勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
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Part11
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:27:36.08 ID:
YtpFI3Ae0
大魔王「……」
大魔王は冷ややかな視線で、魔力が切れ、息も絶え絶えながら跪く魔王を見つめた。
女の魔王「よく生きてもどってこれたわね」
傍らに立つ11人の魔王、そのうちの女の魔王の言葉だ。
もちろん心配しての言葉ではなく、無様な醜態をさらしながらも、ここに顔を出せた魔王に対しての皮肉である。
魔王「……」
魔王は、顔を上げることなくただじっと床を睨み、歯を噛みしめる。
人間ごときに…家畜ごとにきここまでやられ、それでもなお死にきれず、ここまで逃げてきた。
とんでもない恥さらしである。
なぜ、自分はこれほどの恥をさらしながらもここに来たのか。
今の魔王に明確に説明するだけの理由は思いつかなかった。
つまり……自分は、想像よりも弱く、卑屈で、臆病者であった…ということなのだろう…
大魔王「もうよい」
魔王「!」
大魔王「貴様には何も期待をしない」
魔王「……!」
ぷっと数名の魔王が笑い声を漏らす。
細目の魔王「! 大魔王様」
大魔王「?」
???「大魔王さま!」
大魔王の間の扉が開け放たれ、白い毛並に背中から翼の生えた猿型の魔物が血相を変え駆け込んできた。
魔物「人間です! 人間がぁー」
魔物の発声は最後まで続かなかった。
口から血を吐き出し、崩れ落ちるように倒れる魔物。
細目の魔王「…!」
倒れた魔物の背後から姿を現す一人の男。
フヒューと過呼吸のような呼吸を繰り返す、猿型の魔物をまたぎ、魔王の集結するその場所に一人歩みを進めるその男。
魔王「…馬鹿な」
140 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:30:14.98 ID:
YtpFI3Ae0
魔王は、目の前の光景が信じられなかった。
まさか、あの状態のままここまで来たのか?
魔界に入られることまでは覚悟していた。
だがそこまでだ、その後はまた、インターバルを置いたのちの戦闘になると踏んでいた。
だが現状、勇者はここいいた。
何を思って、こいつはここにくるのだ?
魔力もほぼ使い果たしたはずだ。
より強大な敵がいることもわかっていたはずだ。
なのにーー
なぜ
魔王「……っ」
なぜ《ここ》にくる?
魔王の全身の毛が逆立つ。
あの狂化した勇者と戦っていた時にも似た、不気味な予感ーー
不条理だ、不合理だ、だがーーこの男はーー
勇者「…」
勇者は、その場に立つ。
13の魔王の視線の注がれる、その場所に。
今までに感じたことのないほどの強大な魔力を感じる。
女の魔王「これが例の勇者?」
女の魔王は、表情一つ変えずにそういった。
勇者「…」
勇者は魔力を全開で放出する。
ほとばしる魔力、しかし場の空気は全く変わらなかった。
女の魔王「……」
女の魔王がその場から消える。
そして勇者の前に立つ。
そして女の魔王は、勇者の額にでこピンをした。
勇者「ーー」
目では追えている。
しかし、体がまったく反応できなかった。
141 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:31:26.75 ID:
YtpFI3Ae0
勇者の体がその場から消えた様に吹き飛び、大魔王の間をはじき出されると、壁に体を打ち付けた。
勇者を中心に壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
勇者は目を見開き、額に走った激痛に顔を歪めた。
女の魔王「…冗談でしょ?」
女の魔王は嘲笑するように魔王へ顔を向ける。
女の魔王の背後、切りかかる勇者。
刃が女の魔王の首に激突した瞬間、理力の剣がへし折れた。
勇者「ー」
女の魔王「……」
振り返る女の魔王、その手のひらが、勇者の胸に触れる。
そして指を倒すように勇者を押した。
勇者の体が、後方へ加速し、先ほど体を打ち付けた壁に再度激突した。
口から血を吐き出し、その場に項垂れる勇者。
銀髪の魔王「……大魔王様、もうよろしいでしょう? 例の勇者とやらの実力もこれで証明されてしまった。 もはや魔王に弁明の余地はない」
大魔王「……うむ」
大魔王はそう一言発すると、興味をなくしたように目を閉じ、そのまま動かなくなった。
11人の魔王たちが、その場から解散する。
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:33:33.81 ID:
YtpFI3Ae0
魔王「……」
魔王はじっと、女の魔王にいたぶられる勇者を見ていた。
必死に反撃する勇者、血を流しながら、残り少ない魔力で戦っている。
対し女の魔王は、そんな勇者を嘲るように、攻撃をすべてノーガードで受け止め、殺さないよう注意しながら、まるで虫を痛めつけるように勇者に傷を負わせている。
勝負は、誰の目にも明らかだった。
それもそうだろう、この女の魔王は魔界序列第5位の実力者だ。
最弱の魔王と互角である勇者に、もとより勝ち目などあるはずがない。
細目の魔王「悔しいかい?」
魔王「!」
突然耳元で声を発した細目の魔王に、魔王は驚いて視線をむけた。
細目の魔王「君、気づいてないかもしれないけど、あの勇者が来たとき、口元が緩んでいたよ」
魔王「え?」
細目の魔王「あー、やっぱり気が付いていなかったか」
魔王「私が……笑っていた?」
なぜ? 笑う?
