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僧侶「ひのきのぼう……?」
Part26


868 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:13:23.22 ID:UW5dTRYB0
――――――――――――――――――
――  ――  ――  ――  ――
 
勇者(……あれ?)
勇者(靴はいてる。さっきまで寝てたのに)
勇者(夢? やけに意識がはっきりするけど……)
勇者(ここ、どこだろ。水の中に浮かんでるみたい)
 
勇者「!」
勇者(あそこに誰か横たわってる!)
 
僧侶「――」
 
勇者(……ひどい。この人、傷だらけだ……)
勇者(……あれ?)
勇者(この男の子……どこかで見覚えが……)

875 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:14:27.41 ID:UW5dTRYB0
勇者(ああ、思い出した)
勇者(雪山で会った、一人旅をしてた人だ)
勇者(どうしてこんなところにいるんだろう)
勇者(……こんなにボロボロな姿で)
僧侶「――」
勇者(頭には……帽子の切れ端みたいなのが焦げ付いてるし……)
勇者(『ぬののふく』は……血だらけだし……)
勇者(右手には……『ひのきのぼう』)
勇者(左手に握っているのは……赤い水晶だま?)
勇者(あれ、この水晶も見たことある気がする)
勇者(どこだったかな。何だかとんでもない場所で見た気が……)
勇者は 赤い水晶に 顔をちかづけ
中を のぞきこんだ ―― ▼

878 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:14:58.18 ID:UW5dTRYB0
 
赤い水晶に 僧侶の 真実が 映し出された ▼
勇者「……!?」
勇者「なに……これ……」
勇者の 記憶に 
僧侶の 過去が ながれこんでいく ―― ▼
勇者「……あ」
勇者「ああああ」
勇者「あああああああっ!」
 
勇者「僧侶!!」
 
勇者「お……思い出した……」
勇者「い、今、全部思い出した、思い出したよ!!」

881 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:15:21.94 ID:A/U81iRNO
きたか

882 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:15:28.68 ID:UW5dTRYB0
勇者「僧侶、起きて! 起きてよ!」
勇者は ベホマを となえた!
しかし 何も おこらなかった―― ▼
勇者「あ、あれ? 夢の中だから?」
勇者「どうしよう、どうしよう。こんな怪我……」
僧侶「……う……」
勇者「!」
僧侶「……ここは……?」
勇者「僧侶!」
僧侶「あ……」
僧侶「やあ」
僧侶「勇者じゃないか」
勇者「……僧侶……!」

884 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:15:46.08 ID:/P/EBFpX0
やっときた………

885 : 忍法帖【Lv=40,xxxPT】(1+0:15) :2012/11/27(火) 04:15:53.34 ID:UZopyN8E0
頼む僧侶助かれ!!

886 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:16:05.40 ID:UW5dTRYB0
僧侶「よいしょっと。あ、いてて」
勇者「だ、大丈夫……!?」
僧侶「うん、平気」
勇者「本当に? こんな……大怪我して……」
僧侶「? ああ、本当だ」
僧侶「きっと、僕が死んじゃう直前の姿に戻ったんだね」
勇者「……ほ、本当に死んじゃったの? 嘘だよね? ねえ?」
僧侶「あれ。そういえば何で、勇者は僕のこと分かるの?」
勇者「……それ……」
僧侶「えっ? ああ。竜王の眼か」
僧侶「そのまま持ってきちゃったんだ。ははは」
勇者「僧侶……」
勇者「ほんとに……一人で戦ったの……?」
僧侶「うん。戦った」
僧侶「これで僕も、少しは勇者みたいになれたかな」

887 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:16:05.92 ID:+qPADIKQI
きたぁぁぁぁ!

888 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:16:12.49 ID:9L1YyKGA0
やっとか…

890 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:16:41.14 ID:UW5dTRYB0
勇者「ああ、僧侶! ボクはバカだ、バカだ!」
勇者「何にも知らなかった!」
勇者「知らないところでこんなことが起きてたなんて、全然知らなかった!!」
勇者「それなのに、偽物の魔王を倒して、いい気になって、浮かれてて!」
勇者「僧侶がこんなにも頑張ってくれてたのなんて、全然知らないで……!」
僧侶「ううん、勇者だって頑張ったじゃない」
僧侶「みんなで、魔界樹の花を倒したんでしょ。僕じゃ勝てなかったかもしれない」
勇者「ううん、全部、全部僧侶のおかげだったんだ!」
勇者「病気だった【東の村】の村長さんが助かって、虹の橋を渡れたのも」
勇者「魔王の城への手がかりが無いとき、【北の城】でオーブの段取りをしてくれたのも」
勇者「ボクが王様の目の前で、伝説の剣を抜き放つことができたことまで」
勇者「全部、全部僧侶が裏で頑張ってくれたからだったんだ!」
勇者「全部……僧侶のおかげで……」
勇者「それなのにボクは、何にも知らないで……」
僧侶「そんなことないよ。勇者だってちゃんと頑張ったから、魔王を倒せたんだよ」

