2chまとめサイトモバイル
勇者「魔法を使うやつが大っ嫌いなんだ」
Part2


30: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/15(日) 23:16:25 ID:SOVi3uSk
「おれが、出てきちゃだめって言ったんすよ……」
「この町なら、他にもたくさん戦える冒険者がいそうだったし……」
「巻き添え食っても危ないじゃないっすか……」
「だから……怒らないでやってくださいっす……」
盗賊さんがかばってくれている。
「それに……武闘家さんはいつものことじゃないっすか……」
「勇者さんがいつも無理に飲ませるからっすよ……」
「おれのこと心配してくれんのはありがたいけど、もう、ほら、大丈夫っすから……」

31: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/15(日) 23:26:22 ID:SOVi3uSk
盗賊さんは、ほんと優しい。
こんな私にも、平等に接してくれる。
こんなにも、気を遣ってくれる。
「チッ」
勇者さんも八つ当たりを反省したようで、少し落ち着いたようだ。
「お前が朝まで面倒見ろよ」
そう言い残して、戦士さんを連れて部屋にどかどかと戻っていった。

32: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/15(日) 23:39:42 ID:SOVi3uSk
「へへ……迷惑かけて悪いっすね……」
そんなことありません、と私はぶんぶん首を振った。
涙が出そうになったが、大きく息を吸ってごまかした。
手に込める魔力を絶やさないよう集中しているうち、盗賊さんの寝息が聞こえてきた。
町のために、本当に、お疲れさまでした。
ゆっくり休んでくださいね。

33: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/15(日) 23:47:10 ID:SOVi3uSk
という感じで、また ノシ

34: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 00:51:16 ID:F6xFgdTY
おつ

35: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 00:53:07 ID:EFEOVtog
魔法使いちゃんの健気な感じ、可愛い
報われてほしい

36: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 05:08:08 ID:FpGU4tig
なかなかに胸が痛い

38: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 21:38:04 ID:dGHcpgIM
「どうしてそんなに魔法を毛嫌いするんだ?」
たき火を囲んで、今日は野営だ。
しっかり準備をして、今日と明日でこの大きな洞窟を抜ける予定だ。
暗くて光源のない、じめじめとした洞窟。
だから私は、火の魔法であたりを照らしていた。
勇者はとてもいやそうな顔をしたが、盗賊さんの「松明を用意する金も馬鹿にならないんすよ」の一声でしぶしぶ認めてくれた。

39: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 21:47:59 ID:dGHcpgIM
旅は順調だった。
洞窟内でも、みんなの力技は無類の強さを発揮した。
勇者さんが『回転斬り』で魔物をぶった切る。
戦士さんが『極潰し』で魔物を叩き潰す。
武闘家さんが『稲妻正拳』で魔物を爆発四散させる。
盗賊さんが高価な宝箱を察知し、お宝をどんどん得る。
旅は、順調だった。

40: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 22:08:21 ID:dGHcpgIM
少しの油断があった。
火の魔法で洞窟なのに明るいこと。
みんな、桁外れに強いこと。
魔物たちがそれに恐れおののいていたこと。
そこに、わずかな油断があったのだろう。
魔物の瀕死の一撃が、思いもよらぬダメージを勇者さんに与えた。

41: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 22:19:40 ID:dGHcpgIM
「おい! 勇者! 目ぇ開けろ!! おい!!」
勇者さんを戦士さんが揺り動かす。
勇者さんは目を開けない。
こんな状態の勇者さんは、見たことがなかったのだろう。
武闘家さんもさすがに顔色が悪い。
盗賊さんもおろおろするばかりだった。
「おい! 回復魔法! 急いで!」
戦士さんがこちらに向かって叫んだ。

42: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 22:30:01 ID:dGHcpgIM
「ヒトニエ!!」
ぽう、と私の手の魔力が勇者さんを癒す。
まだ間に合うはずだ。
勇者さんは死んでいない。
でも、魔法で回復して勇者さんは気を悪くしないだろうか。
そんな考えがふと頭をかすめたが、命あればこそだと思いなおした。

43: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 22:37:31 ID:dGHcpgIM
目を覚ました勇者さんは、私に怒鳴ることはなかったものの、見たこともないほど不機嫌になった。
不快だ。
汚らわしい。
魔法の力で命を救われただなんて。
魔法の力で蘇ったなんて。
そう言いたげな顔だった。

44: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 22:46:29 ID:dGHcpgIM
「ぞっとしたっすよ、目を覚まさないんじゃないかと思って」
「勇者殿がいなければ、このパーティも意味をなさない」
「いやあ、無事でよかったよかった、がっはっは!!」
みんな勇者さんの無事を喜んでいた。
そして、私に気を遣っていた。

45: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 22:54:51 ID:dGHcpgIM
そしてその夜、たき火を囲んで、戦士さんが勇者さんに尋ねた。
なぜそんなにも魔法を忌み嫌うのかと。
自分の命が救われたとしても、嫌いなのかと。
勇者さんは答えにくそうにうつむいたままだ。
言うべきがどうか、迷っている。
そんな感じだった。
「言いたくねえのなら無理には聞かねえけどよ」
「でも、これからさらに魔物も強くなるっすよ。無事に旅が続けられるよう、聞いといた方がいいっす」
「勇者殿が私たちを信頼するなら、話をしてほしいな、今後のためにも」

