勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
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Part9
114 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:01:18.59 ID:
cp5pogPl0
僧侶をこっそり司祭の家に帰した勇者は、すぐさま行動を起こした。
勇者の号令によって急遽開かれた会議、突然の招集にもかかわらずその席には国王をはじめ、国の中枢を担う人物たちが集まっていた。
皆が会議室の下座に立つ勇者に視線を向ける。
何せ勇者は皆を集める理由として言ったのである。
魔王達を倒す策を思いついた。 と。
参謀「皆もそろった、勇者よ、さっそくその策とやらを教えてくれ」
勇者「はい、それでは説明します」
勇者はそういうと、心の中で、構えた。
イメージは、仲間と一緒に戦闘している時だ、その時の心構えでもって、勇者は口を開く。
勇者「全員、起立してください」
勇者の言葉に応え、皆が一様に起立をした。
「……」
王「…勇者よ、これは一体なんの真似だ?」
王は起立したまま、怪訝な顔を勇者へ向ける。
勇者「まずは、実際に体験してもらったほうが、説得力があると思いまして」
参謀「体験?」
勇者「勇者の能力の一つ、命令です」
参謀「?」
勇者「私の言葉から発せられた命令は、女神様の信徒ならば誰ひとり拒絶することなく、違和感を持つことなく、従わせることができる」
参謀「…?? 勇者、あなたは一体何を言っているんだ?」
勇者「……突然の起立の号令に対して、あなた方は何も違和感を感じませんか?」
参謀「違和感といわれても」
参謀は立ったまま、まだ府に落ちない様子だった。 あたかも勇者の命令に従うことが正しいとまるで疑っていないように。
勇者「冷静に考えてみてください、突然起立と言われて立つ人間がいますか? それも全員、こんなこと、普通ありえない、 違いますか?」
参謀「……たしかに…言われてみれば」
参謀はここでやっと半分納得したようだった。
勇者「もちろんこの命令は、どんなことでもできるわけではありません。 たとえば信仰を捨てろなどの命令は、矛盾が生じるために拒否されます。 加えて、命令の内容が、された側の能力を超えている場合も同様です」
加えて、この能力は勇者が心の底から願った場合のみ、発動される。
それ故に、勇者は気が付けなかったのだ。この神にも似た能力に。
戦士、魔法使い、僧侶……仲間が自分の思い道理に動いたことや、冒険の最中他国の住人や、重要人物から都合よく話を聞けたのも、思い返せばこの能力のおかげだったのだろう。
115 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:04:47.04 ID:
cp5pogPl0
参謀「う……うむ、それで、この能力を使って、勇者は何をするつもりなのだ?」
勇者「この要領で、この世界の全人類に命令を出します」
参謀「!」
勇者「ある時刻に、私に魔力を送れ、と」
参謀「!! そんなことが」
勇者「パーティーの魔力を集めて放つ魔法があります、それを応用し、全人類の魔力を自分に集める」
参謀「…しかし、一般人に魔力の伝達など」
勇者「基本的な魔法技術があれば十分可能であると考えられます」
参謀「魔法博士…どうですか?」
魔導博士「ふむ……確かに、…理論上は可能じゃろうが…」
勇者「ええ、その技術を世界中の人間に伝授するだけでも、時間がかかるでしょう」
参謀「…それで、そこまでして、本当に魔王達に勝てるのか?」
勇者「……初戦では、いいとこ五分かと」
参謀「…五分……いや、それより初戦とは?」
勇者「魔王の言動から、この世界には、魔界と人間界をつなぐ旅の扉があると考えられます」
参謀「ふむ」
勇者「そして魔界には、他の人間界へと通じる旅の扉があるはずです」
参謀「……! そうか」
勇者「はい、まずこの世界の魔王を倒し、旅の扉までの道を開きます、その後、魔界を通じてほかの人間界に乗り込み、その世界の国と協力して同じ命令をする」
