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勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
Part12


150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:47:40.83 ID:YtpFI3Ae0
一年後……
王「勇者よ、よくぞ…よくぞ大魔王を討ち倒し戻ってきてくれた!」
 王は、感極まったように、声を絞り出す。その瞳は涙にぬれていた。
 王座の前、魔王達のボスである大魔王を倒した証拠である大魔王の角を前に置き、跪いた勇者はただ顔を伏せる。
王「勇者……いや、わが息子よ、面を上げよ、英雄の顔をみせてくれ」
勇者「……」
 勇者は、ゆっくりと顔を上げた。
 目があった瞬間、王の顔が強張った。
 白くなった毛髪、痩せこけた頬……そして、その瞳は魔族のように赤く染まっていた。
王「……勇者、その目は…」
勇者「魔王達を倒すには……生半可な手段では無理だった……ということです」
 勇者は小さな声で応えた。
勇者「魔王達を倒すため、魔族の魔力を吸収しました。その結果、体が変異してしまったようです」
王「う……うむ…」
 場にいた兵士や、大臣たちがざわつき始めた。
 「勇者さまそこまで…」「しかしあの姿はまるで…」「おい、英雄に対してその態度は」「だがあの姿を公にさらすのは」
勇者「……セレモニーやパーティーで、この姿では皆を不安にさせるでしょう、ですから、私は不参加で構いませんし、今後王族として、この国を治める立場にいようとも考えていません」
 その言葉に、少数の大臣が安堵の息を吐く。
王「しかしそれでは!」
勇者「いいのです、この世界から魔族はいなくなった……ついに人間だけの時代がはじまろうとしているのに、それを作った英雄がこの姿では、民に対して示しがつかない、違いますか?」
王「……だが」
勇者「王……いや、父上」
王「!」
勇者「代わりと言ってはなんですが、二つほど、私の願いを聞き入れてはいただけませんか?」
王「う……うむ、なんだ? なんでも言ってみろ」

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:49:37.83 ID:YtpFI3Ae0
勇者「まず一つ目、私は今後平和になった世界を旅したいと考えております、その許可をいただきたい」
王「旅……か、それはいつまでじゃ?」
勇者「…期限はかんがえておりません」
王「……うむ……」
 王が、複数の大臣に目を向ける。
 何人かの大臣がうなずいた。
……
王「わかった……許可しよう、存分に、平和になった世界を見て回ると良い、しかしお前の帰る場所はここだ、そのことは忘れるでないぞ」
勇者「……はい、ありがとうございます」
王「して、二つ目は?」
勇者「銅像を、作って頂きたい」
王「銅像?」
勇者「はい、私や戦士、僧侶、魔法使いのそろった銅像……そこに私を救うために命を落とした人々の名前を刻んだ物を、世界各地の主要都市においていただけないでしょうか」
王「ふむ」
勇者「私一人の力では、決してここまで来ることはできなかったでしょう、そのことを、忘れないために……忘れさせないために」
王「わかった、すぐにでも手配しよう」
勇者「……ありがとうございます」
 勇者が魔王を倒したというニュースは、瞬く間に勇者がいた世界を駆け巡った。
 世界中から魔物がいなくなり、人々は与えられた平穏に歓喜した。
 やがて、魔物のいなくなった世界で人々は殺し合いをはじめ、新たな暗黒時代が幕を開けた。

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:54:31.03 ID:YtpFI3Ae0
エピローグ
 魔界、大魔王城、大魔王の間
司祭「……やっと見つけだぞ……勇者」
勇者「久しぶりだな、司祭、十年ぶりか?」
 大魔王の間、12人の魔王がずらりと並ぶその場所で、司祭はその中央、巨大な椅子に腰を下ろす勇者を睨みつけた。

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 22:13:53.56 ID:YtpFI3Ae0
勇者「お前なら、いつかここにたどり着くと思ってたよ」
司祭「……ッ」
 司祭は顔を歪め、周囲を見渡す。
 魔王達を従えている勇者の姿に、涙が出そうになった。
司祭「お前が旅に出た後……人間界は、大変なことになった」
勇者「ああ、知ってる」
司祭「勇者教と、女神教の泥沼の宗教戦争だ」
勇者「ああ、知ってる」
司祭「ならなぜお前は何もせず! こんなところでふんぞり返ってるんだッ!?」
勇者「……」
司祭「今だって人が死んでる! 宗教なんてわからない子供まで巻き込まれてる! こんな世界を、俺達は望んだのか!? 違うだろ!」
勇者「いや」
司祭「!」
勇者「少なくとも俺は、それを望んでいたが?」
司祭「……ッ!」
 司祭は、崩れるようにその場に腰を落とした。
司祭「……やっぱり……そうだったんだな」
 司祭は、どこか諦めたように、口を開いた。
 うすうす、感じていた。
 魔王と戦う中で勇者が変わっていっていることは……
 でも、まさか……こんな…
司祭「おかしいとおもっていた」
勇者「だろうな」
司祭「……妹が6日間行方不明になったのは、勇者の力を調べるためだな」
 司祭は、答え合わせをするように、言葉を発した。
勇者「そうだ、一般人と、勇者の仲間の違いを、明確にするためだ」
司祭「……勇者は…勇者の仲間に対して、対象との距離に関わらず念じるだけで思い道理に動かすことができる」
勇者「その通り」
 女神の信徒に対しては直接声掛けが必要だが、仲間に対してはその限りではない。
 戦闘中に、悠長に命令などしてられない。そんな中でも、仲間は思う通りに動いてくれた。
 最初は、ただの連帯感や信頼感だと思っていたが。
 そうでないことは、心が砕けた僧侶を動かせたことで証明されている。