896 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:17:29.79 ID:UW5dTRYB0
勇者「ボクは」
勇者「ボクは僧侶ほど、頑張ってなんかいない!」
勇者「僧侶は、何にも悪いことしてないのに、たくさんたくさん辛い目に遭って、」
勇者「怒鳴られて……馬鹿にされて……追い出されて!」
勇者「それでも不貞腐れずに、神父さんの教えを守りながら、自分の意志を貫いて、」
勇者「ボクを助けるために、たった一人で毒沼を渡って」
勇者「魔王の城の、光の届かない、暗いところまで潜っていって」
勇者「たった一人で、とてもかないっこない相手に立ち向かったんだ!!」
勇者「誰の助けも借りず……たった一人で……」
勇者「……武器だって……ひのきのぼう一本しかなかったのに……」
僧侶「それは違うよ、勇者」
僧侶「『ひのきのぼう』だから、僕はあれだけのことが出来たんだ」
勇者「えっ……?」
僧侶「こんぼうでも、槍でもダメだった」
僧侶「『ひのきのぼう』じゃないと、僕はもたなかったと思う。見て!」

908 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:19:09.89 ID:UW5dTRYB0
僧侶「長い旅だったけど、竜王との戦いが終わっても、折れてないでしょ」
僧侶「それどころかまだまだ使える。見かけより凄くタフなんだ」
勇者「……そうなんだ……」
僧侶「それに軽いから、身軽な行動も取れるし……あっ」
僧侶「攻撃と呪文を、同時にできる技も身に付けられたんだ! 今度教えてあげ――」
僧侶「……あー。それは無理かな」
勇者「……どうして? どうしてなの?」
勇者「帰ろうよ! 一緒に町へ帰ろう!」
勇者「ボクが、皆の誤解を解いてあげる! 追放されるようなことは、してないよって!」
勇者「そしてみんなに、本当の勇者は誰だったのかを、ボクの口から説明するんだ!」
勇者「誰にも文句は言わせない、言わせるもんか、僧侶は本当に世界を救ったんだから!」
勇者「あっ、そうだ、僧侶に酷いことをいった、商人さんや賢者さんにも謝ってもらおう!」
勇者「そうそう、戦士さんが僧侶を探す旅に出るんだ! 無駄足になっちゃうといけないし!」
勇者「だから……」
勇者「帰ろう……僧侶……」

914 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:20:13.55 ID:UW5dTRYB0
僧侶「勇者」
僧侶「ありがとう」
勇者「えっ……」
僧侶「これだけが言いたかったんだ」
僧侶「僕の心残りは、勇者にお礼を言いそびれていたことだったんだ」
僧侶「僕を旅に連れて行ってくれてありがとう」
僧侶「世界のために、魔王を倒してくれてありがとう」
僧侶「そして」
僧侶「いま、何もない僕に、『帰ろう』と言ってくれて、ありがとう」
勇者「そんな……」
勇者「どうしてそんなこと言うの……?」
勇者「これから、一緒に帰るんじゃないの……?」
僧侶「うん……それはできないんだ」
僧侶「僕はもう、死んじゃったから」
僧侶「これが本当に最後のチャンスなんだ」

926 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:21:43.31 ID:UW5dTRYB0
僧侶「僕がメガンテを唱えてから、初めて意識を取り戻したとき」
僧侶「どこからか声が聞こえたんだ」
僧侶「ここまで頑張ったお礼に、一つだけ願い事を叶えてあげるって」
勇者「願い事……?」
僧侶「うん。でも、生き返らせることはできないって」
僧侶「今回の魔王は、完全に自分の手に終えない存在だったから、」
僧侶「一度倒された事実を捻じ曲げることはできない、って」
勇者「……そんな……」
僧侶「だから僕は、『勇者に会いたい』って願ったんだ」
僧侶「勇者には、お礼を言いたかったから」
僧侶「そしたら、死後の世界と、勇者の精神を、少しだけ重ねてあげるって」
僧侶「だから多分僕はいま、勇者の夢の中に出てきているのかもしれないね」
勇者「……夢……」
僧侶「うん。だから勇者が目が覚めたら、また僕のことは忘れているかもしれない」
勇者「そんなのっ、そんなの絶対ダメだよ!」