参謀「……なるほど……しかし勇者、その旅の扉のある場所は分かっているのか?」
勇者「十中八九、魔王城、それも魔王の間でしょう、ですが安心してください、ここに来る前に試しましたが、旅の扉は、どんな魔法攻撃でも壊れる代物ではありません。」
参謀の言葉の意味を読み取り、先回りして勇者は応えた。
今までにない大魔力同士のぶつかり合いだ。 その余波で壊れるかもしれない、そう考えるのは、自然といえるだろう。
しかし旅の扉はいわば時空の歪みである。こちらの魔法攻撃もすべてその時空に吸い込まれるため、破壊できるといった代物ではないのだ。
116 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:05:29.90 ID:
cp5pogPl0
参謀「……確かに……希望はあるように思う……しかし五分か…」
参謀は額に手を当て、目を閉じた。
魔王城から放たれる結界の範囲は、日々拡大を続けている
魔物が徐々に力を増しているのも確かだ。
このままではじり貧……今は、五分でも賭るしか…
参謀「魔法博士、魔法を伝える技を伝授するのにかかる時間は?」
魔法博士「うーむ、全人類ともなると……魔導協会を総動員しても、3年はかかるかの」
参謀「……各国に伝令を回し王宮の魔法使いにも手伝わせましょう、それならどうです?」
魔法博士「……王宮の精鋭か……それならば、2年でいけるかもしれん」
参謀「2年……」
結界の拡大するスピードから考えると、かなり微妙な時間だ
勇者「……2年…」
勇者がゆっくりとつぶやいた。
勇者「その間に、武器職人の方々には、膨大な魔力をコントロールする武装を作っていただきたい」
武器屋「む?」
勇者「魔法使い用の魔力を攻撃力に変える杖があるでしょう? あれを利用して理力の防具と剣を作ってほしい」
武器屋「ふーむ…膨大な魔力を放出する武具…か」
勇者「現状、この世界に魔王と互角に戦える武具はありません、足りない部分はこちらの工夫でカバーするしかない」
武器屋「…わかったやれるだけやってみよう」
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:06:20.87 ID:
cp5pogPl0
司祭「……勇者、本当のところ、勝算はどれくらいなんだ?」
司祭の家、久しぶりに勇者を招いた司祭は、食事の席でそう切り出した。
勇者「……この策じゃ7:3で上出来ってところだな」
司祭「…ちなみに7は?」
勇者「もちろん魔王達さ、魔結界も日に日に強くなっている、それに比例して魔王も強くなっているはずだ」
司祭「……2年…か」
勇者「あの魔王の全力は、一度だけ引き出したことがあるが、仮に今の俺の魔力をすべて放出して戦うことができたとしても、五秒で消し炭だったと思う」
司祭「……その状態からさらに強くなるわけだろ?」
司祭は顔をしかめ、目がしらに指を当てた。
考えただけでも気がめいる。
勇者「まぁ…希望が出来ただけ今までより何倍もマシだ。 このままだと、どちらにせよこの世界は滅ぶ」
司祭「…なぁ」
勇者「ん?」
司祭「女神様は…なんで助けてくれないんだろうな?」
勇者「どうした? お前らしくもない、女神様は無意味な試練は与えない、そうだろ?」
司祭「…ああ…そうだったな、すまん、変なことを聞いた」
勇者「お前も疲れてんだよ。最近はこの地域でもオルガの発症が増えてるって話じゃんかよ」
司祭「ああ、そうだな、毎日の治療で…すこし参ってるのかもな」
勇者「ああ…そうさ……疲れているんだ……」
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:07:02.72 ID:
cp5pogPl0
スライム二匹と共に、洞窟を利用し人工的に作り出した密室の中に、勇者は一人いた。
敵意を向け、襲いかかるスライムを防御力で無視し、勇者はひたすらに瞑想を続ける。
勇者「……ッ」
教会で目を開ける勇者。
司祭「またきたのか」
司祭は、半場呆れたように口をはさむ。
勇者「……少しでも気を抜くと体が吹き飛ぶんだ」
