2chまとめサイトモバイル
勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
Part5


57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/05(金) 23:49:30.26 ID:Zt2BxoPL0
勇者(勝てる)
 狂気に飲み込まれそうな意識に歯を食いしばり、勇者は魔王へ向け刃を振るう。
 片腕を失い、連戦の疲労も見える魔王に対し、勇者は勝利の予感を感じていた。
 勇者の怒涛の攻撃に対し、魔王は片腕では防ぎきれず、防御を抜けた刃が、肩や頬、足を掠めてゆく。
 確実に押している、ダメージも入っている、今までにない手ごたえだ。
勇者(勝てるっ!) 
魔王「……」
 魔王の鮮血が飛び散る。
 傷は浅い、しかし確実にダメージを蓄積させている
 勇者の連続斬撃を、魔王は片腕でいなし、弾き、躱す。
 躱す
 避ける
 弾く
 そらす
 いなす
 防ぐ
 受け流す
 ……
勇者「……ッ!」
 魔王の防御行動を抜け、傷は入る、しかしいつまでたっても致命傷に届かない。
 しかも先ほどから、魔王はまったく攻撃に転じようとしない
 ざわりと、勇者の脳髄を狂気の黒い靄が撫ぜた。
 その一瞬、視界が赤く染まる。
 しかし、歯を食いしばる。
 狂化状態では、おそらく影の瞬間移動に対応できない。
 ここで決めるんだ。 この最高の状態で、こいつをーー魔王をーー
勇者「ォォォォオオオオオオおおおッ!」
 剣技では、埒が明かないと察した勇者は、大きくバックステップを踏む。
 魔王と距離が開く、しかし案の定魔王の追撃はなかった。
 こちらが意識を失うのを待ってから攻勢にでるつもりなのだろうが
 そうはさせない
 魔王の思惑を読み切った勇者は、充分な距離をとると、呪文を叫んだ。

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:50:30.99 ID:Zt2BxoPL0
勇者「極大雷撃呪文!!」
 詠唱と共に、勇者の両手が突き出された。
 腕の動きと連動するように放たれる強大なプラズマが、魔王へ向け稲妻の速度で迫る。
魔王「」
 魔王はサイドステップでその雷撃を避けた。
勇者「おおおおおッ」
魔王「!」
 魔王が避けた雷撃の直線状に移動する勇者。
 自身の放った呪文を追い越し対面した勇者は、迫る雷撃を両刃で受け止める。
 雷撃を纏った二振りの呪刃を振り上げ、勇者は魔王に迫る。
勇者(これでーー)
魔王「ーッ」
勇者(終わりだァァぁアあああアッ)
 雷刃が魔王へ
 アドレナリンの上昇と共に、勇者の意識が狂気に飲み込まれた。
 しかし関係なかった。
 ここまでくれば、もはや意識の有無は関係ないのだ。
 この刃が届けばーー勝つ
 魔王の拳が、勇者の二刀の刃と交錯するように放たれる。
 クロスカウンター
 それは勇者の刃が魔王に届くーーよりも速く
 勇者の顔面を打ち抜いた。
勇者(勝ーー)
 勇者は、頭を起点に体を錐もみさせさせながら吹き飛び、地面を何度もバウンドし、壁に体を打ち付けた。
 強烈なカウンター攻撃である。
 それは勇者の意識を削ぐのに十分以上の成果を上げた。
 体をピクピクと痙攣させるが、勇者は倒れた姿勢のまま、起き上がる気配はなかった。
魔王(……信じられん)
 魔王は冷や汗をぬぐう。
 危なかった。 少なくとも勇者との戦闘で命の危険を感じたのは初めてである。
 そんな状況にまで追い詰められたことに、魔王は戦慄する。
 あの絶望的な戦力差が、ここまで詰まることに、驚きを禁じ得ない。
 認めるだけでは足りなかったのだ。
 この勇者は、確実に我ら魔族の脅威となりうることを
 魔王はこの時、初めて確信した。

59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:52:09.70 ID:H6Ju36Dpo
勇者ってこんな恐かったのか…

60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/05(金) 23:58:07.93 ID:Zt2BxoPL0
 勇者敗北一日目
側近「魔王様…」
魔王「…側近か」
 荒れ果てた魔王の間の王座に座り、魔王は気だるげに側近へ視線を移す。
側近「傷の具合は、いかがでしょうか?」
魔王「左腕は、もう戻らん、他にも浅くはない傷がいくつかある、…一週間では直りきれんな」
側近「……」
魔王「余の甘さだ、甘んじて受け入れるさ」
側近「…」
魔王「なんだ? 何か用があったのではないのか?」
側近「は、非常に申しあげづらいのですが……大魔王様がお呼びです」
魔王「! 大魔王様が?」
側近「は、…どうやら魔王様の魔力の衰弱を察したようで…」
魔王「…」
 魔王は、失った左腕に視線を落とす。
魔参謀「…いかがなされますか?」
魔王「……他ならぬ大魔王様直々の呼び出しだ、行くしかあるまい…」
 魔王はそう言うと立ち上がった。 ふらりと体が一瞬揺れる。 まだ勇者からの傷がうずく。
魔王「しばし留守を任せた。 それと…例の件はどうなっている?」
側近「そちらの方は…はっきりとしたことは言えませぬが……手ごたえは感じております」
魔王「ほう」
側近「うまくすれば……次の勇者の死亡に間に合うかと」
魔王「久しぶりに良い知らせだ、そのまま頼む」
側近「御意」
 魔王が王座の裏に回ると、そこに備え付けられた隠し階段が開いた。
 その魔界へと続く道を魔王は歩き、人間界を後にした。