154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 22:15:37.59 ID:YtpFI3Ae0
司祭「だから……本来なら幼児にも劣る知力しかないスライムが、あんなに都合よく動いたわけだ」
勇者「その通り」
 加えて、勇者奪還作戦に司祭が参加したのも、勇者の念に従った可能性が高い。
司祭「その時に、気が付くべきだった……」
勇者「それはどうだろうな? 気が付いてどうにかなったか?」
司祭「……信じたくなかったんだ……俺は」
 勇者の言葉を無視し、司祭は独り言のように言った。
勇者「お前なら勇者になれるんじゃないか? そこまでわかっているなら、お前も試せばいい」
 その言葉に、司祭は自嘲的に笑う。
司祭「もうやったさ……一度……試そうとした」
 勇者がやったであろう方法と同じ方法で。
 まず適当な魔物を一匹用意する。
 こちらがダメージを受けないレベルの魔物が望ましい。
 後は、密室空間にその魔物と籠り、オルガに感染するだけだ。
 一週間、オルガを感じながら、過ごす。
 やがて自分は死ぬが、それまで一緒にいたオルガは魔物の体内に戻り、またその魔物からオルガに感染する。 それを繰り返すのだ。
 オルガが《仲間》になるまで
 だけど……
司祭「あんな地獄に、耐えられるわけないだろ」
 あの死ぬときの苦痛は、想像をはるかに絶していた。
 あんなもの、並の神経で耐えられるわけがないのだ。
 オルガが《仲間》になるまで、一体なんどあの苦痛を味わえというのか
司祭「……お前は……イカれてる」
勇者「だが、その苦痛に耐えるだけの価値はあるぞ」
 勇者はどこか楽しげに語り始めた。
勇者「《仲間》になったオルガは、魔物だろうと人間だろうと等しく攻撃してくれるし、宿主の魔力を吸って俺に渡す、なんて複雑な命令も可能だ。そして分裂したオルガには、《仲間》と《レベル》の情報が引き継がれる」
司祭「あっと言う間に、お前の《仲間》が増えていくわけだ」
勇者「そうだ、そしてオルガは今や全世界の人類に感染している」
司祭「……!」
 司祭はとっさに自分の心臓に手をかざした。
勇者「無駄だ」
司祭「!!!?」
オルガ(Lv99)「……」
勇者「そんな微弱な魔法攻撃じゃ、限界までレベルを上げたオルガを駆除できねーよ」
司祭「……っ」
勇者「つまり…人類の命運は、俺の手の中ってわけだ」

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 22:16:11.02 ID:YtpFI3Ae0
司祭「……ッお前は……銅像を作り、勇者を崇めさせた」
勇者「……そう」
司祭「すべては……女神様を……神を倒すため」
勇者「その通り」
 勇者は、笑う。
司祭「……みんなから魔力を集めて戦うのは、単なる見せかけだったんだな」
勇者「ああ、その気になれば、オルガだけで倒せた」
司祭「……こんな茶番を、他の世界でもやったのか」
勇者「そうだ、みんなの祈りを一身に受けた勇者が魔王を倒し、世界各地に作らせた勇者像を、信仰する新たな宗教ができるよう仕向けた」
司祭「……女神様が、黙ってないんじゃないのか」
勇者「食糧を奪われたからな、そりゃだまってないさ、だが、どうする?」
司祭「勇者の加護をはく奪する」
勇者「それは愚行だろ、制御を失ったオルガがどうなるか俺にもわからんぞ」
司祭「……勇者への信仰を滅ぼす…」
勇者「そう、その通りだ。 つまりこの戦いは、女神様が起こしていることでもあるんだよ」
司祭「……ッ」
勇者「なぁ司祭、この魔王達がなんでこの世界に存在しているか知っているか?」
司祭「…」
勇者「こいつらには、性別はあるが生殖能力はない、ただ規格外の魔力と、女神を倒すという目的だけの為に生きている」
司祭「……何がいいたい」
勇者「俺は思ったんだ。こいつらは人間の信仰を吸い上げるための当て馬なんじゃないかってな」
司祭「!」
勇者「魔物を使い、人の信仰心を煽るための舞台装置、そう考えると、すべてに辻褄が合う」
司祭「……ッそれは…、お前の妄想にすぎない」
勇者「なぁ司祭、こんな世界を作った神を、守る価値なんてあるのか?」
司祭「だからそれはー」
勇者「じゃあなんで女神は、助けてくれなかった?」
司祭「!」

