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僧侶「ひのきのぼう……?」
Part10


493 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:38:35.46 ID:UW5dTRYB0
僧侶「恨む? 何を恨むというの?」
僧侶「逆に感謝したいくらいだよ。勇者が旅に専念できるようになったのなら」
賢者「……『二度と』思い出さないのだぞ。旅が終わっても、平和な世界になっても」
僧侶「だったら、なおさら安いものだよ。世界が平和になったのなら」
賢者「……そうか。そういうことか。つまり」
賢者「所詮、お前の勇者様に対する思い入れなど、その程度のものなのだな」
賢者「勇者様にとぼけられても、特に何とも思わない、思えないというわけだ」
僧侶「……ううん……。よく分からない」
賢者「ふっ、安心した。お前がそういう了見ならば、こちらもやりやすい」
賢者「多少なりとも抱いていた罪悪感が溶けていくようだ。いや実に馬鹿らしかった」
僧侶「……よく分からないけど」
僧侶「きっと勇者は、僕のことを忘れてくれたほうが、幸せになると思う。そんな気がする」
賢者「……遠回しに気取った自惚れかな? ふっ、心配には及ばない」
賢者「勇者様は必ず、必ず幸せになる。この賢者の名にかけてな」
僧侶「そう。よかった」 ニコッ

495 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:39:10.72 ID:KS6eM3jkO
僧侶が報われなさすぎて泣いた…

498 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:39:42.46 ID:UW5dTRYB0
賢者「では、僧侶よ。できるなら、もう二度と勇者様に関わらないで欲しい」
賢者「何かの拍子に勇者様の記憶が戻ってしまっては、旅が遅延する恐れもある」
僧侶「うん。……。分かった」
戦士「……」
賢者「それでは戦士殿、先を急ぎましょう。いよいよ天気も悪くなってきましたし」
戦士「ああ。先に行っててくれ。俺は少しだけこいつと話がある」
賢者「どうぞ。しかし、あまり長くならないように――」
 
僧侶「戦士さん」
戦士「……それは『ひのきのぼう』か。なぜ持ち歩いている」
僧侶「これは、僕です。前、戦士さんが僕にそう言ってくれたから、翌日に買ったんです」
戦士「……まさかそれだけで、一人で、この雪山の頂まで登ってきたというのか」
僧侶「そうですよ。いつも逃げてばっかだけど、でも、いざ戦うとなったら」
僧侶「『突き』が強いんです。今じゃあ『ひのきのぼう』は、結構使いこなせるようになったんですよ」
戦士「……突きが強い……か……」

502 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:40:46.23 ID:UW5dTRYB0
戦士「……まさかとは思うが……」
戦士「おい僧侶。これを抜いてみろ」
戦士は 伝説の剣を わたした! ▼
僧侶「この剣は?」
戦士「ものは試しだ、いいから抜いてみろ。抜けるかどうか、その一点だ」
僧侶「はあ」
僧侶は 伝説の剣を 装備した!
しかし ひきぬけなかった! ▼
僧侶「あれ。これ固くて抜けない」
戦士「……ふっ。返せ。まぁそうだな、万が一にもありえない話だったか」
僧侶「どういう話なんですか?」
戦士「お前はまだ『これの域』には達してないという話だ。つまり決して勇者たりえぬ、と」
僧侶「はあ。はい。僕は、弱いですよ」

513 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:42:35.21 ID:UW5dTRYB0
戦士「自分で認めるからには、パーティーを外されたことにも異存はないな」
僧侶「もちろんです」
戦士「それが、勇者の判断によるものではなかったとしてもか?」
僧侶「えっ、そうなんですか」
戦士「今だからこそ明かすが、あれは勇者を除く三人で勝手に決めたことだ」
戦士「勇者にはウソで言いくるめた。勇者は俺たちの言葉を信じ、納得した」
僧侶「……」
戦士「どうだ、これが真相だ。まだ俺たちを恨む気は起きないか」
僧侶「はい。恨むだなんてとんでもない」
戦士「なぜだ。なぜお前は、何の怒りも感じずにいられる」
僧侶「ええっと……よく分かりませんけど」
僧侶「僕がパーティーを外れたのは、勇者が一人で決めたことじゃないって、いま知って」
僧侶「僕はちょっぴり嬉しかったです。それでとても満足しています」
戦士「……ふん。俺は正直、お前を外したことは今でも後悔してない……が……」
戦士「……すまなかったな……」ボソ

519 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:43:26.17 ID:UW5dTRYB0
僧侶「えっ? よく聞こえませんでした」
戦士「いい。さぁ、俺の話は済んだ。もう行くぞ」
僧侶「はい。ありがとうございました」
戦士「礼を言われる筋合いはない。……最後に言っておく」
戦士「お前は仮にも、『魔王を打ち果たす者』がいるパーティーの一員だった」
戦士「そのことは大いに誇っていい。また、この先々を生き抜く力ともなろう」
戦士「忘れるな」
僧侶「うん。わかった」 ニコッ
僧侶「じゃあ、僕の方からも一つだけ」
戦士「なんだ?」
僧侶「ここから北の城に行けば、王様がオーブを渡してくれるはずです」
僧侶「それを持って、【東の村】に向かってください。魔の城へ続く道が開けるらしいです」
戦士「! それは本当か?」
僧侶「違うかもしれないけど、一応、それだけを勇者に伝えてください」
戦士「……分かった。その伝言、確かに請け負った」

