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勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
Part3


32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 20:43:39.24 ID:lZn7fQPP0
勇者「今、ここでだ、魔法を俺に当てられたら、でもいい、それができないようでは、魔王には触れることすらできないだろうからな」
武道家「しかし勇者様は今、丸腰ではありませんか」
勇者「ちょうどいいハンデさ」
 その言葉に、三人の顔が曇った。
 どうやらプライドに触ったらしい。
魔法戦士「いいでしょう」
 魔法戦士は剣を抜く。
 賢者は杖を取り出し。
 武道家は構えた。
勇者「じゃあ、開始だ」
 魔法戦士、賢者、武道家が動く。
 まず武道家が、勇者めがけて矢のように迫る。
 その間に、魔法戦士が魔法剣の詠唱を、賢者が火炎魔法の詠唱をーー
 勇者が、その場から消えた。
 そして三人の後ろに立つ。
武道家・魔法戦士・賢者「!?」
 同時、巻き起こる突風。
 音速に近い速度で移動したことによって発生するソニックブームが、三人の体を吹き飛ばした。
賢者(詠唱の時間もーー)
武道家(攻撃する時間もーー)
魔法戦士(相手の動きを見る時間すらーーない!)
 三人は、吹き飛び、地面を数メートル転がった後、停止した。
勇者「どうした? 俺はただ動いただけだぞ?」
魔法戦士「……ッ」
 魔法戦士はなんとか立ち上がろうと体を動かす、しかし次の瞬間には、全身を強い痛みに襲われ、体を動かすことは叶わなかった。
勇者「やめておけ、常人なら死んでるレベルの衝撃のはずだ、体が動くわけがない」
武道家「こんな…理不尽な…」
勇者「理不尽? 魔王はもっと理不尽だぞ、俺レベルが四人がかりで、手も足も出ないんだからな、だがこれでわかったろ?」
勇者「魔王と戦闘では、悠長に詠唱してる時間なんてないし」
賢者「!」
勇者「相手の動きから出方を見る余裕もないし」
魔法戦士「!」
勇者「ましてや拳を当てるなんて、今のままでは不可能だとな」
武道家「……!」
勇者「じゃあな、お前らも、そこらの魔物相手なら、難なく戦える、できればその力を、この国を守る為に使ってほしい……そうしてくれると、俺も心強い」
 勇者は、それだけ言い、倒れる三人をその場に残し、教会へ足を向けた。

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 20:46:08.91 ID:lZn7fQPP0
 教会に、戦士と魔法使いの姿はなかった。
 神官に僧侶のことを託し、勇者は教会を出る。
司祭「もういくつもりか?」
 教会の壁に身を預け、腕を組んだ司祭が、勇者の背中に語りかける。
勇者「…司祭……妹のことは……すまなかった」
司祭「よせ、あいつも望んでいった旅だ。 お前の所為じゃない」
勇者「……でも」
司祭「そんな事よりも、ほんとに今すぐ行くつもりなのか?」
勇者「…ああ、戦士と魔法使い…スラきちを助けないと」
司祭「…俺も手を貸すか?」
勇者「……いや、確かにお前も、加護を持ってるけど……お前の加護のレベルじゃ、正直足手まといにしかならない」
司祭「正直に言ってくれるな」
勇者「…すまん」
司祭「ほら」
 司祭は一振りの剣を勇者に投げ渡す。
勇者「!」
司祭「この国の名工が勇者のために打った剣だ、伝説の剣には及ばないだろうが、下手な剣よりはましだろ」
勇者「…恩に着る」
司祭「あの二人も、俺たちの幼馴染であり、友達だ、頼むぞ」
勇者「ああ、必ず助けてみせる……女神様は無意味な試練を与えない。 今までだって何度もピンチは経験してる。 それを乗り越えるたびに俺達は強くなった。今回だって同じさ」
 勇者は微笑し、剣を背負うと、転移魔法を唱えた。
 勇者の体が浮き上がり、すさまじい加速とともに空を翔けていった。
司祭「……女神様……どうか……ご加護を……」

