきた。貴重なアイテムも大量に揃えた。各地の幻獣や霊獣、妖精の加護も授かった。
正直、負ける気がしなかった。ただ一刻も早く終わってほしかった。
勇者「…行くか」
三人が歩き出す。やや間をおいて、その後ろについていく。
忌々しいほどの快晴。魔物の本拠地に似つかわしくない空の下、この旅の終着点に向けて歩き出す。
―――

108 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:17:29 ID:kF4YZqcE
城門の前に辿り着く。遠目に見るよりも遥かに大きく、所々朽ちてはいるが立派な佇まいである。
意外なことに魔物とは一体も遭遇しなかった。
女魔法使い「…あれだけ山の外側には魔物がいたのに」
勇者「ここまで来る奴なんかそうそういないだろうからな。まぁそれを抜きにしてもだ」
女戦士「待ち伏せ、だね。中で沢山待ち構えているんじゃないの〜」
頷く。もしかしたらここに魔王が居ないのかもしれないが、勇者が「奴の息吹を感じる」とか言い張るので信じておく。
女魔法使い「周囲をもっと調べてみる?大きな城だし、もしかしたら抜け道とかあるかも」
勇者「いいって面倒臭い。どこを通っても、どうせ魔物は配置されているだろうしさ」
それにも同意だ。
勇者「どれだけ魔物がいようと、罠が張り巡らされようと、俺たちなら問題にならないさ」
女魔法使い「それは、そうなんだけど」
ちら、とこちらを見てくる。恐らく前のような『呪い』による罠を心配しているのだろう。

109 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:18:23 ID:kF4YZqcE
僧侶「…『呪い』なら、今は精霊達の加護もあるし、対抗策がないわけじゃない」
――最悪、前回のような封印があってもまた自分が残ればいい話だ。
勇者「そういうことだ。心配性なんだよ、女魔法使いは」
女魔法使い「う、うん。そうだよね、ごめんね」
…この頃の女魔法使いはずっとこんな調子だった。
昔のような年長者の余裕はなく、勇者に嫌われることを極端に恐れているようにも見える。
できるだけ平静を装って助け舟を出しておく。
僧侶「万全を期す、って意味では間違いじゃないさ。
   詳しく調べるまではしなくても、一周してみるくらいはいいんじゃないかな」
勇者「…僧侶はお優しいこったな。んじゃ、ぐるっと回ってみるか」
勇者が歩き出すと、女戦士が隣についた。
女魔法使いが何か言いたげにこちらを見るが、結局何も言わないまま小走りで行ってしまった。
―――

110 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:19:12 ID:kF4YZqcE
数週間前。砂漠の町。
夜、宿の部屋から抜け出してきたのはいいが、その日は丁度酒場が定休日だったらしく。
仕方なく、宿の裏手に生えていた樹の下で夜を明かすことにした。
昼間にはじりじりと焼くように熱かった砂も、今ではひんやりとしていて心地がいい。
何を見るでもなく、何を考えるでもなく、ただ眠らないように朝を待っていた。
…不意に、誰かが近づいてくる気配に気付く。
女魔法使い「あー、僧侶くぅん…こんなところにいたんだぁ」
よたよたとした足取りで女魔法使いがやってきた。寒さのためか外套をすっぽりと被っている。
僧侶「…どうしたの、こんな時間に」
女魔法使い「部屋にいないんだから探しちゃったよー。えへへ」
隣に座り込む。酷く酔っているようだった。――普段真面目な女魔法使いにしては珍しい。

111 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:20:16 ID:kF4YZqcE
女魔法使い「あのねぇ…勇者が酷いこというのぉ…」
     「お前は『ついで』だってさぁ…女戦士ちゃんの、おまけなんだってぇ」
     「もう、ほんとに嫌になっちゃう…最近ずっと冷たくて、そっけなくて」
     「嫌いなお酒を毎回飲ませるし、ぜんぜん相手にしてくれなくって…」
正直、聞きたくもない。
心待ちにしていたはずの女魔法使いとの会話が、苦痛でしかない。
女魔法使い「でねぇ…どうしたらこっちみるんだーって怒ったらねぇ…」
女魔法使いが立ち上がり、外套をめくりあげる。
下は、一糸纏わぬ姿だった。
豊満で形のいい胸。白く透通るような柔肌。想像でしか見たことがなかった秘部には――