細目の魔王「……」
視線を床に向け、思考をめぐらす魔王へ向け、細目の魔王は口を開いた。
細目の魔王「僕はね、君が苦戦するあの勇者に、興味があったんだ」
魔王「…?」
細目の魔王「以前、君からもらったスライムがいるだろう?」
魔王「…ええ」
魔の物にして勇者の仲間になったスライム、その貴重なサンプルを、魔王は魔界に提供していたのだ。
細目の魔王「……もしあの勇者がここに来た理由に、あのスライムが関係しているとしたら」
魔王「…?」
魔王は、細目の魔王の言葉の意味を図りかねていた。
細目の魔王「ひょっとしたら、僕たちはもう、負けているのかもしれない」
魔王「!?……それは一体…!」
細目の魔王に問いを発しようとした魔王は、そこではたと気が付く、その場から離れようとしていた魔王たちが歩みを止め、勇者を見つめていることに
143 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:35:03.86 ID:
YtpFI3Ae0
女の魔王(……妙だ)
勇者を痛めつけながら、女の魔王は眉を寄せた。
勇者「おおおおおっ」
口から血反吐を吐きながら迫る勇者の拳が空を切る、女の魔王の手刀が、勇者の腕を両断した。
勇者「がぁ」
勇者は顔を歪めながらも、失った腕を回復魔法により再生させる。
女の魔王の蹴りが、勇者のみぞおちにめり込む。
空中にかちあげられる勇者。
女の魔王は極限まで手加減した魔法弾を勇者に向け放った。
勇者「!?」
勇者は気が付く、勇者を囲うように四角い魔力の結界が張られていることに。
魔法弾が勇者に着弾する。
その四角い立体型の結界の中ではち切れんばかりの魔力の爆発が発生する。
その爆心源、結界内で閉じたエネルギーをまともに受けた勇者の体は、原型を失うほどに裂けた。
黒焦げ、べちゃりと音を立て、床に倒れる勇者。
女の魔王「……」
ピクリと、勇者の指が動いた。
勇者の体が、黒い光に包まれ、傷が一瞬で癒える。
ゆらりと立ち上がる勇者。
その目が、赤く変色していることに、女の魔王は気が付く。
先ほどから、勇者の放出する魔力の質が変わってきている理由を、女の魔王はこの時理解した。
勇者の指が動いた瞬間、自分の魔力が若干ながら減った感覚があった。
つまりこの家畜は、家畜の分際でありながら、こちらの魔力を吸収している。
その魔力を糧に体を回復させ、戦闘を長引かせているのだ。
ーーだが何のために?
どれだけ魔力をため込もうと自分の出力では到底勝ち目などないと、この戦闘でわかったはずだ。
なのに…なぜ?
144 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:36:15.03 ID:
YtpFI3Ae0
銀髪の魔王「……魔力を吸われた?」
銀髪の魔王は、眉を寄せ、目の前の勇者から目を離せなくなっていた。
周囲に目を向ければ、すべての魔王が、魔力を吸われた感覚があるのであろう、皆足を止め、勇者を見つめていた。
つまり、この場にいるすべての魔王の魔力を、同時に勇者は吸収したことになる。
吸われた魔力は微量ではあるが、人間の器には十分すぎる量であろう。
つまり、ただの人間が、必要分を、魔王達から強制的に吸収した?
そんなことが…たかが家畜ごときに、可能なのか?
女の魔王は、まだこの事実に気が付いていないようだが…。
銀髪の魔王の視線が、魔王の傍に立たずむ細目の魔王へと向く。
細目の魔王は、この魔界で、大魔王様に次ぐ頭の持ち主だ。
その上、誰よりも魔界のことを考えている。
その男が動かないという事は……大丈夫なのか?