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/04(木) 20:48:31.88 ID:lZn7fQPP0
勇者「……こんなもんか」
 岩石地帯で勇者は自分の手のひらを見つめる。
 体に発生する違和感に、眉を寄せ、しかし対魔王の策における第一段階をクリアしたことを確認する。
勇者「…待ってろよ、戦士、魔法使い、スラきち」
 勇者が転移魔法で飛び立つ。その後には、全身を解体され、血をまき散らす巨大な竜の残骸が残されていた。
 魔王城前に着地した勇者は、剣を抜くと魔王城へ侵入した。
勇者(牢獄の位置は把握している、本気を出せば一瞬だ)
 一蹴りで音速まで加速した勇者は、行く手を遮る魔物を蹴散らし、地下牢へ侵入した。
 自分がいた牢屋を横切り、その奥、戦士と魔法使いのいるであろう牢屋の前で止まる。
 二つの向かい合うように設置された牢獄に、それぞれ人影。
 一思いに殺そうと、勇者は雷撃呪文をーー
 その手が止まった。
 異臭が、勇者の手を止めたのだった。
 蒸し暑い牢獄の中、ハエが飛んでいる。
 ハエは、二つの人影に群がっているようだ。
勇者「戦士…魔法使い…」
「貴様がここを脱出する二日前には死んでいたぞ、この花の前だと、腐食が早いらしい」
勇者「!」
 突然の声に、勇者は音源へ視線を向けた。
魔王「勇者、よく戻ってくる気になったな」
勇者「なぜ……二人は…死んでいるんだ?」
 なぜ女神の加護を持つ二人が、転生されずに……
 突然現れた魔王を前に、勇者はそう言った。 そう聞かずにはいられなかったのだ。
魔王「二人は信仰を捨てた、それだけさ」
勇者「でたらめを…」
魔王「でたらめではないさ、現に死んでいるだろう?」

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 20:49:26.25 ID:lZn7fQPP0
勇者「……っ! スラきちは…どうした」
 すぐにでも斬りかかりたい衝動を堪え、勇者はもう一匹の仲間のことを訪ねた。
魔王「スラきち? ああ、あのスライムのことか、奴ならもうこの世界にはいない」
勇者「もういない……どういうーー」
魔王「そんなことよりもだ」
勇者「!」
魔王「そんなことよりも、勇者、この二つの死体に、どうやって信仰を捨てさせたか、教えてやろうか?」
 魔王は、にやりと笑った。
 その顔だけで、勇者は理解する。
 想像を絶する拷問が、あったのだと。
 信仰を捨てるほどの
 使命を捨てるほどの
 それは一体、どんなーー
勇者「ーーッ」
 そう思考が至った瞬間、それまでなんとか抑えていた勇者の理性は吹き飛んだ。
勇者「魔王ォォォおおおッ!!」
 勇者は地面をける。 激情と共に剣を振り上げる。
 魔王は手刀で受け太刀。
 剣が折れた。
勇者「ーー」
 魔王の拳が勇者の腹部にめり込んだ。
 勇者の体がくの字に曲がり浮き上がる。
 一瞬で勇者の背後に移動する魔王。
 蹴りが、勇者の背に着弾。
 勇者は海老ぞりに体をそらせ、ソニックブームをまき散らしながら吹き飛び、壁に激突した。
 口から血を吐き出し、白目をむき、体をピクピクと動かしながら、その場に倒れる勇者。
魔王「拷問から抜け出したばかりで、戦闘の勘も鈍ったお前が、一人で、伝説の武具もなしに、敵を前に激情し、理性を失うとはな……貴様、どうやって余と戦うつもりだったのだ?」
勇者「……」

