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僧侶「ひのきのぼう……?」
Part2


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:08:49.45 ID:JOtdaiZe0
 
戦士「――そろそろ日も傾いてきたが、次の町まではあとどのくらいなのだ?」
賢者「あと一山、越えなければなりませんが……勇者様、いかがいたしましょう」
勇者「それなら頑張って歩こう。まだみんな余力はあるみたいだし」
商人「賢者殿のおかげで、前よりずっと好ペースで進んでおりますからな!」
賢者「それは何よりです」
戦士「お前はパーティーに加入したばかりだ。くれぐれも無理はするなよ」
賢者「ええ、ありがとうございます」
勇者「……ねえ賢者さん」
賢者「はい?」
勇者「賢者さんは、どうしてこのパーティーについていこうと思ったの?」
賢者「それは無論、この世に悪をもたらす元凶、魔王を征伐するためです」
賢者「魔王はいにしえより、選ばれた勇者の剣でのみ討ち果たされると言われています」
戦士「……」
賢者「ゆえに勇者様が先の町に立ち寄ると伺ってからは、元より同行させて頂くつもりでした」

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:09:42.79 ID:JOtdaiZe0
賢者「もちろん希望通りにパーティーに参入できるとは思えませんでしたが――」
賢者「幸運にもそちらの商人様の紹介あって、人員交代の機会に恵まれた次第です」
商人「いや何の、腕利きの賢者がフリーだと聞いては、声をかけずにはいられませんとも!」
勇者「ボクには急な話だったけどね」
戦士「仲間になるかもしれん、という話は予め伝えておいたはずだが」
勇者「僧侶が抜けるなんて聞いてないよ」
戦士「まだ言っているのか。過ぎたことを引きずるな。あれは……」
戦士「あれは僧侶の意志だったのだ。お前も納得しただろう」
勇者「……まだ全部飲み込めたわけじゃないよ。一日経ったばかりだし」
商人「まあまあ、徐々に今のパーティーに慣れていけばいいじゃあありませんか!」
勇者「……でも……」
賢者「勇者様」
賢者「私の能力では、何かご不満でしょうか? すぐに改善いたします、何でも仰ってください」
勇者「えっ? い、いや、そういうわけじゃないよ。賢者さんはすごく頼りになると思う」
勇者「ほら、もう日が沈んじゃうよ、先を急ごっ」

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:10:15.01 ID:JOtdaiZe0
――――――――――――――――――――
僧侶は 魔物のむれをたおした!
経験値と 120Gを てにいれた! ▼
僧侶「ふう」
僧侶「なんとか勝てた……」
僧侶「……」
僧侶(こっちも命がかかってるから、甘いことは言ってられないけど)
僧侶(このモンスターたちも、子供がいたり、生きるのに必死だったかもしれない)
僧侶(供養だけでもしていこう。僕一人しかいないし、誰にも迷惑かからないよね)
僧侶(――)
 
僧侶「よし、先を急ごう」
僧侶(次の村に着いたら、装備だけでも整えようかな。やっぱり手ぶらじゃきついや)
僧侶(わ、よく見ると服もドロだらけだ。新しい服も買っておこう)
僧侶(そうだ、好きなものが自分のお金で買えるんだ。一人旅も悪くないかなあ)

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:11:28.78 ID:JOtdaiZe0
――
僧侶は にげだした!
 
僧侶「はぁ……はぁ……」
僧侶(今度はうまく逃げられた。しかも村の方向だ、ラッキーだね)
僧侶(あ。この坂、見覚えあるぞ。ここを越えたら――)
僧侶(見えた! 村だ。まだ結構歩かなきゃならないけど)
 
  ポツ     ポツ
僧侶「!」
僧侶「また雨!」
僧侶(うーん、雨宿りするには中途半端な距離だなぁ)
僧侶(よし、もう日も沈んで暗くなってるし、今日は頑張ってあそこの村まで行こう)
  パタパタパタパタ  ……ザー―――――― ……
僧侶(うわあ、雨足早いぞ。急がなくちゃ!)