112 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:20:54 ID:kF4YZqcE
秘部には。空いた酒瓶が挿し込まれていた。
吐き気が、込み上げる。冷えていたはずの身体の芯が、どす黒い炎で燃え上がる。
女魔法使い「勇者がねぇ…相手してほしかったら僧侶でも慰めてこいって…」
耳鳴りでうまく聞こえない。いつのまにか痛いほどに拳が握られている。
女魔法使い「手か口でちゃんとできたら、ビンを抜いてくれるんだって」
食いしばった歯から血の味がする。頭に上った血で、視界がブレる。
女魔法使い「…お願い…僧侶くん。捨てられたくないの…」
なのに。
女魔法使いが泣いているのに。勇者を殴ってやりたいのに。
燃え上がっていたはずの感情が、みるみると熱を失い、消えていく。

113 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:21:32 ID:kF4YZqcE
僧侶「…風邪、ひくよ。砂漠でも夜は冷えるし」
妙に落ち着いてしまったまま、外套を羽織らせる。
僧侶「酷く酔ってるみたいだし、今日はもう寝た方がいい。
   …明日になれば、勇者の機嫌だって治るよ」
ぐすぐすと泣いている女魔法使いの手を引き、宿屋へと連れ戻す。
少し水を飲ませ誰も居ない男部屋のベッドに寝かせる。
むずがるように泣いていたが、しばらくすると眠ってしまったようだった。
相変わらず隣の部屋からは騒音が響いている。そっと布団をかけると部屋を出た。
樹の下に腰掛ける。
ため息すらでなかった。いつものように、朝がくるのを待ち始めた。
自分の中で『何か』がずるり、と蠢いた気がした。
―――

114 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:22:06 ID:kF4YZqcE
―――【魔王城内部】―――
城の周囲を探索してみたが何も見当たらず、正面の城門から城の内部へと進入する。
予想されていた待ち伏せは無かった。
周囲を見て回った際に気付いたことでもあるが、城内は異様に静まり返っている。
魔物はおろか、ネズミの一匹すら。おおよそ生き物の気配が感じられない。
『呪い』を含めたあらゆる罠にも警戒したが、ここに人が居たころに作られたであろう装置しかない。
尤も、その装置も年代を考えると相当に先進的なのだが。
だが、城内に入ったことで判る、禍々しい気配。勇者が感じていた息吹とはこれのことだろう。
パーティに緊張の糸が張り詰める。曲がりくねった回廊を、無言のままゆっくりと進んでいった。
―――

115 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:23:16 ID:kF4YZqcE
装飾の施された両扉。やたらに高い天井を無数の太い柱が支える。
大きな天窓からは外の光が射し込む、荘厳な雰囲気。
位置的にも恐らく最奥にある部屋。
勇者「……もっと、化け物らしい姿をしていると思ったんだがな」
あっけなく、終点に着いた。玉座には、本を片手に気だるそうに佇む初老の男。
見た目こそ人間のようだが、その体からは並々ならぬ気配を発している。
魔王「…城についてから随分と時間がかかったな。寄り道でもしていたのかね」
勇者と女戦士が剣を構え、女魔法使いと自分で守護呪文を唱える。

116 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:23:57 ID:kF4YZqcE
勇者「一人でお留守番して寂しかったのか?安心しな、すぐに寂しくなくなるぜ。
   ――地獄でお仲間に会えるんだからなぁッ!」
一足飛びに勇者が詰め寄り、宝剣を振り下ろす。
鈍い金属音が響き、剣が触れるよりも手前で障壁に阻まれる。
女戦士「もういっぱぁつ!」
続けざまに女戦士が斬撃を繰り出す。が、同様に刃は届かない。
女魔法使い「障壁ね…二人とも下がって!」
二人が後ろに跳ぶ。ほぼ同時に女魔法使いが放った火球が着弾し、爆ぜる。
吹き飛んだ本のページが宙に舞う。…魔王に傷こそ無いが、障壁は剥がれたはず。
勇者「うらぁッッ!!」
再び打ち下ろす。障壁に阻まれることなく、魔王の体に剣が入った――
ように、見えたが。