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 20:50:21.58 ID:lZn7fQPP0
 三日後
 猿ぐつわ、鉄の手枷と足枷をはめられた勇者は、魔王の間の王座の横に倒れこんでいる。
 手枷と足枷は、鉄製だ、加護の力を使えれば、難なく砕ける、しかし加護の力の供給源たる魔力をカラにされた状態では、常人となんら変わらない力しか使えない……そのもどかしさに、勇者は顔をゆがめる。
 目の前に……魔王がいるのに、何もできない。
魔王「貴様の仲間を見てな、余は気が付いたのだ、貴様が信仰を捨てる方法をな」
勇者(何か……策があるのか? だから捕まったこの数日、拷問がなかったのか…一体…何を)
 戦士と魔法使いが信仰を捨てた原因が、痛み以外にあるというなら……なんだ?
魔王「あの戦士は、魔法使いの小娘の正面の牢獄にいた、これは偶然だったのだが、ある時、戦士はこう言ったのだ。 俺が信仰を捨てれば、魔法使いを助けてくれるか? とな」
勇者「!!」
魔王「余は約束した、そして女神の気配を失った戦士を殺すことに成功したのだ、最後は実にあっけなかったな」
勇者「……」
魔王「魔法使いの女は、目の前で戦士が死ぬ様を見て、自殺したよ、信仰を捨ててな」
勇者「……っ」
魔王「あれは大変興味深い事例であった、魔族には決して考えつかない発想だ、余にも今だによくはわかっていない」
勇者「……」
魔王「しかし、人間という生き物は、時に自分よりも他人を大切に思うことがある、これは大きなヒントだと思わないか? なぁ勇者よ」
勇者(……まさか…)

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 20:51:31.88 ID:lZn7fQPP0
 魔王の間の扉が開く、魔物に連れられ、一人の少女が魔王と勇者の前に放り出された。
少女「うぇぇ、ママ……パパ……」
魔王「先日滅ぼした村の生き残りだ」
勇者「…っ……ッ」
 勇者はもがく、体の自由が奪われていることも忘れ、ただもがく。
魔王「どうだ勇者、信仰を捨てれば、この小娘は助けてやるが」
勇者「……ッ」
 勇者は、力の限り魔王を睨んだ。
魔王「……」
 魔王は指を鳴らす。
 少女の片足が吹き飛んだ。
 少女が絶叫を上げ、のた打ち回る。
勇者「っ!」
 勇者は目を閉じた、悔しさで、無力さでおかしくなりそうだった。
 ただ、少女の悲鳴が聞こえる。
 絶叫だ、なぜ……なぜこんな……

38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 20:52:12.03 ID:lZn7fQPP0
 勇者拘束6日目
 勇者は、茫然と目の前で行われる行為を見つめる。
 魔王によって四肢を爆裂させられ、痛みに悶える男を見つめている。
男「勇者さまぁぁ、お助けくださいいい、め……女神さばっ」
 男の頭部がはじけ飛んだ。
 勇者は、静かに涙を流す、しかし、信仰は捨てない。
魔王(ふむ……もう30人は苦しめたあと殺したはずだが……何か、間違えているのか?)
 ただ殺すだけでは駄目なのか?

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 20:54:36.69 ID:lZn7fQPP0
 勇者拘束7日目
魔王「……」
 魔王は王座で一人思考にふけっていた。
 魔王の間に一人のローブで全身を覆った魔物が入ってきた。
側近「魔王様、本日は、いかがいたしますか?」
魔王「……なぁ側近よ、なぜ勇者は信仰を捨てぬと思う?」
側近「……人間の感情など、私にはわかりかねます」
魔王「余は、何か短絡的な間違いを犯している……そんな気がしてな」
側近「……魔王さま、差し出がましいようですが、いっその事勇者も、あのスライムと同様魔界に送ってはどうでしょうか?」
魔王「側近よ、最初に勇者達を拘束した時に言ったであろう」
側近「は、勇者に魔界の位置を認識させると、万一勇者が死に、逃がしてしまった場合転移魔法で乗り込まれてしまう……それは重々承知しております、しかし、その勇者が邪魔なのも事実、ならば普通の人間にはたどり着けない魔界におき、魔王様直々にこの人間界を早々に落とすというのも、一つの手ではないかと」
魔王「何をそんなに焦っておるのだ、この城から放たれる魔結界も徐々にではあるが広がりつつある、あと5年もあれば、余はこの人間界のどこでも全力で戦えるようになるのだ、焦る必要などあるまい」
側近「…何か悪い予感がするのです、失礼ですが、魔王様は、あの勇者を侮っているように見えます」
魔王「侮るもなにも、余の敵ではないではないか」
側近「実力的には確かにそうなのですが……あの男の目は……その、うまく言えないのですが、侮れないものがあるように思うのです」
魔王「ふん、下らん、考えるまでもー」
魔物「魔王様!」
 配下の魔物が、急ぎ足で魔王の間の扉を開ける。
魔物「勇者が……勇者がどこにもおりません」
魔王「……なに?」