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:12:02.93 ID:JOtdaiZe0
 ザー―――――― 
僧侶(歩きづらいなぁ。視界も悪いし)
僧侶(でも負けないぞ。なんてったって僕は勇者のパーティーにいたんだ)
僧侶(雨の中でも勇気を出して、胸を張って歩こう)
僧侶「ん……!」
魔物Aが あらわれた!
魔物Bが あらわれた!
僧侶(村まであと少しだ。こうなったら……)
僧侶は マヌーサを となえた!
魔物のむれは まぼろしに つつまれた! ▼
僧侶「今のうち!」
僧侶は にげだした!
しかし 足がもつれて すっ転んでしまった! ▼
僧侶「ぶぼ! いてて……」
魔物のむれに まわりこまれてしまった! ▼

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:12:35.60 ID:JOtdaiZe0
――
 ザー―――――― 
【東の村】
僧侶「はぁ……はぁ……あれ?」
僧侶(必死で逃げてたら、いつの間にか村に着いてた……)
僧侶(良かった。なんとか無事に、一人で戻って来れたぞ)
僧侶(村の人は……やっぱりみんな家の中だ。こんな天気だもんね)
僧侶(ええっと、まずは宿屋? ううん、こんなに汚れたカッコじゃ、会う人に失礼だね)
僧侶(まずはお店に行って着替えを買ってこよう。ついでに装備も整えられるし、一石二鳥だ)
僧侶(もうすっかり遅くなったし、雨も降ってるけど……開いてるかな?)
僧侶(確かこのカドを曲がって……左に行って……もひとつカドを折れたここ!)
【東の村>武具屋】
僧侶(よかった開いてる!)
僧侶「こんばんわ〜」 キィ…
武具屋「いらっしゃ……ん? お前どこのガキだ?」

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:13:28.83 ID:JOtdaiZe0
僧侶「僕は通りすがりの旅人です。お金はあります、服を下さいな」
武具屋「おい馬鹿野郎、濡れたカッコで入ってくるんじゃねえ! 外で水きってこい!」
僧侶「ごめんなさい」
武具屋「旅人ねぇ、そうは見えねぇがなあ。ま、金があるってんなら一応客だが」
僧侶(所持金は125ゴールド……この村の宿屋は確か一人20ゴールドだから……)
僧侶(10ゴールドのぬののふくと……かわのぼうし80ゴールドまで買える!)
僧侶「これとこれを下さい」
武具屋「90ゴールドだ。偽金じゃねえだろうな」
僧侶(へへ。奮発してぼうしまで買っちゃった。一人で買い物って楽しいな。あ、そうだ)
僧侶「武器も見せてくださいな」
武具屋「ああ? あといくら持ってんだ?」
僧侶「35ゴールドです」
武具屋「はっ、やっぱ金持ってねえのか。その額じゃこれとこれしか売れねえな」
僧侶(ふむふむ、30ゴールドのこんぼうと……あ!)
僧侶「これ下さい!」

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:14:07.69 ID:JOtdaiZe0
僧侶は ぬののふくを 装備した!
    かわのぼうしを 装備した!
    ひのきのぼうを 装備した! ▼
僧侶「これでよし。ありがとうございました」
キィ…
武具屋(へへ、いまどきあんな『ひのきのぼう』買うバカがいるとはな)
武具屋(一緒に並べて正解だぜ、タダ同然で仕入れて5ゴールドの儲け!)
武具屋(頭の回んねえ奴だ、まさに『ひのきのぼう』に相応しいガキだったぜ。へへ……)
 
――
僧侶(ひのきのぼう、買っちゃった。戦士さんが僕のことを『ひのきのぼう』って言ってたけど)
僧侶(僕にはぴったりだ。このひのきのぼうは、まさしく運命の相棒なんちゃって)
僧侶(残りは30ゴールド。この村の宿代は一人20ゴールド)
僧侶(残り10ゴールドで薬草も買えちゃうぞ。大事に使おう)
僧侶(えっと宿屋はこっちか)
僧侶(新しい服が濡れないように気をつけなくちゃ……)

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:14:45.91 ID:JOtdaiZe0
【東の村>宿屋】
僧侶「こんばんは〜」
主人「いらっしゃいませ……おお、あなた様は勇者様ご一行の!」
僧侶「わあ、覚えてくれて、ありがとうございます。そうです、僧侶です」
主人「あなた方であればいつでも歓迎します! どうぞどうぞ」
僧侶「あのうすみません、今日は僕一人なんです」
主人「……はて? どういった事情が?」
僧侶「僕は先日、勇者のパーティーから外れたんです。今は故郷に帰るところなんです」
主人「ははあ……なるほど、そういうわけですか……」
僧侶「こちらの宿代は、一人20ゴールドですよね。一泊、泊めさせてもらえませんか」
主人(……うーむ。勇者様がいないのでは、愛想振りまいてもしょうがないな……いま忙しいし……)
主人「あーその……実は80ゴールドなんですよ」
僧侶「えっ? この間パーティーで泊まった時は、全員で80ゴールドでしたよね?」
主人「ええーそれが、『一泊』、80ゴールドだったわけでして」
僧侶「えっ、そうだったんですか」

