Part4
89:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 21:22:59 ID:
zSzjwC4s
『クハハハハッ!! 油断したな!! そいつの魔法がなければ、もう戦えまい!!』
悔しい。
でも! 私の魔法がなくても! みんな強い!
負けやしない!
……あれ?
そこで気づいた。
痛みがない。
意識もはっきりしている。
確かに魔王の鋭い爪がこちらに向かってきたのに。
傷もない。
90:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 21:39:43 ID:
zSzjwC4s
私と魔王の間に、いつの間にか勇者さんがいた。
魔王の爪は勇者さんの腕に深々と突き刺さっていた。
「勇者殿!!」
「おい!! 無事か!!」
一瞬、みんなに隙ができた。
その瞬間を見逃さず、魔王は体を振り払って、全員をなぎ倒した。
「ぐはぁっ!!」
「うわあああ!!」
91:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 21:57:51 ID:
zSzjwC4s
『フン……つまらん……そのような者をかばって自分が傷つくとはな……』
『噂に聞いていた精力たぎる勇者といっても、所詮は噂だけだったようだな……』
『ここまでだ……あっけなかったな……フン』
悔しい。
私をかばって勇者さんが傷ついてしまった。
そんなこと、あってはならないのに。
私が勇者さんの盾にならなければいけない立場なのに。
勇者さんを絶望的な気持ちで見つめた。
謝罪と、そのほか色々な感情を込めて。
92:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 22:07:33 ID:
zSzjwC4s
「ふん、なに死にそうな顔してんだ、馬鹿……」
勇者さんが私に言い放った。
「早く……回復しろよ……あいつをぶっ飛ばせねえだろ……」
「なんのために……お前をかばったと思ってる」
そして笑った。
私もつられて笑った。
93:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 22:19:03 ID:
zSzjwC4s
「オラァ魔王! もういっちょだコノヤロウ!!」
「お前が倒れるまでやめねえからな! 覚悟しろオラァ!!」
元気になった勇者さんはまた魔王にかかっていった。
不意を突かれた魔王は、勇者さんにさらに押されるようになっていった。
そして。
ーーーガキィン!!
勇者さんの一撃が、魔王のバランスを大きく崩した。
行ける。
勇者さんが剣を大きく左に構えた。
あの構えは!!
94:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 22:35:06 ID:
zSzjwC4s
「伏せてろ!!」
勇者さんが叫ぶ。
至近距離からの回転斬りだ。
私も伏せながら、最後の力を振り絞って魔法を放った。
「テラシオン!!」
魔法バリアを放った。
勇者の剣に向かって。
95:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 22:44:24 ID:
zSzjwC4s
ーーードシュッ!!
勝負は一瞬でついた。
魔王の体は、見事両断された。
「油断するな!」
すかさず武闘家さんが稲妻正拳を叩き込む。
ーーーグォッ!!
爆発四散。
「とどめだ!!」
ーーーグチャッ!!
ーーーグチャッ!!
ーーーグチャァアア!!
戦士さんが見かけに似合わない細かな作業で潰して回る。
96:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 22:59:47 ID:
zSzjwC4s
静寂。
復活の気配はない。
そこでようやく、みんな肩の力を抜いた。
魔王の支配は終わったのだ。
これから世界中に残った魔物を制圧していかなければならないが、それも時間の問題だろう。
人間と共生できるものは共生を。
牙を剥くものは殲滅を。
これまでの旅で、みんなで決めたことだった。
しかし、魔物には魔物にしか使えないテレパシーのようなものがある。
魔王が死んだことは、魔物にすでに伝わっただろう。
となれば、降伏したり、逃げたりする魔物も多いはずだ。
やはり、時間の問題に思えた。
97:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 23:08:07 ID:
zSzjwC4s
「よし、凱旋するぞ」
「王に報告をして、報酬をもらって」
「魔物の制圧は、そのあとだ」
「お前たちとは、魔王討伐までという契約だったから……その……」
「魔物の制圧は、仕事に含まれていないんだが……」
勇者さんが歯切れ悪くつぶやく。
言いたいことは分かったが、みんなの思いも一つだった。
98:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 23:17:38 ID:
zSzjwC4s
「そんなん、おれたちも行くに決まってるっすよ」
「最後まで付き合おう」
「ここまでやって、後はケツまくるなんて性に合わねえからなあ、がっはっは!」
勇者さんは、「お前は?」とこちらを向く。
私も当然、それに付き合う。
私なんかの力をこれからも必要としてくれるのならば。
こくこくと頷くと、勇者さんは嬉しそうな顔をした。
それを見て、私も嬉しい気持ちになった。
99:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 23:24:28 ID:
zSzjwC4s
だけど、魔王を倒したからだろうか。
心にぽっかりと大きな穴が開いたような気がした。
これから、どうしよう。
魔物の制圧は確かに重要なのに、私は大きな目標を見失ったような気がした。
100:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 23:29:37 ID:
zSzjwC4s
はてさて、旅も終わり、王都への凱旋でラストです
ではまた ノシ
101:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 23:30:38 ID:37Z7udP2
どう着地するんだろう
乙
102:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/20(金) 23:39:46 ID:.VEWBLRA
念入りに魔王潰しててワロタ
103:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/21(土) 00:48:20 ID:BcpsNZ6.