勇者は、両手の平を見つめながら言った。
司祭「……まだ期限まである。 そんな何度も死ぬほどハードな修行を積まなくてもいいんじゃないか?」
勇者「……いや、そこまで時間はないよ、これが成功するかどうかも、まだわからないんだ。時間はいくらあってもたりない」
勇者はそういうとすぐに歩き出した。
司祭「なぁ、魔力の出力を上げる修行に、なんでスライム二匹と引きこもる必要があるんだ?」
そんな勇者の背なかに、司祭は言葉を発した。
勇者「どんな状態でも、魔力をコントロールする技術が欲しいからさ、そのうち、魔物のレベルも上げる予定だ」
司祭「……あまり、無茶するなよ」
勇者「魔王を倒せるかもしれないんだ、無茶でもなんでもするさ」
司祭「……」
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:07:41.63 ID:
cp5pogPl0
勇者が作戦を立ててから1年半後
勇者「……」
勇者は二匹のスライムをじっと見つめていた。
一匹のスライムは、敵意をむき出しにし、相も変わらず勇者に襲いかかっていた。
方やもう一匹は死んでいた。
原型を保ったまま、ピクリとも動かず。
勇者「……まってろよ、魔王」
勇者は襲ってくるスライムを踏みつぶすと、にやりと笑った。
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:11:28.79 ID:
cp5pogPl0
勇者は、魔王の前に対峙する。
勇者「このシュチエーションは何度目だろうな?」
玉座に座った魔王に対して、勇者はうんざりした様子で言った。
魔王「もう忘れたよ、勇者」
魔王は、どこか疲れたように答える。
魔王「何度繰り返す気だ? お前もわかっているんだろう?」
勇者「…ああ、わかっている、こっちの作戦がバレバレのことも…お前が手加減していたことも…な」
世界中の人間の魔力を集める、この作戦の性質上、情報の漏えいは避けられない。
魔王「……余が、どれほど手心を加えていたか、わからん貴様ではあるまい」
勇者「それはどうだろうな、その伸びしろを超えると俺は踏んだからこそ、ここに立っているわけだが」
魔王「……余は、今まで人型で戦ってきた」
勇者「…」
魔王「この人型でいるだけで、余の魔力は、100分の1に抑えられている」
勇者「……ほう、そりゃすごい」
魔王「……しかし、魔結界がここまでこの世界を犯している現状、もはや真の姿になろうとも、この世界は耐えられる。 この意味が分からぬ貴様ではあるまい」
勇者「殺さないよう手加減されていた上、100倍か、…まいったね」
魔王「さらに言えば貴様の策とやらも、死ねば死ぬほど不利になる、違うか?」
勇者「……はは、その通り」
この方法では、何度も魔力を供給できるわけではない。
それは、人間の信仰心の問題が、大きくかかわってくるからだ。
誰が何度も無償で自分の魔力を渡すというのだろう。
命令すれば、不可能ではない、しかし命令を繰り返すたび不審は深まり、やがて女神の信仰を捨てる者も現れるだろう。
つまり、負ければ負けるほどジリ貧になる。
勇者「ずいぶんと、人間を研究してるじゃないか」
魔王「…殺せば弱体化してゆくのだ、余の手心も期待できぬぞ、それでもやるというのか?」
勇者「……勝率は、10パーセントってとこかな」
この時点ですでに、魔王の能力が想定の10倍である
魔王「……まだ何か、余の知らない策がありそうだな」
先ほどからの勇者の軽い返答に眉を寄せながら、魔王が言った。
勇者「さぁ、どうだろうな?」
勇者は、肩をすくめて見せる。
魔王「……おしゃべりが過ぎた」
思いのほか長く会話をしてしまったことに、魔王は違和感を感じながら立ち上がる。
魔王(余は…敵と何をこんなにしゃべっているのだ)
勇者「……」
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:12:06.51 ID:
cp5pogPl0
魔王の体が変態を始めた。
額には二本の黒い角がちょうど眉の上部から生え出る。 肩甲骨の部分が盛り上がり皮膚を裂くとコウモリのような翼が左右に広がった。