46: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 22:57:53 ID:dGHcpgIM
>>45 ミス
そしてその夜、たき火を囲んで、戦士さんが勇者さんに尋ねた。
なぜそんなにも魔法を忌み嫌うのかと。
自分の命が救われたとしても、嫌いなのかと。
勇者さんは答えにくそうにうつむいたままだ。
言うべきかどうか、迷っている。
そんな感じだった。
「言いたくねえのなら無理には聞かねえけどよ」
「でも、これからさらに魔物も強くなるっすよ。無事に旅が続けられるよう、聞いといた方がいいっす」
「勇者殿が私たちを信頼するなら、話をしてほしいな、今後のためにも」

47: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 23:02:27 ID:dGHcpgIM
「……おれは町に住む前、山の中の小さな小屋で育ったんだ」
勇者さんがぽつりぽつりと話し出した。
「山ん中で両親と育った。山猿みたいな生活だった」
「でもおれは、それで、十分幸せだったんだ」
少し言葉を切る。
遠い昔を思い出しているようだった。
私も遠い昔のことを思い出して、ふと、悲しくなった。

48: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 23:09:02 ID:dGHcpgIM
「ある日、山賊が小屋を襲った」
「今のおれや戦士みたいな力任せの山賊ではなくて、魔法で相手をねじ伏せる山賊だった」
「おれを守ろうとした両親は、山賊にむごたらしく殺された」
「おれは部屋の隅で死んだふりをすることしかできなかった」
「……両親が……死んでいくのを見ていることしかできなかった……」

49: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 23:15:02 ID:dGHcpgIM
「そもそも人間は、魔法なんか使えなかったんだ」
「魔王が生まれて、魔物が世の中を我が物顔で歩くようになって、そのうちに人間も魔法が使える種が生まれて……」
「魔法なんてもんは、魔物の呪いみたいなもんだ」
「今人類は、魔物の呪いにやられている」
「魔法名だって詠唱だって、なに言ってるかわかんねえし」
「もともとは魔物のもんなんだ」
「だからおれは、この身一つで、魔法なんかに頼らずに、魔王を倒したいと思ったんだ」
「魔法なんて必要ない、平和な世の中を取り戻したいと思ったんだ……」

50: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 23:20:13 ID:dGHcpgIM
誰も、しばらく口を利かなかった。
両親の敵。
魔法を憎むのに十分すぎる理由だった。
それも、魔物ではなく人間が使った魔法。
歪んだ恨みが彼を育てたのだろう。

51: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 23:27:37 ID:dGHcpgIM
「こいつの魔法は……魔王を倒すために必要だ」
「それは……理解している」
「今日もおれの命を救った」
「だが……」
葛藤があるのだろう。
魔法が両親の命を奪ったことは、消せない事実なのだ。
だから迷い、悩み、あがくのだろう。
私はその歩み寄りだけで、十分に嬉しかった。

52: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 23:35:46 ID:dGHcpgIM
「勇者さん、理由はよーっく分かったっすよ」
「おれたちも、もっと己を磨かなきゃあなあ」
「私も精進しましょう、世界の平和のために!」
みんな、勇者さんの話に心を動かされている。
私の魔法は魔王を討ち取るためにある。
そして、勇者さんの命を守るためにある。
そのために、できることはなんでもやる。
そう、決意を新たにした。

53: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/16(月) 23:40:55 ID:dGHcpgIM
という感じで、また ノシ

54: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/17(火) 00:54:14 ID:fmMPwsxE

主人公の正体が鍵な感じか?

55: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/17(火) 05:00:07 ID:W1hdHeWE
ふむふむ


56: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/18(水) 21:26:51 ID:5c/8K7.M
「これは、魔力を増幅させる力のある腕輪のようだ」
武闘家さんが差し出したその腕輪は、私が憧れていたものだった。
高名な魔女がかつて生み出したという「叡知の腕輪」だ。
武闘家さんが吹き飛ばした魔物の腕に、それが残っていたのだ。
「盗賊殿、これは高く売れるのだろうか?」
盗賊さんを振り返って言う。
「あー、まあ、売れるっちゃ売れるっすけど、今現在そんなにカネには困っては……」
ちら、と勇者さんを見る。

57: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/18(水) 21:38:40 ID:5c/8K7.M
勇者さんは見て見ぬふりをしてくれた。
使ってよい、ということらしい。
「とりあえず使ってみて、具合を確かめてみたらいいんじゃねえか?」
「そうっすそうっす、魔法の威力が上がればもうけもんっすよ」
という訳で、叡知の腕輪は、私の腕にはめられた。
やった!
私なんかが、この腕輪を手にすることができるなんて。
勇者のパーティに入れてもらうまで、そんなことは夢にも思わなかったのに。
私は夢見心地で、腕にはまったその腕輪を愛おしく撫でた。

58: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/18(水) 21:50:58 ID:5c/8K7.M
「パライゾ!」
ーーーズゥゥウン!!
ーーーズゥゥウン!!
ーーーゴォォォォォォォオオオオオオオオ!!
見たこともない大きさの火柱が上がった。
「すんげえ……」
戦士さんが硬直している。
「なんも素材が残んないっすねえー」
盗賊さんが口をあんぐりと開けている。

59: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/18(水) 22:06:18 ID:5c/8K7.M
「ま、洞窟内では使わないでくれよ、はっはっは!!」
「おれたちを燃やさないでくださいっすよー」
「今のを使うときは相手をよく見るようにお願いしたい」
みんなからは散々な言われようだったが、私はとても嬉しくなった。
これなら、みんなの力技にも引けを取らない、立派なサポートができるのではないかと考えた。
勇者さんも、少しは認めてくれるのでは……

60: 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/18(水) 22:14:42 ID:5c/8K7.M
くらっ。
あれ?
私は膝をついていた。
「あれ? どうしたっすか?」
「めまいでも起こしたのか?」
くらくらっ。
あれあれ?
力が入らない。
そのまま、空と地面がさかさまになった。