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勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
Part7


83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:12:00.96 ID:wtpJ9iTZ0
 女神は、信仰さえ持っていれば、その人間の行いは問わない。
 なぜか?
 家畜だから
 勇者はくぐもった笑い声を上げる。
 あの魔王より強い魔王があと12人?
 あの魔王を倒しても、他の魔王が攻めてくる?
 女神も助けてくれない
 俺もこのざま、
 もう……もう……
 今の俺にできることって…
 勇者は、明日、魔王の目の前で信仰を捨てようと、そう決めた。
 俺の為に苦しんだ人々を救う
 交渉次第でできるはずだ。
 その後世界が滅ぼされては同じなのだろうが
 少しでも、あの優しい人たちの苦痛を減らしてやりたい。
 まだ自分にできることがあるとすれば、やはりあの神父と同様、それくらいしか思いつかなかった。
  

84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:12:58.96 ID:wtpJ9iTZ0
??「勇者様……やっと……会えた」

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:13:53.17 ID:wtpJ9iTZ0
勇者「……」
神官「……勇者…か?」
勇者「……!?」
 勇者は目を見開く。
 辺りを見渡し、見慣れた祭壇に立っていることを確認する。
勇者(死んだ? 俺が……)
 なぜ? どうやって……?
 疑問が頭の中でループする。
 そんな勇者の横で、まばゆい光がはじけた。
司祭「…ふう」
 粒子を散らしながら、司祭が勇者の横に立つ。
勇者「お前が…助けてくれたのか?」
司祭「……!」
 司祭は、勇者を見て、目を瞠った。
 白く染まった髪、こけた頬、痩せこけた体。
 腕や目元が、小刻みに震えている。
 それだけで分かった。
 この半年間、どんな状況に勇者がいたか。
 助けだせてよかったと思う。
 しかし同時に……また別のことを司祭は考えずにはいられなかった。
 この勇者に……この弱り切った若者に……はたして魔王が倒せるのか?
 倒さなければならないのだ。
 もはや後戻りはできない状況なのだ。
 しかしその勇者がこのありさまではーー
司祭「…ああ、無事…でよかった」
勇者「無事?」
 勇者の顔が強張る。
 勇者の気配が変わったことに、司祭は緊張を高めた。
勇者「お前このありさまを見て…本気でそう思ってるのかー」
兵士「勇者さま」

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:15:42.08 ID:wtpJ9iTZ0
 勇者の言葉は、突然教会へ入った数名の兵士によって途切れた。
 勇者を見た兵士の目が驚きに染まる。
 しかし兵士は事務的といった様子で言葉をつづけた。
兵士「王がお呼びです、ご同行願います」
勇者「……!」
 勇者は泣き出しそうな顔になった。
勇者「まってくれよ……疲れてるんだ……後にしてくれないか?」
司祭「勇者、行け」
勇者「!?」
 勇者は信じられないといった顔で司祭を見た。
勇者「俺のこのざまを見て、お前はそんな事を言ってんのか!?」
 勇者は司祭へ向け怒鳴る。
司祭「ああそうだ、行け」
勇者「お前……っ」
 司祭は、キッと勇者をにらみつける。
司祭「お前は、堂々と、勇者らしく、弱音を吐かず、行け」
勇者「ふざけんな……俺があの場所でどんな…」
司祭「頼むから!!」
 司祭は叫び声を上げた。
司祭「頼むから! 弱い言葉を吐かないでくれ! 頼むから! 堂々としていてくれ! そうじゃねぇとみんなが浮かばれないんだ!!」
 ほとんど悲鳴に近い声で司祭は勇者に迫る。
勇者「みんな……? みんなって」
司祭「3万人だ」
勇者「!?」
司祭「勇者奪還作戦に参加した命の数だ」
勇者「は?」
司祭「お前を助けるために、みんな命を捨てて魔王に挑んだんだ」
勇者「3…万?」
 司祭の瞳から涙がこぼれる。
 志半ばで息絶えた若者を知っているから。
 皆に思いを託し、死に絶えたものを知っているから。
司祭「魔王城での決戦になれば、誰も生きて帰れないと覚悟しながらもな! 実際みんな魔王に殺された! だが、お前はここにいる! この意味が、分かるか!?」
勇者「……っ」
 勇者は、顔をゆがめる。 そんな勇者の両肩をつかみ、司祭は懇願するように口を開く。
司祭「だから勇者……頼むから……みんなの覚悟を、思いを、無駄にしないでくれ……っ」
勇者「……」
 勇者は茫然と、司祭を見つめる。
 3万…? 俺を救うために?
 そんな……
 そんな

