2chまとめサイトモバイル
僧侶「ひのきのぼう……?」
Part13


677 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:23:29.82 ID:UW5dTRYB0
【北の城>城下町】
 ガヤガヤ  ガヤガヤ  ガヤガヤ
衛兵A「勇者様! これから魔王の城へ攻め入るそうですね!」
衛兵B「城兵一同、勇者様が世に平和をもたらしてくれることを信じております!」
衛兵C「戦士殿、城の一兵卒として心から尊敬しています! どうかご無事で!」
町民A「勇者様、必ずこの町に帰ってきてくださいね!」
町民B「これはうちの店で一番貴重なアイテムです。是非使ってください!」
町民C「あの、賢者様……必ず帰ってきてくださいね……」
町民D「おい勇者! ぜってぇ帰って来いよ!」
子供A「きた! ゆうしゃさまだ! せんしさまもかっこいい!」
子供B「ゆうしゃさま、これ、みんなでおまもり作ったの。がんばって」
子供C「ゆうしゃさま、がんばれ!」
 
勇者「みんな……ありがとう!」
勇者「必ず魔王を倒して、ここに帰ってくるよ!」

679 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:24:47.39 ID:UW5dTRYB0
【勇者の家】
勇者「――すごい人だかりだったね」
賢者「窓の外にも、まだ人が集まっていますね」
戦士「ふん。奴ら、分かっているのか? 我々はまだ何の戦果も上げてないのだぞ」
勇者「上げてみせるよ。最高の戦果を」
勇者「この剣を抜いた瞬間から、どうしてか負ける気がしないんだ。絶対勝つよ」
賢者「頼もしい限りですね」
戦士「……」
勇者「ところで、商人さんは?」
賢者「あの群集にもまれる最中、最後のアイテム調整に出向いたようですね」
戦士「ふん。誰も自分のところへ寄ってこないから、いじけていたようだぞ」
勇者「そんな。商人さんは、アイテム管理も道具の鑑定・売買も、全部一人でこなしてたし」
勇者「腕っぷしもあるから戦闘もこなせるし、もう絶対このパーティーには欠かせない人だよ」
勇者「商人さんがいなければ、とてもここまで来れなかったよ」
戦士「……」

683 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:25:36.77 ID:UW5dTRYB0
ガチャ
商人「た、ただいま戻りましたぞ!」
勇者「商人さん!」
商人「ううん……っしょ!」
ドサドサドサ
戦士「なんだこれは。明らかに旅に必要でないものも混じっているぞ」
賢者「なるほど。先の人々に押し付けられたのですね」
商人「そ、そうです! これは勇者様にと、これは賢者殿、これは勇者様――」
勇者「うわぁ。嬉しいけど、さすがにこれ全部はもっていけそうにないなぁ……」
戦士「全部持っていく気だったのか? 我々はこれから決戦の地に向かうのだぞ」
賢者「残念ですが、使えそうなアイテムだけ選別しましょう」
商人「ふうむ……売っても二束三文にしかならないものばかりですが……」
勇者「売るだなんてとんでもないよ! ボクにとっては、どれも宝物だよ」
勇者「持っていけないものは、この家に置いておこう」
戦士「……俺宛にバラを送ってる奴はどういうつもりなんだ」

688 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:26:11.42 ID:UW5dTRYB0
――
商人「準備ができましたぞ! これでいつでも魔王城へ乗り込めます!」
勇者「!」
戦士「よし。いよいよだな……」
賢者「魔王城では何があるか分かりません。何か心残りはありませんか?」
商人「アイテムに関しては何も!」
戦士「ない」
勇者「ボクは……」
勇者「……」
勇者「うん、ないよ。ないと思う」
戦士「……」
商人「よーしっ! では、勇者様!」
勇者「うんっ! まずは【東の村】に!」
 