なぜかハラハラする
おつです
104:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/21(土) 13:14:26 ID:4D743btE
どう落とすのかなあ
しかし魔王が害虫か何かのようだw
乙
105:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 20:37:38 ID:
bUJX6a.6
【王の間】
「おら、顔あげろ」
「勇者の一行がそんな辛気臭い顔しててどうすんだ」
「胸張って前向いてろ」
「喋るのはおれがやるから」
「お前ら、後ろで見守っててくれたらいいから」
「じゃ、行くぞ」
勇者さんを先頭に、ぞろぞろと王様のいる部屋へと入っていく。
106:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 20:46:25 ID:
bUJX6a.6
王様が椅子にふんぞり返って勇者さんの報告を聞いている。
魔王の支配が終わったことを喜んでいるけれど、その態度は少し偉そうだ。
戦士さんも、武闘家さんも、盗賊さんも、退屈そうだ。
大きな戦いが終わったから、目標を見失ったような感じだ。
私も同じ。
これからどうしようか。
魔物の制圧の旅をするとしても、いつから? どうやって始める?
そんなことをぼんやりと考えていた。
107:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 20:54:46 ID:
bUJX6a.6
「で、だ」
王様が話を切った。
「魔王討伐の仲間たちというのは、そこに並んでいる者たちなのかね」
心なしか聞きにくそうに、王様が勇者さんに尋ねている。
「ええ、そうです」
勇者さんは目を逸らしながら答える。
私はぎゅっと胸が痛んだ。
私を仲間と認めてくれる発言は嬉しいけれど、勇者さんが困らされるのは辛い。
108:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 21:05:24 ID:
bUJX6a.6
「そ、そうか……」
「そ、その、右端の者は……その……」
王様がなおも歯切れ悪く勇者さんに尋ねている。
私はさらに胸が痛くなった。
逃げ出したくなった。
「私なんて仲間と名乗る資格もない、大した存在じゃないので、お暇します!」と言いたい。
「ええ、そいつも、おれの大事な仲間です」
「そいつの魔法がなければ、危なかったでしょうね」
前の勇者さんからは考えられないセリフだ。
嬉しくて涙が出る。
私はぎゅっと帽子を目深にかぶって、顔を隠した。
こんな顔は、勇者さんに見せられない。
109:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 21:21:31 ID:
bUJX6a.6
「しかし……その者は……その……」
「……魔物……ではないか……」
王様の言葉が胸を突きさす。
これまで勇者さんからどんな視線を浴びたときより、どんな言葉をかけられたときよりも、ひどい気分になった。
110:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 21:29:07 ID:
bUJX6a.6
「それがどうかしましたか?」
「魔王城には、魔王に心酔した人間だっていたし、おれたちはそれを倒してきましたよ?」
盗賊さんがなんでもないことのように言う。
「おれたちみたいな筋力だけのパーティでは、魔王を倒すのは難しかったですね」
「ほら、猪突猛進のバカばっかりだから、はっはっは!」
戦士さんが豪快に笑い飛ばす。
「大切なのは結果ではないでしょうか」
「私たちは、このメンバーで、魔王を討伐した、それだけです」
武闘家さんが冷静に言い切る。
111:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 21:38:08 ID:
bUJX6a.6
「と、いうわけで報告、終わります」
勇者さんがさっさとこちらに帰ってくる。
「報酬の話は、また後日、ということで」
「なんせ疲れているものでね」
もう王様の方は振り返らない。
「さ、行くぞ」
そう言って肩で風を切り、王様の部屋を後にする。
私は戸惑いながらも、みんなについていく。
なんだかみんなの背中が、とても頼もしかった。
112:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 21:44:43 ID:
bUJX6a.6
今から思えば、勇者さんは「魔物だから」私を嫌ったり目の敵にしたりしたことはなかった。
町の魔道士さんたちにも、同じように恨みのこもった目線を送っていた。
彼にとって重要なのは「魔法を使うかどうか」だけだった。
他のみんなも、私を魔物扱いもしなかったし、人間と区別されることもほとんどなかった。
そんなことに、今更気づかされた。
113:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 21:57:46 ID:
bUJX6a.6
「とりあえず、打ち上げがてら、酒でも飲みに行くか」
首をぐりぐりと回しながら、私の方を見て言う。
私はもちろんこくこくと頷く。
ほかのみんなも異論はなさそうだった。武闘家さんも含めて。
「今日くらいは、飲もうぜ」
勇者さんがにやりと笑う。
私も、笑った。
心から。
★おしまい★
116:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 22:19:19 ID:qYw.JIsw
お疲れ様でしたー
120:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/22(日) 23:20:12 ID:4iB9pQDM
おつおつ!
ほっこりしました
読み返すと伏線いっぱいでやばい
123:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/23(月) 01:56:56 ID:X8ILYiuE
ハッピーエンドで良かった
乙
124:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/23(月) 04:54:51 ID:1yPJF0Rw
最後まで健気で可愛かったな
頭なでたい
乙