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魔人「・・・間違いでは?」
Part2


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 01:41:50.99 ID:M/aPIXcv0
魔人「・・・わかりました」
ーーー正直、意外だった。人間は、絶対的な上下関係で支配されていると思っていたから。
     しかもそれは、ただの弱肉強食ではなく、
     『権力』という目に見えない、酷く曖昧なものだ。
     私の知識が間違っているとは思わないから、ここの人間たちが特別なのだろう。
     先ほどの、一見無遠慮な応酬も、
     もしかしたら目に見えない、信頼の現われなのかもしれない。
姫様「・・・じゃ、仕事とかは空気とか、他のメイドを見てればつかめると思うから」
姫様「とりあえずメイド長に一緒に挨拶して、それからメイド達んとこにいこう」
魔人「はい」
姫様「そろそろ勤務時間も終わると思うんだよなー、あ。勤務時間とかも、他のメイドに聞いてくれよ」
姫様「はずかしー話だけどよ、メイドの顔は全部覚えてても・・・」
姫様「普段、メイドが何してくれてるかなんて、数えるくらいしかわかんねーんだ。情けねーな」
魔人「・・・いえ」
ーーーその、『目に見えない信頼』とは、すごく暖かいものである気がした。
     そんなこと、思ったことも無かったから、
     初めての感情に、少し、戸惑う。

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 01:50:25.78 ID:M/aPIXcv0
ガチャリ
姫様「・・・おーっす、メイド長。居る?」
メイド長「あらあら、姫様。珍しいですねこんな時間に。なにか用事ですか?」
姫様「あー、ちょっとな。時間大丈夫か?」
メイド長「ええ、もう書類も片付きまして・・・。さ、入ってください。お茶でも入れます」
姫様「悪ぃな。・・・ほら、ねーちゃん」
魔人「は、はい」
メイド長「あらあら?そちらの方は・・・、お友達?」
魔人「いえ、えっと・・・。始めまして」
魔人「これからここで、お世話になります」ペコリ
姫様「・・・ねーちゃんだ。まず、挨拶に来た」
メイド長「あらあら、ご丁寧にどうも・・・。さ、座ってくださいまし。ゆっくりお話は聞きますわ」
姫様「おーう。・・・さ、入れよ。メイド長の入れる紅茶はな、超旨いんだ。私もたまに飲みにくる」
メイド長「最近飲みに来てくださらないから寂しかったですよ。・・・せっかく、いい葉っぱが入ったのに」

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 01:59:04.51 ID:M/aPIXcv0
魔人「ーーーん、おいしい・・・」ゴクン
姫様「だろー?なーんか、旨いんだよなー」ズズッ
メイド長「あらあら、気に入ってくださってよかったですわ」
魔人「なんだろ・・・、葉っぱが違うのかな・・・、それとも、水が・・・」
メイド長「・・・あらあら!分かりますか?そうなんです、葉っぱのほかに、お水もこだわってまして・・・」
魔人「お水一つでこんなに変わるものなんですね・・・」
メイド長「まー、わかっていただける方がいらっしゃるとは!嬉しい限りですわ!」
姫様「・・・旨けりゃいーんじゃねーのー」ズズッ
メイド長「あらあらそれではいけませんよ姫様。淑女の嗜みとして、良いものを選べるようになりませんと・・・」
姫様「・・・はーじまったぁ。長ぇーんだよ、これが。噂の『クドクドメイド長』」
メイド長「んなっ・・・!?そ、そのような陰口を叩かれておりますの・・・!?一体どなたが・・・!」
姫様「信頼の上に成り立っておりますので、情報提供者の個人情報に関しては一切答えかねます」
メイド長「か、頑なにいらん知識ばかり身につけてしまって・・・!」
魔人「・・・ほんと、おいしい。なんの葉っぱかな・・・」ズズ・・・