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:59:24.29 ID:Zt2BxoPL0
今日はここまでです。 続きは明日投稿します。

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 00:02:59.77 ID:qkwgpG2Ro
乙なんだよ
さて明日が来たわけだが

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 00:04:28.35 ID:niCwQkav0

もはやどっちが勇者かわかんねえわ
怖すぎる

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 00:11:54.64 ID:fncmvL+nO
いやこれは魔王側の方がやってることエグいだろ

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 03:59:21.64 ID:1Fe8kMoAo
人間側から見れば魔王のやってることはエグいが魔族がわからみたら勇者のやってることはエグい

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 09:29:38.13 ID:TAHpjsPco
この勇者は無抵抗の一般の魔物を虐殺やら拷問やらはしてないように見えるけど、なのに人間側から見た魔王のように魔王側から見た勇者がエグいってのはおかしくね
単に、執念とほぼ本能で殺しにかかる勇者とそれを理性で撃退する魔王を見て、どっちが人間=勇者かわからんって話だろたぶん

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 21:02:26.63 ID:hGV5CHMG0
ここまで魔王らしい魔王は久しぶりに見たな

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 21:35:09.79 ID:LWqDtbUo0
面白いな
期待

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/06(土) 22:48:25.14 ID:wtpJ9iTZ0
魔界ーー大魔王城、大魔王の間
 巨大な王座に鎮座する、大魔王に対して魔王はひざまずいた。
 赤い体、5メートルはあろうかという巨体を持つ大魔王は、じっと魔王を見つめた。
大魔王「魔王…なぜ呼ばれたかわかるか?」
魔王「……私の魔力が弱まったからでしょうか?」
大魔王「そうだ、その姿は、どうした?」
魔王「…勇者との戦いで負った傷です」
 プッと吹き出すような声が、大魔王の横で上がった。
魔王「…何か?」
 魔王は、視線を横へ向ける
 大魔王の左右に扇状の列を作っていた計11人の内の魔族の一人、女の魔王と目が合う。
女の魔王「いえ失礼、まさか人間ごときにここまでやられるなんて、とんだ王族の恥さらしだと思いまして」
銀髪の魔王「そういってやるな、こいつは俺達の中でも最弱、落ちこぼれだ、むしろよく生きて戻ってこれたとほめてやるべきじゃないか?」
女の魔王「まぁおなんて寛大な、でも確かに…その通りですわね」
 嘲笑の目を向けながら、女の魔王は口を閉じた。
魔王「……」
 魔王族、12人の魔王と、1人の大魔王の計13名のみ存在する種族である。
 先ほどの女の魔王と、銀髪の魔王が言ったことは事実であり、13名の魔王族で最弱の魔王である自分に、何も言い返すすべはない。 魔王族で最も弱いのも事実、人間に傷を負わされたのも事実。 反論しても、瞬殺される。
 屈辱に右手を握りしめ、魔王はただ耐える。
 それほどの差が、自分とほかの魔王たちには、ある。
……勇者、余を倒したところで、その先にはさらなる絶望しかないのだ
 おそらくここにいる方々ならば、貴様なぞ、指一本で軽くひねることができるだろう。
 それが12人だ。 何度よみがえり、奇策を施そうが……
大魔王「魔王よ」
 大魔王の言葉に、魔王の思考が途切れた。

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 22:48:51.49 ID:wtpJ9iTZ0
大魔王「…人間界に侵入できるのは、貴様のみだ、ゆえにこの作戦を任せている」
魔王「……」
 でなければ誰がこんな、人間に手こずるような奴を送り込むものか、そういう事だろう
大魔王「だがな、こちらも、大魔力を持った魔族を人間界に送る術は検討することにした、貴様の魔結界の完成を待たずとも済む様にだ、この意味は分かっているな?」
魔王「……は」
 危うく勇者に殺されそうになった自分の、その情けない現状が招いた当然の帰結だろう、この屈辱にも耐えるほかあるまい
女の魔王「情けないことこの上ないわね、こっちは天使と戦いで忙しいというのに…無駄な手間よ」
魔王「……」
大魔王「もう良い、下がれ」
魔王「は」
 魔王は、大魔王の間を後にした。
魔王「……」
 大魔王城を出た魔王は、カッと目を見開き、空へ向け魔力を解き放った。
 放たれた漆黒の光線が、魔界の赤い空を貫き、どこまでも昇ってゆく。
魔王「……クソ」
 魔王は、苦虫を噛み潰したように顔をゆがめ、人間界へと足を向けた。