932 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:22:59.98 ID:UW5dTRYB0
勇者「ボクは……ボクはね、僧侶」
勇者「ボクは僧侶のことを」
勇者「小さい頃から、とても尊敬していたんだ」
僧侶「尊敬?」
勇者「優しいし、物覚えもいいし、神父さんから教わった呪文もすぐに覚えるし」
勇者「だからボクは、少しでも追いつこうと、一晩中呪文の練習をしたり」
勇者「少しでも僧侶に近付こうと、僧侶の口ぶりを真似したりして」
勇者「意地も張ったりしたけど……僧侶は、ボクにとって憧れだったんだ……」
僧侶「そうだったんだ……。……でも」
僧侶「僕にとっても、勇者は憧れだったよ」
勇者「えっ?」
僧侶「とても心が済んでるし、頑張り屋さんだし、武器の扱いは上手だし……可愛いし」
僧侶「天啓で選ばれるのは、当然だと思ってたよ」
勇者「そんな……」
勇者「そんなことない……」

936 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:23:42.03 ID:UW5dTRYB0
勇者「……あ……」
 勇者の身体の りんかくが ぼやけていく…… ▼
僧侶「そろそろ、お別れの時間だね」
勇者「やだ……いやだ!」
勇者「いやだ!!」
僧侶「勇者」
勇者「こんなのあんまりだよ! 僧侶が、僧侶が可哀想だ!!」
勇者「こんなに頑張ったのに、誰にも褒められないなんて」
勇者「一緒に町に帰れば、一気に英雄になれるのに!」
勇者「それだけのことは、してきたのに!」
僧侶「でも」
僧侶「僕はもう、一度みんなに嫌われてしまってるから」
僧侶「いきなり帰ったら、逆にみんなの重荷になってしまうよ」
僧侶「いいんだ。誰の苦にもならないのが、僕にとって一番だよ」

938 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:24:13.74 ID:UW5dTRYB0
勇者「そんなの関係ない! 関係ないよっ!」
僧侶「勇者」
勇者「一緒に帰ろう! 願い事なんて、知ったことじゃない!」
勇者「ボクが僧侶と一緒に居たいんだ! 一緒じゃなきゃ意味がないよ!」
勇者「帰ろう、ほら、一緒に出口を探そう!」
勇者「引きずってでも、背負ってでも、一緒に城下町に帰るんだ!!」
勇者「それでボクの家に、ううん、神父さんの小屋に帰ろう!!」
勇者「そしてそこで」
勇者「……また……一緒に……」
僧侶「勇者」
勇者「泣かないで、勇者」
勇者「いやだ……やだよう……」
勇者「こんなのやだ……」
僧侶「勇者」
僧侶「ありがとう」

942 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:24:46.30 ID:UW5dTRYB0
勇者の身体が うすくなっていく…… ▼
僧侶「じゃあ、勇者」
僧侶「めいっぱい、幸せになってね」
勇者「やだ……行かないで……」
僧侶「勇者」
勇者「……せ……せめて……」
勇者「……これが最後なら……せめて……」
勇者は 僧侶のもとに ちかづいた
勇者は 
 
やさしく くちびるを かさねた  ▼
僧侶「――」
勇者「――」

950 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:25:34.12 ID:UW5dTRYB0
勇者「僧侶……」
僧侶「うん」
勇者「世界を救ってくれて、ありがとう……」
僧侶「うん」
勇者「最後にボクに会ってくれて、ありがとう……」
僧侶「うん」
勇者「……ありがとう……」
僧侶「うん」
僧侶「勇者も、ありがとう」
僧侶「……それじゃ」
僧侶「さようなら」
勇者「……さ…………うぅ……さ……」
勇者「さよなら……――――
 
   勇者の姿は    かき消えた  ……  ▼

954 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:26:11.98 ID:UW5dTRYB0
僧侶「……」
僧侶「へへ」
僧侶「キスされちゃった」
僧侶「報われたなぁ」
僧侶「最後に、全部報われちゃった。へへ」
 
僧侶「よし」
僧侶「それじゃあ」
僧侶「僕も行こうかな!」
 
僧侶は ひのきのぼうを 手に取り
                 天高く  かかげた!    
                                 ▼
 
END

959 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:26:34.85 ID:vkGhGKqD0

ビターエンドいいね

965 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:26:41.90 ID:KR6gx1Kj0
>>1乙!楽しませてもらったぜ
これでやっと寝れるはwww

969 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:26:52.20 ID:dD8Jg/B20
最っ高に面白かった
>>1 乙

986 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:27:05.17 ID:2z0Igjr50
>>954
乙乙!!
涙が止まらない

994 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:27:10.38 ID:/EoVlP0x0
おつ
勇者も真相全部知ったし僧侶も讃えられるだろきっと

999 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 04:27:15.57 ID:BJxllvhM0

>>1にありがとう
そして負担をかけてごめんなさい
最後の天高く掲げたひのきのぼうは倒れることのなかったひのきのぼうか……