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 02:07:32.42 ID:M/aPIXcv0
メイド長「・・・確か、あなたは・・・」
魔人「・・・!」
姫様「・・・ああ、そうだ。『村』から条約で来た、『魔人』だよ」
魔人「・・・・・・・・・」
ーーー『魔人』と呼ばれることに、少しだけ居心地が悪く感じるようになっていた。
     何故だろう、ここに来てからずっとだ。
     自分は『魔人』なのだから、『魔人』と呼ばれるのは当たり前のことだし、
     私自身、人間は『人間』だし、花は『花』、鳥は『鳥』と呼ぶのだから、
     そこに居心地の悪さを感じるのは、身勝手で、余計に嫌な気分になる。
メイド長「・・・そうですの」
姫様「ねーちゃんはなぁ、一ヶ月前、結構世話んなったんだよ」
姫様「家事は一通りこなせるらしい。メイドには持って来いだと思ってな」
メイド長「あらあら、それは心強いですわね」
ーーーそして、自分が『魔人』だと知った後の、ほんの少しの間。
     それが、たまらなく不安になってきた。
     先ほどまで、楽しく紅茶の話をしていた彼女との間に、
     見えない壁が、出来てしまったかのように、思えてくる。
魔人「・・・・・・・・・」

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 02:19:59.15 ID:M/aPIXcv0
メイド長「・・・?どうかしました?」
姫様「・・・ねーちゃん?」
魔人「・・・私は、魔人ですが・・・」
魔人「・・・それでも、精一杯、やりますので・・・」
ーーー気分を悪くさせたと思う。
     でも、そう言うしかなかった。
     自分で言ってしまったほうが、楽は楽だ。
     決して、人間になりたいわけではない。
     私は、自分自身が魔人であることに、少なからず誇りを持っているつもりだ。
     これは、簡単に覆えることでは、ない。
魔人「・・・どうか、その・・・、よろしくお願いします」ペコッ
ーーー昔の上司と、その元を訪れた人間の女ことを、思い出していた。
     あの二人が特例なだけで、実際にあそこまで上手く行くはずが、ないのだ。
     そんなはず、ない。私達の間には、見えない確かな『溝』がある。
メイド長「・・・あなたには」
魔人「・・・はい」
メイド長「・・・『メイド魂』はありますか」
魔人「・・・は?」

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 02:28:43.72 ID:M/aPIXcv0
メイド長「『メイド魂』はあるかと聞いているのです」
魔人「は、え?・・・『メイド魂』・・・?」
姫様「・・・でた、メイド論」
メイド長「なんと呼ばれようとも結構。・・・で、どうなのですか?」
メイド長「主に身を粉にして従えと言っているのではありません」ズイッ
メイド長「求められるありとあらゆる知識経験技を習得するつもりがあるのかと」ズズイッ
メイド長「そしてそれらすべてを自ら切磋琢磨し磨き上げていく覚悟があるのかと」ズズズイッ
メイド長「そしてそして日々怠ることなくそのすべてを己の鍛錬とし精進させていけるのかと」ズズズズイッ
魔人「・・・っ!?」
メイド長「・・・聞いているのでございます、魔人の君」
魔人「・・・それって・・・」
魔人「・・・誰かの役に立つ覚悟があるのか、ってことですか・・・?」
メイド長「あなたがそう取るのならば、それで結構」
メイド「・・・して?その覚悟はおありで?」

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 02:31:51.02 ID:luZi0fpd0
眠いけど読みたい
不思議!

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 02:33:31.38 ID:M/aPIXcv0
魔人「・・・私は・・・」
ーーー求められるのであれば。
     必要とされるのであれば。
魔人「・・・誰かの役に、立ちたいです・・・」
メイド長「・・・・・・・・・」
姫様「・・・・・・・・・」ズズッ
魔人「・・・・・・・・・」
メイド長「・・・それが、あなたの『メイド魂』ですよ」パシッ
魔人「・・・え?」
メイド長「一流のメイドに必要なのは、知識でも経験でも技でもなく・・・」ギュッ
メイド長「・・・強い意志で、ございます」
メイド長「強い意志を持つものが、一流になれる・・・」
メイド長「・・・そこに、人間だの魔人だの、そんなつまらないもの、必要ありませんよ」ニコッ
魔人「ーーーッ」

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 02:40:56.74 ID:M/aPIXcv0
姫様「・・・もう済んだかー」
メイド長「・・・あらあら、なんのことですの?」
姫様「まったく、大した熱血だよ」
メイド長「メイドたるもの、常に熱いパトスは持ち合わせませんと」
姫様「・・・そんなもんかー・・・。まぁいいけど。メイド長!お茶温くなった!新しいの!」
メイド長「はいはいただいま〜・・・」
魔人「・・・・・・・・・」
姫様「・・・面白いだろ、メイド長?」
魔人「・・・は、い。すごく・・・」
姫様「本人が聞いたら喜ぶよ。アレから学ぶことは結構あると思うからー」
魔人「・・・まったくです」
メイド長「あらあら、クッキーを見つけましたわ。他のメイドのものですが、まぁいいでしょう」
メイド長「さっ、食べましょう、魔人さん。おいしいクッキーですわよ」
魔人「・・・はい。いただきます」

