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勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
Part4


46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/05(金) 23:22:22.94 ID:Zt2BxoPL0
 二つの黒い影が、魔王の間で幾重にも錯綜する。
 黒い魔力が衝突しあい、そのたび漆黒の波紋が空間に浮き上がった。
魔王「……ッ」
 全力を出せば、瞬殺できる、今もなお魔王と勇者の力量にはそれほどの差がある。
 しかし、殺しても意味がないのだ。
 次の瞬間には、全快となった勇者が転移魔法で飛んでくる。
 殺さぬように加減する、それがこの幾重の呪いを重ねられ、本能のみで戦う勇者に対しては、並々ならぬ消耗を魔王にもたらしていた。
 勇者は両腕を後方に伸ばし、双剣の刃先を魔王へ向け、刺突の構えで迫る。
魔王「っ」
 対し魔王、刺突を放とうとする左右の腕へ向け、両手それぞれで暗黒魔法を放った。
 二つの暗黒のエネルギーボールが勇者の両腕にそれぞれ着弾する。
勇者「がぁぁぁああああああああああああああああああ!!」
魔王「!」
 そんなダメージなど意に反さないように、勇者は刺突を突き出した。
 暗黒魔法を貫き、魔王の両肩を掠める刃。
魔王「ッ!」
 魔王はとっさに距離をとる。
 勇者は暗黒魔法を突き破った両腕をだらりとたらし、獣のような唸り声を上げる。
 勇者の両腕、鎧を通して血が滴る。
 ダメージはある、しかし
 勇者は次の瞬間には、また魔王へむけ、痛んだ腕など気にしないように切りかかった。
 荒々しい濁流ように繰り出される二刀流の斬撃をいなしながら、魔王は思考する。
 確かに、側近の言うように、認識が甘かったのかもしれない。
 刃の掠めた両肩が痛む、こうも容易く傷つけられたことも、その甘さの所為であろう。
 切れ味は伝説の剣をしのぐであろう武器、その一刀が、魔王の眼前に迫る。
 魔王はそれを掌底で刃の側面から押し上げると、前蹴りを勇者の腹部に直撃させた。
 吹き飛ぶ勇者、体を回転させ着地、するとすぐに二刀を構え迫ーー
 甘く見ていた事実は認めよう、傷つけられたことも認めよう、勇者の脅威も認めよう。
 ー勇者が、足を踏み出すよりも速く、魔王は勇者の眼前へ移動、そして突き出すように放たれる蹴りが、勇者を吹き飛ばし、壁に激突させた。
魔王(だが)
勇者「ッッ」
 勇者の目前に、魔王ーー
 魔王の目にもとまらぬ連続蹴りが、勇者に反撃の隙も与えることなく着弾してゆく
 その回数は瞬く間に1000を超え、蹴り終えた魔王は、足を払うように振り、足に纏った漆黒魔法を解除する。
 足の先から漆黒の飛沫が上がり、それが空気の中で薄まり消える
 それと同時に、魔王は足を地面につけた。
 それと同時に、勇者の体は崩れ落ち、地面に倒れた。
魔王「勝つのは余だ」