髪が銀髪に染まり、腰のあたりまで伸びる。
勇者「……それで? 変身は終わりか?」
魔王「ずいぶん余裕ではないか」
勇者「まぁ、パワーバランスは今までと、そんなに変わらないみたいだからな」
勇者はそういうと、先ほどから供給される魔力を、体外に放出した。
魔力が勇者の体からほとばしる、髪が逆立ち、全身の内側から光があふれ出す。
全身にまとった理力の鎧が魔力に呼応し、金色の光を放ち始めた。
魔王「ずいぶんと派手なことだな」
勇者「人の英知のたまものさ」
勇者は、理力の剣を腰から引き抜いた。
魔王「ほう」
勇者の剣の形状に、魔王は目を細める。
見たことのない形だ。
緩やかに反った柄の部分には、銃のトリガーがあり、刀身は片刃、峰の部分は円柱状であり、切っ先が銃口になっている。
勇者「行くぞ魔王、……これが最後だ」
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:13:05.72 ID:
cp5pogPl0
今日はここまで、続きは明日か明後日です。
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:16:47.83 ID:s6xuMCA2o
乙なんだよ
いよいよ佳境か
124 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:32:54.41 ID:GVkETnSGO
おつ
125 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 20:36:20.96 ID:gubhwBwQ0
乙
勇者もついに悟空のレベルに達したか…
126 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 00:59:18.12 ID:faEVHUfgo
面白い
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/08(月) 20:59:19.86 ID:
YtpFI3Ae0
勇者は銃剣の銃口を魔王へ向けると、引き金を絞った。
銃剣から放たれる、雷撃弾、稲妻の速度で迫るそれは、何もない空間を通過した。
外れた弾が、壁に激突すると、超高熱のプラズマフィールドをその場に作り出した。
勇者「!」
弾速よりも、遥かに速い速度で、勇者に迫る魔王。
魔王の拳を、勇者が受け太刀する。
激突の衝撃により光と闇の波動が、空間に明滅する。 激突する力に耐えきれず、二人を中心に床がめくれあがり、クレーターを作り出した。
魔王(今まで戦闘で壊れることがなかった、この魔王の間が、耐えられない……か)
勇者「……ッ」
魔王が拳を振りぬく、勇者の体が押し出され、後方へ吹き飛んだ。
勇者「くっ」
空中滑空の過程、銃剣の銃口を魔王へ向け、魔弾を放つ。
弾丸を放った余波が大気を震わせる、空間を焼き切りながら迫る雷弾を、魔王は拳の一振りで弾き飛ばした。
魔王「…!」
弾いた魔王の拳の表面が裂けていた。
魔力を集中した拳の防御力をやや上回る威力を誇る弾丸が、魔王の顔をわずかに曇らせる。
一体どれほどの魔力を圧縮して撃ちだしているのだ。
人の身で。
人の技術で。
魔王(おもしろい)
魔王は微笑すると、周囲に光の球を召喚する。
勇者「!」
魔王の間とを隔てる扉に体を打ち付け、体の運動が停止した勇者は、目の前の光景に目を瞠った。
その数300発。 勇者の視界を埋める光弾が、一挙に勇者へ向け迫ってきていたのだ。
勇者「ー」
百発の光弾が勇者のいる場へ向け、豪雨のように降り注ぐ、
弾が激突する度、光がはじけ、その場を削り取ってゆく。
百発の光が魔王の目の前を蹂躙したのち、巻き起こる粉塵。 魔王は床を蹴り、その中を突き進む。
勇者「!」
膨大な魔力の盾を張り、何とか光弾を凌いだ勇者、その目前に迫る魔王。
その蹴りが、光弾により削られた盾を砕き、勇者の腹部に突き刺さった。
勇者「がっ」
勇者の体がくの字に曲がり、そのまま吹き飛ぶ。
一瞬で音速まで加速した勇者の体は、魔王城の壁を何層も貫き、場外へと体が投げ出された。