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 02:46:54.77 ID:M/aPIXcv0
ーーーメイド館・宿泊部屋
メイド長「二人で一部屋使うのが、原則となっていますの」
魔人「なるほど・・・」
メイド長「現在、メイドの人数が奇数ですから、一人入れますわ」
魔人「だ、大丈夫でしょうか・・・、私なんか、その・・・」
メイド長「・・・魔人さん?」
魔人「は、はい」
メイド長「あなたはこれから同じメイドの身。私達とは変わらない、メイドでございます」
メイド長「そこに、『魔人だから〜』という、特別扱いは、適応されませんからね?」
魔人「そ、そんなつもりでは・・・」
メイド長「・・・わかっていますよ、そんなこと。だから、そんなに自分を追い込まないで?」
魔人「・・・わかり、ました」
メイド長「結構。・・・では、この部屋です」
魔人「・・・・・・・・・」ドキドキ
メイド長「・・・私です。はいりますわよー」コンコン

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 02:53:39.91 ID:M/aPIXcv0
ガチャリ
メイド長「・・・あら?」
メイド「・・・うべへ!?げほ、げっほ!な、何でばれたんスか・・・!?」
メイド長「あらあらあら?あなた、まさかまた・・・」
メイド「違っ、誤解っスよげほっ、ちょ、チョコレートなんて喰ってねーっスよ!?」
メイド長「・・・一人部屋だからって・・・、毎晩毎晩消灯間際にお菓子を食い漁って・・・」
メイド「だ、だって、甘いもん喰いたくなったりするじゃないっスか!こ、これは・・・!」
メイド長「部屋での隠れ食いは禁止のはずですわよね・・・?部屋は汚れるし太るし損ばっかり・・・」
メイド「き、綺麗に食べてるし、わ、私太らない体質だしそれに・・・、と、糖分は脳をリフレッシュする効果が・・・!」
メイド長「・・・問答無用!折檻ですっ!!!」
メイド「やめ、それだけは・・・!ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!??」
魔人「・・・・・・・・・・」

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 02:59:22.22 ID:ol79XXL7O
前スレないなと思ったら終わってたとは…
スピンオフとか夜勤中にニヤニヤがとまらねぇぇぇぇww

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 03:00:20.19 ID:M/aPIXcv0
メイド長「・・・改めまして、あなたと同室になる方ですよ」
メイド「・・・う、うぃ〜っす・・・」
メイド長「人懐っこい子ですから、すぐに仲良くなれると思いますわ」
魔人「ど、どうも」
メイド長「・・・彼女、最近入ったばかりの新人なんです」ボソッ
魔人「は、はぁ・・・」
メイド長「・・・やる気は人一倍あるんですが、おっちょこちょいで・・・」ボソボソ
メイド長「・・・でも、いい子ですから、理解してあげてくださいね」
魔人「・・・わかりました」
メイド「な、なにこそこそ喋ってらしてんスか?メイド長・・・」
メイド長「あらあら、あなたの隠れ食いを監視するようお願いしていたのですよ?」
メイド「うへぇ!?わ、私の唯一の楽しみが・・・!」
メイド長「・・・では、よろしくお願いしますね」
魔人「は、はい・・・、こちらこそ・・・」ペコリ

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 03:05:21.80 ID:M/aPIXcv0
バタム
メイド「ふ、ふぃ〜。普段ニコニコしてるのに、こーいうときは怖いんスから・・・」
魔人「・・・・・・・・・」
メイド「・・・お恥ずかしいところを見られちまいましたねー・・・」
魔人「い、いえ、そんなことは」
メイド「改めまして、はじめましてっス。いやーそれにしても・・・」
メイド「これでやっと、最下位からの脱出っすかねー!」
魔人「え?」
メイド「いや、私、ドジだから、まだ仕事も覚えきらなくて・・・」
メイド「覚えてる仕事も、ミスしがちっスから・・・、この城のメイドの中では最下位だと思うんすよ」
魔人「・・・思う、とは」
メイド「あ、はい。別に誰に言われたわけでもねーんスけど、自分の実力は、自分が分かってますし・・・」
メイド「・・・最下位ってのは!燃えると思うんすよね!ゴボウ抜き!みたいな!!」
魔人「は、はぁ・・・」