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:29:02.93 ID:Zt2BxoPL0
 勇者捕縛、7日後。
 魔王は王座に座り、眉に皺を寄せていた。
 この7日間で、自分の認識がなお甘かったことを知ったのだ。
 勇者の策略を前に、魔王はただ顔をしかめるほかなかった。
 魔王の誤算ーーそのすべては、勇者の装備にあると言える。
 勇者の装備を、外すことができないのだ。
 スカルフェイスの隙間から猿ぐつわをかませることには成功したが、全身を守るように覆う鎧や兜、加えて刀と剣も外せない。
 呪いの効果というやつなのだろう。
 さらにこの呪いが厄介なのが、勇者の狂化がいつまでたっても解けないことだ。
 これではどんな拷問も意味をなさない。
 もちろん、呪いの装備を解呪する術は探した。
 呪いを解呪する方法は、ただ一つ、魔族が使うことのできない神系魔法でしか成しえない。
 しかし、先の戦闘で落とした町の神父に、人質をとって魔法を使わせる方法は不発に終わった。
 どんなに目の前で人を殺そうと、体を痛めつけようと、神父は魔族のために魔法を使おうとは決してしないのだ。
……やはり、方法が短絡的なのだろうか?
 この問題は、勇者の信仰を捨てさせることと、密接につながっているような予感がある。
 ならばと幻術をかけて解呪の神系呪文を使わせようとしたが、これも失敗に終わった。
 正常な神経ではないと、神系の魔法は使えないのだ。
 そして、魔王の一番の誤算、それは、勇者を、またしても逃したことである。
 前回も一週間、今回も一週間……ちょうど七日キッカリに今回も勇者は消えた。
 これが偶然でないとすれば、答えは一つだ。
 勇者は、感染した状態でこちらに乗り込んできている。
 なるほど絶命の痛みも、狂気の中ではゼロに等しいだろう。
 魔王の背筋が寒くなる。
 魔王の間の扉が空く。
 呪いの装備に身を包んだ勇者が、雄叫びを上げ切りかかってくる。
 面白い、いいだろう
 魔王は立ち上がる。
 必ずお前を屈服させてやる。
 今はそのために、余の全能力を使うとしよう
 魔王の手刀と、勇者の双剣が激突した。

48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:30:10.61 ID:Zt2BxoPL0
司祭「……」
 司祭は神官を庇うように、おおよそ勇者らしくない勇者の前に立ち、緊張を高めた。
 場所は教会、祭壇の前。
司祭「勇者?」
勇者「ぎりぎり…意識はある」
 コミュニケーションが取れることに司祭は安堵する。転生によって、呪いのかかる前の状態になることは、これで実証された、しかし呪いの装備を纏っているため、またすぐに呪いにより正気を失ってゆくのであろうが。
司祭「すぐ行くのか?」
勇者「ああ、自我があるうちに、まず感染して、魔王城に乗り込む、あとは、狂気に身をゆだねるだけでいい」
司祭「…勝機は?」
勇者「手ごたえは…ある…と思う。 悪い、もう行く、長いこと正気を保っていられる自信がない」
司祭「…そう…か」
 勇者は踵を返すと歩き出し、教会をでると転移魔法を発動した。
神官「あれは…勇者なのですか?」
 神官が、怯えたように、司祭に尋ねる。
司祭「…ええ、勇者です、今、人類のために必至になって戦っている、俺たちの知る勇者ですよ」
 司祭は、願うようにそう応えた。
 勇者は魔物の巣くう岩石地帯へ移動すると、迫る狂気に歯を食いしばりながら、一頭の巨人を瞬殺する。
 吹き出る血を飲みほし、すぐさま転移魔法、すでに正気があいまいになる。
 魔王城を駆け抜け、魔王の間へ、そこに魔王の存在を認めた勇者は、あとは狂気に身をゆだねた。

49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:31:35.46 ID:Zt2BxoPL0
 竜巻のような乱舞の激突の末、二人はお互いに後方へ吹き飛ぶ。
魔王「…っ」
 着地と同時、魔王は手のひらを前方へ突出し、野球ボールほどの大きさの光球を30個召喚、勇者へ向け放つ。
魔王「!?」
 しかし、視界の先にすでに勇者はいない。
 魔王は視線を上へ、双刃を振りあげ、上空から切りかかる勇者を視認する。
 魔王は、手のひらを上へひねる、放たれた光球が急旋回し、上空の勇者へ迫った。
 対し勇者、魔力で自分の体をはじき、迫る光の球を避ける。
 落下運動の中、光弾を躱し切りそのまま魔王へ切りかかる。
 魔王はバックステップで回避。 一本の刃が頬を掠めた。
魔王「つっ」
 床に激突する二つの刃、勇者の着地地点に、ワンテンポ遅れて光球が着弾。
 30発の光弾が雨のように降り注ぎ、粉塵が巻き上がる。
勇者「ウ゛ォォオオオオ゛ッ」
 音速の加速により粉塵を蹴散らし、迫る勇者。
 その直線的な動きを読んでいた魔王
 魔王の手のひらから放たれる疾風魔法弾が、勇者の胴体に着弾した。
 勇者の体がくの字に曲がり、後方へ吹き飛ぶ。
 空中、身動きの取れない勇者へ向け、30発の光弾が迫る。
 光球がそれぞれ勇者の両手両足に着弾。
 勇者は絶叫し、手足から煙を吐きながら地面を転がった。
 唸り声をあげ、立とうとする勇者、しかし、手足のダメージが深く、立ち上がることができない。
 立ち上がろうともがく勇者の頭部に魔力を込めたかかと落としが叩きつけられた。
 勇者の頭部を中心に弾ける漆黒の魔力、頭を地面に押し付け、勇者の意識を断ち切られた。
魔王「……」
 足を勇者の頭部に押し付け、頬から血を流しながら、魔王は憎らしげに勇者を睨んだ。