勇者は ルーラをとなえた! ▼

690 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:26:55.72 ID:UW5dTRYB0
――――――――――――――――――――
【砂漠(西の町〜南の港町)】
――
 ジリ   ジリ
僧侶「ふう……ふう……」 ポタ ポタ
僧侶(暑いなあ。汗が止まらないよ)
僧侶(昨日の夜は冷え込んでたのに) ポタ ポタ
僧侶(昼間の日照りがこんなに厳しかったなんて)
僧侶(どっち向いても地面が揺らいでる。落ちた汗も一瞬で蒸発しちゃうし) ポタ ポタ
  ジリ    ジリ
僧侶(でも大丈夫)
僧侶(どんなところに来たって、負けないぞ) ポタ ポタ
僧侶(僕はこれでも、元は勇者のパーティーの一員だったんだから)
   ジリ     ジリ
僧侶(パーティーの一員だった、かぁ……)

694 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:27:38.71 ID:UW5dTRYB0
僧侶(僕はこれからもう、勇者と一緒にはいられないんだろうな)
僧侶(賢者さんに、二度と関わらないで欲しい、って言われちゃったしなぁ) ポタ ポタ
 ジリ   ジリ  
僧侶(北の城下町から、住める場所もなくなって――)
僧侶(それどころか追放されちゃったから、もう戻れなくなったし) ポタ ポタ
  ジリ    ジリ  
僧侶(西の町でも、追放者のマークを見られてしまって――)
僧侶(また町に入ろうものなら、きっと本当に乱暴されるかもしれない) ポタ ポタ
   ジリ     ジリ
僧侶(このまま先に進むたびに、追い出され続けたら) ポタ ポタ
僧侶(僕はどこに行けばいいんだろう)
僧侶「……」
僧侶「あれ?」 ポタ ポタ ポタ
僧侶(僕の)
僧侶(僕の居場所はどこだろう……)  ポタポタ ポタ ポタポタ

695 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:28:26.64 ID:BJxllvhM0
なんだよこの描写
やめろよ

697 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:28:34.32 ID:z/am1Ccz0
俺んとこへ来い

702 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:29:49.75 ID:m6Z58BnlO
お願い魔王!
世界は滅ぼしていいから、僧侶だけは助けて!

703 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:29:52.41 ID:UW5dTRYB0
僧侶(そういえば僕) ポタ
僧侶(いま、何の目的があるんだろう) ポタポタ ポタ
僧侶(やらなければならないことって、何だろう)
僧侶(城を出る頃は、勇者にオーブのことを伝える目的があったけど)
僧侶(それが済んでしまった今は……) ポタポタ ポタポタ
 ジリジリ   ジリジリ
僧侶(まずは)
僧侶(まずは、住める場所を探して、お金を稼いで)
僧侶(……でも、額のマークがある以上、住める場所なんて)
僧侶(それどころか今日の寝床だって、確保できないかもしれない) ポタ ポタ
  ジリジリジリ    ジリジリジリ
僧侶(……僕は)
僧侶(僕はどうすればいいんだろう。今の手荷物で、これから何ができるだろう)
僧侶(僕に残されたのは、少しのお金と、少しの食糧と、ぬののふくと、かわのぼうしと――)
僧侶(ひのきのぼう……)

706 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:30:40.54 ID:UW5dTRYB0
僧侶(そうだ、もう一人の僕自身……『ひのきのぼう』に聞いてみよう)
僧侶(今この向かっている先に、次の町がある)
僧侶(この『ひのきのぼう』を立てて、倒れた方向がその町なら、安心して向かおう)
僧侶(てんで違う方向だったら――その方向に行ってみよう)
僧侶(僕自身に問いかけて得た答えが、僕の答えのはずだ)
僧侶(たとえ西の町に引き返すことになっても、何かきっかけが掴めるかもしれない)
僧侶(この他愛のない棒倒しが、今のどうしようもない僕の、道しるべになるかもしれない)
 ジリジリ   ジリジリ
僧侶は しずかに 目をつぶった
僧侶は   ひのきのぼうを
地面に つきたてた   ▼
僧侶(手を放すぞ)
僧侶(……放した)
僧侶(目を……開けるぞ!)