522 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:44:09.33 ID:UW5dTRYB0
戦士「では……」
戦士「さらばだ」
僧侶「さようなら、戦士さん。さようなら――」
 
―― ―― ―― ―― ――
僧侶「さようなら。勇者」
僧侶(勇者はもう僕のことは分からないだろうけど)
僧侶(僕はいつでも勇者のことを応援してるよ。頑張って。頑張って、勇者)
僧侶「……あ」
僧侶「雪」
僧侶「きれいだなぁ」
 
僧侶「さて」
僧侶「行こっかな。ここから折り返しだ。よいしょ」
 ザッ    ザッ    ザッ    ――

523 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:45:10.08 ID:UW5dTRYB0
――――――――――――――――――――
戦士「待たせたな。先を急ごう」
勇者「あ、戦士さん。あの人と何を話してたの?」
戦士「なに、一人旅の無事を確認していたまでだ。問題はないらしい」
勇者「すごいねぇ。あの人、ボクとそんなに歳が変わらないように見えたけど」
賢者「……はは。私だって勇者様とそれほど変わりませんよ」
商人「あんな大罪人、気にするだけ無駄ですぞ!」
勇者「そうかなぁ……」
賢者「それより勇者様、雪が降ってきました。この様子だと吹雪きそうですね」
商人「こりゃあ手がかりもないことですし、ルーラで城まで飛ぶことも考えるべきですな!」
戦士「手がかりは、ある」
商人「なぬ?」
戦士「このまま、北の城の国王に会いに行くぞ。そこに恐らく、我々の求める情報がある」
勇者「えっ、ほんと!?」
賢者「ちょっと待ってください」

525 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:45:51.92 ID:UW5dTRYB0
賢者「まさかそれは、あの……少年から得た情報ですか?」
戦士「そうだ。何か問題があるか?」
賢者「追放者ですよ。なぜ我々が、彼の言葉に踊らされなくてはならないのですか」
商人「ううむ確かに」
勇者「でも、ボクたちが向かう先はどうせ一緒でしょ?」
戦士「その通り。賢者よ、何が言いたいのだ」
賢者「ルーラの話ですよ。我々は、あくまでパーティーの意志で行動しています」
賢者「少年の言葉など鵜呑みにせず、きちんと雪山を探索しきった上で北の城に向かいましょう」
商人「ええっ、そんな……へぶしゅんん」
戦士「お前らしからぬ意地張りだな。もうここには何もなさそうに見えるが」
賢者「私の意見を述べたまでです。最終決定権は勇者様にあります。いかがされますか?」
勇者「えっ、ボク? ……そうだね。じゃあ賢者さんの言うとおり、このまま山を降りよう」
賢者「ありがとうございます」
勇者「それより、吹雪いてきたね。さっきの人、大丈夫かなぁ」
賢者「……」

526 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:46:24.54 ID:UW5dTRYB0
――――――――――――――――――――
 ビュオオオオオオオオオオ――
 
 ザッ…      ザッ…
僧侶(あっという間に天気が悪くなっちゃった……)
僧侶(うう……寒い……)
僧侶(ただでさえ冷たいのに、またいっそう冷え込んできた……身体が凍えそう……)
僧侶(でも、負けないぞ)
僧侶(勇者は、魔王の本拠地に乗り込んで戦うんだ)
僧侶(それに比べたら、きっとこんなの全然たいしたことないぞ)
僧侶「……!」
魔物Aが あらわれた!
魔物Bが あらわれた! ▼
僧侶(吹雪の中を狙ってきたんだ……ダメだ、逃げられない。戦おう)

527 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:46:57.16 ID:UW5dTRYB0
――
僧侶「はぁ……はぁ……」
魔物のむれを たおした!
経験値と 400Gを てにいれた! ▼
僧侶(……)
僧侶(この二匹の魂が、無事に山に還りますように……)
ビュオオオオオオ――
僧侶「はぁ……はぁ……」
 ザッ       ザッ
 
僧侶「はぁ……はぁ……」
   ザッ         ザッ
僧侶「……あっ!」 ズリッ
 バシャッ
僧侶(てて……。しっかりするんだ。負けないぞ)

530 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:47:29.84 ID:UW5dTRYB0
 ビュオオオオオオ――
僧侶(……)
僧侶(いま夏なのに……)
僧侶(なんでこんなに寒いんだろう……)
    ビュオオオオオオ――
僧侶(歩いても歩いても、おんなじような景色ばかり)
僧侶(まるでさっき勇者と出会ったのが、マボロシだったみたい)
僧侶(そうなのかもしれない。あまりの寒さに、頭がヘンになったんだ)
       ビュオオオオオオ――
僧侶(全身が凍えちゃって……)
僧侶(すごく眠たいな……)
僧侶(……)
          ビュオオオオオオ――
僧侶(いや)
僧侶(もうちょっと歩こう。頑張ろう。頑張ろう)