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:15:53.65 ID:JOtdaiZe0
僧侶「僕、いま30ゴールドしか手持ちがないんですけれど……」
主人「あー……、……では、残念ながら……はい……」
僧侶「他に泊まれるところは知りませんか?」
主人「いえいえ、あったとしても、競合店を紹介するような真似はできませんよ」
僧侶「そうですか……では、お邪魔しました」
主人「はい、ご予算に都合がつきましたら、是非とも当宿屋に」
主人(……ふう、なんとか追っ払えたか。それじゃ仕事仕事――)
――
僧侶(そっかぁ。一泊で80ゴールドだったんだ。他のところと違うんだ)
僧侶(困ったなあ。80ゴールドだったら、ちょうどこの『かわのぼうし』と同じ代金か)
僧侶(きっと贅沢したから、バチが当たっちゃったんだろうなぁ。反省)
僧侶(じゃあ、今晩どうしよう。やっぱり野宿しかないかな)
僧侶(そうだ! キメラのつばさがあれば、家までひとっとびだ! 道具屋に行ってみよう)
僧侶(確か取り扱ってなかったはずけど、もしかしたら新しく入荷してるかもしれない)
僧侶(30ゴールドで譲ってはくれないだろうけど……一応、ダメ元で訪ねてみよう)

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:16:24.84 ID:JOtdaiZe0
【東の村>道具屋】
――
道具屋「ねえよ、キメラのつばさなんて大層なもん。帰んな帰んな」
僧侶「そうですか……」
僧侶(この村には他に泊まる場所がなかったし……やっぱり今日も野宿か……)
ガチャ
下女「ちょっと道具屋さん、薬草ちょうだい!」
  ドンッ   僧侶「わっ」
道具屋「おや村長ンとこの。こんな夜分にどうしたんだい?」
下女「それが、旦那様の具合が急変しちゃって! どうしたらいいか分かんないのよ!」
道具屋「そりゃまた大変だ」
下女「とにかく薬草を煎じて飲ませるぐらいしか思いつかないの! お金はあるわ! 早く!」
僧侶「……あのう」
下女「なによアンタ、邪魔よ!」
僧侶「えっと、僕いちおう僧侶ですけど、もしよければ診ましょうか? 村長さんを」

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:17:16.09 ID:JOtdaiZe0
【東の村>村長の家】
――
村長「ゴホッ、ゴホッ……」
僧侶「……」
奥さん(まったく、何でこんな子供連れてきたの!)ボソボソ
下女(も、申し訳ありません、一応僧侶と名乗ってましたので……)ボソボソ
僧侶「……あの」
奥さん「な、なに? どうなの?」
僧侶「最近、こちらの村長が無理をされたことは?」
奥さん「そ、そうね。勇者様が来るってことで、風邪の中わざわざ無理を押して出迎えたわ」
僧侶「……! それは気付かず、申し訳ありませんでした」
僧侶「実は僕は、その勇者と一緒にいた者です。数日前に、こちらに挨拶に伺ったことがあります」
僧侶「そのとき病気だと気付いていれば……」
奥さん「そ、そうなの? あんたの顔なんて全然覚えてないけど」
下女「……! だ、だったら……」