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:32:08.99 ID:Zt2BxoPL0
 私は屈しない
 どんな痛みにも
 どんな困難にも
 私は屈しない
 どうか女神様、ご加護を

51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:35:54.04 ID:Zt2BxoPL0
 魔王の間の扉が開く。
 同時に魔王は自分の周囲に30の光球を召喚し周囲に浮遊させる。
 勇者が雄叫びを上げ迫る。
 まず15の光弾を、勇者へ向け放つ。
 対し、勇者の体が発光した。
魔王「!?」
 勇者へ向け放たれた光弾が、勇者に着弾する前にすべて爆ぜた。
 勇者が魔王へ向け地面を蹴る。
 勇者が魔王との距離を詰めると同時。
 魔王の周囲、残った15発の光球が勇者へ向け迫った。
 同時、魔王はバックステップ。
 そして先ほどの発光を意味を知る。
 魔王の目がとらえた。勇者の体から放射状に放たれる雷撃を。
 それが、迫る光球をすべてを蹴散らしたのだ。同時に光による目くらましの効果も、この距離になって初めて魔王は知った。
 目を細める魔王へ向け振るわれる刃を、魔王はすんでのところで避ける。
 この勇者、ただやみくもに襲ってくるだけではなく、学習能力が備わっている
 この事実に魔王が舌打ちする。
 放射上に拡散した雷撃にそこまでに威力はない、しかし、目くらましと、若干のダメージが鬱陶しい、加えて先の戦闘で有用だと判断した光弾の戦果が期待できない。
 また一から戦闘を組み立てなおさなくては
 勇者の振るう刃を屈んで回避、勇者は勢いもそのままに体を回転させながら、第二、第三の斬撃を次々繰り出してくる。
 まるで黒い竜巻のように体を回転させ、二刀の刃が無駄なく魔王を襲う。
 その二刀の刃を魔力を込めた腕で捌き、勇者の懐へ踏み込む魔王。
 同時、勇者が放射雷撃、その攻撃に、魔王の体が刹那ぎょっと停止する。
 その一瞬の隙ーーしかし、魔王の放射暗黒魔法が、勇者の体を吹き飛ばした。
 床を滑りながらも足を踏ん張り、勇者の体が停止ーー矢のように迫る魔王の蹴りが、勇者の腹部に突き刺さった。
 口から血を吐き出しながら、勇者は後方へ吹き飛び、壁に体を激突させる。
 魔王は、以前と同様、連続蹴りで終わらせようとするがーー
魔王「ち」
 勇者の移動は早かった、激突した壁の反動を利用して移動し、魔王から距離を取る。
 先ほどの蹴りを、後方へ飛ぶことでダメージを軽減し、回避できる余裕を持ったか
 同じ手は通じない? ならば、次の手を出すまでだ。
 喉を鳴らすような唸り声をあげ、魔王の出方をうかがう勇者。
 対し魔王は、屈みこみ、自分の影の中に手を入れた。
 影からすくい上げられる等身大程に巨大な斧。禍々しい装飾の施された、漆黒の魔力をほとばしらせる斧だ。
 勇者は、その危険性に本能的に気が付いたのか、じりと半歩後退した。
 その背後に、魔王
勇者「!?」
 魔王はバックステップを踏み、斧を振るう。
 斧の刃は勇者に触れない、しかし斧から放たれる黒い斬撃の衝撃波が、勇者の体に直撃した。
 黒い魔力がほとばしる、漆黒の爆発の爆心地、黒い煙を上げながら勇者の体が膝から崩れ落ち、地面に倒れた。