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 03:10:58.62 ID:M/aPIXcv0
メイド「・・・そうは言っても、結構ツラいっスよねやっぱ。役立たずってわけですし」
魔人「・・・・・・・・・」
メイド「・・・でも!あなたも新人さんなわけじゃないっスか!!」
メイド「これから仕事も覚えるんスよね!?」
魔人「ええ、まぁ」
メイド「だったら、一緒っすよ、一緒!・・・ああ、いや、私が一緒ってのも、お恥ずかしいんスが・・・」
メイド「・・・でも!一緒にがんばりましょ!二人で仕事覚えれば、ラクショーっスよ、ラクショー!」
魔人「で、でも私は・・・」
メイド「固いこと言いっこなし!いーっスよね?決まりっスよ!?」
魔人「・・・わ、わかりました」
メイド「いやー、良かった。救われたっスー・・・」
メイド「・・・あ、そーいえば全然お互いのこと話してませんでしたね」
メイド「私、この城下町出身なんスよ。あなたは?」
魔人「えっと・・・」

53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 03:15:32.97 ID:M/aPIXcv0
ーーー一瞬、言うべきか、迷った。
     言えば、彼女が私を見る目が、変わってしまうかも知れない。
     それは、なんというか、すごく、怖い。
魔人「・・・『村』、です」
メイド「村?どこの村っすか?」
魔人「・・・だから、『村』です。ここから、少し歩いた・・・」
メイド「まさか、魔人の・・・?」
魔人「・・・・・・・・・」コクン
ーーーまた、この居心地の悪さ。
     どうしても感じてしまう、この、狭さ。
メイド「ってことは、ねーさん、魔人なんスか!?」
魔人「うぇ、そ、そうですが・・・、ね、ねーさん?」
メイド「だって私よりずっと綺麗だしグラマラスなボンキュッボンですし!」
魔人「ぼっ、な、なんですかそんな・・・」
メイド「はぁー、魔人の、ねーさん・・・。カッコいーっすね!なんかそれって!」
魔人「か・・・、カッコいい・・・?」

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 03:23:27.94 ID:M/aPIXcv0
ーーー先ほどから、びっくりするくらいの拍子抜けだった。
     メイド長といい、彼女といい、・・・勇者や姫は置いておいて。
     何故こうも、自分の考えの上の上を行くのだろう。
     まるで、自分の考えてることが、不安に感じていることが、
     まったくの見当違いであるかのように、
     軽々と、飛び越していってしまうのだろう。
メイド「いやー、私、魔人なんて始めて見ましたから・・・、って、あっ!」
メイド「すすすすいませんっス!い、今のは別に、あの、気を悪くしないで・・・!」
魔人「・・・いいえ、大丈夫ですよ」
メイド「ご、ごめんなさい。『でりかしーがない』って、昔から言われてるもんで・・・!」
魔人「・・・まぁ、そうでしょうけど」
メイド「なっ・・・!や、やっぱり怒ってるっスか!?」
魔人「怒ってませんよ。・・・ふふ」
メイド「・・・?」
魔人「・・・どうしてあなた達は、そうやって、私を怖がらないのですか・・・?」

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/10(土) 03:30:54.65 ID:M/aPIXcv0
メイド「・・・え?」
魔人「・・・あ、その、単純に、疑問なんです」
魔人「魔人と、人間でしょう?こんなこと、いいたくは無いですけど・・・」
魔人「私達魔人は、たぶんこれまで、たくさん人間を殺してきましたよ・・・?」
メイド「・・・そりゃ、そーかもしれねーっスけど・・・」
メイド「って言うより、私も、森ん中で魔人に会ったら、もっと、怖がってると思うっスよ・・・」
魔人「・・・・・・・・・」
メイド「・・・でも、今はこうやって、お互いベッドに腰掛けて、話してるじゃないっスか」
メイド「この距離で、怖がれってほうが、無茶なんスよ、きっと」
魔人「・・・・・・・・・」
メイド「それに、人間だって、負けないくらい魔人を殺してるっス」
メイド「もちろん、私が殺したわけじゃない。ねーさんも、人間を殺したわけじゃないんでしょ?」
魔人「・・・ええ」
メイド「なら、それでいーんすよ。五分五分っスよ、五分五分!」