118 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:25:32 ID:kF4YZqcE
勇者「!!」
障壁とは違った金属音。いつの間にか魔王も剣を抜いており、勇者の剣を受け止めている。
魔王「…ふむ」
何かを確かめるように頷くと、鈍く光る剣から凄まじい連続攻撃を繰り出す。
虚を付かれたせいか、久々に勇者が防戦にまわる。攻撃を受け流しながらじりじりと下がる。
女戦士「――もらった!」
背後から女戦士が斬りかかる。こちらも気付かぬ間に死角に回りこんでいたようだ。
が、魔王が振り返ることなく、女戦士が何かに吹き飛ばされる。
女戦士「きゃあっ!?」
勇者「女戦士!!――ぐおっ!?」
続けて大振りに剣を薙ぐと、剣で受けたはずの勇者をそのまま壁までふっ飛ばす。
魔王を見ると――外套の下から巨大、かつ異形の腕が生え、蠢いていた。

119 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:26:28 ID:kF4YZqcE
魔王「どうした…?化け物らしい姿を想像していたんじゃないのか?」
女魔法使い「…くらいなさい!!」
次の瞬間、女魔法使いが詠唱を完成させ、先ほどよりも大きな火球が魔王を包む。
荒れ狂う火炎の中から魔力の渦が巻き起こったと思うと、巨大な氷柱が投擲される。
女魔法使い「――っ!」
僧侶「危ない!!」
ギリギリのところで弾いて逸らす。精霊の加護があるとはいえ、弾くだけでも手が痺れる。
炎が収まると、まさしく魔物の王らしい、禍々しい姿が現れる。
魔王「まさか、これっぽっちではないだろう。
   貴様らは我を殺すためにここまで来たのだろう」
ボコボコと皮膚の表面が泡立ち、魔王のシルエットが膨れ上がる。
細かった腕や脚は丸太のように膨れ上がり、体全体がどす黒い鱗で覆われて行く。

120 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:27:12 ID:kF4YZqcE
魔王「さあ足掻け。驕るがいい。怒るがいい。我を憎み、我を畏れよ。
   ――そして呪うがいい。この世に、生を受けたことをな」
―――

121 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:28:00 ID:kF4YZqcE
魔王を討つ為の『選ばれし者』の力が強大ならば、魔王の力もまた絶大だった。
桁違いの膂力。目にも留まらぬ俊敏さ。無限かと錯覚するような魔力。
さながら外骨格のような皮膚は、女戦士の剣技も、女魔法使いの呪文もまるで通さない。
勇者を柱になんとか持ちこたえてはいたが、魔王に消耗している様子は見られない。
――勇者が一方的に蹂躙される度、心の内に黒い感情が育つ。
魔王「所詮、こんなものか」
飽きれたような声で呟く。
勇者「…舐めるなぁあああああ!!」
激昂し、勇者が突貫する。渾身の力で振りぬいた剣が、魔王の剣を砕く――が。
魔王「ぬるいわ!!」
その隙を突いて巨大な腕が勇者を捕らえる。
女戦士「――っ、勇者ぁ!」
助けに入ろうとした女戦士に向けて、勇者を投げつける。受け止めることも叶わず床に倒れこむ二人。

122 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:28:45 ID:kF4YZqcE
女魔法使い「二人ともっ!」
攻撃された二人に気をとられた瞬間、魔王の全身から魔力が迸る。
防御すべく守護呪文を唱えるよりも早く、衝撃波が叩きつけられた。
余りの威力に壁まで吹き飛ばされる。全身が押しつぶされるような痛みを訴え、呼吸すらままならない。
やっと収まると、精霊の加護を司っていた指輪が小さな音をたてて崩れた。
魔王「神とやらに与えられた力で英雄気取りか?
   …"創られた"天敵などでは、我は滅びぬ」
勇者「……ッ……畜生…」
魔王がゆっくりと手をかざすと、各々の足元から無数の黒い手が這い出し、拘束する。
女戦士「…ぅ、ぁ」
女魔法使い「……くっ」
指先まで締め付けられ、全く身動きができない。

123 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:29:37 ID:kF4YZqcE
魔王「……さて」
その時。
邂逅を果たしてから、初めて見せる感情らしい感情。
魔王「こちらの撒いた種は、どう育ったのかね」
僧侶「…。」
ぐりん、とこちらを見て、口角を釣り上げる。魔王の双眸に自分の姿が映る。
魔王「――"飲んだ"だろう?僧侶よ」
.