52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:36:30.31 ID:Zt2BxoPL0
 私は屈しない
 どんな辱めにも、どんな痛みにも
 私は…屈しない

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:37:46.76 ID:Zt2BxoPL0
 黒い影のみが辛うじて視認できる超高速戦闘のさなか
 幾百の交錯と激突の末、魔王の斧に亀裂が走った。
魔王「……」
 しかし魔王は構うことなく勇者に対し斧を振るう。
勇者「ガァァアアアッ」
 咆哮と共に放たれる二刀のX斬りが、魔王の斧を切り裂いた。
 砕け散る斧、破片が周囲を覆う。
 勇者は放射雷撃を放ち、残骸を弾き飛ばす。
 しかし、目前に魔王はいない。
 やはり、背後には魔王。
勇者「ーーッ」
 勇者はとっさに剣を背後へ振るう。
 0.1秒遅かった。
 漆黒魔法の直撃を受け、勇者は床に体を横たえた。
魔王(殺さない最低限度の魔力量は把握した……しかし、勇者の反応…そろそろこの方法も潮時か?)
 とにかく、細心の注意を払って次に備えるとしよう

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:38:21.30 ID:Zt2BxoPL0
 声がする
 なぜ、何もして下さらない?
 声がする
 なぜ、ただあなたは見てるだけなのですか?
 声がする
 ……これも……試練なのでしょうか?
 声がする
 …私は……

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:41:16.16 ID:Zt2BxoPL0
 光球が、放射雷撃によって爆散する。
 同時、魔王の影が、本体から分離し、光と衝撃に紛れて勇者の背後へと回り込む。
 魔王の能力の一つ、自身の影を分離させ、その場所にワープする。
 その移動の際、物理的な余波は一切発生せず、移動時間もゼロに等しい。
 現状の勇者の野生の勘は侮れないものがあり、斧や、このような派手な攻撃をフェイクにし、影を紛れ込ませていた。
 この方法で3度勇者を沈めている。
 しかし魔王は慢心しない。
 いつでも反応できるよう、特に移動直後には特に気を張り、今回もワープを発動する。
 ワープ、同時、勇者の刃が魔王の眼前に迫った。
魔王(やはり)
 覚悟をしていた魔王は、その攻撃をサイドステップで避ける。
 何か目の引く攻撃があった直後、瞬間移動があることに直観的に感づいているのだろう。
 避けに回り、体制を崩した魔王へ、勇者の追撃が襲いかかる。
 嵐のような二刀流の乱舞。
魔王「っ!?」
 魔力を込めた手刀で受けきれない。
 勇者の剣技がここにきてさらに荒々しさと鋭さを増していることに、魔王は顔をしかめた。
 影移動で、その場から離脱。
 しかし勇者、すぐに魔王のいる場へ飛びかかる。
魔王「ーー!?」
 移動の母体が影であることまで気が付いている!?
 想定を超えた勇者の動きに魔王に動揺が走る。
 知能がそこまで高い印象は、今までの戦闘ではなかった。
 本能のみで戦う存在が、そこまで注意力を払えるものなのかーー?
 ワープ直後、複数の想定外の自体に、魔王が混乱したコンマ数秒ーー
魔王「!」
 魔王は見た、勇者の髑髏兜の闇の奥ーー意思を持った瞳の煌めきをー
魔王(まさかこいつーー意識を保った状態でーー)
 魔力を込めた呪刃の双閃が、魔王の左腕を切り飛ばした。
魔王「ッーー」
 腕ー余のーー
魔王「ーーキィサマァァァッ!!」
 激痛と共に、魔王の意識が怒りに飲み込まれる。
 右手から放たれた最大出力の暗黒魔法が、勇者を消し炭にした。
魔王「ーーしまった!」
 怒りによどんだ魔王の瞳が、次の瞬間には正気に戻る。
 左手から吹き出す血を、筋肉を圧迫することで止血する。
 しかし、血を流し過ぎたらしく、魔王はふらりと、一度立ちくらみした。
 魔王の背筋に悪寒が走る。
 魔王の間の扉が勢いよく開き、全回復した勇者が襲いかかってきた。

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 23:49:19.27 ID:Duk+4PdX0
怖えw