87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:19:11.09 ID:wtpJ9iTZ0
3万の兵士を、1000人の魔法使いが転移魔法で送り出し、魔王城への電撃攻撃は行われた。
 突然の人類の反撃も、しかし魔王にとっては向かってくる蟻を踏みつぶすに等しい
 ただ数である、三万ともなれば、いかに強力な魔法で蟻を蹴散らそうとも、そのすべてを瞬時に殲滅させることは不可能であろう。
 ゆえに、勇者救出の成功率は高いといえた。
 ただし、その代償もまた、極めて高かった。
 三万の作戦参加者のうち、転移魔法で逃げおおせた20名を除き、魔王城の強力な魔物や魔王にすべて殺された。
 それが、勇者の聞いた、自分を救出する作戦の全容だった。

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:21:08.89 ID:wtpJ9iTZ0
勇者「……」
 勇者は、王座の前で跪いていた。
 変わり果てた勇者の姿に、王も、周囲に立つ大臣や参謀も声をかけられずにいる。
 無造作に生えた無精ひげ、痩せた体躯、こけた頬、髪は白く染まり、目に生気がない。
 半年もの間、拷問を受け続けたであろうことを考えればありえないことではない。
 しかし、勇者なら、と、皆信じていたのだ。
 昔小さいながらに、懸命に魔物と戦い、この国を守った勇者の背中を、皆信じていた。
 だがその背中も、今は痩せ細り、小さく頼りなく見える。
王「……勇者、よくぞ戻った」
 王は、言葉を選ぶように口を開く。
勇者「……」
 勇者は何も答えない。
大臣「勇者、王の御前であるぞ」
 大臣の言葉にも、勇者は反応を示さなかった。
王「……」
 重い沈黙が落ちる。
 王は痛々しげに勇者を見つめていた。
勇者「……馬鹿だ」
 かすかな声が聞こえた。

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:22:00.14 ID:wtpJ9iTZ0
王「?」
勇者「こんな俺なんて…救う価値なんかないのに…」
王「!?」
勇者「三万の戦力を……こんな……」
王宮兵士「貴様ッ!!」
 若い一人の兵士が今にも飛びかかろうと身を乗り出す。
王「やめよ」
 その兵士を、王が止めた。
王宮兵士「しかしっ」
王「……勇者よ、救う価値がないとは、どういうことだ?」
 王は、視線を勇者へ向け、そう尋ねた。
勇者「……意味がないんです」
王「意味がない?」
勇者「魔王から聞いた……魔界には、今の魔王よりも強い魔王が12人いる」
王「!?」
 その一言に、王の間にいたすべての人間に動揺が走った。
王宮兵士「…そんな」
 さきほど激昂した兵士も、茫然とそうつぶやく。
勇者「あの魔王相手にこの様の俺が、どうやって他の魔王を倒す? 無理だ、できっこない、そんなことは子供にだってわかる」
参謀「しかし勇者、そのほかの魔王とやらは、なぜ人間界にやってこない? 複数の魔王がいればこの世界など簡単に征服できるのではないか?」
 参謀の言葉を、勇者は鼻で笑った。
 征服? 笑わせる
勇者「そもそも、魔王が戦っている相手は、人間ではないってことですよ」
 勇者はそう切り出すと、魔王の言った話を説明した。
 しかしその中で、女神のことはあえて伏せた。
 女神は確かに人間を家畜だと思っているのかもしれない、しかし信仰から得られる力は、確かに存在するし、その力を失えば、人類が…この世界の人類が生き残る可能性は限りなく0になるだろう。
 生き残る可能性……
 説明をしながら、勇者は内心苦笑する。
 まだそんな可能性があると、…俺は思っているのか