531 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:47:51.77 ID:BJxllvhM0
この僧侶を囲いたいんですけどかまいませんよね

532 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:48:13.26 ID:UW5dTRYB0
――
僧侶(……あ……)
僧侶(気付いたら吹雪が止んでた……)
僧侶「あっ」
僧侶「町だ!」
僧侶「町が見えてきた! あれがきっと西の町なんだ!」
僧侶(よーし、元気がわいてきた)
僧侶(なんだか空気もほんのり暖かくなってきたし)
僧侶(もう少しだ、頑張ろう――)
僧侶「!」
魔物のむれが あらわれた! ▼
僧侶(後ろからだ! まだ走れるかな)
僧侶は ピオリムを となえた!
僧侶の すばやさが あがった!
僧侶は にげだした! ▼

534 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:48:22.92 ID:tA9QuMLr0
しぬなよ

535 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:48:44.77 ID:UW5dTRYB0
――
【西の町】
僧侶「はぁ……はぁ……」
僧侶「あれ? もう着いてた」
僧侶「ここが西の町かぁ」
僧侶(オレンジ色の風景。もう夕方になってたんだ)
僧侶(この辺は雪山と全然環境が違うんだな。暑いくらいだよ)
僧侶(それにしてももうクタクタだ……宿屋を探そう)
幼児「あっ」
僧侶「ん? やあ、こんにちは」
幼児「たびびとさん?」
僧侶「そうだよ」
幼児「……」
幼児「来て!」
僧侶「あっ、ちょっと」

538 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:49:20.80 ID:UW5dTRYB0
【西の町>宿屋】
幼児「ママ、ママー! おきゃくさん!」
僧侶(宿屋の子だったんだ。ついてるぞ)
幼児「……あれ? ママ?」
僧侶「もしかして、あそこで麦の束を背負ってる人?」
幼児「あっ、ママ!」
僧侶(……あの女の人、足元がフラついてる)
僧侶(顔色に血の気がない……なんだかすごく疲れてるみたいだ)
 
宿の女「は……は……」
宿の女「あ……」 フラ…
幼児「ママ!」
僧侶「よいしょ」
宿の女「!?」
僧侶「運ぶんですよね。僕、手伝います」

541 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:50:04.89 ID:UW5dTRYB0
僧侶「ははあ、貯蔵庫への補充ですね」
僧侶「いいですよ。後はやっておくので、休んでてください」
宿の女「そんな……見知らぬ方にそのような……」
幼児「こっち! 早く!」
宿の女「まあ……あの子ったら……」
僧侶「僕は構いませんよ。あなたはベッドで休んでてください」
幼児「早く!」
僧侶「はいはい」
宿の女「本当に……申し訳ありません……」
宿の女「山の方から来られて……あなたも疲れてらっしゃるでしょうに……」
僧侶「よいしょ。僕、全然へっちゃらですよ。あれ? 山から来たって言いましたっけ?」
僧侶「よいしょ。でも大丈夫です。こう見えて、元は勇者のパーティーにいたんです。っしょ」
宿の女「……勇者様の……」
僧侶「だから人一倍は、丈夫なんですよ。よいしょ」
宿の女「……ありがとうございます……申し訳ありません……」

542 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:50:51.01 ID:KS6eM3jkO
俺なら人間不信になっちゃう

544 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:51:20.11 ID:UW5dTRYB0
――
僧侶「ふう、終わった」
幼児「つぎはおそうじ! それがおわったらおりょうり!」
宿の女「こらっ……いい加減にしなさい……」
幼児「だってママ、すっごくつかれてるんだもん!」
僧侶「そうですね。なんだか本当に体調を崩されてるようにみえますが」
宿の女「いいえ平気です……お店もあけてますし……」
僧侶「僕、実は僧侶なんですが、よければ具合をみましょうか?」
幼児「そうりょさん!? はやく! はやくママをなおして!」
宿の女「いえ……そんな……」
 
バタン
師範「おい、しばらく店は休むって話だったじゃないか!」
宿の女「あ……あなた……」
幼児「パパ! おかえりなさい!」

551 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:52:09.10 ID:UW5dTRYB0
師範「!? 誰だお前は!」
僧侶「こんにちは。僕は僧侶です」
師範「旅人か? 悪いが今日は店じまいだ、宿なら他を当たってくれ」
宿の女「そんな……この方は……」
幼児「パパ、このひとはね、そうりょなの!」
幼児「だからね、いまからママをみてもらうの!」
師範「僧侶だと……?」
僧侶「はい。よかったら、お力になれればと」
師範「必要ない」
師範「私の妻の疲労は、呪文や薬で治るものではないのだ」
宿の女「……」
僧侶「えっ? それはどういう」
師範「知る必要もない。さぁ、帰ってくれ」
幼児「パパ……?」
僧侶「はい。……そういうことなら、おじゃましました」

552 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/27(火) 00:52:16.70 ID:zs7tYvNR0
なん……だと……
やっと救われるのか