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/08(月) 22:20:45.97 ID:YtpFI3Ae0
勇者「あの村娘や、少女を、何の罪もない人たちを、なんで女神は、助けてくれなかった?」
司祭「……女神様は……無意味な試練を与えない…」
勇者「無意味だろ」
司祭「!」
勇者「死ぬよりもつらい苦痛の声を、お前は聞いたことがあるか?」
司祭「…やめろ」
勇者「あんな心優しい人たちを、あんな目に合わせる意味ってなんだ?」
司祭「やめろ!」
勇者「だから倒すのさ、こんな糞みたいな世界を牛耳ってやがる神どもを」
司祭「……ッ」
 司祭は顔を歪めると、絞り出すように、質問をぶつける。
司祭「じゃあなんで……さっさと終わらせない」
勇者「ん?」
司祭「女神信仰の信者どもを殺せば、それで済む話じゃないか、女神様は信仰を失い、やがて滅びるだろうよ」
勇者「……なぁ司祭、俺の見た目を見て、どう思った?」
司祭「?」
 司祭は、勇者に目を向ける、十年ぶりにみるその姿は……まったく老いていなかった。
勇者「俺の体の成長は、女神教と勇者教の戦いが始まったときから、止まっている」
司祭「!?」
勇者「おそらく女神たちの小賢しい抵抗だろう。どうやら奴らは俺に死なれるのが怖いらしい」
司祭「どういうことだ?」
勇者「信仰の中心である俺に死なれると困るってことは、要するに、俺の魂は死んだあと神の領域に届きうるってことだと考えている」
司祭「……そんなことが」
勇者「実際、信仰はすごいぞ、信仰を得るほどに、俺の力が今までにないほどに高まっているのがわかる、今ならこいつらを片手であしらえるほどにな」
 勇者はそういって、周囲の魔王を見渡した。 魔王達の顔が一様に強張る。
司祭「……だから、そうそうに決着をつけない」
勇者「そうだ、女神を殺したからといって、この呪いが解けるとは限らない」
司祭「…」
勇者「それに、俺の力を少しでも高めるために勇者教の信者を増やしたい、だから、そういう意味でも早々に女神教の信者を殺すわけにもいかないのさ。女神教も寝返る可能性があるからな。その為に今はこの魔王どもと共に工作を続けてるってところだ、そのやり方に長けた人材もいる」
片腕の魔王「……」
司祭「……勇者の力が女神様を上回るのが先か…、それとも女神様がオルガの攻略法を見つけるのが先か」
勇者「もしくは妥協案を女神が出してくるか」
司祭「……壮大だな」
 司祭は、諦めたように笑った。
 なんだそれ

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 22:22:23.42 ID:YtpFI3Ae0
司祭「お前は……神にでもなるつもりなのか」
勇者「少なくとも、今よりはマシは世界にできる」
司祭「……本気で言ってんのか」
勇者「本気だ」
司祭「……ッ」
 勇者はぐるりと周囲を見渡す。
勇者「この魔王達も、俺の為によく働いてくれる。裏工作をする天使をあぶり出したり、悪役に徹し俺を引き立ててくれたりな、俺一人のキャパじゃあ、今はまだそこまでできない」
司祭「勇者! お前はっ」
勇者「ああ壊れてる!! 自覚してるさ!! だが他にどうしたらよかった!?」
司祭「ッ」
 突然の感情の発露に、司祭は口をつぐんだ。
勇者「……みんな優しい人だった。 優しい人を大切できない世界。 優しい人を無視する世界……こんな世界と知って、それでもそれを甘んじて受け入れろと? それこそ……俺には耐えられなかった」
司祭「……っ」
 司祭は、歯を食いしばり、強く目を閉じると、天をを仰いだ。
勇者「その為だったら……どんなに殺したいほど憎んでいる魔王だろうと、利用価値があれば利用するさ」
 最後、勇者の声は落ち着きを取り戻し、そして冷たくなった。
 司祭は、もう、何も勇者に対して言葉を持たなかった。
 そんな司祭が最後に発した言葉は、ただの反復だったのかもしれない。
司祭「……だから生かしてるのか……仲間を殺した魔王でさえも」
 司祭の力のない、ただ思ったことを口にしただけの言葉に、しかし勇者は意外にも笑った。
 笑い声が、大魔王の間に響く。
 なぜか今、不意に頭に浮かんだ言葉が、やたらと面白かったのだ。
 勇者は確認するように、ゆっくりと口を開いた。
勇者「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
 完

158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 22:23:31.82 ID:YtpFI3Ae0
ここまで読んでいただきありがとうございました。

159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/08(月) 22:25:03.82 ID:L0l1tGzS0

勇者SSで多分一番好きだわ

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/08(月) 22:25:08.51 ID:RLaobCIk0
乙、これ書いた人天才だろ

161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 22:25:58.88 ID:xIhTSsJLo

見事だった

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 23:16:45.79 ID:sAA33XkJo
すんごい読みごたえがあるスレだったわ
ここでスレタイ回収するのも鮮やか

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 23:17:12.37 ID:WCI+jm4AO
乙!
素晴らしく面白い!