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 22:49:39.05 ID:wtpJ9iTZ0
側近「魔王様、よくぞご無事で」
魔王「うむ」
 魔界から帰還した魔王を、側近が迎える。
側近「さっそくご報告したいことが」
魔王「ほう」
側近「奴が、おちました」
魔王「! 今は何日だ? 勇者は?」
 魔界で過ごした時間は半日にすぎなかったが、魔界の人間界では時間の流れが違うのだ。
側近「まだあと一日あります、魔王様がお戻りにならなければ、独断で進めようと思いましたが、間に合って幸いでした」
魔王「うむ」
 魔王は、顔に笑みを浮かべ、歩き出した。
魔王(勇者……お前はいったいどんな顔をするんだろうな)
 それ考えると、先ほどまでの不愉快な気分が晴れた。

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 22:50:33.06 ID:wtpJ9iTZ0
司祭「オルガってのは、要するに超小型の魔物だ」
魔法使い「魔物? スラきちみたいな?」
 そう言って彼女は、胸に抱いたスラきちを撫でた。
スラきち「ピ?」
司祭「ああ、イメージとしてはそれであってる、そいつらは魔物の体内では無害な存在だが、一度人間の体内に侵入すると、変身し、宿主の細胞を攻撃するようになる」
戦士「zzz」
勇者「オルガって、スラきちの中にもいるのか?」
司祭「ああ、いる」
魔法使い「え゛」
 魔法使いは胸に抱いたスラきちを手放した。スラきちが地面に転がる。
スラきち「ピー!」
司祭「まあ、ただ触れる分には問題ない、オルガ自体は空気中での生存能力は高くないからな、魔物の唾液や血液などを口から摂取するくらいじゃないと、魔物からの感染は起こりえない」
 ぷりぷり怒るスラきちを無視して、司祭は言葉をつづけた。
僧侶「ではなぜ、人々はオルガに苦しんでいるのでしょうか?」
司祭「それは、変身したオルガだからだ」
魔法使い「んー? 頭がこんがらがってきた」
司祭「人間の体内に入りこみ、増殖したオルガ…便宜上オルガ2と呼ぶが、こいつは人間の呼吸と共に外に飛び出し、他人の体に入りこむことができる」
勇者「…空気中での生存能力が高まるってわけか」
司祭「そうだ、いつまでも空気中を漂っているわけではないが、感染者を増やすには十分な時間だ」
魔法使い「はいはい! 質問であります! そのオルガ2が魔物に感染したらどうなるの?」
司祭「オルガ1に戻る」
魔法使い「は?」

73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 22:51:28.21 ID:wtpJ9iTZ0
司祭「原理は一切不明だ、おそらく魔物の仲間意識に近いんじゃないか?」
魔法使い「なんか……すごい違和感、そんな都合のいい生物っているの?」
司祭「実際いるじゃないか」
魔法使い「でもさ、その性質はオルガが生きていく上でどんなメリットをもたらすわけ?」
司祭「快適な宿主を守るための防衛行動とか、いくらでも理由は考えられるが……そんな言葉は、人間から見れば大半の魔物に当てはまるだろう」
魔法使い「まぁそうなんだけどさ…」
 魔法使いは何やら考え込んでいる。
僧侶「お兄様、そろそろ、私たちに教えていただけませんか?」
司祭「おお、そうだった、横やりが入るもんだからつい長引いちまったな」
勇者「勝手にしゃべりだしたのはお前だろうが」
司祭「お? なんだ? お前らが何も知らないアホずらしてるから教えてやったんじゃないか」
魔法使い「…ほほう、喧嘩ね、買うわよ、戦士が、さあ目覚めなさいあなたの出番よ」
 魔法使いは傍らに寝むる戦士をペチペチ叩いた。
戦士「ふが……なんだ? 飯か?」
司祭「戦士、お前と戦うのはいつ以来だろうな? 人のありがたい話を前にぐうぐう眠りやがって」
戦士「お? なんだ? 喧嘩か?」
僧侶「なんでこんな時だけ察しがいいんですか! 違いますよ! 旅立つ私たちに、お兄様がオルガの解毒魔法を教えてくれるって話だったじゃないですか!」
 火花を散らす司祭と戦士の間に割って入り、僧侶が叫んだ。
司祭「ああ、そうだったっけ」
戦士「ああ? そうだったっけ?」
僧侶「オルガの感染対策はこれからの旅でも必須だ、だから俺と魔法使いも覚えたいって言ったのは勇者さまですよ、この場をなんとかおさめてください」
勇者「…ああ、悪かった…ちょっとドヤ顔の長話にイラッとしただけで…申し訳なかった」
司祭「はは、勇者、まず歯を食いしばれ、話はそれからだ」