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 20:56:15.14 ID:lZn7fQPP0
神官「……勇者」
 表情のない顔で、勇者はただ茫然と、祭壇の前に立っていた。
神官「勇者…どうかしたのか?」
勇者「司祭は……どこにおられますか?」
 勇者は、表情を変えぬまま、神官に尋ねた。
神官「…っ……今は、自宅にいるはずだが」
 その声に気圧されながら、神官は応える。
勇者「ありがとうございます」
 勇者は踵を返すと、司祭の家へ向け歩き始めた。
 魔王討伐の策は、若干の変更が必要だった。

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 20:56:50.52 ID:lZn7fQPP0
僧侶「あー」
 ばちゃり、不器用にもったスプーンが、スープの入った皿をひっくり返した。
司祭「またこぼして」
 司祭は布巾でテーブルを拭く。
僧侶「うー」
司祭「……」
 ドアが鳴る、司祭はこんな時間に誰だ? と思いながら扉を開け、目を見張った。
司祭「勇者……てことは」
勇者「いや、魔王は殺してない」
司祭「? 魔王と戦わなかったのか?」
勇者「いや、戦った」
司祭「…? じゃあ一週間も何をしていたんだ? それにどこかやつれて見えるぞ」
勇者「…少し外に出ないか? 話がしたい」
司祭「…」
 司祭はちらりと僧侶を見た。
勇者「だめか?」
司祭「いや、10分待ってくれ」

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 21:01:21.41 ID:lZn7fQPP0
十分後、司祭の家の前に立つ二人。
勇者「僧侶は大丈夫なのか?」
司祭「ああ、睡眠魔法で眠らせてある」
勇者「そうか……じゃあ、場所を変えるぞ」
司祭「は?」
 勇者の転移魔法により、二人は空へと飛んだ。
司祭「…ここは?」
 森の中、洞窟の前に転移した司祭は尋ねる。
勇者「まず、俺の話を聞いてくれ」
 勇者は話す、戦士と魔法使いがどうなったか、魔王と戦ってどうなったか、魔王と戦ったあと何があったか、どうやって魔王の城から抜け出したか
司祭「……」
 話が終わったあと、司祭の顔は、引きつっていた。
勇者「最初は、持久戦を挑むつもりだった…体の痛みには耐えられると思った……だが…あれは……あの拷問は…きつい」
司祭「…」
勇者「だが…そのおかげで一つの策が思いついた、ある意味、最初の策よりも成功すれば勝率は上がると思う…それを試すのに、一流の神系魔法の使いてであるお前の力が必要だ」
司祭「…一体何をする気だ?」
勇者「ついてきてくれ」
 司祭は、勇者の後を追って洞窟に入った。
勇者「ここには、これまでの冒険で手に入れたアイテムを秘密裏に管理している、その中の、これを使おうと思う」
司祭「! これはーー」
 勇者脱走の翌日
 魔王の間
 その扉が、勢いよく開け放たれる。
魔王「……!」
 王座に座る魔王は、目の前の存在を勇者と認めながらも、目を細めた。
 禍々しい漆黒のスカルフェイス、刺々しい闇色の鎧が全身を覆い、両手には、妖気を纏った刀と剣をそれぞれ持っている。
 いずれの装備にしても、禍々しい呪力を感じさせた。
魔王「貴様…勇者か?」
 魔王は、勇者らしくもない勇者へ対して、問う
勇者「ウ゛ォオオぉぉぉおおおおおおオオオオあああ゛おぉぉぉ」
 勇者は、獣のような叫び声を上げると、魔王へ向け切りかかった。

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 21:02:28.29 ID:lZn7fQPP0
今日はここまで、続きは明日か明後日です。

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/04(木) 21:06:19.92 ID:YBhAbA9NO
なるほど、呪い装備で魔王に対抗か
確かに呪い装備はステータスは優秀だからねえ…

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 04:43:03.11 ID:E9WMYGSso
おもしろい