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:22:59.19 ID:wtpJ9iTZ0
 勇者の話が終わると、場は水を打ったように静まり返った。
 皆が口を閉ざし、先ほど進み出た兵士は、あまりのショックからか膝を床につけている。
勇者「……しばらく……休ませてほしい」
 話をする中で、皆が現状を認識してゆくにつれ、勇者は幾ばくか冷静さを取り戻していた。
王「……」
勇者「…三万人分の働きはする、転移魔法で町を回り、魔物を殲滅する。ただ…魔王の討伐は約束できない…」
 勇者のこの言葉に誰も反論を挟まなかった。
勇者「これからの予定や、詳しい作戦は、明日にしてほしい……とにかく今は……眠りたい」
王「…うむ、ご苦労であった、…今は、ゆっくりと休め」
大臣「王…!」
 勇者は、よろりと立ち上がると、歩き出した。
 その足を、止める。
勇者「……ありがとう…父さん」
王「……!」
 勇者はそう言うと、また歩き出した。
 途中、うなだれた兵士を横目に見、口を開きかけたが、すぐ閉じた。
 きっとこの兵士の友も、自分を助けるために犠牲になったのだろう、そう思った。
 すまない、弱い勇者で
 その言葉を飲み込んだ勇者は、自室に向け歩き出した。
大臣「王、よろしいのですか?」
 勇者が出て行ったあと、大臣は、青ざめた顔を王へ向ける。
王「……」
 王は、何も答えなかった。

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:23:52.54 ID:wtpJ9iTZ0
今日はここまでです、続きは明日投稿します。

92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:34:01.45 ID:PNg8avQ0o
絶望しかない...

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:34:44.08 ID:dfpPJz7ZO


94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:45:21.23 ID:mO/w2XtJO
絶望的すぎワロエナイ

95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 23:47:11.91 ID:1Fe8kMoAo
魔法使いの出番まだ?

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 00:16:49.25 ID:s6xuMCA2o
乙なんだよ
もうこの世界どうしようもなくね…

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 00:42:33.40 ID:lLfPQR3uO
乙…
面白いけど、なんとも…

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 00:59:25.53 ID:gubhwBwQ0
仲間は死んで神に見放されて魔界には魔王以上の奴が12人、勝てるわけねえ…

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/07(日) 03:30:15.28 ID:d5fluaKw0
バラモスで詰んでる状態だな

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 08:54:53.13 ID:b6dG89kF0
逆転の可能性があるとすれば、他の人間界から神の加護を受けた勇者とかが加勢しに来るとか…まあ、それこそ世界を見捨てた女神とかが戻らない限り不可能だろうが…

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 09:49:08.23 ID:lfP86quQo
落ち着けこれは魔王の罠だ、家畜云々も魔王側からの解釈を勇者の心を折る為に言ってるに過ぎないだろ
魔法使いの呪いだって本当に解けないか倒す手立ては全く無いか確めずに戦士共々死んだだけでよ
むしろ神を介入させない様に懸命に邪魔してるとか、そういう楽観的思考でいこうぜ

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 10:41:06.09 ID:1SGdQtx0O
今まで見てきた勇者ssの中で一番面白い

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 13:46:45.12 ID:cH9zYhEOO
面白い

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/07(日) 19:45:29.13 ID:cp5pogPl0
勇者「……」
 城、勇者の自室。
 キングサイズのベットに腰を下ろし、闇の中、壁にでかでかと掲げられた太陽の紋章を、勇者は一人、ぼんやりと見つめていた。
 太陽の紋章、女神信仰のシンボルであり、信仰の象徴である。
 魔王城から抜け出して、1か月が経とうとしていた。
 この一か月の魔王軍との戦闘で、勇者が感じたことは、魔物が強くなっている、ということだった。
 正確に言えば、強い魔物が出る範囲が広がった。 と言うべきだろう。
 つまりそれは、魔王城を中心に展開されている結界のようなものが、広がっている、ということだ。
 だから……それは……あの魔王が、全力で活動できる範囲が広がっているということだ。
 勇者の体が、ブルリと震えた。
 このまま、均衡を保つこともできないのか……
 時間の問題か……くそ
 一度震えだした体は、勇者の制御を外れ、ずっと震え続けている。
 震える口で、勇者は口を開く。
 女神の信仰を捨てる方法は、簡単だった。
 女神を貶める言葉を、吐けばいい。
 思うだけでは駄目なのだ。
 その想いを、心の底から声に出すことで、初めて信仰を捨てることができる。
勇者「おーー」
 声を発し始めた口を、勇者はとっさに手で塞いだ。
 かつてともに旅をした仲間達が、自分の所為で苦しんだ人たちが、自分の為に死んだ人たちが
 勇者にそうさせたのだった。
勇者「くそ……くそぉぉぉ」
 口を手で塞いだまま、くぐもった声を上げながら、勇者は涙を流した。