707 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:30:48.56 ID:PGw1SX1+0
僧侶がんばれ

725 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:34:04.59 ID:UW5dTRYB0
  ジリジリ   ジリジリ  
 
僧侶「あはは」
僧侶「地面に突き刺さったままだ」
僧侶(僕は、どこまでも間が抜けてるなあ)
僧侶(軽く立てるだけでいいのに、どうして突き立てちゃったのかな)
僧侶(これだけじゃあ、どこに進めばいいのか分かんないよ)
僧侶(……でも、答えは手に入れた)
僧侶は ひのきのぼうを ひきぬいた! ▼
僧侶(僕の『ひのきのぼう』は、いつだってまっすぐなんだ)
僧侶(きっと迷うことなんか、何もないんだよ)
僧侶(これまで通り、まっすぐ進もう。思った通りのことを、まっすぐ遂げよう)
僧侶「よし!」 ポタッ
僧侶(この先に【南の港町】がある。まずはそこまで、頑張って歩こう――!)

727 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:34:35.02 ID:BJxllvhM0
なんて奴だ

728 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:34:35.75 ID:jfsoTAJH0
>>725
僧侶に惚れた

729 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:34:51.52 ID:UW5dTRYB0
――――――――――――――――――――
【東の村】
――
勇者「……この地域は、天気が悪いね」
戦士「構うものか。さっそく西のほこらとやらに向かおう」
賢者「いえ、まずはこの町の村長に会ってみましょう。何か情報が得られるかもしれない」
商人「ふーむ。以前挨拶をしに行ったときは、特に何も知らなかったようですがね」
勇者「ううん、ここは賢者さんの言うとおりにしよう。あの時とは状況も違うし」
賢者「ありがとうございます」
戦士「……ふっ。まさか臆している訳ではなかろうから、これは慎重と呼ぶべきなのだろうな」
勇者「慎重だよ。ボクは魔王は倒したいけど、ここにいる誰一人死なせたくない」
勇者「パーティーの命を預かる以上は、石橋だって叩いて回らないと」
商人「ほう……前にここを訪れた時とは、まるで見違えるようですな」
勇者「そうかな? ありがと」
賢者「……! 誰かこちらに来ます」

732 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:35:28.00 ID:UW5dTRYB0
下女「……あ、あの……勇者様ご一行ですね?」
勇者「はい。あなたは……」
下女「わ、わたくしはこの村を治める村長の、使いの者でございます」
下女「どうぞこちらへ。村長がお待ちです」
戦士「村長が? すでに話が行き届いているようだな」
賢者「ええ。大臣の話では、すでに調査隊がこの村を訪れているはずですからね」
下女「はい。勇者様がこの村に帰ってこられたら、案内するよう仰せつかっております」
商人「いよいよですな……」
 
――
【東の村>村長の家】
村長「お待ちしておりました勇者様、そしてそのお連れの方々も」
勇者「お久しぶりです、村長さん。早速ですけど」
村長「はい。話は聞き及んでおります」
村長「ですが……今すぐ、ほこらにご案内することはできません」

739 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:36:44.41 ID:UW5dTRYB0
勇者「どういうこと?」
村長「はい、一つずつお話します。まずはおかけ下さい」
戦士「失礼だが、我々にそんな暇はない。ここへは、すでに決心を固めてきたのだ」
村長「とは仰いましても」
村長「いまオーブをほこらに持ち込んでも、恐らく何も起きないかと思われます」
賢者「何故ですか? 北の国王によれば、魔王城への扉が開かれるという話では」
村長「ええ、開かれます。ただし正確には扉ではなく、『橋』です」
商人「橋? バカな、あんな遠くの孤島までどうやって橋が架かる」
村長「伝説では架かるのです。『虹の橋』が」
勇者「虹の?」
村長「はい。どうぞ、おかけ下さい」
奥さん「ホ、ホットティーが入りました、どうぞ」
賢者「ありがとうございます」
奥さん「は、はいぃ」ポッ
戦士「それで虹の橋というのは?」