53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:18:29.91 ID:JOtdaiZe0
下女「アンタには、旦那様を治す責任があるはずよっ!」
下女「アンタたちのせいで、旦那様の具合が余計に悪くなったんだから!」
僧侶「そうですね。ごめんなさい」
奥さん「ちょ、ちょっと、勇者様のお連れに向かって……」
下女(いえ奥様、この子が一人でこの村に戻ってくるなんて、不自然だと思いませんか?)ボソボソ
下女(きっと仲間から外されたに違いありません。今なら怖いものなしです)ボソボソ
下女(勇者様の名を盾に無理なお礼を要求される前に、逆に責任を全部押し付けちゃいましょう)ボソボソ
奥さん(なるほど。ヘタにした手に出るより、そっちの方がいいわね)ボソボソ
僧侶「あのう……?」
奥さん「オホン。いいこと、あんた達がウチの主人に無理させたから、こんなことになったのよ」
奥さん「ここは責任持って、きっちり主人を看病しなさい。いいわね!」
僧侶「は、はい。もとよりそのつもりですけど……そのう……」
奥さん「主人に何かあったらあんたの責任よ、いいわね! じゃあ、あたしは子供の世話があるから」
下女「あ、奥様、お手伝いします。ちょっとアンタ、ちゃんと旦那様を診ときなさいよ!」
僧侶「あ、あの……。……行っちゃった……」

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:19:11.44 ID:JOtdaiZe0
村長「ゴホッ……ゴホッ……」
僧侶(この病気には、まんげつそうがあれば特効薬が作れるんだけど)
僧侶(ここには薬草しかないし、困ったな)
村長「ゴホッゴホッ」
僧侶「大丈夫ですか?」
僧侶は ベホイミを となえた!
村長の呼吸が すこしらくになった! ▼
僧侶(こんなの気休めにしかならないよ。やっぱり薬を飲ませないと)
僧侶(仕方ない、さっきの道具屋で買ってこよう)
僧侶(確かまんげつそうは30ゴールド。今の手持ちも30ゴールドぴったり)
僧侶(良かった。人助けすると、こんなところでラッキーが起こるんだね)
僧侶(ん、ラッキーってのはちょっとおかしいかな? まあいいや)
僧侶「村長さん、ちょっと待ってて下さいね。まんげつそうを買ってきます」
村長「ゴホッゴホッ」
僧侶「すぐに戻ってきます!」

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:19:51.07 ID:z24PUcDv0
まんげつそうってキアリク効果だったっけ

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:19:59.31 ID:JOtdaiZe0
――
僧侶「ただいま戻りました」
僧侶(店じまいの途中だったから、すごく怒られちゃった)
僧侶(でも閉まる前に間に合ってよかったな)
村長「……ゴホッ、ゴホッ」
僧侶は ベホイミを となえた!
村長の呼吸が すこしらくになった! ▼
僧侶(ええっと……炊事場、勝手に使っていいのかな)
僧侶(まずはお湯を沸かして……あ、沸かしてある。このやかんを使おう)
僧侶(えっと次に……包丁でまんげつそうを刻んで……)
村長「ゴホッ、ゴホッ」
僧侶「! 大丈夫ですか?」
僧侶は ベホイミを となえた!
村長の呼吸が すこしらくになった! ▼
僧侶(やらないよりいいよね。これからこまめに呪文もかけていこう――)

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:20:33.84 ID:JOtdaiZe0
 ザー――――――……
――
僧侶「村長さん、お薬ができました」
村長「……ふぅ……ふぅ……」
僧侶「ちょっと熱いですよ。ゆっくりでいいので、飲んでください」
村長「……」 コクン  コクン
僧侶「はい。これで大丈夫です」
村長「ゴホッ、ゴボッ……」
僧侶「!」
僧侶は ベホイミを となえた!
村長の呼吸が すこしらくになった! ▼
僧侶(これは朝までついていた方がいいかなぁ)
村長「ハァ……ハァ……」
村長「……ゆ……勇者様……」
僧侶「!」

59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/26(月) 22:21:17.26 ID:JOtdaiZe0
僧侶「気がつきましたか? 無理に喋らなくていいですよ」
村長「ゆ……勇者様……」
僧侶「僕は勇者じゃありませんよ。安静にしていてください」
村長「オーブを……オーブをお持ちくだされ……」
村長「……この村から……少し西へ向かったはずれに……ゴホッゴホッ」
僧侶「えっ? 何ですか? ちょっと詳しく」
僧侶は ベホイミを となえた!
村長の呼吸が すこしらくになった! ▼
村長「ほ……ほこらが……。……私をほこらに……オーブを……」
村長「さすれば……魔の城へ続く道が……」
村長「……言い伝え……」
村長「ゴホッゴホッ……。……」
僧侶「村長! 村長。寝ちゃった」
僧侶(オーブかぁ。そんな大事そうなこと、どうしてこの間勇者に言わなかったんだろ)
僧侶(もしかして言うのをためらっちゃうほど、極秘の情報だったのかな……)