124 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:30:24 ID:kF4YZqcE
途端。『何か』が身体の内で暴れまわる。
突然湧き上がった吐き気に、思わず嘔吐してしまう。
押さえつけようとしても効かない。酷い頭痛。著しい不快感。
様々な感情が勝手に涌き上がり、『何か』と共に荒らしまわり――
臨界を迎えると、身体の表面から黒い瘴気が溢れ出す。

125 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:31:06 ID:kF4YZqcE
勇者「…僧侶に何しやがった!!」
勇者が魔王を睨んだまま叫ぶ。威勢はいいが、拘束を振りほどくだけの力も無いようだ。
魔王「ほう、『何か』とね。我はきっかけを与えたに過ぎないのだがね。
   『何か』したのは、貴様らのほうが余程身に覚えがあるのではないか…?」
体中に巻きついた手がじりじりと這いずる。魔王が何やら唱えると、
女戦士「いやぁっ…何これっ…!」
体の内側に、覗き見られるような不快感。自分の意思とは関係なく記憶が浮かんでは消える。
荒れ狂う『何か』。気色の悪い猫撫で声で、魔王が語りかける。
魔王「なぁ僧侶。可愛いお前は今までこの男に何をされたんだ?」
.

126 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:32:39 ID:kF4YZqcE
無数の目玉が頭の中を蠢く。勇者が小声でやめろ、と呻いた。
魔王「どんな危険な道だろうと躊躇なく独りで放り込まれ」
――みんなのことは絶対に守ってみせるよ――
魔王「"与えられた"力を誇示され自分の居場所から追いやられ」
――神父になりたいなんて思わないけどさ――
魔王「長年好いてきた女を遊び半分に篭絡され粗末に扱われ」
――お前も、女戦士も、女魔法使いだって傍にいてくれるんだから――
勇者「……やめ、ろ」
――だからさ、ヤクソク。魔王を、一緒に――
魔王「この世で最も敬愛し、信頼していた親友に「やめろぉぉおぉおおおおおおお!!!」

127 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:33:36 ID:kF4YZqcE
―― 魔 王 を 倒 す 旅 に 、 一 緒 に 行 こ う ぜ 、" 勇 者 " ――
魔王「…交わした約束を、決意を。我が物顔で振りかざされるのは。
   嘲られ蔑まれ貶められ何食わぬ顔で付き纏われ心の底で笑われていたのは。
   僧 侶 、お 前 は ど ん な 気 持 ち だ っ た の か ね ? 」

128 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:34:39 ID:kF4YZqcE
女戦士「そんなことっ…してない…」
女戦士が震える声を絞り出す。勇者は頭を垂れたまま、微動だにしない。
魔王「そうか。それならば――」
魔王が醜悪な笑みを浮かべる。
魔王「――戦力配分を名目に!!志していた戦士から聖職者へと転職させ!!
   甲斐甲斐しく荷物持ちを始めたのをいいことに!!まるで従者のような扱いをし!!
   資金不足と嘯き!!碌な装備も買い与えず!!
   暇さえあれば見せ付けるかのように情を交わし貪り合い!!
   ――それら全てを疑問にすら感じず、"いつもどおり"に押し込めたのも。
   ……全て、唯の"偶然"だというわけだ…」

129 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:36:09 ID:kF4YZqcE
頭の中から視線が消える。同時に、自分だけが拘束から解かれた。
三人は何も言わない。瘴気を垂れ流しにしたまま、ふらつく足で立つ。
魔王「哀れな哀れな僧侶よ。さぞかし苦しかっただろうな。さぞかし悔しかっただろうな。
   ――可愛そうなお前に、我が全てをくれてやろうではないか」
静かに、滑らかに魔王が語りかける。

130 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:36:55 ID:kF4YZqcE
魔王「案ずることは何も無い。"お前"が失われるわけではない。
   何代も、こうして『魔王』は継がれてきたのだ」
我が子をあやす様に。
魔王「永遠に死ぬことも無い。心に葛藤すら生まれない。望めば、全てが手に入る力だ」
手を差し伸べるように。
魔王「その内に秘めた『呪い』をそいつらにくれてやれ。それだけで全てが済む」
女戦士は小声で何ごとか呟いている。
魔王「そこの女が惜しいのならば生かしておけばいい。言い寄られただけで体を許すような女だ。少々躾けてやればいい」
女魔法使いは、ただ俯いている。
魔王「お前がいくら心を寄せても、その連中はお前を一切鑑みてこなかった」
  「孤独なお前には、もはや人の子の間に残してきたものなどあるまい」
  「 そ の 男 さ え 居 な け れ ば 、両 親 を 喪 う こ と も な か っ た だ ろ う ? 」
勇者がビクリ、と肩を震わせる。
魔王「我を受け入れろ、僧侶。"共に"などとは言わぬ。
   お前が、お前こそが、世界を滅ぼすのだ」