743 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:37:26.09 ID:UW5dTRYB0
村長「実際に私も見たことはありませんが」
村長「伝説を解釈する限り、どうも実体を持った長い橋が架かるようです」
勇者「へえ、それはすごいなぁ」
賢者「ふむ……完全にそこらの呪文や魔術の枠を超えていますね」
商人「とてつもない魔力を持ったアイテムなら、在り得る話かもしれませんな!」
戦士「橋の正体などどうでもいい。問題はなぜその橋が架けられないのかだ」
村長「それは――」
賢者「雨上がりしか架からないため、では?」
村長「おお、その通り。『虹』の橋です。雨上がりでなくては、橋が架からないのです」
村長「この辺りで雨が多いのも、この伝説にまつわっている為かもしれませぬ」
戦士「では結論は、雨が降るまでこの村で待っていろということか?」
村長「そうなります。申し訳ありませぬ」
戦士「ふん。俺は今から魔王を倒す気でいたのだが、まるで出足をくじかれた気分だ」
勇者「……でも、あまり待たなくていいと思うよ」
勇者「雨が降ってきた」

749 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:38:15.93 ID:UW5dTRYB0
 ザー―――――― ……
【東の村>宿屋】
勇者「……村長さんは、雨が止み次第案内するって言ってたけど……」
賢者「……雨の勢いが一定ですね。当分止みそうにありません」
戦士「忌々しい。橋の件がなければ、雨の中でも突き進んできるものを」
勇者「この調子じゃ最悪、また一晩持ち越すことになるかも」
戦士「くそっ、どうしてくれる。完全に緊張が途切れてしまうぞ」
賢者「ではその緊張、伸ばし直してみましょうか」
勇者「えっ?」
賢者「魔王戦での策を決めておくのです。作戦や、戦況に応じた戦い方を」
戦士「ふん。そんなもの、これまで通りのやり方でよかろう」
賢者「では、例えば大竜だった場合はどうしますか?」
戦士「竜? まずはセオリー通り突っ込み、腹から捌く。あわよくば首を狙う」
賢者「その際の呪文の支援は、バイキルト・スクルトと手段が分かれますが――」
勇者(賢者さんすごい。もう戦士さんを飲み込んじゃってる……)

752 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:39:31.31 ID:UW5dTRYB0
――
バタン
商人「ふうう、ただいま戻りましたぞ」
勇者「あ、商人さんお帰り。お店はどうだった?」
商人「いやーやはりろくなもん扱ってませんな! 濡れ損です濡れ損!」
商人「店員もやたら媚びてきましたが、ありゃー腹の内じゃ相手を見下すタイプ!」
商人「ワシも人のことは言えませんが、ああまで浅ましいと……ん?」
 
戦士「だから、回復は二の次でいいと言っている! そこは補助だ!」
賢者「いいえ、攻撃の要であるあなたに倒れてもらっては困ります。回復です」
戦士「そう簡単に倒れはせん! 俺に任せろ!」
賢者「全員の帰還も、果たすべき副目的です。その場面では命を大事にいきます」
 
商人「な、何やら険悪な雰囲気ですな」
勇者「そう? ボクには意気投合してるように見えるけどなぁ」

754 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 01:40:05.72 ID:UW5dTRYB0
――
勇者「――それじゃあ、もし魔王が呪文を主体として攻撃してきたら?」
戦士「マホカンタで弾き返せばいい。習得済みなのだろう?」
賢者「長期戦でマホカンタはあまり有用ではありません。回復呪文がかけられないので」
商人「ワシが回復アイテムを連発するのはいかがですかな――」
――
勇者「――この『伝説の剣』。実は攻撃力が高そうじゃないんだよね……」
商人「しかし退魔の力は最高級とのことですぞ、伝承通りであれば」
戦士「ふん、いまさら何を。心せよ、その剣こそ勇者の証なのだ」
賢者「とはいえ、依存が過ぎては逆に動きづらくなる可能性もありますね」
勇者「攻撃は、戦士さんとの連携プレイが大事になりそうだね――」
――
賢者「――ところで、帰り道は大丈夫なのでしょうか。魔王を倒した後の帰路は……」
戦士「魔王を倒すことで城が崩れ落ちようものなら、その瓦礫に埋もれるのも本望だ」
勇者「だ、だめだめ! もしルーラがダメだったとしても、みんな最後まで生き抜こう――!」