何か…いやな予感がする。
145 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:37:18.63 ID:
YtpFI3Ae0
勇者「ぉぉぉおおおおお!」
目を見開き、勇者が咆哮を上げる。
右手から光輝く稲妻を、左手から漆黒に輝く稲妻をそれぞれ迸らせ。女の魔王を睨む。
女の魔王「……」
対し女の魔王は、じっと勇者の攻撃を待った。
無限に回復するつもりなら、まず心を折る。
そう思考した結果である。
勇者「極限混沌雷撃呪文!」
勇者が両手を突き出す。
反する二つの魔力の反発により、発動と共に勇者の両腕が吹き飛ぶ。
聖と魔の雷撃が混ざり合いながら突き進み、女の魔王へ迫った。
女の魔王は、人差し指をピンと張ると、目の前、勇者が今できるであろう最大攻撃に対して、その指を突き出した。
雷撃が、突き出された指を中心に波紋状に拡散し、霧散する。
勇者「ーー」
目を見開く勇者。
勇者「がはッ」
女の魔王が突き出した指の圧が、勇者の魔法を消し飛ばしてもとどまることなく、そのまま勇者の腹部を貫通した。
指一本分の穴が、腹に空く。
腕と腹から血を吹き出しながら、勇者の体が宙へ浮いた。
背中を地面に打ち付け、倒れる。
勇者「……」
146 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:43:08.67 ID:
YtpFI3Ae0
勇者「……」
茫然と勇者は天井を見つめる。
ーー決定的だな
こちらの出来うる限りの最大出力の攻撃よりも、敵の指一本の突きの威力がはるかに勝るーー
これじゃ、どんなに魔力を体にため込んでも、どうしようもない。
膨大な魔力得ようと、それを放出する出力が、人間では絶望的に足りないのだ。
全世界人類魔力集中作戦は、ここに破綻した。
勇者は力なく笑うと、魔王達から魔力を吸収し、その魔力で体を回復させながら、よろりと立ち上がった。
勇者(やはり正攻法じゃ……勝ち目はないか)
女の魔王は、勇者の瞳を見て眉を寄せた。
女の魔王(まだあきらめていない……?)
勇者の弱さを見せつけ、あの屑魔王の評価を最大限落とすつもりだったが…ここまで粘られると逆効果か…?
まさかここまでやって心が折れないとは
女の魔王「もういいわ」
女魔王はそう言うと、勇者を拘束するための魔法をーー
だそうとしたとき、その手を止めた。
勇者が、おもむろに腕を上げ、指差したのだ。
その先にはーー大魔王がいた。
家 畜 の 分 際 で 大 魔 王 様 を 指 差 す だ と ?
その行為に切れたのは、女の魔王だけではなかった。
女の魔王と勇者の戦いを見ていた内の五人も、この不届きものを殺すべく、動く。
が
勇者に向かって放たれた攻撃はすべて、勇者からそれた。
!?
勇者の前に立ちふさがるようにして立つ細目の魔王。
それにより、勇者を殺すべく放たれた攻撃は、すべて無効化されたのだった
147 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:44:58.92 ID:
YtpFI3Ae0
女の魔王「どういうつもり?」
細目の魔王「……僕たちの負けだよ」
女の魔王「はぁ? 一体なにを」
銀髪の魔王「大魔王様!!」
悲鳴にも似た声に、すべての者の視線が、音源へと向く。
そこにはーー
口から血を吐き出し、ぐったりとうなだれる大魔王の姿があった。
「大魔王様!!」
細目の魔王を除くすべての魔王が、血相を変え大魔王に駆け寄る。
勇者「……」
勇者は歩き出す、自分の前に立つ細目の魔王の横を抜け、喧噪の最中へ
細目の魔王「……ッ」
勇者が横を抜けた瞬間、細目の魔王は、全身の毛が逆立つのを感じた。
勇者は、ぐったりとうなだれる大魔王の巨体の前に立つ。
もはやその命がないことを、勇者は知っていた。
すべての魔王の視線が、勇者へと向いた。
女の魔王「貴様……一体何をした……」
憎悪と恐怖が入り混じったような視線で、魔王達が勇者を睨む。
勇者「極大雷撃呪文」
勇者の呟きにも近い詠唱から放たれる雷撃が、大魔王の死体を消し飛ばした。
銀髪の魔王「ーー貴様ぁぁああああッ!!!」
激昂した銀髪の魔王が、勇者に迫る。
対し
勇者は何もしなかった。
銀髪の魔王「ガフッ」
勇者の数センチ手前で、銀髪の魔王の動きが止まった。
口から血を吐き出し、苦しそうに身をよじると、その場に膝をつく。
148 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 21:45:52.74 ID:
YtpFI3Ae0
「……ッ」
その様子に、すべての魔王の表情が強張った。
勇者は悠然と歩を進めると、唖然と見つめる魔王達の前で大魔王が座っていた王座に腰を下ろした。
勇者「……安心しろ、お前らはまだ殺さない、……やってもらいたいことがあるからな」
魔王「……ッ」
魔王は、茫然とその光景を見つめていた。
そして、こみ上がる感情に、納得していた。
あの勇者が……ここまで
理屈も、理由も、すべて吹き飛んでいた。
ただ、胸には、優越感ーー
どうだ、俺の闘っていた勇者はーー
俺の闘っていた勇者はーー
とんでもない化け物だったぞ。
偉そうにしていた貴様らは、何もできずこのありさまじゃないか
魔王「……はは」
魔王はこらえきれず笑みをこぼす。
そうか……余は
この光景が見たかったのか
149 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/08(月) 21:47:29.68 ID:RLaobCIk0
やったぜ